第260話 優勝
エオクシは肩を回して跳ねてみた。
エオクシ「ほっ…!おう、治った!」
アルジ「ありがとう、エミカ」
エオクシ「ありがとな」
エミカ「………」
エミカの顔に笑みはない。
少し居心地の悪い沈黙。
アヅミナが言う。
アヅミナ「ねえ、明日はみんなで集まらない?」
アルジ&エミカ&エオクシ「………」
アヅミナ「どこかで食事したり…どこか…
アルジ君とエミカちゃんを連れていったり」
アルジ&エミカ「………」
エオクシ「4人で…か?」
アヅミナ「いいよね?」
エミカ「…行きたい」
アルジ「オレもだ。都を案内してほしい」
エオクシ「………」
アヅミナ「エオクシも」
エオクシ「オレもか」
アヅミナ「せっかくの休みなんだから。
たまには訓練のこと忘れたら?」
エオクシ「それもそうだな」
アヅミナ「決まりだね」
エミカ「時間はどうする?待ち合わせは…」
アヅミナ「正午。ここに集合。それでいい?」
アルジ「ああ」
エミカ「分かった」
アヅミナは嬉しそうにほほえんだ。
それから、少し寂しそうに言う。
アヅミナ「3日間…このお休みが終わったら、
エオクシもあたしも任務に就くことになる。
都で警備をするのか、
ラグアの居場所を調べるのか、
どんな任務が待ってるのかは分からない」
アルジ&エミカ「………」
アヅミナ「あなたたちは選ぶことになる。
政府に協力するか、それとも、故郷に帰るか。
こうして過ごせるのは、あと2日しかない。
だから、何かしたい。4人で、一緒に」
アルジ「オレもだ」
エミカ「ありがとう。アヅミナさん」
エオクシ「それじゃあな!また明日だ!!」
アヅミナ「おやすみ、2人とも」
エオクシとアヅミナは帰っていく。
アルジとエミカも城宿へ歩いていく。
エミカ「………」
アルジ(エミカ…
なんだか少し機嫌が悪そうだな。
さっきの件でまだ怒ってんのかな…。
今、首飾りを渡すのはやめとくか…)
受付で預けていた部屋の鍵を受け取る。
それぞれの部屋の前に行く。
アルジ「じゃあ…な」
エミカ「…おやすみ」
アルジ「おやすみ」
部屋の戸を開ける。
卓に大きな弁当が置かれていた。
それは宿が用意してくれたもの。
夕食会場に行かなかったアルジのために。
宿の従業員からの手紙が添えられていた。
アルジ(そっか、夕飯…用意してくれてたんだ。
弁当か…。こんなこともしてくれるのか…)
鎧を脱ぎ、風呂に入り、弁当を食べた。
それから、寝支度をして布団の上で横になる。
強い眠気がやってくる。
目を閉じる。
意識は眠りの底へ。
◆◆ 早朝 ◆◆
アルジは目を開けた。
窓からは朝日の光。
ぼんやりと天井を見ながら思い出す。
訓練場でエオクシが聞かせてくれた話を。
◆◆ 昨夜 ◆◆
◆ 大前隊 訓練場 ◆
木剣を構えるアルジとエオクシ。
周りにはもはや誰もいない。
たった2人で戦い続ける。
どちらも限界が近い。
互いに攻撃するが、当たらない。
ふらふらになりながらも構えて剣を振る。
エオクシ(…もらった!!)
大きく振り回す。
アルジはよろめきながらそれをかわす。
体勢を崩し、エオクシは転倒。
そこへアルジが振り下ろす。
アルジ(これで決まりだ…!!)
エオクシが床の上を転がって避ける。
アルジも体勢を崩して転倒した。
そのまま2人とも立ち上がれない。
エオクシ「…ぜぇ、ぜぇ…」
アルジ「…はぁ、はぁー…」
彼らは互いに全身を殴打。
顔は腫れ上がり、変形。
いくつかの骨にヒビ。
もう立ち上がる気力もない。
2人とも呼吸が落ち着いてきたとき。
エオクシ「…おめえが戦え…」
アルジ「…え…?」
エオクシ「…ラグアとは…おめえが戦え…」
アルジ「………」
エオクシ「あいつと対峙したら…先に行け…。
オレは…見てる…」
アルジ「…オレたちはまだ…」
エオクシ「勝負は…また別な日にしたらいい…」
アルジ「………」
エオクシ「入隊の話も…好きにしろ…。
入ってもらいてえとは思うが…
おめえにはおめえの…人生があるからな…」
アルジ「エオクシ…」
アルジはしばらく黙る。
それから、問いかける。
アルジ「なんでそんなに強いんだ…?」
エオクシ「…何聞いてやがる。急に…」
アルジ「知りたい…。強さの秘密が…。
何か…あるんだろ。最初に見たときだ…。
こんなやつが本当にいるのかと思った…。
その強さの秘密が…なんなのか…。
不思議に思ったら…悪いのか…?」
エオクシは少し笑ってから答えた。
エオクシ「それしか…
することがなかったからじゃねえか」
アルジ「それしか…」
エオクシ「…戦うことだ」
アルジ「…ああ…」
エオクシは過去に思いを巡らせる。
エオクシ「ぼんやりと…覚えてんだ」
アルジ「何をだ…?」
エオクシ「オレは長い旅をしていた…。
親父に連れられて…」
アルジ「旅…」
エオクシ「都への…長旅だ…」
アルジ「ああ…」
エオクシ「オレの親父は…地方の…
少し名の通った武芸者…だったらしい」
アルジ「らしいって…」
エオクシ「捨てられたんだ…。
オレが6つのときにな…。
親父とはもうそれ以来…会ってねえ」
アルジ「………」
エオクシ「長旅の末に…
連れてこられたのは都の剣術道場。
『上大正剣道場』っていう。知ってるか?」
アルジ「知らないな…」
エオクシ「そうか。でけえ道場だったんだが…」
アルジ「………」
エオクシ「親父には伝手があったみてえでな…。
そこの当主に…オレは引き渡された」
アルジ「そうだったのか…」
エオクシ「当主も当主の奥方もよくしてくれた。
オレは特に不自由なく育っていった」
アルジ「…そうか」
エオクシ「親父のことを聞かされたのは、
10歳になったときだった。
当主が話してくれた」
アルジ「………」
エオクシ「親父は…
何か面倒なことに巻き込まれたらしい。
それで、やむにやまれず…
オレを道場に預けたんだと」
アルジ「…そうなのか」
エオクシ「どこまで本当かは分からねえ。
だが、そんときのオレはそうなのかって思った。
オレがあれこれ考えたって意味がねえ…
と思ったしな」
アルジ「…ああ」
エオクシ「当主はオレに剣術を仕込んでくれた。
幼子ながらオレには分かった。期待されてると。
必死でついていった。泣くこともあった。
だが、やめなかった。剣を振った。振り続けた。
来る日も来る日も」
アルジ「そっか」
エオクシ「12の頃だ。初めて対外試合をした」
アルジ「ああ」
エオクシ「そんとき思い知った」
アルジ「何をだ?」
エオクシ「よその道場のやつらは…
こんなに弱えのかって」
アルジ「………」
エオクシ「当主はえらくほめてくれた。
オレも嬉しかった。だが、物足りねえ。
300年の歴史と200人の門下生…
上大正剣道場。そこに伝わる技の数々。
気がつけば、オレの体に染みついていた。
当主直々の指導で。相手が弱くて当然だ」
アルジ(幼い頃からの修練…。
どうりで…強くなるわけだ)
エオクシ「それで、オレは試してみたくなった。
どこまで通用すんのか。どれくらい強えのか」
アルジ「…大会に出たのか」
エオクシ「そうだ。
アマシロの国、武術大会にオレは出た。
大陸各地から強えやつらが集まるからな。
それが13のときだ」
アルジ「優勝したんだろ」
エオクシ「知ってたか」
アルジ「ガシマが言ってた」
エオクシ「…そうか」
その返事は少し悲しげな声。
アルジ「…どうした?」
エオクシ「優勝は喜ばしいことじゃなかった」
アルジ「当主がほめてくれたんじゃないのか?」
エオクシ「準決勝で…その当主を倒したんだ」
アルジ「そっか…」
エオクシ「オレもガキだった。
気配りだとか、機転を利かすだとか、
そんなことはできねえ。
胸を借りるつもりで思い切りぶち当たった。
そしたら…」
アルジ「どうした…?」
エオクシ「ぶちのめした」
アルジ「………」
エオクシ「当主は治療院に担ぎ込まれた。
あと少し治療が遅れたら死んでたらしい」
アルジ「強かったんだな」
エオクシ「いいや。あんときのオレは…
今と比べりゃ、赤子も同然だ」
アルジ「…赤子はないだろ」
エオクシ「それからだ。見る目が変わった。
周り連中のオレを見る目が…明らかに…。
門下生、当主の奥方、そして、当主…。
オレのことを…見る目が変わった…」
アルジ「そりゃ変わるだろうな」
エオクシ「称賛だとか、尊敬だとか、
そういうもんじゃねえ。
そういうのも…もちろんあるにはあった。
だが、恐怖だとか、警戒だとか、
そんな感情が込められていた。
道場の連中が…オレを見る目には。
面と向かって何か言われたわけじゃねえ。
だが、オレには分かった」
アルジ「…ああ」
エオクシ「あれは…
当主が復帰した次の日のことだった。
オレは呼び出された。
空気の冷たい冬の日だった。
道場に行くと、全員そろっていた。
門下生、当主の奥方、当主。
勢ぞろいでオレを待っていた。先頭に当主。
当主はいつになく厳しい顔で言った。
『こっちに来い』と。オレは行った。
そしたら、2枚の紙を突きつけられた」
アルジ「2枚の紙…。それは…なんだ?」
エオクシ「破門状と挑戦状だった」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 4234/4234
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 素早さ
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 魔力 15★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 2821/2821
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
53★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 40
◇ HP 4488/4488
◇ 攻撃
56★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣、天地双竜剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 39
◇ HP 509/509
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 魔力
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
獄火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 50、活汁 12
◇ 創造の杖




