第259話 境遇
◆ 大前隊 訓練場 ◆
試合は激しい攻め合いになった。
夜が深まり、日付が変わる頃。
大きな打撃音が訓練場内に響く。
オンダク「!!」
ガシマ「…勝負あったな!」
エオクシが先に6本取った。
ガシマ「エオクシの勝ちだ」
エオクシ「………」
アルジ「…クソッ!!」
アルジは武器を握りしめ、歯を食いしばる。
ガシマ(エオクシから…4本も取った…)
オンダク(今までの試合であったか…?
あいつが…2本以上取られたことが…)
エオクシは考える。
武器をしまい、防具を脱ぎながら。
エオクシ(オレの勝ち…?いや…そうじゃねえ。
取られていた…。あと2本…取られていた…。
魔術技と剛刃波状斬撃を使っていたら…。
確かに強え。今まで戦ったどんな戦士より。
さっきも強かった。だが…足りねえ…。
実戦のときの力が…この試合じゃ出てねえ!
やっぱだめだ。こんな生温い試合じゃ…)
アルジも武器をしまい、防具を脱ぐ。
そして、エオクシの方へ歩いていく。
試合後の握手を交わす。
アルジ「…参った。入るぜ。大前隊に」
エオクシ「………」
ガシマ&オンダク「…?」
アルジ「おい…」
エオクシはアルジの手を放して言った。
アルジ「…?」
エオクシ「いい。今はまだ…考えとけ」
アルジ「は…?」
ガシマとオンダクは黙って見ていた。
オンダク(アルジは戦力としては十分。だが…)
ガシマ(エオクシの中で…
納得行かねえ何かがあるようだな)
2人は静かに笑い出す。
ガシマ「…くく…」
オンダク「はははは…」
アルジ「おい…。なんだ…?」
ガシマとオンダクは訓練場から出ていく。
去り際に彼らは振り向いて言った。
ガシマ「いい試合だった!!」
オンダク「頑張ろう!互いに!!」
アルジ「…おう!」
エオクシ「………」
エオクシは木剣を拾い、握りしめる。
エオクシ「おい、アルジ」
アルジ「なんだ?」
エオクシ「てめえ…
本当にオレの勝ちだと思ってんのか?」
アルジ「何言ってんだ。
そういう試合の規則なんだろ」
エオクシ「………」
アルジ「お前が先に6本取った。だから…」
エオクシ「…オレには分かる」
アルジ「…?」
エオクシ「おめえはあんなもんじゃねえ。
さっきの腑抜けた戦い方はなんだ?
なめてんのか?」
アルジ「何…?」
エオクシ「…もう1本だ」
アルジ「………」
エオクシ「最後にもう1本…やるぜ」
アルジ「エオクシ…」
アルジも木剣を拾う。
ニヤリと笑い、返答。
アルジ「…いいぜ!!」
エオクシ「約束は守る」
アルジ「…約束?」
エオクシ「ラグアと戦え。
次の勝負でおめえが勝ったら…」
アルジ「………」
エオクシ「オレは見てる」
アルジ「…ああ」
エオクシ「…だが、もしものときは加勢する」
アルジ「………」
エオクシ「オレたちは、仲間だから」
アルジ「…ああ」
エオクシ「いいな?それで」
アルジ「いいぜ」
アルジの目に強い力が込められる。
エオクシは少し笑い、木剣を構えた。
エオクシ「おし!!!行くぜ!!!!!」
◆ 喫茶店 ◆
アヅミナは茶を飲んで言う。
アヅミナ「彼もあたしもね、親がいないんだ」
エミカ「え…?」
アヅミナ「事故で死んだとか…
そういうことじゃない。
あたしは4歳のとき。彼は6歳のとき。
捨てられた」
エミカ「捨てられた…」
アヅミナ「うん。親に捨てられた。
彼も、あたしも。
お互いにそういう境遇だから…
近く感じるのかもね。
それに、彼のことは…
彼がまだ13歳だった頃から知ってる」
エミカ「知り合ったきっかけは…?」
アヅミナ「任務。もう6年くらい前か。
あたしたちは同じ班で動くことになった。
悪い魔術師がいてね。
そいつを捕まえにいったとき。
あのとき、初めて彼と一緒に仕事をした。
それで、少しだけ話をした」
エミカ「…そうなのか」
アヅミナ「可愛らしいけど、生意気」
エミカ「………」
アヅミナ「それが第一印象」
エミカ「うん」
アヅミナ「だけど、少しずつ変わっていった。
彼のことを知っていくうちに。
彼が大人になるうちに」
エミカ「うん」
アヅミナ「何度か任務を一緒にやって、
仲良くなって、勇気を出して、打ち明けた。
あたしは彼に…生い立ちを打ち明けた。
彼は少し驚いて、それから、打ち明けてくれた。
『オレも6歳のときに捨てられたんだ』って」
エミカ「………」
アヅミナ「あのとき…ほっとしたのを覚えてる」
エミカ「…うん」
アヅミナ「あたしだけじゃないんだって。
この気持ちは…なんて言ったらいいんだろう。
離れ離れになってた家族に会えたような…。
少しだけ…そんな気持ちもあった。
おかしいよね。家族ってどんなものか。
よく分かってないくせに。
まして彼とあたしに血縁なんてない。
ただの他人同士なのに」
エミカ「…おかしくないと思う」
アヅミナ「そうかな」
エミカ「うん。2人が出会えて、よかったと思う」
アヅミナ「…そう」
エミカ「………」
アヅミナ「そういうわけだから…
あたしとエオクシは…
そういう関係じゃないの」
エミカ「…うん」
アヅミナ「だけど、大事な人。
彼は私にとって大事な人だよ。
かけがえのない人で、それは間違いない」
エミカ「うん」
アヅミナ「それに彼は怖がらないから。
あたしのことを。あたしの闇の魔力…。
それをほとんど気にしてない」
エミカ「…うん」
アヅミナ「彼は…
本当に魔術の素質が皆無なんだと思う。
だから、あたしの魔力を少しも感じ取れない。
全然怖くないんだと思う。
そのことがね、あたしは嬉しい」
エミカ「そっか」
店員がやってくる。
間もなく閉店だと彼女たちに告げる。
アヅミナが支払いを済ませ、2人で店を出る。
行き交っていた人の姿はほとんど消えていた。
静かな通りを歩きながらエミカは聞く。
エミカ「アヅミナさんは…小さい頃は
…どうやって暮らしてた?」
アヅミナ「魔術院の人が引き取ってくれた」
エミカ「魔術院…」
アヅミナ「あたしのこと…気に入ってくれて。
気の毒な子を助けてあげようっていうより…
あたしの魔力に興味があって、
ちょっと育ててみたくなった。
…そんなところじゃないかなって思う」
エミカ「…そっか」
アヅミナ「4歳だったあたしは…
魔術院に置き去りにされていたらしい」
エミカ「………」
アヅミナ「小さかったから…
記憶もほとんどないんだけど」
エミカ「…そうか」
歩きながら会話を続ける2人。
アヅミナ「魔術院へ見学に来てて、
気がついたらあたしだけ。
あたしだけ取り残されていた。
そういうことだったらしい」
エミカ「………」
アヅミナ「ただの迷子なんじゃないかって、
最初はみんな思ったらしい」
エミカ「…うん」
アヅミナ「だけど、あたしが握ってた1枚の紙。
それに書かれてた。あのとき、あたしの親が…
あたしに握らせていた1枚の紙に」
エミカ「………」
アヅミナ「その紙には、こう書いてあった。
『私たちにはこの子を育てる自信がありません。
誰か代わりに育ててください』って」
エミカ「………」
アヅミナ「育ての親から聞かされた」
エミカ「育ての親…」
アヅミナ「うん。彼女は魔術院の魔術師だった。
あたしが魔術院に入るまで育ててくれた」
エミカ「そうなんだ」
アヅミナ「小さな頃は優しくしてくれた。
でもね、だんだん冷たくなっていった。
あたしが成長するにつれて」
エミカ「………」
アヅミナ「それがなぜかは、あたしも分からない。
話してくれなかったから。闇の魔術の嫌悪か。
あたしが、あの人より強くなったからなのか。
分からない」
エミカ「………」
アヅミナ「それに彼女には娘がいた」
エミカ「実の子ども…か?」
アヅミナ「うん。
魔術の素質はなかったけど、愛されてた。
あの人…すごくすごく愛情を注いでた。
あたしのことはほったらかしにして。
あたしは家にどんどんいづらくなった。
それで、お金が稼げるようになったら、
すぐ出ていこうって決めた」
エミカ「そっか」
アヅミナ「感謝はしてる。あの人のおかげだから。
今、あたしがこうしていられるのは。
育ててくれたことのお礼も…しようとした。
だけど、あの人はそれを何度も跳ねつけた。
だから、あたしもやめた。
もう話すこともない。何も」
エミカ「………」
前方に城宿が見えてくる。
中年の男が1人、やってくる。
その男は小走りで落ち着かない様子。
中年の男「お嬢さんたち!!」
エミカ&アヅミナ「………」
中年の男「気をつけな!
あっちで死体が歩いてるって噂だ!」
エミカ「死体…?」
アヅミナ「………」
中年の男「ボロボロのひでえツラをしてて…!
よろよろと…ふらふらと…歩いてて…!
あれは墓から出てきたんじゃねえかって噂だ!
オレはこれから大前隊に通報するところだ!!
ったく、昼間あれだけ突っ立ってた連中が
夜中になったら急にいなくなっちまった!
困るぜぇ!!まったくよぉ!!じゃあな!!!」
エミカ&アヅミナ「………」
足早に去っていく男。
エミカ「死体…」
アヅミナ「…魔獣かな」
エミカ「あ…」
そのとき、エミカは気づいた。
城宿の向こう、南の通り。
ゆらゆらと歩く2人の男の姿に。
アヅミナ「あれって…」
エミカ「…うん」
彼女たちは歩いていき、近づく。
アヅミナ「…やっぱり」
エミカ「うん…」
2人の男はアルジとエオクシだった。
アルジ「ふぅー…ふぅー…よぉ、エミカ…!」
エミカ「………」
エオクシ「へっ…へへ…!いてて…!!」
アヅミナ「2人とも本当に死体みたい」
エオクシ「何…言ってんだ…!
生きてるぜ!ほら…!!
このとおり!!いててて!!!!」
アヅミナ「………」
アルジ「エミカ…生きて…帰ってこれたぜ…!」
エミカは目に涙を浮かべて声を張った。
エミカ「バカ!!!!!」
アルジ&エオクシ「………」
それから、彼女は2人に再生魔術を使った。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 4234/4234
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 素早さ
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 魔力 15★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 2821/2821
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
53★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 40
◇ HP 4488/4488
◇ 攻撃
56★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣、天地双竜剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 39
◇ HP 509/509
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 魔力
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
獄火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 50、活汁 12
◇ 創造の杖