第258話 混同
◆ 大前隊 訓練場 ◆
男たちが訓練場に入ってくる。
アルジ&エオクシ「………」
アルジとエオクシは木剣を下ろした。
オンダク「おいおい!!」
ガシマ「てめえら、何してんだ!!!」
エオクシ「なんでここに…」
オンダク「治療院に隊員が運ばれたと聞いた。
敵襲があったのかと思ったら…」
エオクシ「…ああ、そうか」
オンダク「そうか、じゃねえだろ」
ガシマ「オレたちはまだまだ油断できねえ。
敵がいつどんな攻撃を仕掛けてくるか。
分かったもんじゃねえからな。
こんなときに殴り合ってんじゃねえ」
エオクシはガシマとオンダクの方へ歩く。
エオクシ「こいつは大会だ。決めてたんだ。
大陸各地の戦士たちで誰が一番強えのか。
オレの声掛けにこんだけ集まってくれた。
普段なかなか会えねえ各国の強豪…
そいつらがどんなもんか分かってよかったぜ」
ガシマ「…ったく!またシノ姫に叱られるぜ」
エオクシ「そんときゃ訓練だって言っとくさ」
ガシマ「………」
オンダク「アルジ…お前も…」
アルジ「決勝戦をしてるところだった」
オンダク「決勝戦…だと?」
エオクシ「こいつの入隊を懸けて…な」
オンダク「エオクシに勝ったら…入隊か?
こいつはまた…随分厳しい条件だ…」
アルジ「いや、違う」
オンダク「?」
エオクシ「逆だ。オレが勝ったら入隊させんだ」
オンダク「…なんだと…」
ガシマ「…くく…」
ガシマは笑う。
オンダクは大きなため息をついて告げる。
オンダク「お前たち!!都の警備に戻れ!!
当番じゃない者は基地に戻って休養しろ!!」
戦士たち「………」
そ戦士たちは渋々訓練場から出ていく。
目の前で繰り広げられていた一戦。
それを最後まで見られない悔しさを抱えて。
そして、訓練場内は4人だけになる。
大前隊の三頭とアルジ。
その4人だけに。
ガシマは見抜いていた。
訓練場に入り、エオクシと対面したときから。
ガシマ(エオクシ…その肩は…やられたのか…!
アルジに…その木剣で…殴られたのか…!
アルジも…左肩を殴られた…!
実力は…伯仲…。形勢は…互角…。
こいつは…見てえもんだ。
こいつらの戦いは…見るに値する!
多少警備を抜けてでも…!!)
オンダク(エオクシが勝ったら…
アルジを入隊させる…?
逆だろ…。普通は…。
実力を試してるんじゃねえのか…?
いや…それとも…実力は…もう分かっている。
エオクシが…あいつを入隊させたい…。
どうしても…大前隊に入らせたい…。
そういうことか…?
そこまで入れ込んでるってことか…?
おいおい…なんだ。なんなんだ…。
どういうこった…。だが…初めてだ…。
こんなのは…初めて見る…。
こんなに楽しんでいるエオクシは…!!)
ガシマが力強く手を叩く。
アルジ&エオクシ「………」
ガシマ「オレから提案がある」
エオクシ「…なんだ?」
ガシマ「お前たち、
公式規則で試合をしたらどうだ?」
エオクシ「…はあ?」
アルジ「公式…規則…?」
ガシマ「ああ…アルジは知らねえか」
公式規則。
アマシロの国武術大会で採用されている規則。
公正な試合と選手の安全を確保するための規則。
用具、試合方法、反則行為など定められている。
その規則は、次のように定めている。
硬い防具で全身を覆うこと。
柔らかい布を巻きつけた武器を使うこと。
選手の左右両側に審判員が立って採点すること。
頭部、胸部への打撃は3点。
腹部への打撃は2点。
それ以外の体への打撃は1点。
5点取ったところで1本。
準決勝まで5本勝負。
決勝戦のみ10本勝負。
公式規則を評価する者は多い。
その一方。
安全面に重きを置き過ぎている。
試合の緊迫感が損なわれている。
そんな批判の声もある。
ガシマは公式規則についてアルジに教えた。
アルジ「そういう規則があるのか」
ガシマ「お前たちも大ケガをしないで済む。
10本勝負でどっちが上か。
より精密に確かめられる。
いいことだらけだろ」
オンダク「審判はどうする?」
ガシマ「オレたちでやるぜ」
オンダク「やはりそうか」
オンダクは倉庫へ用具を取りにいく。
エオクシは不満そうに言う。
エオクシ「実戦に近え方がいいんだがな!」
アルジ「大会で使われてる規則なんだろ?
それでいいんじゃないか?」
エオクシ「………」
アルジ「それに…敵がいつ来るか分からない。
ケガしないならそれに越したことないぜ」
ガシマ「おう、アルジの言うとおりだ!」
エオクシ「…ふう…まあ…いいぜ…!
おめえとの本当の勝負は…
ラグアを倒してからだな」
アルジ「それでいいぜ」
ガシマ(アルジは実戦で実力が跳ね上がる…。
実戦に近い方がいい…。
エオクシ…お前のさっきの言葉…
それを考慮したものだったんだろう…。
お前はいつも求めてるもんな…。
本物の強者を!!)
オンダク「さあ、武器も防具もある。使え」
アルジもエオクシも装備する。
公式規則に則った武具を。
アルジ(意外と本格的だ…。
武器も防具もかなり重い…)
エオクシ「アルジ」
アルジ「なんだ?」
向かい合い、武器を構える。
エオクシ「1つ…いいこと教えてやるぜ」
アルジ「………」
エオクシ「公式規則は…
第77 回大会から大きく変わった」
アルジ「そうなのか」
エオクシ「試合方法に欠陥が見つかったからだ」
アルジ「…どんな欠陥だ?」
エオクシ「安全面の欠陥…ってヤツだ」
アルジ「安全面…」
エオクシ「第77回大会…
その前年の第76回大会で負傷者が出た。
8人の出場者が再起不能になっちまった。
木剣で殴られて、そのうち1人は死んだ」
アルジ「死んだ…」
エオクシ「それからだ。
武器も防具もこんなもんになったのは」
剣の刃に相当する部分。
柔らかい布で覆われたその部分。
エオクシは指で押す。
ふにふにと何度も押してアルジに見せる。
アルジ「もしや…」
エオクシ「第76回大会。
それが…オレが初めて出た大会だ」
アルジはニヤリと笑う。
アルジ「それなら…
そんときのお前に感謝しないとな。
おかげで今…たっぷり殴り合えるわけだから」
エオクシ「はっ!!…行くぜ!!」
エオクシが前に踏み出す。
オンダク(始まる…!)
ガシマ(見せてみろ!お前たちの試合を!!)
◆ 劇場 ◆
劇が終わり、舞台の幕が下りる。
エミカもアヅミナも座ったまま余韻に浸る。
物語の展開そのものは単調。
場面の転換はほとんどない。
セリフのある登場人物も少ない。
それでも、観客は退屈しない。
役者の演技が惹きつけ、楽しませていたから。
特に主演女優の演技は圧巻。
彼女は舞台でよく泣き、よく笑う。
彼女が泣くとき。
観客はとても深い悲しみに包まれる。
彼女が笑うとき。
劇場内はこの上なく愉快な空気に満たされる。
観客の心が彼女と結びついているようだった。
エミカはしばらく言葉を発することができない。
客席からなかなか立ち上がれない。
エミカ「………」
アヅミナ「…エミカちゃん?」
エミカ「…あ…」
我に返るエミカ。
アヅミナ「よかったね」
エミカ「…すごくて…なんて言ったらいいのか…」
アヅミナ「とりあえず出ようか。
近くのお店でゆっくり話そう」
エミカ「うん」
劇場を出て、通りを歩く。
深夜にもかかわらず多くの人が行き交っている。
アヅミナ「ここここ」
エミカ「綺麗なお店だ…」
アヅミナ「雑誌で紹介されてて、来てみたかった」
エミカ「アヅミナさんも初めてなの?」
アヅミナ「うん」
店員に案内され、席に着く。
丸い卓で向かい合う2人。
ほかの席はほとんど埋まっていた。
茶と菓子を注文する。
エミカ「さっきの劇…すごくよかった」
アヅミナ「気に入ってくれてよかった」
エミカ「あの女優さんの演技が…
とにかく…引き込まれて…
私も好きになった…」
アヅミナ「そうでしょ。
彼女のことは覚えておいた方がいい」
エミカ「…覚えるよ。お名前は確か…ミサ…」
アヅミナ「ゾブミ」
エミカ「ゾブミ…さん…」
アヅミナ「役の名前と混同してたでしょ」
エミカ「うん。先にそっちが頭に浮かんだ…」
アヅミナ「彼女は…なりきっちゃうから。
劇中の人物のはずなのに。
彼女がその本人だと思っちゃう。
無理のないことだと思う。
それだけすごい演技をしてるから。
それだけ彼女は…上手に演技して…
役になりきっちゃうから…」
エミカ「………」
アヅミナ「彼女の名前は、ゾブミ。
ガシャオラ劇団所属のゾブミ。覚えてね」
エミカ「はい…」
茶と菓子が卓に運ばれる。
アヅミナ「ありがとう」
エミカ「ありがとうございます」
ほほえみ、音を立てずに去っていく店員。
アヅミナ「いただきましょう」
エミカ「はい」
それから、彼女たちは始める。
劇が始まる前に交わした会話の続きを。
甘い菓子を食べながら。
温かい茶を飲みながら。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 4234/4234
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 素早さ
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 魔力 15★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 2821/2821
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
53★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 40
◇ HP 4488/4488
◇ 攻撃
56★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣、天地双竜剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 39
◇ HP 509/509
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 魔力
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
獄火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 50、活汁 12
◇ 創造の杖




