第253話 大罪
アヅミナは口を開いた。
ロニに対して投げかける。
シノ姫に託された質問を。
アヅミナ「あなたの本心を聞かせてくれる?」
ロニ「…あ…」
小さな声が漏れる。
その直後。
ロニの目から涙がこぼれた。
ぽろり、ぽろりと、とめどなく。
アヅミナ「………」
ロニ「…たくなかった」
シノ姫はほほえんでいる。
ロニはせきを切ったように話し出す。
涙に濡れた声で。
ロニ「したくなかった…!
こんなこと…したくなかった…!」
アヅミナ「………」
アルジ「…なんだって?」
エミカ&エオクシ「………」
ロニは縛られた体をよじる。
右に、左に。
腹から絞り出すように声を上げる。
ロニ「いらなかった…!こんな力…!!
獣魔術も…魔力も…!欲しくなかった…!
普通がよかった…!
普通の人に生まれたかった…!
宝子なんかに…私はなりたくなかった!!」
シノ姫「あらあら…」
ロニ「いつも…1人だった…。
みんなから疎まれて…恐れられて…!
寂しかった…辛かった…!苦しかった…!
だけど…演じていた…一生懸命演じてた!
これこそが幸せだと…!破壊こそが…!
私の使命なんだって…!!
自分に言い聞かせてた…!!
偽っていた…!ごまかしていた…!
でも…そうするしかなかった…!
私は…!そうするしか…!!
そうやって生きていくしかなかった!!」
アヅミナ「………」
ロニ「友達が欲しかった…
対等に話し合い…対等に笑い合い…
対等に怒り合う…そんな友達が欲しかった…」
シノ姫が問いかける。
シノ姫「ラグアはあなたのお友達じゃないの?」
ロニ「そんなものじゃない…。
私は…あいつが怖い…。
ラグアは…得体の知れない…恐ろしい男…」
シノ姫「あら…そうなの?」
ロニ「肝心なことは話してくれない…。
私に…同じ宝子なのに…。
あいつは…分からない…
心の奥底で何を考えてるのか…
さっぱり分からない…!
魔真体のことだって…そうだ…!
目覚めれば…すべてが終わる…
それしか言わない…!
魔真体で何をどうするのか…!
具体的なことは何も…!!
私はいろんなことを考えて不安になった!!」
シノ姫「そう…。
じゃあ、あなたのやっていたことは…
もしかして…」
ロニ「やめさせたかった…。
魔真体を使うことを…。証明したかった…。
魔真体なんていらないってことを…。
私の獣魔術で…十分政府を倒せると…。
だから…私は…国を潰した!潰して見せた!
それで…!私の力を…!証明しようとした!」
アルジ「!!…なんだって!!?」
身を乗り出すアルジ。
勇気の剣が光り出す。
アルジ「てめえは!!!そんなことで!!」
エミカ「アルジ!!だめだ!
今はシノミワさんが…!」
エオクシ「おめえの出番じゃねえ!
おとなしくしてろ!!」
アルジ「…ぐう!!!」
エミカとエオクシが引き止めた。
シノ姫は札を取っていく。
ロニの頭に貼りつけた14枚の例札を。
最後の1枚を取り終えたとき。
アヅミナの精神操作が解かれる。
アヅミナ「………」
肩をすくめるアヅミナ。
その肩にそっと手を置くシノ姫。
アヅミナの耳元でささやいた。
シノ姫「いい情報…出てこなかった…。
ごめんなさいね…。
せっかく精神操作…延長してもらったのに…」
アヅミナ「…いいえ」
ロニはシノ姫をにらみつけていた。
泣きはらした顔で。
うめくような声で言う。
ロニ「…貴様ぁあ…!」
見下ろし、笑いかけるシノ姫。
シノ姫「…何?」
ロニ「貴様かぁ!!貴様だったのかぁ!」
シノ姫「何が…?」
ロニ「これほどの秘術を使えながら!!
政府に加担し!!秘術を使って!!
政府のために働いて!!裏切りだ!!!
重大な!!許されざる裏切り行為だ!!!」
シノ姫「………」
ロニ「許されると思うなよ…!!
貴様は!!必ず罰せられる!!
ノイ民でありながら!!
政府に加担し!!秘術を悪用し!!
ミオ民のために!!許されない!!
絶対に許されない!!裏切り行為だ!!
貴様は必ず処分される!!
ラグアが!貴様を!!絶対許さない!!」
シノ姫「………」
ロニ「覚悟しとけぇえ!!!」
シノ姫は調査員たちに言う。
シノ姫「彼女は、多くの人をあやめました」
ロニ「おい!!話を聞け!!!!」
シノ姫「村を、町を、国を滅しました」
調査員たち「………」
シノ姫「普通の刑罰では…
到底償うことのできない大罪です」
ロニ「貴様ぁぁあ!!!」
今度はアヅミナの顔を見て言う。
シノ姫「アヅミナ」
アヅミナ「…はい」
シノ姫「あとは、分かるでしょ?」
アヅミナ「………」
シノ姫「最も苦しい方法で彼女を葬ってくれる?」
アヅミナ「…はい」
アヅミナは手のひらの上に暗球を出す。
その暗球は、酷死魔術。
北土の魔術研究所で出して見せたものと同じ。
アルジ「ぐえっ!!」
不吉な魔波。
跳び上がりそうになるアルジ。
エミカは大きく後退り。
エミカ(なんだ!?なんだ…!?この…!!
この格段に不気味な魔波は…!!)
エオクシの額に汗が浮かぶ。
エオクシ(アルジもエミカも…やっぱそうか…。
魔術はからっきしのオレでも…分かる…!
あれには…触れちゃならねえってことがな…!)
調査員たちは石のように固まっている。
シノ姫は酷死魔術の暗球を見つめて言う。
シノ姫「いつ見ても素晴らしい魔術ですね…」
アヅミナ「………」
そして、シノ姫はロニに顔を近づける。
シノ姫「ねえ…」
ロニ「はっ…!あっ…!ひっ…!」
酷死魔術の不気味な魔波に声が出ないロニ。
シノ姫はそんな彼女に伝える。
シノ姫「最後に聞いてくれる?
誤解を解いておきたくて…」
ロニ「…誤解…だと…!?」
シノ姫「私は裏切り者なんかじゃない」
ロニ「…何ぃ?」
シノ姫「なぜなら、私はノイ民じゃないから…」
ロニ「バカ言え…!秘術は…!ノイ民だけの…!」
シノ姫「確かに…そのとおりです。
秘術は…ミオ民には習得不可能です。
ノイ民の血を引いていなければ使えません」
ロニ「なら…!」
シノ姫「私が秘術を使えるのは…
母がノイ民だからです…」
ロニ「母が…ノイ民…」
シノ姫「ですが、私の父はミオ民です。
そういうことですから…
私はあなたのようなノイ民ではありません。
私は…国家の平和を…秩序を守るために…
自分の能力を、自分の役割で活用する。
ただそれだけです。本当にただ…それだけ…。
裏切ろうとか…そんな気持ちは毛頭ないの。
このことを…よぉぉおおく理解してから…
死んでくださいね…」
ロニ「……!」
シノ姫は身を翻す。
ロニに背を向ける。
そして、そのまま足早に聴取室から出ていく。
出ていく直前、ぼそりと彼女は言い残す。
シノ姫「ここから先の見学はおすすめしません。
アルジさん、エミカさん」
アルジ&エミカ「………」
エオクシが動く。
エオクシ「シノ姫様の言うとおりだ。行くぜ」
アルジ「…ああ」
エミカ「アヅミナさんは…」
エオクシ「あいつなら…大丈夫だ!」
アヅミナはじっとロニの顔を見下ろす。
手の上に暗球を浮かべたまま。
ロニ「やめろ!!!よせ!!!それ以上!!
そいつを私に近づけるなっ!!」
アヅミナ「………」
エオクシは歩き出す。
部屋の外に向かって。
エオクシ「おい、行くぜ!アルジ、エミカ」
アルジとエミカも彼について出ていく。
聴取室に残されたのは、アヅミナとロニ。
そして、4人の調査員。
ロニ「なぜだ!?なぜそんな魔術が使える!?
貴様!!どうやってそれを習得した!!?
そんな魔術!!普通はできるはずがない!!
なんだ!?どういう修練を積んだんだ!!?」
アヅミナ「ロニ。あなたは…
たくさんのことを教えてくれた。
だから、あたしも特別に教えてあげる」
アヅミナは静かに笑って打ち明けた。
アヅミナ「この魔術は…酷死魔術っていうんだ。
別に…覚えようと思って覚えたわけじゃない。
できるようになりたいと思って、
これをわざわざ練習したわけじゃない」
ロニ「なら、なんだ!?」
アヅミナ「見てた。ただ見てただけ」
ロニ「…何を!?」
アヅミナ「物心がついた頃から…
辛いこととか…苦しいことか…
悲しいこととか…あったとき…見てた。
手のひらに小さな暗球を出して…
じーっと見ていた…。
そうすると…だんだん心が落ち着いた…。
ただ…じーっと…じーっと見続けてた…」
ロニ「………」
アヅミナ「そしたらね…
何年も…無十回も…何百回もやるうちに…
暗球がだんだん変わっていった…。
自分でも…薄気味悪く感じるものに…。
変わっていった…。それで、試してみた…。
小さな害虫や害獣に当ててみたら…分かった。
これが…どういう性質の魔術なのかって…」
ロニ「…そんな…魔術が…!!」
アヅミナはすっと腕を伸ばす。
そうして、ロニの額に当てた。
酷死魔術の暗球を。
その瞬間。
人の声とは思えないロニの悲鳴。
地下通路を歩くアルジたちの耳にも届く。
アルジ「…!!!」
先を行くエオクシ。
一瞬立ち止まり、再び歩き出す。
アルジとエミカは身震いして、身を寄せ合う。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 4234/4234
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 素早さ
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 魔力 15★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 2714/2821
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
53★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 40
◇ HP 4488/4488
◇ 攻撃
56★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣、天地双竜剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 39
◇ HP 505/509
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 魔力
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
獄火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 50、活汁 12
◇ 創造の杖




