第251話 本領
よく晴れた空の下。
アルジたちを乗せたカルスは着陸した。
審理院の広くて平らな屋上に。
出迎えるのは5人の屈強な男たち。
彼らは審理院の調査員。
素早くロニの体を箱に入れる。
棺のような大きな箱に。
ロニは一切抵抗しない。
すっかり観念した様子。
調査員たちは肩で担ぎ、運んでいく。
ロニが入った、その箱を。
審理院の収容室へ。
アヅミナ「書類を書いたら、ロニは移される」
アルジ「秘密の部屋に…か?」
アヅミナ「ええ」
エオクシ「早く行くぜ」
アヅミナ「アルジ君とエミカちゃんも来て」
アルジ&エミカ「………」
エオクシとアヅミナが並んで歩く。
その後ろをアルジとエミカが歩く。
屋上の扉を開け、階段を下り、廊下を歩く。
アルジ「古い建物だな」
エミカ「歴史を感じる」
エオクシ「そんな大層なもんじゃねえ」
アヅミナ「ボロいだけだから」
アルジ&エミカ「………」
アヅミナが窓口で素早く書類に記載。
いつ、どこで、何をとらえたのか。
過不足なく書面で報告。
受付係の職員が受け取る。
振り返り、アヅミナは言う。
アヅミナ「次は、シノ姫に報告」
アルジ「分かった」
審理院を出て、大君の城へ。
大通りを歩くアルジたち。
多くの戦士たちの姿が見えた。
鎧を身にまとい、武器を携えている。
アルジ「やけにピリピリしてるな」
エオクシ「政府の警戒度は…最高段階みてえだ」
アルジ「最高段階…なのか」
エオクシ「そうだ」
戦士たちは鋭い視線で周囲を警戒。
一般の町民の姿はほとんど見えない。
エオクシ「状況が状況だからな。備えてんだ。
武装集団やら魔獣やら…
何が出てきても対処できるように…な」
アルジ「…そうか」
すれ違う戦士たちを見てエオクシは言う。
エオクシ「臨時の雇われ戦士もいるんだろう。
だが、大半は大前隊だな。知った顔もある。
しかも、この顔ぶれ…
他国からも集めたみてえだ」
アルジ「他国から?」
エオクシ「各国に大前隊の基地はある」
アルジ「そうなのか」
エオクシ「今度よく見てみろ。
おめえの国にも基地はある。
隊員にもいろんなやつがいてな。
中央に出てくるのを嫌って、
地方の小国でひっそりやってんのも多い」
アルジ「地方でひっそり…
そんな隊員を集めて大丈夫なのか?」
エオクシ「心配いらねえ」
アルジ「そうなのか」
エオクシ「そいつらも弱えわけじゃねえ。
進んで昇格試験を受けようとしねえだけだ。
一隊下位、二隊上位相当の力の隊員もいる。
今回集められたやつらも…
そういうのが多いみてえだな。
ほら、見ろ。あいつら。あの姿、あの顔」
アルジ「…!」
エオクシ「活きがいいだろ」
アルジ「なんとなく強いってことは分かる」
エオクシ「オレたちが把握し切れてねえだけで、
地方の基地にはああいうのがごろごろしてる。
野心やら功名心やら持たずに…な」
アルジ「なんか…安心したぜ。
これなら都の守りも…」
エオクシ「おめえより腕が立つのもいるかもな」
アルジ「何…?」
エオクシ「だから、安心してる場合じゃねえ。
ま、オレより強えのはいねえだろうが」
アルジ(…大した自信だぜ)
城門に着く。
門番がアルジたちを通す。
城の敷地内には隊列を組む大勢の戦士たち。
彼らもまた大前隊。
ガシマ「よう」
エオクシ「おう」
城の前にはガシマとオンダク。
オンダク「戻ってきたか」
エオクシ「おめえたちこそ」
アルジ「なんで…2人ともここに!?」
ガシマ「あ?なんだ、いたら悪いのか?」
2人がアルジとエミカを見送った夜。
合離蝶が彼らの元に飛んできた。
1枚の手紙を運んで。
その手紙にはこう書かれていた。
「間もなく迎えのカルスが来る。待機せよ」と。
オンダク「おい、アルジ。お前また一段と…」
アルジ「分かるか?強くなったぜ」
アルジは得意気な顔で腕を回す。
ガシマ「調子に乗りやがって!」
アルジ「ははっ」
エオクシ「…悪くねえ」
ガシマ&オンダク「………」
エオクシ「よかった。こいつの戦いぶりは」
アルジ「………」
ガシマ「…倒してきたんだろ?ラッセイムスラを」
エオクシ「オレたちは4人だったから倒せた。
アルジも、エミカも共に戦ってくれた。
だから倒せた」
ガシマ「…そいつはよかったじゃねえか」
オンダク「…敵はそれだけじゃねえ」
エオクシ「ああ、分かってる。
都の警備は任せたぜ」
ガシマ「ああ、もちろんだ」
オンダク「オレたちがいれば心配ない」
アヅミナがガシマとオンダクに言う。
アヅミナ「論文のこと…」
ガシマ「は?なんだ…?」
アヅミナ「北土の魔術研究所…
また…乗り込んだって聞いた」
ガシマ「…ああ」
オンダク「それがどうした?」
アヅミナ「役に立った」
ガシマ&オンダク「………」
アヅミナ「あの論文のおかげで勝てた」
ガシマ「そうなのか」
アヅミナ「ねえ、エミカちゃん」
エミカ「うん」
アヅミナ「だから、ありがとう」
ガシマ「…ああ」
エミカ「ありがとうございました」
オンダク「乗り込んだ甲斐があったな」
ガシマ「そうだな」
エミカ「創造の杖は取り返した。
残りの2つも…必ず…。
ガシマさんもオンダクさんも気をつけて」
ガシマ「任せとけよ」
アルジ「それじゃあ、またな」
小さく手を上げてガシマとオンダクは応えた。
アルジたちは城に入っていく。
そんな4人の後ろ姿を見て、ガシマは言う。
ガシマ「…負ける気がしねえわ」
オンダク「…ああ」
ガシマ「あの4人なら…
この先、何が出てこようとも…」
オンダク「…そうだな」
4人は階段を駆け上がる。
城の最上階まで。
そして、シノ姫の間の前に立つ。
エオクシ「エオクシ、参上しました」
アヅミナ「アヅミナ、参上しました」
戸惑うアルジ。
アルジ「あ!えっと…アルジ参上…」
シノ姫「入って」
アルジが言い終える前にシノ姫の声がした。
アルジ「………」
入っていく4人。
シノ姫は奥の方に1人で座っていた。
シノ姫「古代獣討伐…お疲れ様でした」
アルジ&エミカ&エオクシ&アヅミナ「………」
シノ姫「結果は…どうでしたか?」
アヅミナが前に出て報告。
アヅミナ「ラッセイムスラを倒しました。
それから、ロニは…生け捕りにしました。
身柄は先ほど審理院に引き渡しました」
シノ姫「素晴らしい!」
アヅミナ「報告書も書いて出しました。
審査が通っていれば、今頃…」
シノ姫「聴取室…ですね」
アヅミナ「…はい」
アルジ(聴取室…。
秘密の部屋って…それのことか?)
シノ姫はすっと立ち上がる。
シノ姫「早速…行きましょう」
アヅミナ「シノ姫様も…」
シノ姫「もちろん…行きますよ…。
国潰しというまれに見る悪事を働いた罪人…。
この目で見ておかなければなりませんから…」
アルジ&エミカ&エオクシ&アヅミナ「………」
シノ姫の深い怒りを秘めた笑み。
見る者を黙らせるすごみがあった。
アルジたちはシノ姫の間を出る。
城の階段を下りていく。
城の1階。
魔籠があった部屋の反対側。
そこには1枚の隠し扉。
シノ姫の従者がやってきて開ける。
アルジ「すげえ…!」
エオクシ「こういうのがまだまだあるんだぜ」
アルジ「そうなのか」
エオクシ「大君の城は仕掛けだらけだ。
いちいち驚いてちゃあキリがねえぜ」
アルジ「すげえぜ…」
アヅミナ「行くよ」
扉の向こうには長い下りの階段。
さらにその先には長い地下通路。
シノ姫の従者が光玉を放る。
辺りを照らして先導する。
左右両側の壁にはいくつもの扉。
従者はそのうちの1枚を前に立ち止まる。
アルジもエミカもまじまじと見つめた。
重くて、黒い、その扉を。
従者が鍵を外し、開ける。
ガチンという音が通路に響く。
扉が開くなり、中へ。
シノ姫が先頭を歩く。
右へ、右へ、緩やかに曲がる細い廊下を。
やがて狭く、薄暗い部屋に行き当たる。
奥には4人の調査員が待機していた。
箱に閉じ込められ、寝かされているロニ。
その周りを囲むように4人は立つ。
アルジ「これから…何が始まるんだ?」
アヅミナ「…さっき言ったでしょ」
アルジ「………」
エミカ「もっと強い…精神操作をかける…」
アヅミナ「そうだよ」
エオクシ「………」
調査員の1人が箱を開ける。
ロニの体を乱暴に外へ放り出した。
ロニ「…ふぅー…!…ふぅー…!」
ガチガチに拘束されたロニは身動きが取れない。
魔封縄で魔力も抑え込まれている。
別な調査員が問いかける。
調査員A「いかがいたしますか?
精神操作は私も心得ておりますが」
アヅミナ「あたしがやる」
調査員A「………」
アヅミナ「遅いでしょ?あなた…」
調査員A「…承知しました。
では、どうぞ。こちらに」
アヅミナは杖に魔力を込めて、暗球を出す。
精神操作の暗球を。
アルジ「げっ…」
思わず声を上げるアルジ。
エオクシ&アヅミナ「………」
アルジ(この魔波の感じ…
めちゃくちゃ気分が悪いぜ!!)
エミカ「………」
エミカはシノ姫の横顔を見る。
彼女はほほえんでいた。
アヅミナは暗球をロニの頭にそっと当てる。
アヅミナ「楽にしていてね…」
ロニ「…ふぅー…!…ふぅー…!…ふぅー…!」
激しく息をしながら震えるロニ。
アヅミナの精神操作が彼女の心を侵していく。
シノ姫「どうぞ。アルジさんも、エミカさんも。
見ていって…。彼女の魔術の本領を…」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「そして…
これからこの罪人が何を話すのか…。
ちゃんと聞いていてちょうだい…」
闇の魔術、精神操作には2種類ある。
「弱い精神操作」と「強い精神操作」。
これら2種類が。
弱い精神操作は、相手に行動させない魔術。
強い精神操作は、相手に行動させる魔術。
前者は習得が比較的容易。
効きも早い。
熟練者なら一瞬で相手の動きを止めるられる。
ロニの生け捕りに使われたのも前者。
一方、後者は習得が極めて難しい。
また、使ってから効果が出るまで時間がかかる。
その間、相手に暗球を当て続ける必要がある。
効くまでに要する時間は、熟練者でも1時間程度。
だが、アヅミナは違う。
ロニ「…ふぅー!…ふぅー!…ふ……」
アヅミナ「…かかりました」
アルジ&エミカ「…!」
エオクシ「………」
シノ姫「お見事…」
彼女が強い精神操作をかけるのに要する時間。
それは、約4分。
アヅミナ「それでは…始めましょうか。
ロニ、あなたはこれから…
あたしの問いに偽りなく答えてね」
ロニ「はい…」
聴取が始まった。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 4234/4234
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 素早さ
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 魔力 15★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 2714/2821
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
53★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 40
◇ HP 4488/4488
◇ 攻撃
56★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣、天地双竜剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 39
◇ HP 505/509
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 魔力
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
獄火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 50、活汁 12
◇ 創造の杖