第241話 破竜
◆ カルスの上 ◆
アルジたちは向かう。
古代遺跡、西雲郷へ。
操縦するのはエミカ。
夜は深まり、日付が変わる。
エオクシ「西雲郷か…」
アルジ「どんな場所なんだろうな」
その問いにアヅミナが答えた。
アヅミナ「最高峰タフカフ山の中腹にある。
発見されたのは大歴1843年。だから…
ほかの有名な古代遺跡と比べたら割と最近。
見つけたのはハオサカヤ国の登山隊で…」
エオクシ「やけに詳しいな」
エオクシはアヅミナを見る。
彼女の膝の上には1冊の資料。
エオクシ「なぁんだ…!」
アヅミナ「なんだじゃない」
アルジ「準備がいいな」
アヅミナ「学術院で借りた本が家にあったから」
エミカ「その遺跡は大きいのか?
簡単に見つけられるといいけど…」
アヅミナ「アマ円が3個分くらいかな。
詳しい場所はこれに書いてあるから大丈夫」
エミカ「よかった。ありがとう」
エオクシ「巨方庭よりかなり小せえな」
アヅミナ「小さいけどすごい遺跡だよ」
アルジ「どんな遺跡なんだ?」
アヅミナは資料を見て答えた。
アヅミナ「西雲郷には、かつて橋があった。
雲の上に伸びる橋がいくつも架けられていた。
その橋を使って人々は大陸各地へ移動した。
どういう仕組みかよく分かってないけど、
とにかくそういう特別な橋があったみたい」
エオクシ「なんだそりゃ…」
アヅミナ「魔術院でカタムラも少し話してたよ」
エオクシ「…よく覚えてねえな」
アルジ「カタムラ…」
アヅミナ「近くにはほかにも遺跡がある。
かつては都市が栄えていたみたい」
エミカ「こんなに寒い土地なのに」
アヅミナ「今と気候が違ったんじゃない。
大昔の話だし」
エミカ「そっか」
アルジ「その装置って…一体なんなんだ?
大陸各地に移動できる橋なんて…
本当に造れるのか?」
アヅミナ「地中からいくつも残骸が見つかってる。
細い管と大きな箱の残骸が」
アルジ「細い管と…大きな箱…」
アヅミナ「細い管に沿って大きな箱が移動した。
その大きな箱に人々が乗っていた。
そういう説がこの資料に書いてある。ほら」
アヅミナはアルジに資料を見せる。
そこには乗り物の想像図。
空高く伸びるいくつもの管。
その管の伸びた先は、雲の中に消えている。
それを伝って飛んでいる巨大な箱。
いくつも設けられた小窓から人々の顔。
アルジ「…こんなのが本当にあったのか?」
アヅミナ「そう思うよね。
橋っていっても普通の橋とは形が違う」
エミカとエオクシも想像図を見た。
エミカ「どうやってこんなものを…」
エオクシ「そんなの、ただの想像だろ」
アヅミナ「うん、もちろん想像。
現代では再現できない」
エミカ「こんなの…どんな魔術を使っても…」
アヅミナ「無理だね」
アルジ「じゃあ、秘術…か」
エミカ&エオクシ&アヅミナ「………」
アルジ「ラッセイムスラが西雲郷に行ったのも
秘術の力が欲しいからじゃないのか?
西雲郷にも秘力がたくさん残っていて、
それを求めて飛んでいったんじゃないのか?」
エミカ「縁環島もそうだったしな」
アルジ「ああ」
エオクシ「縁環島も…。どういうことだ?」
アルジ「縁環島にも秘力があったらしい。
古代獣ガムヤラトラゾウはその力を吸ってた。
力を自分のものにして強くなってたらしい。
そのせいでオレたちはかなり苦戦した」
エオクシ「へえ」
アヅミナ「縁環島の秘力って…
大昔の軍事実験のせいでしょ」
アルジ「ああ、それだ。ガシマが言ってた」
アヅミナ「ラッセイムスラも秘力を求めてる…か。
アルジ君の予想が正しいかどうかは分からない。
だけど、ただでさえ強い古代獣が強くなる…
そういうことがある以上、早く食い止めたいね」
アルジ「ああ」
エオクシ「さっさと乗り込んで倒してやる」
アヅミナ「だけど…」
アルジ「…どうした?」
カルスはわずかに揺れていた。
左右にゆらゆらと。
アヅミナだけがそのことに気づいていた。
アヅミナ「エミカちゃん、休憩にしよう」
エミカ「私はまだ…」
アヅミナ「無理しないで」
エミカ「………」
アヅミナ「予定よりも早くここまで来れた」
エミカ「………」
アヅミナ「それに、あたしも結構疲れてきてる。
この辺で少し休んだっていい。
いいえ、休まなきゃ。
決戦に向けて魔力を回復させなきゃね」
エミカ「分かった…」
アヅミナ「この辺にもいくつか小さな町がある。
どこかで降りて休もう。それでいいよね?
アルジ君、エオクシ」
アルジ「ああ、いいぜ」
エオクシ「ゆっくり休めよ。見張りは任せろ」
エミカ「ありがとう」
アルジの表情が引き締まる。
アルジ(見張り…か。そうだよな。
ヒジの国は壊滅した。
これから行く町も…人なんて1人もいなくて…
もしかすると、魔獣の巣になってるかも。
ラッセイムスラが突然来るなんてことも…
ありえないわけじゃない…!)
エミカはカルスの高度を下げていく。
4人は地上を見下ろす。
しばらく飛び続けて小さな町を見つけた。
アヅミナ「あそこがいいんじゃない。降りよう」
エミカ「分かった」
町の近くの荒れ地にカルスを下ろす。
降りるなりアルジたちは歩き出す。
町の方へ向かって。
4人とも厚い毛皮に身を包んで。
アヅミナ「いる」
アルジ「…魔獣か?」
アヅミナ「ええ。
とりあえず…離れたところに6体」
エミカ(もう感知してる…。速い…!)
辺りは夜の闇の中。
エミカが光玉を宙に浮かべる。
その光が周囲を照らす。
アルジたちは進んでいく。
冷たい空気が肌を刺す。
町は静まり返っていた。
薄く積もった雪に覆われている。
路面も、建物の屋根も。
民家や店が並ぶ通りを歩く。
だが、人の姿はどこにもない。
エオクシ「死体すら見当たらねえとはな」
アルジとエオクシが前を歩く。
剣を握りしめて、いつでも戦える状態で。
その後ろをエミカとアヅミナが歩く。
エオクシ「!!」
そのとき、エオクシが気づき、駆け出す。
まとっていた毛皮をその場に放り出して。
地面を蹴り、跳び上がり、壮刃剣を振り上げる。
そして、全身をしならせて振り下ろす。
巨大な魔獣の胸部を縦に深く斬り裂いた。
その魔獣は、オオジロザル。
白く、長い毛に覆われた屈強な体の魔獣。
オオジロザル「ブオオオオオオ!!!」
◇ オオジロザルAに11033のダメージ。
◇ オオジロザルAを倒した。
アルジ(いたのか…!あんなところに…!!
ていうか…!今の技…なんて威力だ…!!!)
エオクシは続けて襲いかかる。
近くにいたもう1頭のオオジロザルに。
腹部から胸部へ、胸部から頭部へ。
下から激しく斬り上げる。
天裂剣を見舞った。
◇ オオジロザルBに14512のダメージ。
◇ オオジロザルBを倒した。
エオクシ「…体はでけえが大したことねえな」
エミカとアヅミナはその戦いぶりを眺めていた。
エミカ(強い…。あんな大きな魔獣を軽々と…。
やっぱり…この人…強いんだ!)
アヅミナ「あたしたちの出番はなさそうだね」
エミカ「…うん」
エオクシの周りに2体の死体が横たわる。
どちらもエオクシの背丈の倍近く。
アルジ(流れだ…!
あいつの体の動きには…そうだ!
流れがある…!
体の各部の力…それを合流させる…。
その体の動き…。
その動きが…オレもできたら…!)
アルジは気づく。
近くに魔獣がいることに。
勢いよく走り出し、向かっていく。
身にまとっていた毛皮を放り投げて。
アルジ「行くぜ!!」
エオクシ(…見せてもらおうじゃねえか。
おめえがどこまでやれんのか…!)
十分に近づいて剣を振る。
勇気の剣は魔獣をとらえる。
オオジロザルの毛皮を、肉を、骨を斬る。
朔月斬りが決まった。
◇ オオジロザルCに9928のダメージ。
◇ オオジロザルCを倒した。
アルジ「…こんなもんか」
エオクシ(…やるな。いい一撃だ。
だが、まだ不十分。
少しは意識してんだろうが、まだバラバラだ。
全身の力の流れが完全にはまとまってねえ…。
すべてを合流させねえまま…
おめえは剣を振っている!
そんな攻撃じゃ…竜は斬れねえぜ…!)
アルジは次の標的を見つける。
少し離れた民家の陰にオオジロザルがいた。
手にしていた大きな石を投げつけてくる。
右に、左に、素早く動いてアルジはかわす。
そして、雪に覆われた地を蹴って、駆ける。
そんなアルジの勢いにオオジロザルはひるむ。
その瞬間を逃さない。
朔月斬りを繰り出した。
全身の力の流れをさっきより強く意識して。
◇ オオジロザルDに11528のダメージ。
◇ オオジロザルDを倒した。
エオクシ「…!!」
アヅミナ「アルジ君もやるね」
エミカ「…まだだと思う」
アヅミナ「…?」
エミカ「まだ変わる…」
アヅミナ「変わる?」
エオクシ(さっきよりよくなったじゃねえか。
だが…まだだな!もっと力の流れを…!)
さらに奥にいたオオジロザルが向かってくる。
アルジは迎え撃つ。
その日3度目の朔月斬りをその巨体に放つ。
アルジ(もっと!!もっと全身の力を!!
この一撃に!!!)
その一撃は、今までの朔月斬りと明らかに違う。
速さ、強さ、そして、しなやかさが。
◇ オオジロザルDに13909のダメージ。
◇ オオジロザルDを倒した。
アルジ(…これだ!!この感覚だ!!)
エオクシ「!!」
エミカ「やっぱり…変わった…!」
アヅミナ「………」
アルジは走っていく。
周辺にいた6頭。
その最後の1頭に向かって剣を振る。
アルジ(もう1度!もう1度さっきの振り方を!
斬り方を!感覚を!!忘れないうちに!!)
オオジロザル「バァアアウウウアアアア!!!」
オオジロザルは威嚇する。
口を開け、牙を見せ、腕を上げて。
アルジは構わず突っ込んでいく。
そして、斬りつける。
肩、腕、脚、腰、背中。
全身の力が1つの大きな流れを生む。
その力の流れに勇気の剣が乗る。
その刃は一瞬のうちに振り抜かれた。
アルジ「うおおおおおおおおおおお!!!!」
エオクシ「!!?」
◇ オオジロザルEに19814のダメージ。
◇ オオジロザルEを倒した。
ドサッと音を立て、斬られた体が地に落ちる。
腹部が斬られ、真っ二つになっていた。
エオクシ「………」
アルジ「なるほど…こうか…!」
エミカ&アヅミナ「………」
エオクシが歩いていく。
アルジの元へ。
手を叩きながら。
アルジ「………」
エオクシ「いい技だ」
アルジ「エオクシ…」
エオクシ「さっきの調子だ」
アルジ「ああ。全身の力を1つに…だろ」
エオクシ「そうだ」
アルジ「………」
エオクシ「破竜剣で…どうだ?」
アルジ「…え?」
エオクシ「さっきの技の名前だ。
あれなら竜も斬れる。だから、破竜剣だ。
悪くねえだろ?おい!なあ!!」
アルジ「………」
アルジはしばらく考えた。
それから、問いかける。
アルジ「その剣の名前は?」
エオクシ「…は?」
アルジ「オレはお前の技を手本にした。
お前の技、剣の動きから学んだ。
それで、さっきの技が出せるようになった。
だから、お前の剣の名前を技名に入れたい」
エオクシは少し笑ってから答える。
エオクシ「こいつは壮刃剣だ。
オレが一隊に上がったとき、
大君の剣術指南役に任じられたとき、
授かった大切な剣だ。
オレの…何よりも大事な武器だ」
アルジ「そうか。壮刃剣…」
アルジも少し笑って言う。
彼の頭に浮かんだ、1つの技名を。
アルジ「壮刃破竜斬撃だ」
エオクシ「…は?…何?」
アルジ「新しい技の名前は、壮刃破竜斬撃だ」
エオクシ「は…?壮刃破竜斬撃…?」
エオクシはしばらく黙り込む。
そして、言った。
エオクシ「…いいじゃねえか!!」
アルジ「な!!」
アヅミナ「………」
エミカ(何がいいんだ…)
◇ アルジの朔月斬りは壮刃破竜斬撃に進化した。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 31
◇ HP 3753/3753
◇ 攻撃
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 2415/2415
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 38
◇ HP 3692/4027
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 36
◇ HP 404/460
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 魔力
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 80、活汁 28
◇◇ 敵ステータス ◇◇
◇ オオジロザル ◇
◇ レベル 34
◇ HP 8106
◇ 攻撃
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 魔力 2★★
◇ 技 鋼牙撃、激投石




