第240話 英雄
ヤマタンは話した。
彼が戦いの最中に聞いた声について。
ヤマタン「それは低く、恐ろしい声だ。
いくつも、いくつも聞こえてきた…。
戦っている最中もずっと聞こえてきやがる。
とにかく気になって仕方ねえ…」
アルジ「なんの話だ?」
エオクシ「ラッセイムスラの声じゃねえのか?」
ヤマタン「違う…。
お前ら…いいから黙って聞けよ」
ヤマタンは欠けてしまった両脚に目をやる。
ヤマタン「最大の敗因といえば、そいつだ…。
その声が、オレの集中力を奪い、隙を生んだ。
一瞬の隙だ。だが…それは致命的な隙だった。
ラッセイムスラは逃さねえ。
わずかな隙も逃さねえ。
食われた。腕も、脚も。それでこうなった…」
マオイ「倒れたところを…私がハクトで救った」
ヤマタン「それで、
命からがら逃げた先がこの基地だ…」
アヅミナ「声っていうのは?
ラッセイムスラの魔術か何か?」
ヤマタンは笑いながら否定する。
ヤマタン「そんなんじゃねえよ」
エオクシ「なら、なんなんだ?」
ヤマタン「コズマ国で…その声を初めて聞いた。
古代獣ヤノエノゴザサラシと戦っていたときだ」
アルジ「ヤノエノゴザサラシ…」
ヤマタン「…おう。倒しにいくと言ったよな。
お前たちも来るかって話になったが…」
アルジ「…オレたちは縁環島へ行った」
ヤマタン「無事…倒せたみてえだな…」
アルジ「ああ。倒したぜ。ガムヤラトラゾウを。
ガシマとオンダクも一緒に戦ってくれた」
ヤマタン「…なんだ。あいつらも一緒だったのか。
それなら…」
アヅミナ「………」
ヤマタンはアヅミナの厳しい視線に気づく。
ヤマタン「おっと、いけねえ。
敗因の話だったな…。忘れちゃいねえよ」
アヅミナ「………」
ヤマタン「『あの声』を初めて聞いたのは…
ヤノエノゴザサラシと戦ってたときだ…。
最初に聞こえたときはただの幻聴かと思った。
だが、この妙な現実感…どうもそうでもねえ。
うううう…ってな。何人も何人も低い声で…。
すぐ近くで…耳元で…
誰かが声を出しているのさ…」
エミカ「それは…
ヤノエノゴザサラシの魔術のせい…?」
ヤマタン「そういうのでもねえよ」
ヤマタンは少し笑う。
ヤマタン「確かに…
ヤノエノゴザサラシは厄介でな。
うまぁく化けやがる…。人や、ほかの獣に。
隠れることも…実に長けていやがった…。
少しでも騙されようもんなら、やられる。
そんな古代獣だった…。
ま!最後は仕留めたけどよ…!
制獣剣でバッサリとな…!」
エオクシ「ああ、分かった。分かったぜ。
ヤノエノゴザサラシってやつのことはな。
…で、その声ってのは一体なんなんだ?」
ヤマタン「おう…それがな…」
エオクシ「………」
ヤマタンは自分の耳を手でそっとなでる。
ヤマタン「実を言うとよ…今も聞こえてんだ…。
微かに…そうだ…微かに聞こえてんだ…」
耳をすますアルジたち。
だが、人の声など聞こえてこない。
ヤマタン「それでよ…。たまぁに聞こえるんだ。
ただの声じゃねえ。ちらちらと言葉も聞こえる」
アルジ「どんな言葉だ?」
ヤマタン「…悔しい…逃さん…憎い…許さん…。
大体…そんな言葉だ…」
アルジ&エミカ&エオクシ&アヅミナ「………」
ヤマタン「はぁ…。うるせえ…」
そう言って、手のひらで耳をぽんぽん叩く。
アヅミナ「なんで声が聞こえるようになったの?
原因は何?心当たりは?」
ヤマタン「おう…それがなぁ…
持病があったとか…そういうわけじゃねえ…。
今までこんな声は聞いたことがなかった…。
それが突然、聞こえるようになった…。
あまりに突然のことでな…
オレもどういうことかよく分からねえ…。
原因は何かっつうと…そうだな…難しい話だ…。
そんなことが本当にあるのか…って話だしな…。
だがな、これじゃねえかって言えるもん。
それは…確かにある…。
原因は…これなんじゃねえか?
って…思ってんだ」
エオクシ「なんだ?」
ヤマタンはしばらく天井を仰ぎ見てから答える。
ヤマタン「オレは英雄物語が好きだった…」
アルジ&エミカ&エオクシ&アヅミナ「………」
ヤマタン「英雄が悪者どもと戦って、勝つ。
とにかくオレはそういう物語が好きだった…。
ガキの頃、親に何冊も買ってもらった。
主人公の英雄になり切るのが好きでな…。
近所のやつらと集まってごっこ遊びの毎日よ。
だが、ふと思い返す。あれだけ読んだ物語。
どんな話だったのか、まともに思い出せねえ。
もしかすると、ガキだったあの頃のオレは…
物語を読んだ気になって、読めた気になって、
実はほとんど読めてなかったのかもしれねえ。
内容を理解してなかったのかもしれねえ…。
それでもオレは楽しんでいた。
それは間違いねえ。
中でもオレは挿絵を見るのが好きだった…。
英雄の…勇ましい姿を見るのが好きだった。
それが見たら、もうほとんど満足だった」
アルジ「ヤマタンさんが大前隊に入ったのも…」
ヤマタン「関係あるかもしれねえな。
英雄になりたい。
ぼんやりとだが、ずっと思っていた」
アヅミナ「…それで?英雄物語がなんなの?
あなたが聞いた声とどういう関係があるの?」
ヤマタン「焦るなよ。本題は忘れちゃいねえさ。
…覚えてんだ。1つだけ。今でも覚えてんだ。
主人公の名前も…物語の名前も…覚えてる。
どんな話だったかもよく覚えてる」
アルジ「どんな話なんだ?」
ヤマタン「おう、聞かせてやる!」
アルジ「ああ」
エミカ&アヅミナ「………」
ヤマタン「ある日のことだ。
主人公が暮らす国に新しい王様がやってくる…。
そいつは好き勝手な政治をやる。
国の人々がどんどん不幸になっていく。
だが、誰もそいつに逆らえない。
恐ろしい魔術を使えたからだ。
いつしかその王様は、民からこう呼ばれる。
魔王と。
主人公はその魔王を倒すため、長い旅に出る。
そして、仲間を集めて、強くなる。
意気揚々と国に帰ってくる。
それでよ、戦うんだ。
城に乗り込んで、魔王を倒すんだ。
魔王の仲間も、その手下も。
全部、全部、倒しちまうんだ。
それで、平和が訪れる。
民は幸せになり、物語は終わる」
エオクシ「…よかったじゃねえか」
ヤマタン「いい話だろ」
アヅミナ「その話がどうしたの?なんの関係が…」
ヤマタン「倒したんだ…。城に乗り込んで…。
要塞みてえなその城で、魔王たちと戦ったんだ。
悪者どもを倒して、民を悪政から救ったんだ…。
オレは憧れていた…。憧れていたのさ…」
アルジ「それは…もしや…」
ヤマタン「おう…アルジ…気づいたか?
おうおう…エミカも気づいたみてえだな…」
エミカ「………」
エオクシ&アヅミナ「…?」
ヤマタン「オレは戦いから逃げちまったんだ」
アルジ「………」
ヤマタン「オレがあのとき、
あいつらを倒して逃していれば…。
あのとき、あの場で、全部、倒して、
全員、逃していれば…
すべてが丸く収まった…
なんてことは言わねえが…助かったと思う。
そうだ…間違いねえ…!助かった!
100人…いや、1000人、2000人!
そういう数の人が!
今も…生きていたかもしれねえ!
生きていたはずなんだ!!
この声は…そいつらの声だ!!
そいつらが…!オレを…!!」
エミカ「やめろっ!!!」
ヤマタン「………」
エミカ「ロニだ!!悪いのは…ロニだ!」
ヤマタン「…ふっ…」
アルジ(聞こえてくる声…
その正体が分かった気がする。
大陸首位猟師が…自分自身を責める気持ち。
声は…多分…そこから生まれたものなんだ…)
エオクシが首を傾げて言う。
エオクシ「…話が見えねえな」
アルジ「ミノマノ村のことを話してるんだ」
エオクシ「ミノマノ村?」
エミカ「その村の人たちは…ロニの魔術で…
古代獣が暴れたことで…殺された…」
アヅミナ「さっきの英雄物語と…
どういう関係があるの?」
アルジ「ヤマタンさんは…頑張ってた。
ミノマノ村の人たちを救うために。
古代獣から守るために。
村の助役とか…説得しようとしていた。
だけど…」
エオクシ&アヅミナ「………」
エミカ「村の人たちは話を聞き入れなかった…。
彼らは信じてた。
魔術で獣を倒すことは悪いことだって。
それで、村の中にいた古代獣を…
倒さずに放っておいて…
ついには…村の中でそれが暴れ出して…」
エオクシ「…そうか」
エオクシはヤマタンのすぐ近くに行く。
ヤマタン「…なんだ?」
エオクシ「おっさん、あんたはいつも全力だった。
そのミノマノ村でもやれることはやったんだろ」
ヤマタン「………」
エオクシ「十分やったんだよな?
だから、気にすんなよ。
確かに人がたくさん死んだのかもしれねえ。
けどよ、もう終わっちまったことなんだ。
気にすんな。声なんてのも気のせいだ。
無視だ!無視!そんなもん!!
あとはオレたちがやる!
だから、ゆっくり休んでろ!!
ほら、活汁もやるぜ!
とりあえず、これ飲んで元気出せよ!」
ヤマタン「…けっ!」
エオクシ「………」
アヅミナ「ほかには?」
ヤマタン「…は?」
アヅミナ「ラッセイムスラに…
どうしてあなたが負けてしまったのか」
ヤマタンは力のない声で答えた。
ヤマタン「あとの理由は、簡単なもんだ…。
ラッセイムスラが強かったからだ…。
とんでもねえ力があるし、でかいし、速いし。
あとは…そうだな。なんといっても…」
アヅミナ「何?」
ヤマタン「魔術がほとんど効かねえことだ…。
火術も…氷術も…雷術も…岩術も…。
ことごとく効かねえ…。知ってのとおり…
大陸猟進会の狩りは魔術に依存している。
魔術が効かねえとなると戦術が機能しねえ。
しびれを切らしたこのオレが、
力技でぶっ倒そうとしたらこのザマだ…!!」
マオイ「私の魔術も…まるで通用しなかった」
アヅミナ「魔術が通用しない…へえ…」
そのとき、アヅミナから強い魔波。
彼女は小さな声で言う。
アヅミナ「…面白いね。それ…」
ヤマタン&マオイ「…!!」
アヅミナが放つ強力な闇の魔波。
間近でそれに触れ、ヤマタンとマオイは驚愕。
アルジが問いかけた。
アルジ「今…どこにいるんだ?
ラッセイムスラは…」
ヤマタン「手紙に書いたが…」
マオイ「ここから西…大陸最高峰タフカフ山…
西雲郷の方へ飛んでいったのを見た…」
アルジ「ああ、古代遺跡…だよな」
マオイ「そうだ」
ヤマタンが指差して言う。
ヤマタン「あそこに毛皮がある。
そこそこ上等なやつだ。
それで寒さはある程度しのげるだろう。
ここから先、その格好じゃキツイだろ。
持っていけ!!」
アルジ「ありがとう」
アルジたちは礼を言って毛皮をもらう。
エオクシ「おし、行くぜ」
基地を出ようとしたとき。
ヤマタン「おい」
アルジ「…なんだ?」
ヤマタン「ロニってやつにも…気をつけろ」
アルジ「おう」
ヤマタン「あいつの目は…まるで獣だった。
人の血が一切流れていねえような…
そんな冷てえ目をしてた。
憎しみ…あれは…強い憎しみの表れだ。
特定の誰かじゃねえ。
まるで人という存在そのものを…
憎んでいるかのような…」
マオイ「ヒジの国は滅ぼされた」
アルジ「国が…滅ぼされた…?」
マオイ「そうだ。丸ごと…滅んだ…」
エミカ&アヅミナ「………」
マオイ「ロニがラッセイムスラを使って、
町や村を手当たり次第に破壊した。
そして…
新たな魔獣を次々と生み出しているようだ。
タフカフ山近くの魔獣は破格の強さを誇る。
あんたたちは強い…。恐ろしく…強い…。
それは見れば分かる。肌で感じられる。
だけど…くれぐれも…気をつけて」
アルジ&エミカ&エオクシ&アヅミナ「………」
そして、大陸猟進会の基地をあとにした。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 31
◇ HP 3753/3753
◇ 攻撃
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り、
雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 2415/2415
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 38
◇ HP 3692/4027
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 36
◇ HP 404/460
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 魔力
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 80、活汁 28




