第24話 特別
翌朝。
身支度を終えて広間に行くアルジ。
そこにはエミカもリネもいた。
アルジ「おはよう」
エミカ「おはよう」
リネ「おはようございます」
ミリは台所で朝食を作っていた。
作り終えると4人で食卓を囲んで食べる。
薄切りの肉、ちぎった葉野菜、薄味の汁物。
そして、強い酸味のある一切れの果実。
そんな朝食を4人で食べる。
エミカ「ごちそうさま。おいしかったよ」
ミリ「よかった!」
アルジ「朝早くからありがとう」
ミリ「いいよ、いいよ。
いつもやってることだから。
だけど、今日で…」
リネ「そうですね。今までお疲れ様でした。
私からも改めてお礼を言うね。ありがとう」
ミリ「…いいえ」
リネ「さあ、そろそろ出ましょうか?」
アルジ「そうだな」
エミカ&ミリ「はい」
館を出ると、3人の男たちが立っていた。
腰に手を当て、まっすぐな姿勢。
館から出てきたアルジたちをじっと見ている。
3人とも戦闘服を着て腰には剣を携えていた。
アルジはすぐに気づいた。
彼らは警備隊の隊員たちだと。
アルジ「オレを…逮捕しに来たのか?」
真ん中の男が首を横に振る。
真ん中の男「…私はガウバ」
アルジ「………」
ガウバ「ワノエ警備隊、新隊長のガウバだ」
アルジ「新隊長…」
ガウバ「今日、正式に任命された」
アルジ「………」
エミカ、リネ、ミリは対話を見守る。
アルジ「ナンダスは?」
ガウバ「あいつは…死んだよ」
アルジ「!!」
ガウバ「アルジ…といったね?」
アルジ「…ああ」
ガウバ「今日は君に話があってきた。
君にもいろいろ事情はあるのだろうが、
我々としても、伝えたいことがある。
伝えておきたいことがある。隊長として。
どうしても。話はそんなに長くならない。
エミカというのは…」
エミカ「私だ」
ガウバ「君にも聞いてもらいたいんだが」
エミカ「………」
リネ「私たちは外しましょう」
ミリ「はい。先、行ってるね」
エミカ「ああ」
その場から離れていくリネとミリ。
ガウバたち3人は彼女たちには目もくれない。
ただアルジとエミカを見続ける。
ガウバ「…くい…」
アルジ「…は?」
エミカ「…え?」
ガウバ「…くい…!」
アルジ「なんだ?」
ガウバ「…憎いっ!!!」
静かな朝の町にしゃがれた声が響く。
ガウバ「ああ!!憎い!!貴様が憎い!!
憎いよ!!!よくも!!よくも!!
よくもぉぉぉおおお!!」
目から涙を流し、顔をゆがめるガウバ。
だが、彼の姿勢は少しも変わらない。
腰に手を当て、まっすぐ彼は立ち続ける。
ほかの警備隊員が布切れを取り出す。
それをそっとガウバの頬に当て、涙をふく。
大声に驚き、ミリが1度だけ振り返った。
アルジとエミカはじっと次の言葉を待つ。
ガウバ「…ここまでだ」
アルジ「?」
ガウバ「個人的な感情はここまで…」
アルジ「………」
ガウバ「ここからは新隊長として話をする。
さっきは失礼した。
感情を出さずにはいられなかった。
ナンダスは幼少期からの親友だったのだ」
アルジ「オレに復讐するつもりか?」
ガウバ「…そんなことはしないよ。
私は…むしろ礼を言いたいんだ」
アルジ「………」
ガウバ「そして、謝りたい。すまなかった」
アルジ「………」
ガウバ「あいつは…ナンダスは…化け物だった。
警備隊という組織が育ててしまった化け物だ。
入隊時から戦闘力で右に出る者なし。
4年目にして副隊長。
誰もがあいつを甘やかした。
当時の警備隊長も町長も。
誰もがあいつをちやほやした。異常だった。
結果して何が起きたか。入隊して6年で隊長。
隊員のほとんどがあいつより年上。
だが、誰も逆らえない。ますます調子づく。
もう誰も止められない。化け物の誕生だ。
あいつが叫べば、多くの人が動いた。
状況が変わった。大抵のことは通る。
そして、あいつはますます勢いづく。
その繰り返しだった。
あいつは組織が生んだ化け物。
生んではならなかった化け物。
昨日の決闘で…あいつは敗れたと聞いている」
アルジ「オレが倒した」
ガウバ「…それも聞いている。
私はあの場にいなかった。
本部で雑務に追われていた。
合流することができなかった。
君たちには大変な迷惑をかけてしまった。
隊長として謝らせてくれ。申し訳なかった。
そして、感謝する。ありがとう。
我々ワノエ警備隊は救われた。
あいつが消えたことで救われたのだ。
これまでの過ちが正されることになる。
我々は今日この日からやり直していける。
そう思っている」
アルジ「昨日のことはどうするつもりだ?」
ガウバ「『ナンダスはカクノオウに挑んだ。
そして、相討ちになった』ということにする」
エミカ「でっち上げる気か」
ガウバ「もともと我々は目をつけられていた。
正査院から…厳しい目を向けられていたのだ」
正査院は、中央政府の機関。
役人に不正がないか監視、調査する機関。
各国の村や町の警備隊も監視と調査の対象。
ガウバ「近日中に正査院の調査が入る。
今回の1件もどうにか説明するさ。
そして…」
アルジ「………」
ガウバ「君たちの活躍があったことも伝える。
カクノオウにワノエ警備隊は果敢に挑んだ。
隊長を失ったが、悪党を壊滅させた。
そこには助けがあった。
勇敢な剣士と魔術師の助けが。
彼らのおかげで打ち勝つことができた…と。
そして、君たちの名を伝えておこう。
構わないな?」
アルジ「…ああ」
エミカ「好きにしな」
ガウバ「ありがとう。それと、これを…」
アルジ「?」
ガウバ「カクノオウを倒してくれたお礼だ。
我々警備隊からの…」
革の袋を差し出すガウバ。
中には金が入っていた。
数日間の旅をするには十分な金だった。
ガウバ「星の秘宝とやらを求めているそうだな」
アルジ「ああ」
ガウバ「我々も陰ながら応援しよう」
アルジ「敵討ちは?いいのか?」
ガウバ「いい」
アルジ「………」
ガウバ「挑んだところで、勝てる気がしない」
力なく笑うガウバ。
それから、警備隊の3人は一礼した。
アルジとエミカはその場から立ち去る。
リネとミリの後ろ姿が小さく見えている。
ミリが振り返り、手を振った。
ミリ「早く来てー」
エミカが手を振り返す。
アルジ「…なあ」
エミカ「なんだ?」
アルジ「ミリも…リネの弟子なんだよな?
エミカと同じで…」
エミカ「ああ。そうだ。
ミリも私もリネ先生から魔術を教わった。
先生の館で一緒に住んでお手伝いしながら」
アルジ「………」
エミカ「…どうした?」
アルジ「強い魔力を感じるんだ。
リネだけじゃなくて、ミリからも。
もちろん、エミカも強いと思うんだけど」
エミカ「ミリは特別なんだ」
アルジ「特別?」
エミカ「あの子は私とは違う」
アルジ「何が違うんだ?」
エミカ「ミリが先生の館へ来たのには、
特別な事情がある」
アルジ「特別な事情?」
エミカ「館に来たきっかけが私とは違う」
アルジ「どう違うんだ?」
エミカ「………」
アルジ「…?」
エミカはしばらく考えてから言う。
エミカ「ミリは…実は…」
アルジ「ああ」
エミカ「1度、死んでいる」
アルジ「死んでいる…?」
エミカ「うん。彼女は1度、殺された」
アルジ「殺された…?」
エミカ「………」
アルジ「どういうことだ?殺されたって…。
一体誰に殺されたんだ?悪党か?魔獣か?」
エミカ「殺したのは…」
歩き続けるアルジとエミカ。
リネとミリの姿は相変わらず小さく見えている。
エミカ「殺したのは…リネ先生だ」
アルジ「え…?」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 8
◇ HP 347/347
◇ 攻撃 12★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 12★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 2★★
◇ 装備 勇気の剣、銀獣の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃
◇ エミカ ◇
◇ レベル 6
◇ HP 192/192
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 7★★★★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲
◇ ミリ ◇
◇ レベル 5
◇ HP 144/144
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 6★★★★★★
◇ 魔力 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱
◇ リネ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 678/678
◇ 攻撃 6★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 11★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25、魔力回復薬 16




