第236話 結果
◆ カルスの上 ◆
空が明るくなり始める。
もうすぐ日の出の時刻だった。
アヅミナはエミカを起こす。
アヅミナ「エミカちゃん、起きて」
エミカ「………」
アヅミナ「おはよう」
エミカ「…おはよう」
目をこすり、体を起こし、前方を見る。
空はよく晴れていた。
アヅミナ「もう少しで交替したい。
準備しておいて」
エミカ「分かった」
アヅミナ「これ見て」
アヅミナは人差し指を立てる。
その指の上。
ぽかんと生じて、浮かび、とどまる。
彼女の握り拳ほどの大きさの暗球が。
アヅミナはその球体に足していく。
火術による炎を。
暗球が強い熱を帯びる。
エミカ「もう習得したんだ」
アヅミナ「まだまだ」
エミカ「………」
アヅミナ「もっと威力を高められる。
暗球をより大きく、熱くしていけば」
エミカ「………」
アヅミナ「今はこれが限界。
だけど、まだまだ行ける」
エミカ(すごい…。たった一晩で…)
アヅミナ「すごいのは、あたしじゃない」
エミカ「………」
アヅミナ「この論文、丁寧に書かれてる。
エミカちゃん、いい指導者に恵まれたね」
エミカ「…そっか」
エミカの頭の中にふと浮かぶ。
魔術を教えるリネの顔が、姿が、声が。
エミカの目に涙が浮かぶ。
エミカ「………」
アヅミナ「はい。あなたも頑張って」
論文が返された。
受け取って、エミカは気づく。
エミカ「あ…これ…」
アヅミナ「余白に書き込んでおいた。
あたしなりの解釈とか、感覚とか。
少しでもあなたに伝わるように」
エミカ「…ありがとう」
アヅミナ「魔術の感覚は1人ずつ少しずつ違う。
だから、すべてが役に立つわけではない。
だけど、少しでもあなたの助けになれば…
そう思って、書いてみたから…」
エミカ「やってみる」
アヅミナ「最後に1つだけ」
アヅミナは右手の手のひらをエミカに見せる。
エミカ「…?」
アヅミナ「小さなところから始めて。
小さな光玉に、小さな火を。
そこから始めるといい」
エミカ「でも、私は…」
アヅミナ「分かってる」
エミカ「………」
アヅミナ「王火は出せても、小さな火は出せない。
まだ自分の魔力をそこまで制御できていない。
言いたいことは、そういうことでしょ?」
エミカ「それも…分かるのか」
アヅミナ「分かる。魔力の流れを見ていれば。
これでもあたしは魔術院の術師だからね…」
アヅミナは力のない笑みを浮かべた。
エミカ「………」
アヅミナ「だから…」
エミカ「………」
アヅミナ「手を出して。
あたしの手のひらに合わせて」
エミカ「ああ」
アヅミナ「魔力の流れを感じて」
エミカ「…うん」
手を合わせ、エミカは感じとる。
アヅミナの魔力の流れを。
エミカ(緩やかで、穏やかで、細やかで、
それでいて力強い)
アヅミナの指先から1つの小さな火が生まれる。
人差し指の先から小さく上がる。
ゆらゆらと揺れている。
アヅミナ「同じようにやってみて」
エミカ「分かった」
何度か失敗して最後はできるようになる。
エミカの指先にも小さな火が現れた。
エミカ「…できた」
アヅミナ「この感覚を忘れないで」
エミカ「ありがとう、アヅミナさん」
手と手を離す。
◇ エミカは火弾を習得した。
気がつけば、すっかり日は上っていた。
彼女たちはカルスの操縦を交替する。
アヅミナ「操縦、上手だね」
エミカ「ありがとう。
アヅミナさんもゆっくり休んでほしい」
アヅミナ「ええ。
お昼ごろまで寝させてもらうね。
そのとき、また交替しよう。それと…」
エミカ「…?」
アヅミナは自分の荷物入れに手を入れる。
出したのは、大きな紙袋と大きな金属の容器。
紙袋にはたくさんの菓子。
金属の容器には茶がたっぷりと入っていた。
アヅミナは小さな碗をエミカに差し出して言う。
アヅミナ「どうぞ。遠慮なく食べて飲んでね」
エミカ「こんなに…。ありがとう」
アヅミナ「お腹空いてるでしょ。
あたしも少し食べるから」
エミカは紙袋の中を見て驚いた。
エミカ(どれも高そうなお菓子だ…。
しかも、こんなにたくさん…)
茶を碗に注ぐ。
エミカ(すごく香りのいいお茶だ…。
大君がごちそうしてくれたのと同じ…かな。
あのときは味も香りも
楽しむ余裕なんてなかったけど…)
アヅミナは横になる。
すやすやと眠り始めた。
エミカは自分の手に目をやり、ふと思い出す。
エミカ(アヅミナさんの手、あったかかった…)
しばらくしてアルジとエオクシが目を覚ます。
アルジ「………」
エミカ「おはよう」
アルジ「おはよう」
エオクシ「…おはよう…」
大きなあくびをするエオクシ。
彼はしばらくぼんやりと空を眺める。
エオクシ「大分…進んだみてえだな…」
エミカ「………」
アルジ「…腹が減ったな」
エミカ「アヅミナさんが…」
エオクシ「…そんな菓子じゃだめだ」
アルジ&エミカ「………」
エオクシは荷物入れから3人分の活汁を出す。
アルジとエミカに渡して言った。
エオクシ「こいつを飲めよ。栄養がとれる」
アルジ&エミカ「………」
エオクシ「それにすげえうめえ」
アルジ「まずいだろ」
エオクシ「…なんだ?知ってんのか?」
エミカ「ガシマさんとオンダクさんもくれた」
アルジ「もう2本も飲んだぜ」
エオクシ「なんだ…!そうかよ…」
アルジ&エミカ「………」
悔しがるエオクシを見てエミカは小さく笑う。
エミカ「だけど、ありがとう。大事に飲む」
エオクシ「………」
アルジ「戦いに備えなきゃいけないしな」
エオクシ「まずいからって捨てんなよ」
それから、エオクシは問いかける。
エオクシ「おめえら、
ガシマとオンダクとどこで何してたんだ?」
アルジ「魔獣退治だ」
エオクシ「あいつらと…そうなのか…!」
エミカ「縁環島という島に現れた古代獣。
そいつを退治したんだ」
アルジ「ガムヤラトラゾウっていう古代獣だ」
エオクシ「なんだ、その変な名前…。
聞いたことがねえな。そいつは強かったのか?」
アルジ「ああ。強かった。でも、倒せた。
4人で力を合わせて古代獣に勝ったんだ」
エオクシ「…そうか、そいつはよかったな。
古代獣か…。あちこちで暴れてるみてえだな」
エミカ「全部ロニという魔術師の仕業だよ」
エオクシ「許せねえな…。必ず倒すぜ」
険しい表情でエオクシは言った。
そんな彼にエミカは尋ねる。
エミカ「…巨方庭はどんな場所だったんだ?」
エオクシ「………」
エミカ「エオクシさんたちは…
魔真体を阻止するため巨方庭に行った。
でも、その任務は失敗してしまったって…」
エオクシ「ああ…。失敗だ」
アルジ「何があったんだ?」
エオクシ「…いろいろあった」
アルジ「………」
エミカ「強い魔獣がいたのか?」
エオクシ「………」
ぼそりとエオクシは答えた。
エオクシ「…謎だ」
アルジ&エミカ「………」
エオクシ「とにかく謎だらけだった。
どこに何があって、何したらいいのか。
分からねえ。さっぱり分からねえ。
手探りの旅だった。
だが、分からねえなりにやれることはやった。
やったと思う…。オレたちは力を合わせて…。
だが、その結果が失敗だ。
任務は結果がすべてだ。
頑張ろうが失敗したら関係ねえ。
力が足りなかったってわけだな…」
うつむいて話すエオクシ。
アルジとエミカは見ていた。
そのとき、カルスが大きく左右に揺れる。
アルジ「うおっ!!」
エオクシ「げっ!」
エミカは慌てて機体を立て直した。
エミカ「…ごめんなさい!」
エオクシ「おめえな、操縦に集中しやがれ!」
エミカ「…はい」
しゅんとなるエミカにアルジは声をかけた。
アルジ「エミカ、あんまり気にすんなよ。
ちょうどいい揺れだったぜ。
おかげで目が覚めた」
エミカ「アルジ…」
エオクシ「………」
アヅミナはすやすやと眠ったままだった。
エオクシ「それにしても…
おめえらどうして知ってんだ?
巨方庭の探索は極秘任務のはずだが…?」
アルジ「大陸首位猟師が教えてくれたんだ」
エオクシ「そうか…。あのおっさんが…。
確かにあいつならボロっと言いかねねえな」
アルジ「あの人のことをよく知ってるんだな。
大前隊の先輩…だもんな」
エオクシ「べらべらとうっせえおっさんだ。
大前隊の訓練にもしつこく顔出してたぜ。
退任してもう何年も経つってのによ。
あいつが来るととにかくうるせえんだ」
アルジ「そうなのか」
エオクシ「あんまり偉そうにしてっからよ、
1度呼び出してぶっ倒してやったんだぜ。
ははっ!」
アルジ「はは…」
それから、エオクシは寂しげな顔で言う。
エオクシ「だが、そんなおっさんも再起不能…
とはな!」
アルジ「………」
エオクシ「もうケンカもできねえ状態ってことか」
アルジ「そういうことかもな」
エオクシは荷物入れから碗を出し、茶を注ぐ。
アヅミナが持ってきた茶をなみなみと。
注ぎ終えるなり一気に飲み干した。
エオクシ「…ふぅ」
それから、エミカに声をかけた。
エオクシ「よう、エミカ」
エミカ「…なんだ?」
エオクシ「向こうに町が見えるだろ」
エミカ「ああ」
エオクシ「そこで1回、
カルスを降ろしてくれねえか?」
エミカ「でも…
昼前まで操縦するってアヅミナさんと…」
エオクシ「構わねえ。急用だ」
アルジ&エミカ「………」
エオクシ「便所に行きてえんだ」
さらにエオクシは言う。
エオクシ「そんで、どっかで飯でも食おうぜ」
エミカ「…活汁は?」
エオクシ「飲んでられっか。そんなもん」
アルジ「飲まないんかい…」
カルスは高度を下げていった。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 31
◇ HP 3753/3753
◇ 攻撃
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り、
雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 2415/2415
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 38
◇ HP 3692/4027
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 36
◇ HP 404/460
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 魔力
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 80、活汁 30




