第235話 反動
◆ カルスの上 ◆
西へ、西へ、飛び続ける。
アヅミナの操縦で。
アルジとエオクシは眠っている。
エミカはリネの論文を読み続けていた。
エミカ「………」
アヅミナ「何が書いてあるの?」
前を見続けたままアヅミナは問いかける。
エミカ「複合魔術について」
アヅミナ「複合魔術…」
エミカ「私の魔術の先生が書いた論文なんだ」
アヅミナ「そうなの。役に立ちそう?」
エミカ「役に立つと思う。
奇抜で斬新な考えだけど…」
アヅミナ「奇抜で斬新。そうなんだ」
エミカ「私の先生は長い間研究してた。
北土の魔術研究所で複合魔術を」
アヅミナ「ああ、あの研究所の」
エミカ「うん」
アヅミナ(先生って、
あのときの操られてた人かな)
エミカ「先生は手紙で私に教えてくれた。
きっと役立つはずだから、
この論文を読んでほしいって。
それで、昨日手に入れることができた。
ガシマさんとオンダクさんが手伝ってくれて…」
アヅミナ「ガシマとオンダクが…?」
エミカ「うん。研究所に一緒に乗り込んでくれた。
論文を手に入れるため頑張ってくれたんだ」
アヅミナ「そうなんだ。あの2人が…。
複合魔術の論文なんて読んだことないな」
エミカ「…そうなの」
アヅミナ「使えないしね」
エミカ「………」
アヅミナ「あたしが使えるのは火術と氷術と闇術。
闇術はほかの魔術と合わない。
火術と氷術は打ち消し合う。
だから、あたしに複合魔術は使えない。
読んでも意味がない。
だから、読もうと思ったこともない」
エミカ「…そっか」
アヅミナ「どんな魔術なの?
その論文に書かれてるのは」
エミカ「光術と火術の複合魔術。
光玉と王火を組み合わせる複合魔術」
アヅミナ「組み合わせると、どうなるの?」
エミカ「王雷を超える強さの魔術になる…」
アヅミナ「王雷を超える…。へえ、面白そう」
エミカ「………」
アヅミナ「邪魔してごめんね。頑張って」
エミカ「…うん」
エミカは論文の続きを読む。
だが、数行読んだところで強い眠気に襲われる。
こくりと1回、彼女の頭が揺れた。
アヅミナ「エミカちゃん」
エミカ「アヅミナさん…私…」
アヅミナ「いいよ、もう寝て」
エミカ「…うん」
アヅミナ「おやすみ。それと、もしよかったら…」
エミカ「…何?」
アヅミナ「その論文、少し読ませてもらえる?」
エミカ「え…?」
アヅミナ「少しだけ読んでみたい」
エミカ「でも…」
アヅミナ「大丈夫。カルスの操縦なら。
その気になれば目を閉じても飛ばせるから」
エミカ「!!そんなこともできるのか…!」
アヅミナ「無理に決まってるでしょ」
エミカ「………」
アヅミナ「冗談で言ってみただけ」
エミカ「………」
エミカは論文をアヅミナに渡して横になった。
手の中に浮かべていた光玉も消す。
エミカは途端に全身に疲労感を覚える。
両眼のまぶたは重たくなって自然と閉じる。
アヅミナ(…気になっていた。
2年前のあの日のあの魔術が。
マスタスが裏行隊と戦ったとき、
あの魔術がなんだったのか。
結局、分からなかった。
魔術院の資料を読みあさっても。
マスタスが使った…火術と…闇術の…
複合魔術の正体は…。
マスタスも…北土の魔術研究所の魔術師…。
もしかして…この論文に何か手がかりが…?)
アヅミナは指先に小さな火を灯す。
その明かりで論文を読み始めた。
◆ ノイ地方 旧マクタ国領土 ハニカ町 ◆
ロクヤンはたった1人でラグアたちと戦う。
24人いたラグアの護衛。
そのうちの17人を倒し、残りは7人。
静観していたラグアはついに自ら動き出す。
ラグア「お前たち!!下がってろ!!」
ラグアの後ろへ退く護衛たち。
ロクヤン「ラグアー!貴様―!!覚悟しろー!!」
ラグア「………」
ラグアは前へ出ていく。
古代王の剣を構えてロクヤンと向かい合う。
ラグア(あれだけ護衛を斬ったのに
疲れた様子がまるでない。
僕の護衛たちだって決して弱いわけじゃない。
選び抜かれた戦士たちだ。
それをいとも簡単に…。
この戦力…驚異だ。だが…この力…)
ロクヤンは斬りかかる。
惜しげなく大技を繰り出していく。
ロクヤン(食らえ!!華美六連撃!!!)
舞いながら剣を振るロクヤン。
だが、ラグアに当たらない。
刃の軌道を見切られて、スルスルかわされる。
ロクヤン(なんの!!!こいつでどうだっ!!)
巨撃大送。
六角武術の真髄を体得した者だけが使える。
六角の働きが生む力のすべて。
それを一撃に込める勝負の技。
破壊刃来迎の効果もあり、その威力は絶大。
ロクヤン「!!!!?」
だが、その攻撃もかわされた。
いとも簡単に。
ラグア(分かったぞ。この動きは六角武術か。
一昨日襲われたときより強くなっている。
これには何か秘密がある。
彼の体からわずかに感じる。
…秘力を!これだ…!
これこそが彼の今の強さの秘密なんだ)
ラグアが反撃する。
三連剣撃を打ち込んでいく。
ロクヤンは剣で受ける。
ゴキン、ゴキンと大きな音を立てて。
ロクヤン(なんて攻撃だ!!
こんなに重くて速い攻撃は…
受けたことがねえ!!!
一隊員同士の訓練でも!!!
だが!!今のオレなら…!!!)
ラグアはさらに三連剣撃を繰り出す。
その圧倒的な威力を前に後退し続けるロクヤン。
だが、彼は決して戦意を失わない。
ロクヤン「クソ!!クソォオオオ!!」
ラグア(六角武術はノイ地方発祥の武術だ。
どんなものかは知らないが、
秘術を使った奥義があると聞く。
それを使ったのか。
それで力が増しているのか。だが…)
ラグアの剣撃が当たる。
ギン、と大きな音を立てて、ロクヤンの装甲に。
その衝撃でロクヤンはよろめいた。
すぐに体勢を立て直すが、反撃できない。
ロクヤン「クソォゥ!!!」
ラグア(もう肉体の限界が来ている。
僕には分かるんだ。
無理な力を出し過ぎたんだ。
お前はもうズタズタなんだ。
全身の筋肉が裂け始め、
いたるところの骨が折れかけているんだ。
その動きを見れば一目瞭然なんだ)
ロクヤンの膝がガクガクと震え始める。
その震えは、恐怖から来るものではない。
破壊刃来迎の反動だった。
すでに彼の肉体は壊れかけていた。
やりきれない思いからロクヤンの目に涙が浮かぶ。
ロクヤン(クソ!最終奥義でも倒せねえのか!!
これだけ強くなっても…
こいつを倒せねえのか!!!
畜生!!畜生!!!)
ラグア「おい、お前!!
今回は逃さないぞ!!許さないぞ!!!」
ロクヤン「…!!」
ラグア「最後まで戦ってもらうぞ。
僕は怒ってるんだぞ。
大事な仲間を斬られて、
僕は本当に怒ってるんだぞ!!
本当に!本当に!!怒っているんだぞ!!!
お前は怒らせたんだぞ!!王様になる男を!!
大陸を統一する男を!!怒らせたんだぞ!!」
ロクヤン「…クソォ!!」
ラグアはロクヤンに近寄る。
剣を振り上げ、技を繰り出そうとする。
ロクヤンの体はもう動かない。
握力がなくなり、六刃大剣は彼の手から落ちた。
もはや立っているだけで精一杯。
ロクヤン(やべえぞ…!こいつは!やべえぞ!!
とんでもねえ!!とんでもねえ化け物だ…!
オンダク…!ガシマ…!エオクシィ…!!
お前らでも…正直言って…
勝てるか分からねえ…!
お前らぁ…気をつけろ!気をつけろよぉ!!)
そして、放たれる。
ラグアの大技、王攻剣が。
◆ カルスの上 ◆
エミカは目を覚ます。
体を起こし、アヅミナの方を見る。
アヅミナはじっと前を見ながら言う。
アヅミナ「日の出までまだ時間がある。
まだ眠ってていいよ。
交替するときは起こすから」
エミカは小さく首を横に振る。
エミカ「…違うんだ」
アヅミナ「………」
エミカ「その魔波で…目が覚めて…」
アヅミナの指先には小さな暗球。
アヅミナ「ああ…これ…」
エミカ「なんだか…不安になって…」
アヅミナ「少し…分かってきた」
エミカ「………」
アヅミナ「この論文、よく書けてる。
ところどころ言葉の扱い方が乱暴だけど」
エミカ「!!その暗球…もしかして…!」
その小さな暗球は弱い熱を帯びていた。
アヅミナ「まだまだ実戦じゃ使えない。
でも、これを大きく、熱くしていけば…」
エミカ(暗球と火術を…合わせた…?もう…?
アヅミナさんには…もうやり方が分かった…?)
アヅミナ「ごめんね」
エミカ「………」
暗球を消すアヅミナ。
アヅミナ「あなたの…
大切な仲間の命を奪った魔術だもんね」
エミカ「………」
アヅミナ「それに…
あたしの仲間の命を奪った魔術でもある」
エミカ「………」
アヅミナ「今、ここで誓わせて」
エミカ「………」
アヅミナ「この魔術は、平和のために使う」
エミカ「平和…」
アヅミナ「今度はこの魔術をあたしが使う。
ラグアとロニと古代獣を倒すために。
だから心配しないで。不安にならなくていい」
エミカ「…分かった」
エミカは再び横になり、眠りに就く。
アヅミナはカルスの操縦を続ける。
リネの論文の続きを読みながら。
◆ ノイ地方 旧マクタ国領土 ハニカ町 ◆
ラグアは生き残った護衛たちに言った。
ラグア「燃やしてどこかに埋めといてくれ」
護衛たち「はい!!!」
護衛たちは運ぶ。
ズタズタに斬り裂かれたロクヤンの体を。
4人の側近は拍手した。
カヌタカ「おめでとうございます。
大前隊第一隊の戦士も…残るは3人ですな」
ラグア「ああ。
向こうからぞろぞろ来てくれて助かったよ」
カヌタカ「まったくもって見事な剣術、魔術」
ラグア「カヌ爺、よしてくれよ」
カヌタカ「ですが…さっきの者は…」
ラグア「ああ。彼は使い物にならないからな。
潰した。秘術でボロボロになってたし。
戦力の補強は順調か?」
カヌタカ「ええ、それはもう順調でございます」
ラグア「いいだろう。
整い次第、巨方庭に乗り込むぞ!」
側近たち「はい!!!」
ラグアはほほえみ、歩き出す。
ふと思い出すのは、ロニの言葉。
ラグア(ラッセイムスラが目覚めれば…
魔真体はいらない…か。
そんなことはない…。
そんなことはないんだ。溺れるな…!
自分の力に溺れるなよ…!ロニ!!)
◇ ラグアはレベルが上がった。(レベル33→34)
◇◇ ステータス ◇◇
◇ ラグア ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4738/4974
◇ 攻撃
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
60★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
50★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 秘力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 古代王の剣、破壊の矛、
安定の玉、古代王の鎧
◇ 技 二連剣撃、三連剣撃、王攻剣、放光剣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、王火
雷弾、雷球、雷砲、王雷
岩弾、岩球、岩砲、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 秘術 白剣




