第234話 秘薬
ノイ民総会。
それは、年に4回、ノイ地方で開かれる。
ノイ民が繁栄していくため、何をすべきか。
各地区の代表者が集まり、話し合う。
◆ ノイ地方 ハニカ町 大講堂 ◆
多くの人が暮らす町。
その中心地から少し外れた緑豊かな場所。
そこにノイ民総会の会場、大講堂が建っている。
今回も各地区から代表者が集まって開会。
多くのノイ民が幸せになるため、何をすべきか。
総勢336人の代表者たちが真剣に話し合った。
総会の最後に彼らは要望する。
代表者A「軍事力を強化せよ」
代表者B「地場産業を活性化させてください」
代表者C「新たに学校を建ててくれませんか」
代表者D「福祉を充実させるようお願いします」
寄せられる数多くの要望。
要望を聞くのはノイ民の新たな王となる者。
彼は椅子に座り、静かに聞いていた。
ラグア「………」
代表者たち「………」
要望は出尽くした。
ラグアはおもむろに立ち上がり、答える。
ラグア「分かりました。全部やりましょう」
その回答に会場は盛り上がる。
代表者たち「うおおおおー!!!!」
ノイ民総会は閉会となった。
会場を出る参加者たち。
外は静かで真っ暗。
ノイ民総会はラグアの都合で夜に始まった。
そして、日付が変わった頃。
ようやく終わったのだった。
4人の側近がラグアのすぐ後ろを歩く。
その周りを24人の護衛が囲んで歩く。
側近の1人が歩きながらラグアに聞く。
側近「本当にやるんですか?」
その側近はラグアの頭脳ともいえる存在。
賢老者カヌタカ。
彼は政治、経済、地理、歴史に精通している。
もう80歳だが、記憶力も思考力も健在。
ラグアは素っ気なく答える。
ラグア「何もやらないよ」
カヌタカ「………」
ラグア「魔真体が目覚めれば、全部終わるから」
カヌタカ「それはごもっとも…」
ラグアは前方に人々の姿を見つける。
彼らは報道機関の記者たち。
陰に身を潜め、ラグアたちの様子を伺っている。
ラグアの護衛「邪魔だ!!帰れ!!」
先頭を歩いていた護衛が追い払おうとする。
そのときだった。
ラグア「どいてくれ。取材対応は僕がやる」
護衛たち「………」
道を開ける護衛たち。
記者たちの前に出ていくラグア。
ラグア「………」
記者A「どんな話し合いになったんですか?」
ラグア「………」
記者B「地区代表からの質問は?要望は?」
ラグア「………」
記者C「今回の総会で…
民の生活はどう変わると思いますか?」
ラグア「………」
記者たちは一生懸命。
ノイ民総会は完全非公開。
会場で何が話されたのか。
記事を書くためには参加者から聞くしかない。
記者D「ちょっと…」
ラグア「………」
記者E「何か答えてください」
ラグア「………」
記者F「軍事力の強化も噂されています。
何か具体的な計画などあるんでしょうか?」
ラグア「………」
記者たちからの問い。
ラグアはそれに返す。
彼が記者たちに返したもの。
それは、言葉ではなく、斬撃。
記者たち「ぐあああー!!!!!」
古代王の剣で斬って、斬って、斬りまくる。
軽やかに、しなやかに、力強く。
大木の枝にいた鳥たちが飛び去った。
バサバサと音を立てて。
すべての記者を斬り捨てて、静寂に包まれる。
ラグア「燃やしてどこかに埋めといてくれ」
護衛たち「はい!!!」
静かになった記者たちを運んでいく護衛たち。
カヌタカ「素晴らしい」
ラグア「政府の内通者がいるかもしれないから」
再び歩き出してラグアは言う。
ラグア「僕たちは問題を抱えている。
50年来の問題だ。
ノイ民総会と政府。二重統治の問題だ。
ノイ民はずっと不安定な立場に置かれている」
カヌタカ「はい」
ラグア「二重統治は解消しなければならない。
そのためにはまずノイ府を取り込むべきだ。
そうだろ?カヌ爺」
カヌタカ「まったく同意見でございます」
ラグア「今の長官は物分かりのいい男のようだ。
…名前はなんだっけ?」
カヌタカ「マシジマ」
ラグア「そうだ、マシジマ」
カヌタカ「あの男は政府の中でも屈指の切れ者。
だが、少しばかり切れ味がよすぎたようですな。
上官の受けが悪く、ノイ地方に飛ばされた。
彼を取り込み、ノイ府を骨抜きにすれば…」
ラグア「それはやらないことにした」
カヌタカ「…はい?」
ラグアはため息をついた。
ラグア「ノイ府を取り込むことは、やらない」
カヌタカ「………」
ラグア「魔真体が目覚めれば、全部終わるから」
カヌタカ「それはごもっとも…」
町の中心部へ向かうラグアたち。
そんな彼らを林の中から見つめる1人の男。
息を潜め、気配を殺して、じっと見つめる。
彼の名は、ロクヤン。
彼はただ1人生き残っていた。
ラグアとロニの討伐に向かった第一隊員の中で。
ロクヤン(ラグア…許さん!)
ラグアを見つけ出し、襲撃したのは2日前の夜。
スゲチ、ミチマサ、ヒデイシャとともに戦った。
事前に用意した作戦で。
4対1。
彼らは勝利を確信していた。
だが、ラグアの力は彼らの予想の遥か上。
何度深傷を負わせても再生魔術で瞬時に治す。
ロクヤンたちの攻撃がわずかに緩んだ瞬間。
ラグアは動く。
猛烈な反撃が始まった。
王火、王岩、そして、三連剣撃に王攻剣。
1人、2人、3人とラグアの前に崩れ落ちる。
焼かれ、潰され、斬り刻まれて。
あと1人。
ラグアは剣を構え、ロクヤンをまっすぐ見る。
そのとき、ロクヤンは確信した。
今のままでは勝てないと。
彼は逃げた。
駆けて、駆けて、ラグアの前から姿を消した。
行き着いたのは、隣の村。
小さな、小さな、静かな村。
なんという名の村なのか。
それすら知らず、また、知ろうともしなかった。
古い宿屋に逃げ込んで、小さな部屋で1人泣く。
泣いて、泣いて、乱れた心を落ち着ける。
悔しさ、悲しさが薄まって怒りが強くなったとき。
彼は決意した。
今こそ使おうと。
彼が長年秘めていた、とっておきの技を。
◆◆ 4年前 ◆◆
その年、ロクヤンは一隊に昇格した。
30歳で彼は晴れて一隊員となった。
活躍を期待する者もいれば、不安視する者もいた。
なぜ不安視されたのか。
彼は六角武術会の出身だったから。
六角武術会。
言わずと知れた武術家の一門。
都の中心地から少し離れた小高い山。
その頂上付近に総本部の施設が建っている。
ロクヤンは久しぶりにそこを訪れた。
自身の一隊昇格を報告するために。
彼の師匠が出迎える。
師匠の名はロクマル。
彼は今、六角武術会の5代目代表だった。
ロクマル「よくやった。
六角武術会、久しぶりの一隊員だ。
さあ、弟子たちも待っている。
こっちに来なさい」
ロクヤン「はい!!」
師匠とともに広い道場へ。
3人の弟子たちが床の上で座って待っていた。
ロクヤン「………」
道場を見回すロクヤン。
清掃は行き届いている。
だが、壁や床の損傷は長年放置されていた。
弟子たちの前に立つ。
ロクマルに促され、ロクヤンは昇格を報告。
感想を簡潔に話し、今後の抱負を述べる。
それから、力強い言葉で弟子たちを激励した。
拍手するロクマル。
3人の弟子たちもそれにならう。
ロクマル「本当によくやった。
ますますの活躍を期待する。
六角武術会の素晴らしさを知らしめてくれ」
ロクヤン「はい!!」
ロクマル「昔は同時期に4人いたこともあった。
一隊に、六角武術会の出身者が。
だが、今では…。
ロクヤン、お前は我々の希望の星だ」
ロクヤン「はい!!」
ロクマルの顔は疲れ切っていた。
武術会の経営難に身も心も消耗している様子。
そのとき、ロクヤンはふと思い出す。
さらに8年前の出来事を。
◆◆ 12年前 ◆◆
◆ 六角武術会 総本部 ◆
ロクヤンが大前隊第三隊への入隊を決めた年。
ロクヤンの免許皆伝が行われた。
ロクマルに呼び出され、ロクヤンは道場へ。
2人で向かい合う。
広い道場の真ん中で。
ロクマル「入会する者が減ってきている」
ロクヤン「はい」
ロクマル「4代目も頭を抱えている」
ロクヤン「はい」
ロクマル「お前もよく知っているだろう。
六角武術会の戦い方は体にかかる負荷が大きい。
戦士としてこれからというときに体を壊し、
まともに戦えなくなり、第一線を退く者が多い。
これに世間が気づき始めた」
ロクヤン「はい」
ロクマル「だが、お前は強い。大丈夫だ。
期待を込めて、この最終奥義を伝授する」
ロクヤン「はい」
ロクマル「これを使えば眠っていた力が覚醒し、
限界を超えて戦える。どんな強敵も倒せる」
ロクヤン「どんな強敵も…!?」
ロクマル「ああ。
だがな、世の中そんなにうまい話はない」
ロクヤン「はい」
ロクマル「この奥義を使ったときの代償は大きい」
ロクヤン「はい」
ロクマル「もう2度と戦えなくなるかもしれない。
もう2度と歩けなくなるかもしれない。
場合によっては命を失ってしまうかもしれない。
それでも、お前にこの奥義を伝授する。
いつか必要になるときが来るかもしれないから」
ロクヤン「…はい!!」
そして、ロクヤンに最終奥義を伝授した。
◆◆ 2日前 夜 ◆◆
日付が変わるとき。
ロクヤンは宿の部屋の窓から合離蝶を放つ。
1通の手紙を結びつけて。
彼がその手紙に書き記したのは、3行の文章。
1行目に自身の生存と居場所を知らせる文章。
2行目に3人の一隊員の戦死を伝える文章。
そして、3行目。
明日で大前隊を辞める意思を示した文章。
合離蝶が飛んでいくのを見届ける。
それから、ロクヤンは眠りに就く。
最終奥義でラグアを倒す。
そう心に決めて。
◆◆ 昨朝 ◆◆
ロクヤンは1人、宿屋の部屋で武器を構える。
愛用の武器、六刃大剣を手にして。
目を閉じ、自身の体に意識を集中させる。
六角武術の真髄を再確認しながら。
ロクヤン(六角武術。
それは六角の働きを重視した武術。
六角。それは体の動きを司る重要な6つの角。
これを常に意識し、攻めて、守ること。
これこそが真髄。
第一角…首。第二角…右肘。第三角…右膝。
第四角…左膝。第五角…左肘。
そして、第六角は…)
六刃大剣を激しく振り回す。
最後はピタリととめる。
真下に刃先を向けた状態で。
ロクヤン「大地にあり!!!!!!!!」
その大声で隣の部屋の宿泊客が飛び起きた。
ロクヤンは最終奥義の準備に取りかかる。
成功させるには入念な準備が必要だった。
6秒かけて息を吸い、6秒かけて息を吐く。
特殊な呼吸法。
これを666回。
次に、水を飲む。
特殊な水分補給法で。
水を湯呑みになみなみと注ぐ。
66秒かけてちびちび飲む。
この呼吸法と水分補給法を繰り返すこと6回。
気分が落ち着いてくる。
すべての雑念が取り払われる。
ロクヤン「………」
そこで、最後の仕上げが待っている。
ロクヤンは小瓶を手にする。
それは、免許皆伝の日に渡されたもの。
その小瓶には赤い液体が入っている。
液体の名前は「赤の秘薬」。
ロクヤンは栓を抜き、一気に飲み干した。
ロクヤン「ふぃー!!!」
そして、湯に浸かり、身を清め、眠りに就く。
深い、深い、深い眠りに。
昨夜も泊まった宿屋の部屋で。
結局、彼はその日1歩も外へ出なかった。
目が覚めたとき、彼の肉体は覚醒していた。
六角武術会の最終奥義、破壊刃来迎が完成した。
ロクヤン「なんだ!!?体が…軽い!!
力が…満ちあふれてくる!!!?」
◆◆ 現在 ◆◆
ロクヤンは林の中から飛び出した。
夜の闇の中、ラグアと護衛に襲いかかる。
ロクヤン「アーシャシャシャラァアア!!!!」
ラグア「…!!?」
ラグアを守る護衛たち。
ロクヤンはバッサバッサと斬っていく。
1人、また、1人。
護衛たち「うあああ!!!」
ニヤリと笑うロクヤン。
ロクヤン(やれる!!これなら!!行ける!!!
ラグア!!!貴様の首はこのオレが獲る!!!!
今のオレは誰にも負けねえ!!
一隊の誰にも負けねえ!!
ガシマも!!オンダクも!!エオクシも!!!
今のオレには勝てやしねえええ!!!)
ラグア(こいつ…。強いな…)
◇◇ ステータス ◇◇
◇ ロクヤン(破壊刃来迎状態) ◇
◇ レベル 35
◇ HP 4554/4554
◇ 攻撃
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 魔力 1★
◇ 装備 六刃大剣、完防六甲
◇ 技 華美六連撃、巨撃大送、破壊刃来迎
◇ 魔術




