第231話 十分
料理が次々と運ばれる。
盆が、皿が、大きな卓を埋め尽くす。
隊員たちは飯をかきこむ。
それから、汁を飲み、肉にかじりつく。
脇目も振らず出された料理を平らげた。
エオクシ「ふぅー!!!食ったなぁ!!」
隊員たち「ごちそうさまでした!!」
若女将が代金を告げる。
エオクシは金を出そうとする。
エオクシ「!!!!?」
隊員たち「……?」
金はまったく足りていなかった。
若女将「ああら……」
エオクシ「…ふぅ…」
隊員たち「………」
しょげる若女将。
そのときだった。
アヅミナが現れた。
アヅミナ「…どうかしたの?」
エオクシがアヅミナに駆け寄り、頼み込む。
エオクシ「アヅミナ!!いいところに来た!!」
アヅミナ「…何?」
エオクシ「貸してくれ!!金だ!!」
アヅミナ「…どうして?」
エオクシが事情を話す。
アヅミナは渋々金を出す。
シノ姫から報酬として受け取った金を。
アヅミナ「………」
エオクシ「いやぁ!!悪い!!返す!
帰ったらすぐに返す!」
若女将「足りてませんけど…」
エオクシ&アヅミナ「………」
アヅミナはさらに手持ちの金も出す。
それでようやく支払いを終える。
エオクシ「いやぁ…ははは…!!」
アヅミナ「………」
隊員たちは気まずそうにその場から去っていく。
訓練場へ戻っていった。
エオクシとアヅミナも店を出る。
エオクシ「すまなかったな!助かったぜ!
ありがとよ!!」
アヅミナ「………」
エオクシ「…にしても、
なんでこの店が分かった?」
アヅミナ「訓練場の管理人から聞いた。
またあのお店じゃないかって…」
エオクシ「ああ、そうか!!」
アヅミナ「………」
それからは無言。
2人で大通りを歩いた。
官舎の前で立ち止まる。
アヅミナ「今夜…日付が変わる頃…」
エオクシ「…ん?」
アヅミナ「来いだって…。シノ姫が」
エオクシ「今度はなんだろうな?」
アヅミナ「任務かも…」
エオクシ「…そうか!」
エオクシの目に力が入る。
そんな彼の顔を見てアヅミナはほほえんだ。
エオクシ「…どうした?」
アヅミナ「お金…早く返して…」
エオクシ「あ…ああ!今持ってくる!待ってろ!!」
◆◆ 現在 ◆◆
◆ 大君の城 ◆
階段を駆け上がるエオクシとアヅミナ。
最上階に到着する。
シノ姫の間の前に立つ。
もう間もなく日付が変わる。
夜の静寂に2人の声が響く。
エオクシ「エオクシ、参上しました」
アヅミナ「アヅミナ、参上しました」
返答はない。
エオクシ&アヅミナ「………」
アヅミナは感知していた。
城に入った、その瞬間から。
アヅミナ(…いる。魔術師が。シノ姫の間に…。
この強さ…並の魔術師じゃない。
だけど…この魔力の感じ…いない。
魔術院で…思い当たる術師はいない…。
それにしても…この魔力って…)
エオクシは感じとる。
布の向こう側に。
戦士の気配を。
エオクシ(…いる。誰か…戦士がいる。隊員か?
いや…そうじゃねえ。なんとなくだが分かる。
こいつはそういう感じの雰囲気じゃねえ。
なら…誰だ?シノ姫が大前隊以外の戦士と…)
◆ シノ姫の間 ◆
アルジとエミカはじっと見ていた。
声が聞こえてきた方向を。
出入口に垂れ下がった布を。
アルジ(さっき…エオクシって言ったよな)
エミカ(アヅミナ…
あのとき…カルスで飛んできた…?)
シノ姫は小さな声で命じた。
シノ姫「入って…」
入ってくる。
エオクシとアヅミナが、シノ姫の間に。
アルジとエミカは現れた2人の姿を見る。
エオクシとアヅミナも2人の姿を見る。
エオクシ「おめえは…あんときの…」
アルジ「…エオ…クシ…」
シノ姫「あら…知り合いだったの…?」
アルジの方へ歩いていくエオクシ。
だが、すぐにピタリと足を止める。
アルジの剣の間合い。
それに入る直前で彼は立ち止まった。
そして、アルジの姿をじっと見て言う。
エオクシ「いや…おめえは…」
アルジ「………」
エオクシ「本当に…あんときの…おめえか…?」
アルジはエオクシの目をまっすぐ見て応じる。
アルジ「………………ろよ…」
エオクシ「…あ?」
エミカは不安そうな顔。
エミカ(アルジ…。一体…何を…?)
アルジは強い口調でエオクシに言った。
アルジ「あのときと…」
エオクシ「………」
アルジ「あのときと同じだと思うんなら…
試してみろよ…!」
エオクシ「!!」
その瞬間、エオクシは剣を振り下ろす。
壮刃剣を、縦に、強く、速く。
アルジの頭を狙って。
アルジ「!!」
だが、その攻撃は当たらない。
アルジは素早く体をひねってかわした。
エオクシ(!!!避けた!!オレの全力を!!)
アルジ(今度はオレの番だ!!!!)
勇気の剣を横に振り抜く。
エオクシの頭を狙って。
エオクシ「!!!」
エオクシは素早く身をかがめる。
アルジの朔月斬りはかわされた。
アルジ「……!」
エオクシ「…チッ…!」
シノ姫「おやめなさい!!」
アルジとエオクシは剣を下ろす。
シノ姫の方を向く。
シノ姫「いきなり斬り合いとは何事ですか!
ケガでもしたらどうするんですか!」
アルジ&エオクシ「………」
シノ姫「…ふぅ…」
それから、シノ姫は笑う。
シノ姫「ふっ…ふふふ…」
アルジ「……?」
エオクシ「…シノ姫…様?」
シノ姫(まさかね…。いきなり斬り合うなんて…。
もしも…もしも、最後まで戦っていたら…
勝ったのは…生き残ったのは…どっち…?)
エミカはアルジのそばへ行く。
小さな声で非難した。
エミカ「…バカ…!どうするんだ…!
あんなことをして…!」
アルジ「………」
エミカ「死んだらどうするんだ…!」
アルジはうっすら笑う。
アルジ「やっぱり強かった…!」
エミカ「……!」
アルジ「やっぱり…!
あいつの攻撃は…桁違いだった…!
オレも強くなったつもりだった…!
だけど…強かった…!
それでも…あいつは!やっぱり強かった…!」
エミカ「アルジ…」
エオクシ「こいつ…!!」
アヅミナはエミカをじっと見ていた。
シノ姫の間に入ったときから。
エオクシが剣を振り下ろしたときも。
アルジが剣を横に振り抜いたときも。
エミカはそんな彼女の視線に気づく。
エミカ「……?」
アヅミナ「………」
エミカ「アヅミナさん…ですよね?」
アヅミナ「…そっか」
アヅミナは大まかな分析と考察を終える。
エミカの魔力について。
アヅミナ「火術、氷術、雷術、岩術、
そして、光術。5つの魔術を高威力で使える。
これは驚くべきこと」
エミカ「………」
アヅミナ「でも…
その魔術の大半はあなたのものじゃない。
…そうでしょ?」
エミカ「…!!」
アヅミナ「あなたはもともと火術使い。
ほかの魔術は…全部人から受け継いだもの。
そうでしょ?」
エミカ「…はい」
アヅミナ「分かる。分かるよ。揺れてるから。
魔力がぐらぐらと…不安定に揺れてるから。
未熟な者には感じ取れないでしょうけど」
エミカ「………」
アヅミナ「その杖、天界石の杖でしょ」
エミカ「…はい」
アヅミナ「見てきた。
あたしはそういう人を何人も。
魔術院にもいたから。そういう人」
エミカ「………」
アヅミナ「本当は自分の力じゃないのに…
さも自分の力であるかのように振る舞って…
強がって…そういう人をあたしは見てきた」
エミカ「………」
アヅミナ「3人…いいえ…5人…。
あなたの魔力には5人分の力を感じる。違う?」
エミカ(!!当たりだ…。リネさん、ミリ、
それから…リネさんのご両親と私。…5人。
この人…会っただけで…ここまで…!)
アヅミナ「当たり…だよね?」
エミカ「…はい」
短い沈黙のあと、アヅミナははっきりと言った。
アヅミナ「認めない」
エミカ「…え?」
アヅミナ「あたしはそういう力を…認めない。
そういう力は…所詮長続きしないから。
いずれ崩壊する運命だから。
受け継いだのが1人だけならまだ分かる。
だけど、4人でしょ?無理だよ。
長続きしない。いずれ崩壊する。
あなたの魔力はバラバラになって崩壊する。
1年…いいえ!半年!もしかすると1ヶ月!
それぐらいしか持たないかもしれない!!
崩壊すれば、ほとんどの魔術をあなたは失う!
自分自身の魔力さえほとんど失うこともある!
そういう例をあたしは見てきた!!
そういう人たちは、みんな辞めていった!!
魔術院を!!辞めていった!!みんな!!
そんなのは実力じゃない!!
あたしは認めない!!絶対に認めない!!!!」
エミカ「…!!」
アルジ&エオクシ「………」
シノ姫「あらあら…」
シノ姫は笑って見ていた。
シノ姫(…どうしたの?アヅミナ…どうしたの?
なかったじゃない。今までなかったじゃない…。
そんなに感情をむき出しにするなんて…。
どうしたの…?)
アヅミナ「…あれ…」
我に返るアヅミナ。
ばつが悪そうに口元を手で覆い隠す。
シノ姫(…アヅミナ。あなたは…初めて恐れた。
目の前の魔術師が…
自分よりも優れているかもしれない。
初めて…心の底から…そう思ってしまった…。
だから…どうにかして…否定したかった…。
一生懸命分析して…否定する材料を探した…。
相手の方が優れているかもしれない…
自分の方が劣っているかもしれない…
その気持ちを…どうにかして封じたかった…。
だから…つい、あんな言葉を口にした。
そうでしょ…?あのときは…
光術三姉妹のときは平然としていたのにね…)
アヅミナは笑顔を作って、エミカに謝る。
アヅミナ「ごめんなさい。つい…言い過ぎて…」
エミカ「………」
ぎこちない笑顔で問いかける。
アヅミナ「お名前は?なんて言うの?」
エミカ「エミカ…です」
アヅミナ「あたしは魔術院のアヅミナ。
よろしく。そっか、エミカ…エミカちゃん…。
いい名前…」
エミカ「………」
アヅミナ「…あなたは?そっちのあなたは?」
アルジは答える。
アルジ「オレはアルジ。ナキ村のアルジだ」
アヅミナ「そっか、アルジ君。よろしく」
アルジ「ああ、よろしくな」
エオクシ(アルジっていうのか…)
エミカはアヅミナに向かっていく。
エミカ「アヅミナさん」
アヅミナ「…何…?」
エミカ「気を遣わないでください」
アヅミナ「…?」
エミカ「さっきのあなたが…
本当のあなた…ですよね?」
アヅミナ「え?…えっと…」
エミカは続けた。
どこか悲しげな笑みを浮かべて。
エミカ「十分です」
アヅミナ「…何が?」
エミカ「私は…十分なんです」
アヅミナ「…?」
エミカ「1ヶ月…」
アヅミナ「………」
エミカ「この魔力が1ヶ月も続いてくれるなら…
私はそれで…十分です」
アヅミナ「え…」
エミカ「1ヶ月で…魔真体を阻止して…
ロニも…ラグアも…倒せばいいだけですから」
アヅミナ「!!!」
アルジ「ははは…」
エオクシ「はっ!!言ってくれんじゃねえか…!」
シノ姫は小さく手を叩く。
アルジたちは彼女に目を向けた。
シノ姫「自己紹介は終わったみたいね…」
アルジ&エミカ&エオクシ&アヅミナ「………」
シノ姫「もう分かっているだろうけど、
改めて伝えますね。
あなたたちをここに集めたのは、
ある目的を果たすため。
目的とは…ラグア、ロニを倒し、
魔真体を阻止すること。
あなたたちには、力を合わせて
この目的を達成してほしい。
だから、今日、ここへ呼んだ。
ここに集まってもらった」
アルジ&エミカ&エオクシ&アヅミナ「………」
シノ姫「これから、あなたたちに…
ある情報を伝えます。
今日、手に入った情報を。
ラグア、ロニに関する情報を。
その情報を役立てて、
目的達成のため動いてほしい」
アルジ、エミカ、エオクシ、アヅミナ。
4人の顔を順に見て、シノ姫は思う。
シノ姫(いい顔…。エオクシ、アヅミナ、
あなたたちも…急にいい顔になったじゃない。
そう…あなたたちは慢心していた。
どこか…驕っているところがあった。
自分より強い者なんていない。それが当たり前。
仲間は足手まとい。自分たちが守らなきゃ。
そう思って、これまで戦ってきた。
だけど…どう?自分よりも強いかもしれない。
自分よりも…もしかすると…
優れているかもしれない。
あなたたちは…そう思わせる存在に出会った。
今日…この場所で…。…もっと強くなる。
あなたたち4人は…高め合って…
さらに…さらに…強くなれる。
そして、倒して…敵を。
救って…この大陸を)
◇ エオクシが仲間になった。
◇ アヅミナが仲間になった。
◇ エオクシはレベルが上がった。(レベル37→38)
◇ アヅミナはレベルが上がった。(レベル35→36)
シノ姫から新たな情報が伝えられる。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 31
◇ HP 3753/3753
◇ 攻撃
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り、
雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 2415/2415
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 38
◇ HP 3692/4027
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 36
◇ HP 404/460
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 魔力
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 10