第230話 注文
◆◆ 3日前 夜 ◆◆
◆ 大君の城 ◆
エオクシたちが巨方庭から都に帰った夜。
シノ姫に会い、サヤノを引き渡したあとのこと。
城から出てきたエオクシとアヅミナ。
歩みを止めて2人は言葉を交わす。
アヅミナ「あたしたちには力がいる。
もっと、もっと強い力。
もっと強い…仲間がいる」
エオクシ「強い仲間…?誰だ?
ガシマか?オンダクか?」
アヅミナ「足りない。
悪いけど、彼らの力じゃ足りない」
エオクシ「じゃあ誰だ?魔術院にいんのか?」
アヅミナ「………」
エオクシ「…いねえだろ」
アヅミナ「…だけど、必要。
巨方庭を攻略するためには。
少なくとも…あたしたちと同じくらい戦える…
そういう仲間が…いてくれないと…」
エオクシは首を振り、歩き出す。
アヅミナは彼の後ろについていく。
歩きながらエオクシはボソリと言った。
エオクシ「…いねえだろ。そんなのは…」
城門をくぐり抜けたあと。
アヅミナはエオクシに言った。
アヅミナ「何かあるんだと思う」
エオクシ「………」
アヅミナ「シノ姫には何か考えがある」
エオクシ「どうだろな…」
◆◆ 2日前 朝 ◆◆
◆ シノ姫の間 ◆
一夜明けてエオクシとアヅミナは呼び出された。
垂れ下がった分厚い布。
その前に立つ2人。
奥の方から声が聞こえてくる。
シノ姫「…入って」
布をめくり上げ、中へ入る。
シノ姫が1人、奥で座っていた。
シノ姫「………」
エオクシ「…なんの御用でしょうか?」
シノ姫「………」
アヅミナ「…?」
2人の顔を見て深いため息をつくシノ姫。
シノ姫「呼んだだけ」
エオクシ「……は?」
シノ姫「…呼んだだけ」
エオクシ「それだけ…ですか?」
シノ姫「それだけ…」
アヅミナ「………」
シノ姫「…帰って」
エオクシ「…失礼します」
シノ姫「………」
アヅミナ「失礼します」
そのまま帰される。
大君の城を出てからエオクシはつぶやいた。
エオクシ「何やらされんのかと思ったが…
まさか…呼んだだけとはな…」
アヅミナ「心配してくれてるんじゃない。
あの人なりに」
エオクシ「…オレにはそうは見えねえな」
2人は城門をくぐり、帰っていく。
城の近くの新しい官舎へ。
エオクシ「じゃ」
アヅミナ「…それじゃ」
それぞれの部屋に入る。
エオクシもアヅミナも昨夜は眠れなかった。
2人とも帰るなり着替えて布団に入った。
◆◆ 2日前 夜 ◆◆
エオクシは官舎を出て都の大通りを歩く。
目指す場所は、大前隊の訓練場。
エオクシ(…夜まで寝ちまった。
なんか気分が晴れねえな。
モヤモヤするぜ!)
訓練場は真っ暗で中には誰もいない。
看守に無理を言って開けてもらう。
中に入り、早速、彼は剣を振る。
目の前に敵を思い浮かべて。
その敵の姿は、竜の守護兵。
剣を振って、斬っていく。
実体のない、その影を。
技を繰り出し、倒していく。
いくつも、いくつも。
◆◆ 1日前 朝 ◆◆
◆ 官舎 ◆
アヅミナが部屋から出る。
彼女が向かう先は学術院。
アヅミナ(…朝まで寝ちゃった。
探さなきゃ。少しでも見つけなきゃ。
巨方庭攻略の手がかりを)
◆ 学術院 ◆
資料室に入り、棚からいくつも資料を出す。
そのどれもが古代遺跡に関するもの。
閲覧室の机の上に積み上げた。
上から順に手に取って目を通していく。
◆ 大前隊の訓練場 ◆
エオクシは夜通し剣を振り続けていた。
足元がふらつき始める。
手と腕の感覚がなくなっていく。
それでも彼はやめない。
壮刃剣が音を立てて空を斬る。
そこへ二隊の隊員たちがやってきた。
隊員たち「………」
倒れそうになりながら剣を振るエオクシの姿。
隊員たちは無言で眺めていた。
エオクシが気づく。
エオクシ「…よう」
隊員たち「………」
隊員の1人が前に踏み出す。
隊員「エオクシさん。もしよかったら…」
訓練を見てもらいたい。
助言してもらいたい。
彼が頼もうとした、そのとき。
エオクシ「悪いが、今はそういう気分じゃねえ」
隊員たち「………」
エオクシ「…帰る」
隊員たち「………」
エオクシは訓練場をあとにした。
◆◆ 1日前 夕方 ◆◆
◆ 学術院 資料室 ◆
アヅミナは貸出窓口で資料を借りる。
巨方庭について多くの記述があった資料を。
全部で6冊。
それらはかなりの重さになった。
アヅミナ(ざっと読んだ限りでは、書いてない。
攻略に役立つような情報はどこにもない。
だけど、もう少し…詳しく調べてみよう)
官舎に戻ると、手紙が1通届いていた。
シノ姫からの手紙だった。
アヅミナ「………」
玄関戸の前で封を切り、中を見ようとした。
そのとき。
エオクシがやって来る。
エオクシ「今夜、来いだとよ」
アヅミナ「………」
エオクシ「オレのところにも届いてた」
アヅミナ「なんの用かな?」
エオクシ「さぁな」
◆◆ 1日前 夜 ◆◆
◆ シノ姫の間 ◆
奥から声が聞こえてくる。
シノ姫「…入って」
エオクシとアヅミナは部屋に入っていく。
シノ姫が奥に1人で座っている。
シノ姫「全部で3つ…伝えることがある」
エオクシ&アヅミナ「………」
シノ姫は長い間を置いて話し始める。
シノ姫「一隊の6人が消息不明になりました」
エオクシ「何…?」
シノ姫「戦って、負けたのでしょう」
エオクシ「…まさか…!」
アヅミナ「………」
シノ姫「ラグアとロニ。彼らは強かった。
思ったよりも。遥かに。
端的に言えば、そういうことです。
これが…1つ目」
エオクシ(本当に…あいつらがやられたのか!!?
いくらなんでも…早過ぎるだろ!!)
納得できない表情のエオクシ。
シノ姫「2つ目…
魔術院院長のミナヨニが死にました」
アヅミナ「…何があったんですか?」
シノ姫「彼女は大罪を犯しました。
大君の命を脅かしたのです」
アヅミナ「………」
シノ姫「なので…私がその場で彼女に施した」
アヅミナ(施した…秘術を使った…。
秘術で…院長を…殺したということ…)
シノ姫「さっき業院の院長から話があってね…。
後任の院長も副院長も決まっているそうです。
ですから、魔術院の体制に心配いりません…」
アヅミナ「………」
最後にシノ姫はほほえんで告げる。
シノ姫「最後に…3つ目です。
あなたたちへの報酬について…」
エオクシ&アヅミナ「………」
シノ姫「巨方庭での特別任務…本当にお疲れ様。
さあ、これを…」
彼女は背後から2つの袋を出す。
両手に1つずつ、つかんで、前に差し出した。
袋はそれぞれ握り拳ほどの大きさ。
中には金がぎっしり入っていた。
エオクシ「シノ姫様!!オレたちは…!」
シノ姫「辞退は認めません。
大君と相談して決めたのです。
あなたたちに…いくら出したらいいのか…。
だから…受け取って…。さあ…。
どうぞ…受け取りなさい…」
エオクシ&アヅミナ「………」
2人とも前へ出てシノ姫から報酬を受け取る。
シノ姫「お話は以上です。帰って…」
エオクシ「シノ姫様!!」
シノ姫「…何?」
エオクシ「任務を…!オレたちにも任務を…!
ラグアとロニ…あいつらを倒すために…!」
シノ姫「検討中です」
エオクシ「検討中だと…?」
シノ姫「…じきに結論が出ることでしょう。
…だから、もうしばらく待っていて」
エオクシ&アヅミナ「………」
エオクシとアヅミナは部屋から出ていく。
どこか力ない足取りで。
シノ姫は彼らのそんな姿を目を細めて見ていた。
シノ姫「………」
◆◆ 今朝 ◆◆
◆ 魔術院 ◆
アヅミナは1人で訪れる。
中へ入るなり彼女はいくつも視線を感じる。
四方八方から魔術師たちの視線を。
疑い、怒り、憎しみ。
そんな感情が込められた視線を。
巨方庭で光術三姉妹が死んだ。
そのことは院内に知れ渡っていた。
アヅミナ(見ないで…。そんな目で…見ないで)
正面玄関を抜け、まっすぐ進む。
見られている感覚はなくならない。
向けられる感情も。
アヅミナ(…院長が死んだもんね。
…三姉妹も死んだもんね。
そうだよね。疑ってるよね。怒ってるよね。
あたしが憎いよね。目障りだよね。
消えてほしいよね)
彼女が目指すのは中央管理室。
魔術院に所属する数多くの魔術師たち。
その情報管理などを担っている。
魔術師の任命、除名の手続もそこで行われる。
アヅミナ(でも、だからって…
そんな目であたしを見ないで。
みんな…みんなあたしより劣ってるくせに…)
廊下の角を曲がったとき。
アヅミナ「………」
シノ姫と側近たちが立っていた。
アヅミナの方をじっと見ている。
シノ姫「何する気…?」
アヅミナ「………」
シノ姫「辞める気…?魔術院を…」
アヅミナ「………」
シノ姫「あなたが辞める必要はない」
アヅミナ「………」
シノ姫「前院長が死んだことも…
光術三姉妹が死んだことも…
あなたが気にすることじゃない…」
アヅミナ「………」
シノ姫「今夜…日付が変わる頃…来てくれる?」
アヅミナ「………」
シノ姫「聞いてる?
今夜、必ず来てちょうだい。…いい?」
アヅミナ「…はい」
シノ姫「彼にも…伝えておいて…」
アヅミナ「…はい」
◆ 大前隊 訓練場 ◆
エオクシは剣を振っていた。
昨夜、シノ姫に会ったあと。
彼はその足で訓練場へ向かった。
そして、朝まで剣を振り続けていた。
疲れで集中力が途切れ始める。
エオクシ「…今日はこの辺にしとくか」
併設された入浴施設で湯に浸かる。
それから、訓練場に戻った。
武具の手入れをするために。
エオクシ「………」
隊員たち「えい!えい!はあ!!」
そこには熱心に訓練する隊員たちの姿。
エオクシは座り込み、彼らの姿を眺める。
隊員たちは声を上げ、隊列を組み、一斉に動く。
エオクシ「………」
休憩時間になり、隊員の1人がやって来る。
隊員「エオクシさん!」
エオクシ「…おう」
隊員「エオクシさん…?」
いつもの勢いがないエオクシ。
隊員は少し不安な顔になる。
エオクシ「飯…行くか…」
隊員「…え?」
エオクシ「昼飯、おごってやる」
隊員「いいんですか!?」
エオクシ「ああ」
隊員「ありがとうございます!」
エオクシ「なんでも食えよ」
隊員「はい!」
エオクシ「飯食って、力をつけねえとな」
隊員「はい!!!」
エオクシ「おめえら全員来い」
歓喜する隊員たち。
エオクシは強く握りしめる。
シノ姫から受け取った、金の入った袋を。
◆ 都 大通り ◆
隊員たちを引き連れてエオクシは歩く。
入ったのは、行きつけの高級料理店。
若女将「ああら、エオクシ様!!」
エオクシ「よう。部屋…あるか?」
若女将「ありますとも!!」
奥の広い部屋に通される。
美しい中庭がよく見える部屋に。
隊員たちは品書きを見て戸惑う。
何を注文して食べたらいいのか。
どの品も普段の食事代と桁違いだったために。
エオクシ「全部おごりだ。
心配すんな。なんでも食え」
隊員たち「………」
エオクシ「おい、早く決めろ。
金は全部オレが出す」
隊員たち「………」
顔を見合い、小声で相談する隊員たちもいた。
若女将が部屋にやってくる。
若女将「ご注文は?」
隊員たち「………」
エオクシ「おい、早くしろ」
隊員たち「………」
エオクシ「決めろ」
隊員「エオクシさんは…何を…」
エオクシ「なんでも食えっつってんだろ!!!」
隊員たち「!!!?」
若女将「…!!!」
ふと我に帰り、エオクシは笑う。
エオクシ「は…ははっ!!
何を遠慮してんだ!てめえら!
なんでも食えって言ってんだ!
頼め!!注文しろ!!オレも食うからよ!!」
エオクシは定食の最も高額なものを注文した。
それから、隊員たちが続く。
高額な品を次々と注文していく。
全員空腹だった。
結局、品書きのほとんどすべての料理を注文。
若女将「かしこまりました!」
隊員たち「うおー!食うぜ!!」
エオクシ(金…足りるよな…)
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3692/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術




