第229話 提案
◆ シノ姫の間 ◆
シノ姫は部屋の奥に静かに座る。
近くには4人の側近が立っていた。
アルジ(なんだ?この部屋は。
薄暗くて気味が悪いな)
エミカ(シノミワさんから魔力を感じる。
多分…私と同じ火術使い。
だけど…それだけじゃない。
何かある。魔術以外に。
この人の雰囲気には何か秘密がある)
シノ姫はアルジとエミカを称えた。
シノ姫「本当によくやってくれました。
オオトノラコアを倒してくれたこと、
コノマノヤタラズマを弱らせてくれたこと、
ガムヤラトラゾウ退治を手伝ってくれたこと、
その功績はどれもとても大きなもの…。
実に実にお見事です。大変よくできました。
そして、今、こうして実際にお会いできた。
私はひしひしと感じています。
あなた方の強さを。あなた方はとても強い。
とてもとても強い…。
これだけの戦果を上げるのも納得です」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫は3回手を叩く。
側近の1人が奥から箱を運んでくる。
黒く平たく四角い大きな箱を。
床に置き、鍵を外し、そっと開ける。
中にはぎっしりと金が入っていた。
アルジ&エミカ「!!」
シノ姫「これは私たちからのお礼です」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「どうぞ、差し上げます」
アルジとエミカは顔を見合う。
短い時間、目で対話。
2人の考えは一致。
アルジ「今は…全部はいい」
シノ姫「…どうして?」
アルジ「戦いは続くから」
シノ姫「………」
アルジ「今は…そうだな…
旅が続けられるだけの金があればいい。
飯とか宿に困らないだけの金があれば。
その分だけ…今もらいたい。
それでも、いいか?」
シノ姫「…残りは?」
アルジ「…預かっててほしい。
戦いが終わったら受け取りたい」
シノ姫「荷物になるものね…」
アルジ「ああ」
シノ姫が立ち上がる。
箱から金をがっしりとつかみ取る。
アルジに差し出す。
シノ姫「こんなもので…いい?」
アルジ「…ああ。ありがとう」
エミカ「ありがとうございます」
つかんだことのない大金。
受け取るアルジは緊張。
シノ姫は座っていた場所に戻る。
シノ姫「最初のご挨拶でもお伝えしましたが、
私は総合統合官。
政府の中では大君に次ぐ職位にいます」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「…そうは見えないかもしれないけど」
不敵に笑うシノ姫。
アルジとエミカは笑わない。
シノ姫「私が主に担っているのは平和維持」
アルジ「平和維持…」
シノ姫「はい、平和維持です。
災いや争いから民を守る。
すべての民が穏やかに暮らせるようにする。
それが私の総合統合官としての最大の使命」
エミカ「今回の古代獣の対策も…
シノミワさんが指揮していたのですか?」
シノ姫「私が中心となって対策しています。
現地へ大前隊を派遣したり、
大陸猟進会と連携したり。
懸賞金も私がかけました。
大君の承認をいただいて。
だから、あなた方にお渡しできるのです」
アルジ「大君の承認って…」
シノ姫「政府の最高権力者は大君です。
大君はまだ幼いですが、このことは変わらない。
十分に説明して分かってもらい、承認いただく。
政府が重要な選択や決定をするとき、必須です。
大君をないがしろにすることは許されません」
エミカ「ガシマさんとオンダクさんのことも…」
シノ姫「私が提案しました。大君に。
縁環島の化け物退治をやらせたらどうかと。
オオトノラコアを倒したあなた方と一緒に」
アルジ「きっかけはシノミワさんだったのか」
シノ姫「大君から承認をいただきました。
そして、大君は命じた。ガシマとオンダクに。
ガムヤラトラゾウを倒してくるようにと。
そのとき、あなた方のところにも行くようにと」
視線を床に落とすシノ姫。
シノ姫「状況はかなり厳しい」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「大前隊第一隊の隊員もあと4人だけ。
残っているのは…三頭の3人と…あと1人。
それ以外は残念ながら死んだようです」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫は視線を上げる。
シノ姫「…安定の玉を取り返す。
それがあなた方の旅の目的でしょ?」
アルジ「ああ。そうだ」
シノ姫「大陸猟進会の者から聞いていました。
村の宝を大遊説の3人に奪われたのだと。
そして、あなた方はまだ取り返していない」
アルジ「そうだ」
シノ姫「だから、戦いは続く」
アルジ「ああ…」
シノ姫「大君には…
私からそのように説明していました」
アルジ「そうか」
シノ姫「説明を聞いて大君はおっしゃいました。
ぜひあなたに大切な鎧を使ってもらいたいと。
それを聞いて私は驚きました。
ですが、今、こうして見ていると…
とてもよく似合っている。
あなたが着るべくして着ている。
そのように感じられます」
アルジ「ああ。ピッタリだ。オレも驚いてる」
シノ姫「どうぞ、活用してください。
あなたがそれを着て、戦い、活躍すれば、
大君もきっと喜ばれることでしょう」
アルジ「ありがたく…使わせてもらいます」
シノ姫「………」
少し目を細めてシノ姫は言う。
シノ姫「魔真体の復活は…
絶対に阻止しなければなりません。
阻止するため、政府も全力を尽くします。
お互いに…今後も頑張りましょうね…」
アルジ「ああ」
エミカ「………」
エミカは思い出した。
大陸猟進会のヤマタンの話を。
エミカ「阻止は…できたのではないのですか?」
シノ姫「………」
エミカ「ヤマタンさんから聞きました。
巨方庭という遺跡に特別部隊が向かったと…」
シノ姫「………」
エミカ「巨方庭は魔真体の起動装置がある場所で
それを破壊すれば…目覚めることはないと…。
魔真体が目覚めることはないのだと…」
シノ姫「………」
エミカ「星の秘宝が敵の手に渡っても…
ラグアとロニが3つ全部を手に入れても…
起動装置を破壊すれば…魔真体は目覚めない。
復活は阻止できる。そうではないのですか?」
シノ姫「失敗したの」
エミカ「え…」
アルジ「失敗…?」
悲しげな顔でシノ姫は言った。
シノ姫「失敗したの。起動装置の破壊は。
確かに特別部隊は巨方庭に行ったんだけど…
起動装置にたどり着くこともできなかった」
アルジ&エミカ「…!!」
シノ姫は小さなため息をついて話した。
シノ姫「特別部隊はみんな優れた人たち。
巨方庭の探索もいいところまで行ったみたい。
だけど、失敗しちゃったの。残念ながら。
難しかったみたいね。巨方庭を攻略するのは。
特別部隊をもってしても…」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「そういうこともあって、状況は厳しい」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「ところで、あなたたちは…
安定の玉を取り戻すため、次は何をするの?」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「どこか行くあてはあるの?」
アルジ「ラグアとロニを探すしかない」
シノ姫「どうやって?」
アルジ「…すぐには思い浮かばない」
シノ姫「………」
エミカ「あの…もしも…シノミワさんが…
2人の居場所を知っているなら…」
シノ姫はさえぎった。
シノ姫「それなら、私から提案があるんだけど」
エミカ「提案…ですか?」
アルジ「………」
シノ姫は静かに笑ってから言う。
シノ姫「今度は1回きりのお手伝いじゃない。
私たちと手を組んで、仲間になってほしい。
だって、私たちは…
同じ目標を持っているんですから。
ロニとラグアを倒す。魔真体を食い止める。
ねえ…そうでしょ…?」
アルジ「…ああ」
エミカ「手を組んで…仲間に…」
シノ姫「もちろん相応の報酬を用意します。
さっきのお金とは別に…」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「あなた方と…私たちが…
一緒になって同じ敵と戦う…。
…それが最もよいことだと思うんだけど」
アルジ「そうかもしれないな」
エミカ「アルジ」
アルジ「大丈夫だ。多分」
エミカ「………」
シノ姫「いいみたいね…」
シノ姫は小さくうなずいてから話した。
シノ姫「あなた方にね…
会ってほしい人たちがいるの」
アルジ「誰だ…?」
シノ姫はその問いかけに答えない。
シノ姫「…生き残ったのは2人」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「6人を巨方庭に送り込んで、
戻って来たのは3人。
そのうち1人は回復不能な傷を負っていた。
残念ながら都に戻ってすぐ死んだ。
今も生き残っているのは、2人。
2人だけ…」
アルジ「2人って…誰だ?」
シノ姫「強い2人」
アルジ「強いのか」
エミカ「………」
シノ姫「その2人は、とっても強い2人なの。
私もね…その2人を…とても信頼しているの。
どんな任務だって引き受けてくれるし、
どんな敵が出てきても負けたことがない」
アルジ「どんな敵が…出てきても…」
シノ姫「それでもね…失敗した。
今回の任務は…失敗してしまった。
強い2人がいたのに失敗しちゃったの。
それでね…2人ともなんだか元気がないの。
とってもとっても元気がないの!」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「しょんぼりしちゃって!
がっくりしちゃって!
もうどうしちゃったの?って思うくらい!」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「遺跡から戻ってきてから
気が抜けたような顔で!
こっちが真面目に話しても
聞いているのかいないのか、
よく分かんない顔で!
なんだがとにかく元気がないの!!」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「あなた方が…元気づけてくれる?
あなた方の力を見込んで…私からお願いです。
彼らと一緒になって戦ってくれる?」
アルジ「その2人って…」
シノ姫「もうすぐです…。
もうすぐ、ここへ来ることになっています…」
アルジ&エミカ「………」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 31
◇ HP 3753/3753
◇ 攻撃
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り、
雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 2415/2415
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 10