第228話 闘主
大君は小さな手で手招きした。
トキノナガ「来るのじゃ。座るのじゃ」
アルジとエミカは進む。
大君の間の真ん中へ。
そこには大きな椅子。
乳白色のふわふわの毛で覆われている。
背もたれも、座面も、肘掛けも。
それに2人で並んで腰掛ける。
アルジ&エミカ「……!」
ふかふかの感触にアルジもエミカも驚く。
大君も大きな黒い椅子に腰掛ける。
アルジ&エミカ「………」
アルジとエミカは大君と向かい合う。
大君のそばに4人の世話係が立っている。
アルジたちと大君との間には低い卓が1台。
トキノナガ「楽にしてほしいのじゃ。
お主たちのことはよく聞いておるのじゃ」
アルジ&エミカ「………」
トキノナガ「化け物を退治してくれたこと、
とても感謝してるのじゃ。
よくやってくれたのじゃ。
こうして会ってみたかったのじゃ」
アルジ「………」
世話係の1人が茶を持ってきた。
それは色が薄く、香りのとても強い茶。
トキノナガ「うまい茶なのじゃ。
飲んでみてほしいのじゃ」
アルジもエミカも一口飲んだ。
トキノナガ「口に合うといいのじゃが」
アルジ「ああ…うまいぜ…」
エミカ(アルジ…!
さっきから話し方が軽過ぎる…!)
大君は嬉しそうに笑った。
トキノナガ「よかったのじゃ」
大君も茶を欲しがった。
世話係にねだる。
トキノナガ「欲しいのじゃ。飲みたいのじゃ」
世話係「いけません。
これ以上お飲みになっては。
今夜は一睡もできなくなるかもしれません」
トキノナガ「………」
不満そうな顔をする。
アルジ&エミカ「………」
シノ姫が大君に提案した。
シノ姫「トキノナガ様。あれを渡されては…」
トキノナガ「そうだったのじゃ」
大君が手を叩くと、2人の男が現れた。
大きな箱を運んでくる。
アルジ&エミカ「………」
その箱は卓の上に置かれる。
男たちは箱を開けた。
アルジたちの目の前で。
中から出てきたのは1着の鎧。
トキノナガ「これを使ってほしいのじゃ」
アルジ「これは…!」
精巧に、そして、頑強に作られた鎧。
トキノナガ「特別な鎧なのじゃ」
アルジ「特別…ですか」
シノ姫が補足する。
シノ姫「遥か昔、7代前の大君に献上された鎧」
アルジ「大君に…」
シノ姫「はい。
現代の名工でも同じものは作れない。
失われてしまった技術が使われている。
そんなお話を聞いています」
アルジ「そんな鎧を…」
トキノナガ「やるのじゃ。着るのじゃ」
アルジ「こんな大事なものを…いいんですか?」
トキノナガ「大きくて着れないのじゃ。
何度か試してみたのじゃが、
どうしても着れないのじゃ。
大人になったら着ようと思っていたのじゃ。
じゃが、お主たちの戦いは続くと聞いたのじゃ。
じゃから、上げるのじゃ。
これを着て戦ってほしいのじゃ。
役に立ったら嬉しいのじゃ」
アルジ「大君…!!ありがとうございます…!」
早速、アルジはその鎧を着た。
鎧は体にピタリと合った。
腕、肩、胴、首。
すべての部分が吸いつくように体になじむ。
アルジ(なんだ!?この鎧…!
重さはあるけど…体にくっつくような…
体と1つになるような…
不思議な鎧だ…!)
シノ姫が説明する。
シノ姫「その鎧は、闘主の鎧といいます」
アルジ「闘主の鎧…?」
シノ姫「闘主…つまりは、戦いを支配する者。
その鎧を身につける者は、そうあってほしい。
強い願いがその鎧に込められているといいます」
トキノナガ「それを着て頑張ってほしいのじゃ」
アルジ「ああ…!頑張ります」
エミカ(こんなにちょうどいい鎧が…。
まるでアルジが着るために作られたような…
まるでアルジがここへ来ることを予期して、
前から用意されていたかのような…。
偶然なんだろうけど、不思議だ…)
◇ 闘主の鎧を手に入れた。
トキノナガ「よく似合っているのじゃ。
鎧も喜んでいるのじゃ。頼むのじゃ」
アルジ「任せてくれ!!」
トキノナガ「………」
アルジ「……?」
大君は急に寂しそうな顔になる。
トキノナガ「頼んでばかりなのじゃ」
アルジ「…え?」
エミカ「………」
トキノナガ「政治のことも…
分からないことばかりなのじゃ。
4人の総合統合官に頼んでばかりなのじゃ」
アルジ「…ああ」
トキノナガ「今は学んでいるのじゃ。
大陸を治める者としてどうあったらよいのか。
民が幸せになるには、どうしたらよいのか。
学んでいるのじゃ。毎日学んでいるのじゃ」
アルジ&エミカ「………」
トキノナガ「書を読んだり、話を聞いたり、
いろいろ行ったり見たり毎日が学びなのじゃ」
アルジ(オレたちの学校の勉強と違うんだろうな。
大君も大変そうだな…)
大君は続ける。
トキノナガ「学べば学ぶほど分かるのじゃ。
理想はうんと遠いところにあるのじゃ。
いつになったらたどり着くのか。
それもさっぱり分からないのじゃ。
道は長く、どこまでも長く続いているのじゃ。
学んでいると、嫌でも気づくのじゃ」
アルジ&エミカ「………」
トキノナガ「じゃが…
できることからやっていくのじゃ。
1つずつ、変えられることを変えるのじゃ。
それで民に幸せになってほしいのじゃ」
シノ姫「素晴らしいお心掛けでございます」
トキノナガ「シノ姫、
お主にも世話になっているのじゃ」
アルジ「シノ…姫…?」
トキノナガ「父上がそう呼んでいたのじゃ」
アルジ「…そっか」
エミカ(大君は…9歳の子と思えない…。
こんなに世のため、人のため、考える子が…。
大君なんだ。この子は…やっぱり大君なんだ。
今は知らないことが多いかもしれない。
1人で決められないことも多いかもしれない。
だけど、大きくなったら…この子が…
大きくなったら…なる気がする。
みんなのために心を尽くしてくれる。
そんな…為政者に…)
トキノナガ「………」
大君は気づいた。
アルジの剣とエミカの杖。
どちらも普通の武器ではないことに。
小さな丸い目を動かして一生懸命に見ている。
アルジ&エミカ「………」
トキノナガ「分かるのじゃ」
アルジ「何がですか…?」
トキノナガ「特別な力が込められているのじゃ」
アルジ&エミカ「………」
トキノナガ「その杖はなんなのじゃ?」
エミカ「これは…天界石の杖です」
トキノナガ「初めて聞くのじゃ」
エミカ「魔力を受け継ぐことができる杖です」
トキノナガ「ほう」
エミカ「この杖の特別な力で…
私は…私の師と友から魔力を受け継ぎ、
ここまで旅することができました」
トキノナガ「…ほう!」
身を乗り出して大君はエミカに言う。
トキノナガ「今度、魔術を教えてほしいのじゃ!
お主からはとびきり強い魔力を感じるのじゃ!
今も魔術院で習っているんじゃが、
お主からも教わりたいのじゃ!」
エミカ「!!
私なんかの教えでよいのでしたら…喜んで…!」
今度は、勇気の剣を見て問いかける。
トキノナガ「その剣はなんなのじゃ?」
アルジ「勇気の剣っていいます。
オレの村に伝わる宝の剣だ」
トキノナガ「どこの村なのじゃ?」
アルジ「クユの国、ナキ村です」
トキノナガ「…知っておるのじゃ。
崖崩れが多い村だと聞いたことがあるのじゃ」
アルジ(オレの村のことも知ってるのか…)
トキノナガ「見事じゃ。見事な剣なのじゃ!」
アルジ「ありがとう!」
トキノナガ「お主にも剣術を教わりたいのじゃ」
アルジ「ああ、いいぜ!!!」
エミカは我慢の限界だった。
アルジの腕を強く引っ張る。
アルジ「!!なんだ!!?」
エミカ「さっきから話し方が軽過ぎだ!!
大君とお話してるんだぞ!!」
アルジ「…ああ…」
大君はほほえんで見ていた。
トキノナガ「よいのじゃ」
エミカ「………」
トキノナガ「遠慮なく話してほしいのじゃ。
余計な気を遣ってほしくないのじゃ」
アルジ「それならよかった…。
オレの剣術でいいならいつでも教えるぜ。
戦ってる間は…ちょっと無理だけどな」
エミカ「アルジ!」
トキノナガ「ははははは!」
大君は大きな声で笑った。
その様子にシノ姫も世話係も少し驚く。
トキノナガ「面白い男なのじゃ」
アルジ「そうかな」
トキノナガ「それに…よく似ておるのじゃ」
アルジ「似てる…?」
トキノナガ「稽古をつけてくれる者がおるのじゃ。
剣術を基礎から教えてくれるのじゃ。
お主は、その者とよく似ておるのじゃ」
アルジ「大君に…剣術を…」
トキノナガ「手も足も出ないのじゃ。
本当に強い男なのじゃ。憧れるのじゃ。
あんなふうになってみたいと思うのじゃ。
その者も遠慮がないのじゃ。
遠慮なく話してくれるのじゃ」
アルジ「そうなのか」
トキノナガ「大前隊で頑張ってくれてるのじゃ」
アルジ「大前隊で…」
トキノナガ「あれはもう何日も前のことじゃった」
ヤマエノモグラモンによる都の襲撃。
大君はそのときのことを思い出す。
トキノナガ「都を化け物が襲ったのじゃ。
大きな、大きな化け物が都を襲ったのじゃ。
全部で24頭もいたのじゃ。多かったのじゃ。
多くの家が焼けてしまったのじゃ」
アルジ「そんなことが…」
シノ姫が補足した。
シノ姫「ヤマエノモグラモンという化け物です」
アルジ「!!」
エミカ「あれが…24頭も…ですか!?」
トキノナガ「そんなとき、戦ってくれたのじゃ。
ほかの者が負けてしまう中、都を守るために。
たった1人で戦い続けてくれたのじゃ。
ボロボロになるまで戦ってくれたのじゃ」
アルジ&エミカ「………」
トキノナガ「嬉しかったのじゃ」
アルジ&エミカ「………」
トキノナガ「嬉しかったのじゃ…!
都を守ってくれて…!
民を守ってくれて…!
本当に…嬉しかったのじゃ…!
嬉しくて…嬉しくて…
涙が止まらなかったのじゃ…!」
大君の目から涙がこぼれる。
横にいた世話係がふいた。
アルジ&エミカ「………」
トキノナガ「化け物を全部倒してくれたのじゃ」
アルジ「は…!?」
エミカ「1人で…ですか?」
トキノナガ「そうじゃ。なあ、シノ姫」
シノ姫「はい。たった1人で倒してくれました」
アルジ「大前隊にはそんな剣士が…」
エミカ「アルジ」
アルジ「…どうした?」
エミカ「いないよ」
アルジ「…?」
エミカ「そんなことできるのは…1人しかいない」
アルジ「…あいつか」
大君の目が閉じかける。
もう真夜中で、いつもなら眠っている時間。
トキノナガ「今日は…お主たちに会えて…
よかったの…じゃ…」
エミカ「こちらこそ…お会いできて光栄です」
アルジ「ありがとう。この鎧、大事にする」
トキノナガ「…うむ」
椅子の上で傾きかけた大君の体を世話係が支える。
トキノナガ「またいつか…会いたいのじゃ…」
アルジ「ああ、いつでも来るぜ」
トキノナガ「無事を…祈って…おるのじゃ…」
大君はほほえみ、そのまま目を閉じた。
世話係が2人で抱きかかえる。
そのまま奥の寝室へ連れていった。
シノ姫がアルジとエミカに言う。
シノ姫「今度は…こちらに来てもらえる?」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫は大君の間を出ていく。
アルジとエミカは彼女についていく。
廊下をしばらく歩き、シノ姫の間へ。
シノ姫「さあ…入って」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「私からもお話したいことがあるから…」
そして、シノ姫の間に通された。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 31
◇ HP 3753/3753
◇ 攻撃
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 素早さ
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り、
雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 2415/2415
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 10




