第226話 大君
暗い道をアルジたちは走った。
エミカの光玉の明かりを頼りにして。
小高い山を下り終える。
走るのをやめて歩く。
オンダクがエミカに問う。
オンダク「さっきのはハッタリか?」
エミカ「………」
オンダク「その論文…
本当にホジタの企みと関係あるのか?」
エミカ「あります」
ガシマ「どう関係ある?」
悲しげな顔でエミカは言う。
エミカ「…ミリの命を奪った魔術」
アルジ「…え?」
ガシマ&オンダク「……?」
エミカ「テノハの町で…マスタスが…
私たちの仲間の命を奪いました。
あのとき…あいつが使った魔術…
あれはおそらく…」
アルジ「その論文に…書いてあったのか?」
エミカ「そうじゃないんだけど…」
アルジ「…?」
エミカ「この論文には…
光術と火術について書かれてた。
それらを組み合わせた複合魔術について。
強力な光と火で対象を焼き尽くす。
そんな魔術。マスタスの魔術とは違う。
だけど…多分だけど、参考にしたんだ。
あいつは…この論文に書いてあることを。
それで…足し合わせた。
暗球と王火…2つの魔術を…」
アルジ「あいつの変態魔術も…
リネの蘇生魔術の真似だったもんな」
エミカ「うん。
あいつはリネさんの魔術を悪用した…」
ガシマ「あの黒焦げの死体…そういうことか」
オンダク「マスタスが使っていた魔術…
その手がかりが論文に書いてあった。
一応関係あったわけか。今回の調査は」
エミカ「そうです。
だから、不正な調査なんかじゃない」
ガシマが過去の事件を思い出す。
ガシマ「…もう3年近くも前の話になるか」
アルジ&エミカ「………」
ガシマ「黒焦げになって滅びた村があった。
あのときは審理院も大前隊も大騒ぎした。
だが、結局犯人は捕まえられなかった。
黒焦げにした方法も分からずじまい。
方法…。そうだ。魔術が使われた。
そのことだけははっきりしていた。
だが、どんな魔術が使われたのか。
結局謎のままだった。
魔術院の術師たちも首を傾げるばかり。
あの日、お前たちの仲間の死体を見たとき…
思い出した。あの事件をオレは思い出した。
あの事件も…もしや…」
エミカ「マスタスが犯人だと思います。
テノハの魔学校で自分から話してました。
村を焼いて滅ぼしたことも」
ガシマ「そうだったのか」
エミカ「この論文に書いてあることは…
結果的に多くの人に悲劇をもたらした…」
アルジ「リネも思ってなかっただろうな。
まさかこんなことになるなんて」
エミカ「………」
肩を落とすエミカ。
アルジたちはしばらく黙って歩き続ける。
アルジ(…そうだ。
こんなときこそオレが…
ミリ、そうだよな!)
アルジが声を張る。
アルジ「今度は…それを生かすんだろ?」
エミカ「…?」
アルジ「リネの論文だ。
光術と火術の複合魔術。
リネの論文に書いてあったんだろ?」
エミカ「ああ。
習得の方法も詳しく書いてあった」
アルジ「今度はエミカがそれを使えばいい。
悲劇じゃない。今度は人が喜ぶことを…
その魔術でやったらいいんじゃないか」
エミカ「そうだな。覚える…。使う。
負けない…。ロニにも!ラグアにも!」
アルジ「そうだ!倒そうぜ!!」
エミカ「ああ!」
元気を取り戻すエミカ。
彼女の顔を見てアルジは安心した。
前方にオノレノの街明かり。
ガシマとオンダクが立ち止まる。
ガシマ&オンダク「…来た」
アルジ「…どうした?」
エミカ「あ…」
ガシマとオンダクは空を見上げていた。
アルジとエミカも見上げる。
ガシマ「どうやらオレたちはここでお別れだ」
オンダク「また会おう。いつか、どこかで」
アルジ「あれは…!」
赤い光を発しながら向かってくる飛行体。
形はカルスとまったく同じ。
しかし、それはただのカルスではない。
白い翼の特別機。
ガシマとオンダクは瞬時に理解した。
ガシマ「迎えが来た」
オンダク「お前たちの迎えだ」
アルジ「オレたちの…?」
エミカ「強い魔波が…3つ…」
すぐ近くの空き地にそれは着陸した。
機体の上には3人の魔術師。
1人が地面に降りて声をかけてくる。
操縦士A「アルジ様とエミカ様ですね?」
アルジ「ああ、そうだけど」
操縦士A「お迎えに上がりました。
あなた方を都にお連れします」
アルジ「都に…」
エミカ「アルジ」
アルジ「ついに…懸賞金か!」
操縦士A「大君がお呼びなのです」
アルジ&エミカ「…!!?」
操縦士A「大君があなた方をお呼びなのです。
あなた方とお会いして、お話をされたいと…」
アルジ「な…何…?」
エミカ「本当…ですか…?」
操縦士A「本当です」
ガシマ「行ってこい」
オンダク「胸を張れ」
アルジ「………」
エミカ「アルジ」
アルジ「ああ」
エミカ「行こう」
アルジ「…おう」
アルジとエミカは特別機に乗る。
操縦士A「浮上しますね」
アルジ「ちょっと待ってくれ!」
アルジはガシマとオンダクに言った。
アルジ「ありがとう!本当に!」
ガシマ「おう」
オンダク「元気でな」
操縦士A「浮上します」
浮上する特別機。
ガシマとオンダクは静かに見送った。
◇ ガシマは仲間から外れた。
◇ オンダクは仲間から外れた。
空は一層暗くなる。
街の明かりに向かって2人は歩き出す。
ガシマ「さて、どんな命令が下るか…だ」
オンダク「都に戻されるか。
それとも…ラグア、ロニと戦うか」
ガシマ「カルスが来れば都行き。だが…」
オンダク「合離蝶が来れば…」
ガシマ「戦うぜ」
オンダク「ああ」
近くでカチカチと音が鳴る。
それは、羽ばたきの音。
合離蝶だった。
細長く折られた手紙が結びつけられていた。
ガシマ「噂をすれば…だな」
ガシマはそれを捕まえる。
手紙を取り外し、広げた。
オンダクがのぞき込む。
それには次の命令が記されていた。
◆ カルス特別機 ◆
飛行はとても静かで穏やか。
エミカ(この人たちはきっと操縦の専門家…。
なんて快適な乗り心地なんだろう。
飛んでることを忘れるような…)
アルジ(大君が呼んでる…。オレたちを…)
操縦士の1人がアルジとエミカに声をかける。
操縦士B「どうぞ。そう緊張せずに。
ラクにしてください」
アルジ「ああ…はい」
操縦士B「ずいぶんとお疲れのようです。
眠っていただいて構いません。
深夜には都に到着する予定ですので」
エミカ「大君にお会いするのは…?」
操縦士B「はい…
都に着きましたら、すぐにお会いください」
エミカ「ここから都だと…
到着は真夜中になるんじゃ…」
操縦士B「問題ございません。
大君は心待ちにされています。
あなた方とお会いするのを。
眠くなってしまわないようにと
今日はお昼寝もされたそうですから」
エミカ「………」
アルジ「昼寝…」
アルジは思い出した。
大君について。
小さな声でエミカに聞く。
アルジ「…エミカ…」
エミカ「…ん…?」
アルジ「…大君って…まだ…」
エミカ「…先代が早くに亡くなられたから…」
アルジ「…年は…いくつなんだっけ…?」
エミカ「…えっと…」
操縦士が答えてくれた。
操縦士C「この春に9歳になられました」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 31
◇ HP 3753/3753
◇ 攻撃
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り、
雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 2415/2415
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 10




