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アルジ往戦記  作者: roak
224/300

第224話 伝承

◆ 北土の魔術研究所 第3書庫 ◆

扉の前には小柄な女の魔術師。

歩いてくるエミカたちをじっと見ている。

闇魔術師カホ。

書庫の管理を任されている魔術師の1人。

彼女の魔波で第3書庫の扉は開く。


コオム「頼む」

カホ「…開けます」


扉に手を近づける。

強い魔波を発しながら。

ガシンと大きな音が鳴る。

閉ざされていた扉が開く。

先に書庫へ入っていこうとするコオムとカホ。

オンダクが引き止める。


オンダク「お前たちはオレとここにいろ」

コオム「そうですか」

カホ「………」


入っていくエミカとガシマ。

少し進んだところでガシマは立ち止まる。


エミカ「ガシマさん」

ガシマ「行ってこい。オレはここにいる」

エミカ「…分かりました」


エミカは探す。

リネの手紙を握り締めて。

薄暗い書庫の中。

小さな光玉を頭上に放つ。

辺りを照らして前へ進む。


エミカ(8番目の棚…上から3段目…17巻…)


エミカは見つける。

リネの手紙に書かれていたその論文集を。


エミカ「あった…!これだ…!!」


ふと書庫の小さな窓から外を見る。

日が大きく傾いていた。


エミカ(ここで読んでる時間はない…。

 この本を丸ごと持ち去ろう。でも…!)


その論文集はあまりに厚かった。

エミカは迷い、決断する。


エミカ(…引きちぎるしかない!

 リネさんの論文を)


目次を見て、該当部分を探す。

リネの論文は後ろの方に収録されていた。

その表題を目にしたとき。


エミカ(この表題って…)


エミカは戸惑った。


エミカ(複合魔術の論文じゃ…ない?)


「王雷について ー その強さの考察 ー」。

それがリネの論文の表題。

ガシマが声を張る。


ガシマ「どうだ!あったか!!?」

エミカ「待って!もう少し待って!!」

ガシマ「………」


エミカは確かめた。


エミカ(これでいいはず。17巻。

 そうだ、これだ。

 棚も…合ってる。上から3段目!)


そして、目次をもう1度よく調べる。

最初から最後まで。

執筆者の名前を確かめる。


エミカ(リネさんが書いたのはこれだけ…。

 やっぱり…これなのか?)


表題のすぐ下には、書かれた日付。


エミカ(大暦だいれき2007年9月10日…。

 リネさんがこの論文を書いたのは…

 今の私と…同じ年のとき…)


そして、エミカは読み始める。

リネが書いたその論文を。

彼女の論文は次の文章で始まっていた。


リネの論文「最強の魔術はなんだろうか」

エミカ「………」


ガシマが痺れを切らし始める。


ガシマ「おい!!どうなってる!!

 見つけたのか!!?」

エミカ「もうちょっとかかる!!」

ガシマ「…早くしろ!!」


エミカはさらに読み進める。


リネの論文「それは、王雷。異論はない。

 100人の魔術師に聞けば、

 100人から同じ答えが返ってくる。

 だが、私はその答えに異論を唱えたい。

 王雷を超える魔術が存在する。

 その可能性について私は論じたい」

エミカ(王雷を…超える…)

リネの論文「王雷の威力はどれくらいか?」

エミカ「………」

リネの論文「同じ強さの魔力の魔術師たちが、

 王火、王氷、王岩、王雷を使うとする。

 魔術の威力はどうなるだろうか。

 最も強いのは王雷。

 続いて、王火、王氷。最後に王岩。

 このような順番になると言われている。

 細かくいえば、王氷は王火の約9割、

 王岩は王火の約8割の威力とされる。

 そして、王火は王雷の4割に満たない。

 これはもはや常識。

 私もこの点に異論はない」

エミカ「………」

リネの論文「では、王雷を超える魔術はあるか」

エミカ「………」

リネの論文「圧倒的な威力を誇る王雷。

 王雷の威力はどんなに魔力を鍛えても、

 他の魔術では超えられないように思う。

 王雷を超える魔術など本当にあるのか。

 私の答えは「ある」である。

 それは、どんな魔術か?

 複合魔術と呼ばれる魔術がある」

エミカ(ここからが本題…かな)

リネの論文「複合魔術の歴史は古い。

 魔術の草創期には存在したといわれる。

 火術と岩術、氷術と雷術、

 光術と氷術、光術と岩術…

 その種類は多岐にわたる。

 多くの使い手が工夫を凝らして磨いてきた。

 だが、未だ存在しない組み合わせがある。

 火術と氷術の組み合わせ、

 火術と光術の組み合わせ、そして、

 闇術とその他の術の組み合わせだ」

エミカ(火術と光術…)

リネの論文「まず、火術と氷術の組み合わせ。

 これは原理的に不可能といわれている。

 互いに打ち消し合い、機能しないから。

 次に、闇術とその他の術の組み合わせ。

 これは理由がはっきり分かっていない。

 いくつかの仮説はある。

 しかし、あまりに難解であるので、

 この論文では触れないことにする」

エミカ「………」

リネの論文「問題は、火術と光術の組み合わせだ。

 この組み合わせは原理的に不可能ではない。

 「理論的には機能する」といわれている。

 だが、使い手が実在しない。

 過去にも、現在にも。

 そもそも両方使える魔術師が少ない。

 複合魔術は2種類の魔術を合わせること。

 2種類の魔術を1人の魔術師が使うもの。

 別々の魔術師が使ったのでは、

 複合魔術として成立しない。

 ご存知の方も多いと思うが、

 2人で別々に魔術を使い、合わせてみても、

 決して合うことはないのである。

 どんなに合わせようとしても、

 個人個人の魔波の微妙な波長の違いが、

 一体となって働くことを妨げるのである。

 そのため、同じ魔術師が2種類の魔術を

 同時に使う必要があるのだ。

 私は研究所で調査を行った。

 複数の魔術が使える者を対象に」


火術と光術。

同時に使える者がいかに少ないか。

具体的な数字を上げ、丁寧に示していた。


エミカ(…こんな調査を…論文を…

 リネさんは…今の私と…同じ年齢で…)


息を飲むエミカ。

それから、彼女の頬を涙が伝う。

そこには確かにリネがいた。

論文に記された文章の1つ1つが蘇らせる。

リネの語り口を。


エミカ「リネさん…」


近くまで様子を見に来ていたガシマに気づく。


エミカ「あ……」

ガシマ「………」

エミカ「えっと…」

ガシマ「…構わん。オレは向こうで待っている。

 気が済んだら来い。だが、調査は日没までだ。

 それ以上は待てない」

エミカ「分かった。ごめんなさい」

ガシマ「…さっさと中身を確かめろ」

エミカ「ありがとう」


ガシマは去っていく。

エミカは窓の外を見る。

遠い山に夕日が沈みかけている。


エミカ(急がないと!)


再び論文に目を向ける。


リネの論文「少数だが、使える魔術師はいた。

 およそ90人に1人程度の割合で。

 火術と光術の両方を。

 しかし、どちらも高精度で使える者はなかった。

 一方の魔術が得意でも、

 もう一方は苦手にしていた。

 火術は王火が使えても、

 光術は治療魔術すら使えない。

 光術は再生魔術まで使えても、

 火術は火弾が使える程度。

 調査で見つかったのはそんな魔術師だけ。

 複合魔術を使うには、

 2つの魔術を同程度に使えなければならない。

 これも波長の問題だ。

 精度に差があると合わないのだ。

 では、なぜ同程度に高められないのだろうか。

 1人の魔術師が火術と光術を。

 何か深い理由があるのだろうと思われるが、

 今の私には十分な説明ができないため、

 この論文ではこの件について触れない」

エミカ「………」


そして、論文は最終章に入る。


リネの論文「だが、もしもの話である」

エミカ「………」

リネの論文「火術と光術。

 その両方を高精度で扱える。

 そんな魔術師が、もしも現れたなら。

 王雷を超える魔術が生まれるかもしれない」

エミカ「王雷を超える魔術…」


リネが考える火術と光術の複合魔術。

王雷を超える威力の複合魔術。

それが一体どんな魔術なのか。

具体的な記述が始まる。


リネの論文「巨大な光玉に王火を足し合わせる。

 その炎と光の玉は超高熱を放ち、敵を焼く。

 そんな複合魔術が生まれるだろう。

 そのとき、その魔術は王雷を超えるだろう」

エミカ「光玉に王火を…足し合わせる…。

 そんなこと…考えたこともなかった…」

リネの論文「どうやってその魔術を習得するか。

 私なりの見解を記していく」


習得方法が詳しく分かりやすく書かれていた。

過去の文献、複合魔術使用者の意見も交えて。

論文の8割程度が習得方法の記述に割かれていた。


エミカ(すごく…具体的で…実践的で…明快で…

 根拠のない空想論とはとても思えない…。

 まるでリネさん自身が…

 その魔術を習得しているような…)


そして、論文は次のような文章で終わっていた。


リネの論文「いかがだっただろうか。

 王雷を超える魔術。それは存在する。

 私は信じている。

 もしもあなたが火術も光術も使えるのなら、

 同程度に、かつ、高精度で使えるのなら、

 是非とも習得に励んでもらいたい。

 多くの時間と労力を費やすことになるだろう。

 でも、それだけの価値がこの魔術にはある。

 私はそう信じている」

エミカ(なるかも…。

 この魔術が…私の切り札に…。

 とっておきの…切り札に…!)

リネの論文「最後に、この魔術に名前を与える。

 圧倒的な威力を誇る究極の複合魔術。

 それにふさわしい名前を私は考えた。

 そして、ここに用意した」

エミカ「どんな名前なんだろう…?」

リネの論文「大陸各地に伝わる不可解な火の玉。

 虚空に突然現れては、多くの人がそれに驚き、

 それを恐れたとされる」

エミカ「不可解な…火の玉…」

リネの論文「その火の玉については、

 いくつもの古典に記述が見られるほか、

 大陸各地の民間伝承としても広まっている。

 私はそれから名前を取ることにした」


エミカは読む。

その論文の最後の1行を。


リネの論文「その魔術の名前は、天火てんか



◇◇ ステータス ◇◇

◇ アルジ ◇

◇ レベル 31

◇ HP   3753/3753

◇ 攻撃

 48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 防御

 38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★

◇ 魔力  14★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  勇気の剣、雅繊維戦衣がせんいせんい

◇ 技   円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り、

      雷刃剣

◇ 魔術  雷動


◇ エミカ ◇

◇ レベル 27

◇ HP   2415/2415

◇ 攻撃  10★★★★★★★★★★

◇ 防御

  30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

  47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★

◇ 装備  天界石の杖、濃色魔術衣

◇ 魔術  火球、火砲、火樹、火海、王火

      氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷

      雷弾、雷砲、雷柱、王雷

      岩弾、岩砲、岩壁、王岩

      光玉、治療魔術、再生魔術


◇ ガシマ ◇

◇ レベル  35

◇ HP   2367/2367

◇ 攻撃

 38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★

◇ 魔力  11★★★★★★★★★★★

◇ 装備  練磨の大斧、金剛武道着

◇ 技   激旋回斬、大火炎車

◇ 魔術  火弾、火砲


◇ オンダク ◇

◇ レベル 36

◇ HP   3083/3083

◇ 攻撃

  30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★

◇ 防御

  41★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★

◇ 素早さ

  19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力  10★★★★★★★★★★

◇ 装備  竜牙の長槍、超重装甲

◇ 技   竜牙貫通撃、岩撃槍

◇ 魔術  岩弾、岩壁


◇ 持ち物 ◇

◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 10

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