第220話 手札
アルジは風呂から上がって服を着る。
脱衣所から出る。
エミカとイイナヨが立ち話している。
エミカ「やっと上がったか。アルジ」
アルジ「ああ」
イイナヨ「どうも、こんばんは。アルジさん」
アルジ「ああ、どうも」
イイナヨ「どうかしましたか?
気分が優れませんか?」
アルジ「いや、なんでもない。大丈夫だ」
イイナヨ「そうですか」
アルジ「イイナヨさんもここに泊まるのか?」
イイナヨ「はい。友人がこの宿で働いていて。
帰ろうとしたら呼び止められたんです。
夜も遅いし一緒に泊まって帰ろうって。
せっかくだしお風呂も楽しもうと思って」
アルジ「それはよかったな」
エミカ(全然気持ちがこもってない)
3人で廊下を歩く。
近くの客室からイイナヨの友人が現れる。
イイナヨの友人「あ、どうも」
アルジ「どうも」
イイナヨ「アルジさんもエミカさんも
これからのご活躍、お祈りしています」
アルジ「ああ、ありがとう。頑張るぜ」
エミカ「イイナヨさんも元気で」
イイナヨ「はい、ありがとうございます」
イイナヨと友人は部屋に入っていった。
アルジとエミカも部屋に戻る。
アルジ「戻ったぜ」
オンダクが意見書を書き終えたところだった。
ガシマ「くつろいだみてえだな」
オンダク「行くか。オレたちも」
ガシマ「そうだな」
座卓の上に置かれた意見書をアルジは見る。
アルジ「…すごい字だな」
ガシマ「書いたのはオンダクだ」
オンダク「どうだ?効きそうだろ?」
エミカ「…はい。
それに…厳しい意見ですね」
意見書は、防衛隊の撤退を強く非難。
そして、今後の改善を求めている。
ガシマ「明日、早朝にここを出る。
そうすれば、ノイ府本館に昼前には着く。
エミカ、行けるか?」
エミカ「任せてください」
オンダク「朝食は宿が弁当を作ってくれる」
アルジ「金は?」
オンダク「安心しろ。山天楼のときと同じだ」
アルジ「そっか。天引きってわけか」
ガシマ「そろそろだと思うぜ」
アルジ「そろそろ?」
オンダク「懸賞金だ。明日にでも案内が来る」
アルジ「本当か!!」
エミカ「やったな」
アルジ「おう!」
ガシマとオンダクは部屋から出ていった。
アルジとエミカは茶を飲んで休む。
しばらくすると戸を叩く音が聞こえる。
アルジ「誰だろう?」
エミカ「この魔波…イイナヨさんだと思う」
アルジは戸を開ける。
エミカが予想したとおり。
イイナヨが立っていた。
彼女の友人も一緒。
イイナヨ「札王を一緒にやりませんか?」
アルジ「なんだ?」
エミカ「札を使った遊びだ。
やったことないのか?」
アルジ「ない」
イイナヨ「エミカさんが強いと聞いたので。
そのことを友人に話したら勝負してみたいと」
イイナヨの友人「コエと申します。
この宿で働いています。
いきなりですみませんが、ぜひとも勝負を」
イイナヨ「私たちの部屋に来ませんか?」
エミカ「行く」
アルジ「オレはいいや」
エミカ「行こう」
アルジ「やり方分からないし」
エミカ「教えるから大丈夫。
それに札王は4人でやるのが1番楽しい」
コエ「ですよね。3人でも5人でもない。
4人だから面白い。
札王が強い人はみんな言いますよね。
どんな勝負になるのか楽しみです」
エミカ「簡単には負けません」
コエ「腕に自信あり…ですね。…面白い。
私の実力もお見せしましょう」
アルジ「………」
イイナヨたちの部屋へ行く。
エミカ「明日は朝早いから3戦だけで…」
イイナヨ「はい!」
コエ「お願いします」
アルジ「えーと…お願いします!」
4人に手札が配られる。
数字と絵柄の入った札が16枚ずつ。
札王はその手札を出し合って点数を競う。
コエ「始めましょう」
イイナヨ「私からでいいですか?」
エミカ「どうぞ」
慣れた手つきで札を出していく。
アルジ「えーと…こうか?」
アルジも手札を出す。
エミカにやり方を教えてもらいながら。
そして。
勝負が始まる。
4人は次々札を出す。
真剣な顔で。
時に笑い合いながら。
2戦目、3戦目に突入。
コエ「ふふふ…」
アルジ「あ!そうか!」
エミカ「それやると取られちゃうから」
アルジ「札王…奥が深いぜ」
イイナヨ「アルジさんもハマり始めましたね」
4人の勝負が終わる。
イイナヨ「エミカさんって本当に強い!」
エミカ「コエさんには負けちゃった」
コエ「確かに合計点は私が勝った。
でも、勝ち星の数はエミカさんが上。
強いね。口だけじゃないって分かった」
エミカ「…まぁね。
でも、札王は勝ち星より点数が大事。
最後は点数で勝者が決まる。そうだろ」
コエ「公式戦ではね」
エミカ(コエさん、すごく悔しそうだ。
最初は遊び半分だったけど、
最後は怖いくらい真剣な顔してたし…。
この人は一体…)
イイナヨ「エミカさん、
コエはすごい人なんですよ」
エミカ「…?」
イイナヨ「地方の代表大会に出た猛者なんです」
エミカ「それって…もしかして…
大陸王者を決めるための…?」
コエ「そうだよ」
エミカ「それはすごい…!」
コエ「3回戦まで進んだんだ」
エミカ「…強いわけだ」
アルジ(代表大会…そんなものまであるのか…。
この札遊びに…)
3戦だけ。
そう言って始めた札王。
だが、結局17戦やった。
あわてて部屋に戻るアルジとエミカ。
ガシマとオンダクは寝支度を始めていた。
ガシマ「お前たち、何してた?」
アルジ「ああ、ちょっと…な」
ガシマ「は…?ちょっと?なんだ?」
エミカ「札王で遊んでたんだ」
オンダク「やはり…
廊下で聞こえた笑い声はお前たちか」
ガシマ「とにかく早く寝るぜ!」
アルジとエミカも寝支度をした。
布団に潜ると強い眠気が訪れる。
目を閉じる。
今日の任務が無事終わったことに安堵して。
◆◆ 次の日 ◆◆
空が白み始めた頃。
1通の手紙が届けられる。
窓から入ってきた合離蝶に結びつけられていた。
アルジとエミカはまだ眠っている。
ガシマとオンダクは小声で話し合う。
送られた手紙の内容について。
ガシマ「…まさかな」
オンダク「そうか…」
ガシマ「アルジとエミカには…」
オンダク「…話しておこう。
一般の民に知られてはならない情報だが…
この2人はいずれ知ることになるだろう。
オレたちが話さなかったとしても…」
ガシマ「…そうだな」
アルジとエミカも目を覚ます。
目をこすって体を起こす。
ガシマとオンダクは出発の支度を済ませていた。
ガシマ「準備しろ。すぐにここを出たい」
アルジ「ああ」
エミカ「………」
ガシマの険しい表情。
アルジもエミカも一瞬戸惑う。
顔を洗い、着替えて準備する。
宿代はガシマがすべて支払った。
玄関で宿の従業員から弁当をもらう。
浜辺に出る。
空は曇っている。
海は穏やか。
宿の従業員に見送られ、アルジたちは出発。
ガシマが荷物入れからカルスを取り出す。
ガシマ「こいつが予備のカルスだ。使え」
エミカに投げて渡した。
彼女がそれを展開しようとしたとき。
イイナヨ「待ってくださーい!」
ナミナカ荘から駆けてくる2人の姿。
イイナヨとコエだった。
アルジ「…!!」
イイナヨはアルジたちに改めて礼を言う。
イイナヨ「本当にありがとうございました。
そして…これからも大陸のため、民のため、
皆様がご活躍されることを祈っています」
ガシマ「ああ」
オンダク「任せておけ」
イイナヨとコエはアルジとエミカの前に立つ。
イイナヨ「昨日は楽しかったです。ありがとう」
コエ「ありがとう」
エミカ「こちらこそ。楽しかった。ありがとう」
アルジ「ありがとな」
イイナヨとコエは顔を見合ってうなずく。
アルジ&エミカ「…?」
切り出したのはイイナヨ。
イイナヨ「札王には…必勝法があります」
アルジ「必ず勝てるってことか?」
イイナヨ「ええ」
エミカ「…知らなかった」
コエ「今から2年くらい前のこと。
すべての解析が終わった。
どんな戦局があるか。
そのとき、どの札を出せばいいか。
ありとあらゆる場合が調べられた。
そして、必勝法が導き出された」
イイナヨ「その必勝法は本にまとめられてます。
すべての戦局、戦術を網羅した本です。
分厚いのが27冊もあって…」
コエ「全部を完全に覚えるのは難しい」
アルジ&エミカ「………」
イイナヨ「だけど、代表大会の上位者は
大部分を記憶している」
エミカ「…そうなんだ」
アルジ(分厚い本を27冊も?冗談だろ)
イイナヨ「札王を…
思考の競技から暗記の競技へ変えた。
必勝法の解析にはそんな批判がある」
コエ「実は私も半分近く覚えてる。必勝法を」
エミカ「半分も…!?」
コエ「だけど、覚えてない場面になると、
その場で考えて手札を出すことになる。
エミカの手札の出し方には…
私が覚えてない手順がいくつもあった」
エミカ「そうだったのか」
コエ「…本当にたくさん考えさせられた。
私が勝ちを確信する。
でも、エミカが切り札を出してくる。
思いがけない、とても鋭い切り札を。
そのたびに私は焦って、困って、考えて、
そして、心打たれた」
エミカ「………」
コエ「必勝法を完全に記憶してる人が見たら、
その切り札は無謀だと思うかもしれない。
勝ち目のない戦いを引き伸ばそうとしてる。
そんなふうに見られるかもしれない。
だけど…私は本当に強く心を打たれた。
そういう戦い方もあるのかって、感動した」
イイナヨ「私もです」
コエ「それで私は何度も勝ち星を取られた。
点数でも勝ち星でも圧倒したかったのに」
エミカ「圧倒って…」
コエ「手加減する余裕がなくなった。
勝負を重ねていくうちに。
あんたがとても強いから。
要するにそういうことだ」
エミカ「………」
それから、コエは笑う。
エミカも笑った。
イイナヨはエミカの目をまっすぐ見る。
イイナヨ「だから、もしも、これからの旅…
大変なことが起こったとしても…大丈夫。
エミカさんはエミカさんの切り札で…
切り抜けられる。やり遂げられる。
信じてる。きっとすべてがうまくいく。
私たちは…そう願ってる」
エミカ「ありがとう。やってみる」
コエ「またいつか勝負しよう」
エミカ「しよう」
そして、アルジたちは出発する。
カルスに乗って。
目指すはノイ府本館。
ガシマが進むべき方角を指差す。
エミカはうなずく。
ガシマ「お前たちに知らせておくことがある」
アルジ&エミカ「……?」
ガシマは暗い声で告げる。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 31
◇ HP 3753/3753
◇ 攻撃
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り、
雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 2415/2415
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ ガシマ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 2367/2367
◇ 攻撃
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力 11★★★★★★★★★★★
◇ 装備 練磨の大斧、金剛武道着
◇ 技 激旋回斬、大火炎車
◇ 魔術 火弾、火砲
◇ オンダク ◇
◇ レベル 36
◇ HP 3083/3083
◇ 攻撃
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 防御
41★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★
◇ 素早さ
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 10★★★★★★★★★★
◇ 装備 竜牙の長槍、超重装甲
◇ 技 竜牙貫通撃、岩撃槍
◇ 魔術 岩弾、岩壁
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 10




