第211話 焼却
◆ 都 ◆
そこは暗くて小さな部屋。
シノ姫と彼女の従者たちが立っている。
組み上げられた巨石の壁。
彼女たちを取り囲む。
部屋の奥には燃え盛る炎。
その炎は、ある罪人の遺体を焼いていた。
シノ姫「燃えてる…燃えてる…」
従者たち「………」
部屋の名前は、罪人の祠。
重罪を犯した者の遺体が送られる場所。
送られた遺体を焼いて処分する場所。
シノ姫たちはじっと見ていた。
焼かれ続けるその遺体を。
シノ姫「…さようなら」
焼かれていたのはミナヨニ。
彼女は魔術でいくつも華々しい功績を上げた。
多くの人に讃えられ、魔術院院長に就任した。
だが、彼女はただの1人の罪人に成り下がる。
彼女の手で実行されかけた重大犯罪行為。
それを防ぐため、その場で彼女は殺された。
そして、こうして焼かれることとなった。
焼却係の男「いやあ、よく燃えてますわ。
もう生き返ることなんざありゃしません。
どんな光魔術を使おうが。
ったく、とんでもねえことをしたもんだ!」
シノ姫「………」
シノ姫は炎に背を向ける。
従者たちに声をかける。
シノ姫「そろそろ…行きましょう…」
従者たち「はっ!」
ミナヨニは何をしたのか。
誰がどうやって彼女を殺したのか。
事件が発生したのは正午過ぎ。
◆◆ 正午 ◆◆
◆ 大君の城 ◆
城の中は祭りの準備で慌ただしい。
祭りとは、およそ1ヶ月後に控えた安寧祭。
大君と政府要職が集う大切な行事。
各国から集めた祭器で大陸の安寧を願う。
集められた祭器が祭りにふさわしいものか。
検分の儀式がこれから行われようとしていた。
検分を行うのは大君と4人の総合統合官。
総合統合官とは大君に次ぐ権力を持つ職位。
大君「参るぞ」
大君は立ち上がり、歩き出す。
4人の総合統合官が付き従う。
そのうちの1人がシノ姫。
多くの従者を連れて城を出る。
祭器が納められているのは、大宝物堂。
城から少し離れた場所にある。
カルスが城の前で待機していた。
城から出て、しばらく歩いたとき。
叫び声が聞こえてくる。
女の声「シノミワー!!!シノミワー!!!」
シノ姫「…!」
全員が声の聞こえる方を向く。
城門の方から駆けてくる1人の女。
獲物に食いかかろうとする獣のような形相。
ミナヨニ「シノミワー!!許さない!!
絶対!!許さない!!!」
シノ姫「ミナヨニ…」
護衛に当たっている大前隊員たちが前方へ。
武器を手に、壁となり、立ちはだかる。
だが、ミナヨニは物ともしない。
強烈な冷気を身にまとい、放つ。
壁となった者たちはたちまち凍りつく。
そして、ばたばたと倒れ、息絶えた。
大君も総合統合官たちも動揺を隠せない。
凍った死体を踏み越えてミナヨニは進む。
そして、ついに彼女はシノ姫と対面。
ミナヨニ「シノミワ!!あなたという人は!!
あなたという人は!!わああああ!!!!」
シノ姫「大君の前ですよ。おやめなさい」
冷静に応じるシノ姫。
ミナヨニ「許しません!私はあなたを…!
許しません!!あの子たちを…!!
あなたは…!!」
ミナヨニは魔力を一気に高める。
シノ姫に向かって放とうとする。
彼女を一撃で死に追いやるほどの冷気を。
そのときだった。
ミナヨニ「!!!?」
シノ姫は大君にすがりついた。
大君はその場から動こうとしない。
大君は何も言わずミナヨニを見ている。
声を震わせ、ミナヨニは大君に懇願する。
ミナヨニ「トキノナガ様…そこを…どうか…
お退きください…!」
大君「………」
ミナヨニ「その女は…悪しき女でございます…。
この私が…大切に育てた魔術師を…
殺めた者でございます…。
無理難題を押しつけて…
死に至らしめたのでございます。
私が手塩にかけて育てた…尊い…
尊い…魔術師たちを…!
どうか…どうか…ご理解を…賜りたく…」
大君「………」
一向に動こうとしない大君。
ミナヨニの顔を見つめている。
彼女の神経がかき乱されていく。
ミナヨニ「いけません…。
そんなこと…いけません。
大君ともあろうお方が…
そのようなことでは…いけません。
魔術は…大陸に未来を…希望あふれる未来を…
もたらしてくれるもので…ございます…。
その女は…その未来に…
その未来に繋がる道筋を…
踏みにじり…傷つけたので…ございます。
魔術の発展を…妨げたので…ございます。
これは…決して…決して…
許されることではございません。
そして…そんな女を…かばうようなことも…
許されるわけがございません…!!」
大君「………」
ミナヨニの怒りが大君に向けられた。
そのときだった。
ミナヨニ「ポ…!オ…オ…オポッ!!!?」
シノ姫「………」
硬直するミナヨニの体。
彼女の魔力が一気に失せる。
周囲の者はどよめいた。
そして、ミナヨニは奇怪な言葉を発する。
その場に直立したままで。
ミナヨニ「はらひらほれはらはらひらほれはら
はらひらほれはらはらひらほれはらはらひら
ほれひれはらひれひれほれはらひれひれほれ
ひれほらひれはらはらはらほれほれはらひり
はらひらほらほらひれひれひれほらはほほは
れりえひっひらららりらりららりら!!」
言い終えると、彼女はその場に崩れ落ちた。
シノ姫は小さな声で言う。
シノ姫「魔術院の院長といえど…
大君のお命を脅かすことは…
決して許されません」
大君「………」
動き出す大前隊員たち。
ミナヨニの死体が運ばれていく。
祭器検分の儀式は延期となった。
◆ 現在 ◆
◆ 罪人の祠 ◆
シノ姫は焼却係の男に声をかけた。
シノ姫「…ねえ」
焼却係の男「はっ!!なんでしょうか?」
シノ姫「これも…燃やしてくださる?」
シノ姫は1着の衣服を差し出した。
焼却係の男「これは…」
シノ姫「ミナヨニの魔術衣です…。
もう用済みなのです」
焼却係の男「はあ、
燃やせばよろしいんですね。
やっときます。お安い御用です」
シノ姫「…お願い」
魔術衣を受け取る焼却係の男。
シノ姫と従者たちは出ていく。
焼却係の男は渡された衣服を投げ入れた。
燃え盛る炎の中に。
その衣服の裏側。
普段は目に入らない部分。
そこに刺繍が施されていた。
赤と黒の糸でびっしりと。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ シノミワ(シノ姫) ◇
◇ レベル 41
◇ HP 822/822
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備
秘術道具(幻印、例札、思針、心糸)、高護貴帯
◇ 魔術 火弾、火砲、火刃
◇ 秘術 赤画、赤封、赤除、赤洪、赤滅
青画、青封、青跡、青結、青葬
白紋、白掃、白限、白威、白廃
黒紋、黒弦、黒貫、黒壊、黒破




