第210話 本物
戸を叩く音。
下の方から聞こえてくる。
ガシマとオンダクは部屋から出ていく。
魔灯火と武器を手にして。
アルジとエミカは彼らを追いかける。
歩きながらアルジはエミカに聞く。
アルジ「…人か?」
エミカ「うん。魔獣ではない。
それに…不自然に弱い。
この魔波…もしかして…」
階段を下りる。
裏口が見える。
ガシマとオンダクは戸を開けた。
外に立っていたのはイイナヨ。
彼女の後ろには何人もの人。
全員が布を身にまとっていた。
青い刺繍の入った灰色の布を。
ガシマ「なんだ、あんたらか」
オンダク「危険だ。こんな時間に外に出て。
建物の中にいろと言っただろ」
イイナヨ「ごめんなさい。
どうしても…あなた方に…
差し上げたいものがございまして」
ガシマ&オンダク「………」
町長のショウキが前に出てくる。
ショウキ「危険は承知しております。
我々は話し合って決めたのです。外は危険。
それでも、ここへ来る必要があると。
町の警備隊からも皆様にお話がございます」
大柄な男「ドノカ町警備隊、
隊長のユウマンと申します」
ガシマ「…上がれ。とにかくここは危ねえ」
ショウキ「はい」
ユウマン「はっ!!」
イイナヨ「失礼します」
アルジ&エミカ「………」
ぞろぞろと旅館に入ってくる町民たち。
その数24人。
宴会場に集まった。
全員が床に座る。
アルジたちは彼らと向かい合って座る。
ガシマ「で、なんだ?」
イイナヨ「こちらをどうぞ」
イイナヨは手に下げていた袋を差し出した。
その中には大きな箱が2つ。
イイナヨ「どうぞ。召し上がってください。
お口に合うといいのですが…」
ガシマ「………」
箱を開ける。
団子と干物が入っていた。
それぞれの箱にぎっしりと。
草の香りと磯の香りが広がった。
ガシマ「…うまそうだな」
イイナヨ「どちらも町の特産品でございます。
近くの山で採れる薬草を練り込んだ団子。
近くの海で漁れる魚の干物でございます。
少しでもお力になれればと思い…」
ガシマ「十分だ。心から感謝する」
イイナヨ「光栄でございます」
警備隊が勢いよく立ち上がる。
その数16人。
隊長のユウマンが声を張る。
ユウマン「本日は大変ありがとうございました!
また、大変なときに職務を投げ出してしまい…
申し訳ございませんでした…!」
オンダク「…いい。そんな謝るな」
ユウマン「しかし…!」
オンダク「あの状況は退避しても仕方ない。
お前たち、よく訓練しているのは分かる。
その体つき、鍛えていることは伝わる。
町の警備隊としては十分な戦力だと思う。
だが、今日のあの魔獣は強過ぎた」
ガシマ「戦い続けていたら全員死んだだろう」
ユウマン「…!!」
オンダク「…で、なんだ?お前たちの用件は。
まさか謝るためだけに来たわけじゃあるまい」
ユウマン「…はっ!!」
一斉に武器を掲げる警備隊員たち。
ユウマン「今夜は我々が浜辺を見張ります」
ガシマ「そうかい」
ユウマン「魔獣が現れた際は…
いち早くお知らせいたします。
この鐘の音で!」
後方の隊員が手にしていた大きな鐘を鳴らす。
その音は、ガラン、ガランとよく響く。
オンダク「うむ…」
ユウマン「今夜はゆっくりお休みください。
魔獣のことは気にせずに
明日に備えてお休みください」
アルジ&エミカ「………」
ガシマ「…分かった。
お前たちの心配り、ありがたくもらおう」
ユウマン「はっ!!!」
アルジ「ありがとう」
エミカ「ありがとうございます」
ユウマン「お気になさらず!
行くぞ!!お前ら!!!」
警備隊員たち「はっ!!!!」
部屋を出て海へ向かう隊員たち。
アルジ「よかったな。エミカ」
エミカ「ああ。
魔獣を感知しなくていいのは嬉しい」
部屋に残った町民は8人。
ショウキ、イイナヨ、ほかに6人。
6人のうち1人はナミナカ荘の経営者。
ナミナカ荘の経営者「宿はいかがですか?」
ガシマ「いい風呂だった。海がよく見えた。
小さな宿だが立派なもんだ」
ナミナカ荘の経営者「ありがたいお言葉です」
ガシマ「食材は食い荒らされちまっていたが…」
ナミナカ荘の経営者「…そうでしたか。
魔獣の仕業ですね。
下の階に客室がございます。
どうぞ、そちらもご利用ください」
ガシマ「いや、オレたちはここでいい。
寝具を運んで寝るつもりだ。
客室はお前たちが使え。
今から帰るのは危険だろう。
今日はここに泊まっていくといい。…なんて、
使わせてもらってる人間のセリフじゃねえな」
ナミナカ荘の経営者「ははは…。
町長、娘さん、私も泊まらせてもらいます。
設備について何かありましたら、
どうぞお申しつけください」
ガシマ「ああ。分かった」
経営者の後ろには5人の女が座っている。
いずれも若い。
かなり緊張している様子。
アルジ(この旅館で働いてる人たちか?
…いや、違うな。そんな感じじゃない。
オレやエミカより年下か…?
まだ学校に通ってるくらいの…
ミリと同じくらいか?)
そんな彼女たちに声をかけたのはガシマ。
ガシマ「どうした?お嬢さんたち」
イイナヨが5人の少女に目配せして話す。
イイナヨ「最後に…
皆様にお渡ししたいものが…」
ガシマ「…なんだ?」
1人の少女が前に出る。
小さな袋を懐から取り出す。
ガシマの前に差し出した。
彼女の手は緊張で震えていた。
ガシマ「…なんだ?」
少女「私は、ホウノと申します…」
ガシマ「おう」
ホウノ「…お守りを…お作りいたしました…。
皆様に…どうぞ…使っていただきたく…」
ガシマ「お守り…。そうか」
ガシマは袋をそっと開ける。
中には4つの小さな厚手の布
それぞれの布には長い紐。
首にかけられるようになっていた。
ガシマ「これは…?」
アルジ&エミカ&オンダク「………」
ホウノ「大変なお仕事と…お聞きしました…。
どうか…皆様がご無事でありますよう…
私たち…5人で一生懸命作りました…。
明日は…こちらを身につけていただけたら…」
イイナヨ「どうぞ、よろしくお願いします」
ガシマはお守りの1つを手に取る。
じっと見つめる。
ガシマ「…うむ」
それから、ほかの3つも取り出す。
アルジ、エミカ、オンダクに渡す。
アルジ&エミカ&オンダク「………」
それは、どこにでもあるような布だった。
赤と黒の糸で細かな刺繍が施されている。
ガシマ「心を込めて作ったのが伝わってくる」
ホウノ「…!」
ガシマ「オレたちを…守ってくれそうだ」
ホウノ「………」
少女たちの顔がほころぶ。
ガシマ「作ってくれてありがとな。
明日はこれを身につけて戦おう」
ガシマは早速首から下げた。
アルジ、エミカ、オンダクも首に下げる。
アルジ「どうだ?似合ってるか?」
ホウノ「大変…よくお似合いです…」
イイナヨがほほえむ。
イイナヨ「ノイ地方伝統のお守りでございます」
アルジ「伝統…」
イイナヨ「特別な力が込められております」
ガシマ「ほう…。特別な力…」
イイナヨ「赤と黒の糸…。
この糸に力が込められています。
赤は、動かす力でございます。
黒は、繋げる力でございます。
そのお守りは…
作った者がお守りをお渡した方と繋がって、
力を与えるものでございます」
エミカ「繋がって…力を与える…ですか」
イイナヨ「はい。
これは…魔力とは異なる力。
迷信だとおっしゃる方もいます。
それでも、過去に起きています。
お守りが効力を発揮した…。
そう考えなければ、説明のつかないことが。
過去に…実際に…起きているんです」
オンダク「…面白い」
ホウノ「私たちは…伝統を絶やさぬように…
幼い頃からお稽古に励んでまいりました。
いくらか…わずかばかりかもしれませんが、
そのお守りが…皆様のお役に立てると…
信じております…。願っております…」
そのとき。
エミカが気づく。
エミカ「アルジ!」
アルジ「…なんだ?」
エミカ「剣が…!」
アルジ「!!」
勇気の剣が光り始める。
薄暗い部屋の中、赤い光を力強く放つ。
アルジ「…これは!」
ガシマ「おい…なんだ…!?」
オンダク「アルジ…その剣は…一体…」
お守りも光り出す。
4人の首にかけられたお守り。
それぞれが光る。
エミカ「共鳴してる…?お守りと…!」
ガシマ「うお…!」
オンダク「この光…この感じ…見たことが…。
まさか…!」
イイナヨ「え…え…!?」
ホウノ「こんなこと…こんなことが…!」
アルジは笑みを浮かべる。
アルジ「どうやら…
あんたたちの力は本物みたいだぜ」
ホウノ「…!」
ホウノの目から涙がこぼれた。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 3603/3603
◇ 攻撃
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 防御
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力 13★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 26
◇ HP 2234/2234
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ ガシマ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 2178/2178
◇ 攻撃
36★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力 10★★★★★★★★★★
◇ 装備 練磨の大斧、金剛武道着
◇ 技 激旋回斬、大火炎車
◇ 魔術 火弾、火砲
◇ オンダク ◇
◇ レベル 35
◇ HP 2841/2841
◇ 攻撃
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 9★★★★★★★★★
◇ 装備 竜牙の長槍、超重装甲
◇ 技 竜牙貫通撃、岩撃槍
◇ 魔術 岩弾、岩壁
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 15