第208話 無心
エミカの光玉が部屋の中を照らす。
オンダク「助かる」
エミカ「…いいえ」
アルジ「犯人との戦いはどうなったんだ?」
オンダク「激しい戦いになった。
オレは槍を構えて向かっていった。
そして、勝利した」
アルジ「そうか。よかった」
エミカ「よかったです」
オンダク「だが…」
アルジ&エミカ「………」
オンダク「生かしたまま捕えられなかった。
戦いの末、オレはその犯人を殺めた」
アルジ「…そっか」
エミカ「………」
オンダク「当時のオレに実戦経験はなかった。
仲間の応援もない。1人で戦った。
恐怖心はなかったと言うと嘘になる。
攻めも守りも最初は不安を抱えながら。
ぎこちない動きで何度も敵に隙を与えた。
だが、緊張は次第に解けていく。
オレの心と体は温まってほぐれていった。
訓練のときの動きを取り戻していった。
槍術には自信があった。
地元の警備隊で随一だった。
当時はオレも若かった。
今のガシマくらいの年齢か。
相手の攻めについカッとなった。
最後は捕まえることを忘れた。
無心で槍を突き出していた」
アルジ「無心で…」
エミカ「………」
オンダク「急所をとらえる。ドスッと。
威勢よくほえていた犯人。
急に情けない叫び声。
許しを求めてくる。見逃してくれと。
だが、オレは許さない。
他人の金品を盗んでそれはないだろうと。
あのとき、オレは信じていた。
自分は正義の執行人だと。
悪を裁く者だと。
町の人々を、平和を守るため。
この槍で戦っているのだと。
オレの中に潜む戦いの獣。
それが目を覚ました瞬間だった」
アルジ&エミカ「………」
オンダク「急所に3回目の攻撃が決まったとき。
犯人は叫ぶこともなくその場に崩れ落ちた。
オレはしばらく立ち尽くす。
辺りを見回す。そして、見つける。
窃盗被害にあった家の裏口。
そこから逃げていく男の姿が。
オレが倒した犯人。その仲間と思われた。
走って追いかけて捕まえようとする。
だが、脚の痛みで満足に走れない。
犯人との戦いで負傷していた。
結果、オレはそいつを捕り逃がす。
警備隊の基地から応援がやってくる。
隊員たちが大丈夫かと聞いてくる。
なんて答えたのか。よく覚えていない。
オレはあの日、初めて犯人と戦った。
己の武器で。己の技で。
そして、倒した。
命を賭けた戦いに勝った。その興奮。
それのせいでオレはうまく思考できなかった。
そして、なかなか冷めてくれなかった。
強い熱を帯びたオレの頭と体は」
アルジ「そっか」
オンダク「あとで調べて分かった。
オレが倒した窃盗犯…
そいつは巨大犯罪組織の構成員だった。
持ち物を調べたところ、それは見つかった。
五角形の小さな板。そこに番号と名前。
会員証だ」
アルジ「会員証…?」
オンダク「ヒシホシ会。聞いたことはないか」
アルジ&エミカ「………」
オンダク「ないか。まあ、いい。
ヒシホシ会。それが犯罪組織の名前だ。
やつらは国境を越えて悪事を働いていた。
小さな町の警備隊では手に負えない。
オレたちはすぐに情報を流した。
防衛隊と大前隊に。
ヒシホシ会が活動していると。
そして、オレは…」
アルジ「…どうした?」
オンダク「派遣が決まった」
エミカ「派遣ですか」
オンダク「隣国の大都市。
そこの警備隊へ派遣されることが決まった」
アルジ「なんでそうなった?」
オンダク「隊長が取り計らってくれた」
アルジ&エミカ「………」
オンダク「オレは腑抜けになっていた。
窃盗犯を倒した、あの事件のあと。
あの日のあの興奮が忘れられなかった。
犯人をこの手で倒す、潰す。あの感覚。
平和な町での平和な日々。
刺激のない毎日。退屈な日常。
オレは少しうんざりしていた。
訓練にも熱が入らなくなっていた」
アルジ(この人も結局…戦い好きなのか)
オンダク「隊長は用意してくれた。
そんなオレを見かねて。
刺激的で新しい舞台を」
エミカ「それが派遣先の警備隊」
オンダク「そうだ。大きな町の警備隊。
オレの地元の町よりもずっと大きい。
治安が悪い。そんな都会の警備隊だ」
アルジ「そこでも犯罪者と戦ったのか」
オンダク「そうだ。最初家族は嫌がった。
行くなと。会えなくなるのは嫌だと。
だが、派遣中はいつもの倍近い収入だ。
派遣が終わったら昇進が約束されている。
そんな話をしたら妻は渋々認めてくれた。
3人の子は最後まで嫌がった。
だが、オレは旅立った。
任期は2年。必ず帰ると約束して…」
オンダクはしばらく黙る。
オンダク「派遣先の警備隊。
そこでオレは覚醒した。
町にはびこる悪党をいくつも潰した。
それが戦士として2度目の覚醒」
エミカ「1度目は…」
オンダク「さっき話した。
地元の町で遭遇した犯人との戦いだ。
そして、3度目の覚醒が…3度目が…
そうだ…3度目の覚醒は…」
アルジ&エミカ「………」
オンダクは悲しげな顔。
オンダク「派遣が始まって2ヶ月が過ぎたとき。
派遣先の警備隊が用意してくれたオレの部屋。
そこに1通の手紙が届いた」
アルジ「手紙…」
オンダク「地元の警備隊からだった。
すぐに帰ってこいと書いてあった。
町で重大な事件が起きてしまったと。
オレの家族に大変なことが起こったと」
エミカ「それが報復…ですか?」
オンダク「…そうだ」
オンダクの声は微かに震えていた。
オンダク「荷物を整えてすぐにオレは帰った。
そして、家族の遺体と対面した。4人。
厚い布に巻かれて静かに横たわっていた。
襲撃があったとき、警備隊が駆けつけてくれた。
3人の隊員が犠牲になり、犯人の1人を倒した。
犯人は全部で4人。ほかの3人は逃げたという。
倒した犯人の所持品には、五角形の小さな板」
アルジ「ヒシホシ会か」
オンダク「それから、オレは警備隊を脱隊した。
派遣ももちろん中止だ。そして、誓った。
ヒシホシ会をこの手で必ず壊滅させると」
アルジ「3度目の覚醒は…」
オンダク「大前隊に入ってからだ。
オレは自分の戦い方を根本的に見直した。
もしもあのとき…現場にオレがいたのなら…
家族を襲った悪党と…オレが対決したら…
どう戦うか。考えた結果、今の戦い方になった。
そして…その戦い方を完全に習得したとき。
オレは一隊に上がっていた」
アルジ「その戦い方って…」
オンダク「守るための戦い。大切な人たちを。
もう2度と失わない。傷つけさせない。
そのためにどうするか。何をすべきか。
考え抜いて完成させた。守りの戦術を。
かつての自分からは信じられない話だが、
今では大君の護衛も任されるようになった。
それだけの実力と信用を得ることができた。
それが3度目の覚醒だ」
アルジ「そっか」
エミカ「ヒシホシ会は倒せたんですか?」
オンダク「倒せたかどうか。これが実はな…」
アルジ&エミカ「………」
ガシマがやってくる。
彼の手には2本の細長い器具。
その上部に小さな球状の火。
魔灯火だった。
魔力の火で周囲を照らす。
点火したのはガシマ。
ガシマ「よう、上がったぞ」
オンダク「疲れは取れたようだな」
ガシマ「明日の備えが1つできた」
エミカ「魔灯火、ありがとうございます」
ガシマ「下で見つけてきた。
エミカ、その光玉、消せ。
余計な魔力を使うな」
アルジ「明日は大事な戦いがあるしな」
エミカ「そうだな」
光玉を消すエミカ。
ガシマは宴会場の2本の魔灯火を立てた。
アルジたちは床に腰を下ろす。
ガシマ「なんの話をしていた?」
オンダク「昔話だ」
ガシマ「そうか」
アルジ&エミカ「………」
オンダク「ガシマ、お前も覚えているだろ」
ガシマ「なんだ?」
オンダク「ヒシホシ会の本部。
オレたち大前隊が攻めたときの話だ」
ガシマ「忘れるわけがねえ。
あれは最悪だったな」
オンダク「確かにそうだ。最悪だ」
アルジ「最悪…?」
エミカ「……?」
温かみのある2本の魔灯火の光。
部屋の中を照らし続ける。
アルジ「最悪って何があったんだ?」
ガシマ&オンダク「………」
ガシマとオンダクは明かした。
あの日、大前隊に起きたことを。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 3603/3603
◇ 攻撃
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 防御
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力 13★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 26
◇ HP 2234/2234
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ ガシマ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 2178/2178
◇ 攻撃
36★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力 10★★★★★★★★★★
◇ 装備 練磨の大斧、金剛武道着
◇ 技 激旋回斬、大火炎車
◇ 魔術 火弾、火砲
◇ オンダク ◇
◇ レベル 35
◇ HP 2841/2841
◇ 攻撃
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 9★★★★★★★★★
◇ 装備 竜牙の長槍、超重装甲
◇ 技 竜牙貫通撃、岩撃槍
◇ 魔術 岩弾、岩壁
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 15