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アルジ往戦記  作者: roak
208/300

第208話 無心

エミカの光玉が部屋の中を照らす。


オンダク「助かる」

エミカ「…いいえ」

アルジ「犯人との戦いはどうなったんだ?」

オンダク「激しい戦いになった。

 オレは槍を構えて向かっていった。

 そして、勝利した」

アルジ「そうか。よかった」

エミカ「よかったです」

オンダク「だが…」

アルジ&エミカ「………」

オンダク「生かしたまま捕えられなかった。

 戦いの末、オレはその犯人を殺めた」

アルジ「…そっか」

エミカ「………」

オンダク「当時のオレに実戦経験はなかった。

 仲間の応援もない。1人で戦った。

 恐怖心はなかったと言うと嘘になる。

 攻めも守りも最初は不安を抱えながら。

 ぎこちない動きで何度も敵に隙を与えた。

 だが、緊張は次第に解けていく。

 オレの心と体は温まってほぐれていった。

 訓練のときの動きを取り戻していった。

 槍術には自信があった。

 地元の警備隊で随一だった。

 当時はオレも若かった。

 今のガシマくらいの年齢か。

 相手の攻めについカッとなった。

 最後は捕まえることを忘れた。

 無心で槍を突き出していた」

アルジ「無心で…」

エミカ「………」

オンダク「急所をとらえる。ドスッと。

 威勢よくほえていた犯人。

 急に情けない叫び声。

 許しを求めてくる。見逃してくれと。

 だが、オレは許さない。

 他人の金品を盗んでそれはないだろうと。

 あのとき、オレは信じていた。

 自分は正義の執行人だと。

 悪を裁く者だと。

 町の人々を、平和を守るため。

 この槍で戦っているのだと。

 オレの中に潜む戦いの獣。

 それが目を覚ました瞬間だった」

アルジ&エミカ「………」

オンダク「急所に3回目の攻撃が決まったとき。

 犯人は叫ぶこともなくその場に崩れ落ちた。

 オレはしばらく立ち尽くす。

 辺りを見回す。そして、見つける。

 窃盗被害にあった家の裏口。

 そこから逃げていく男の姿が。

 オレが倒した犯人。その仲間と思われた。

 走って追いかけて捕まえようとする。

 だが、脚の痛みで満足に走れない。

 犯人との戦いで負傷していた。

 結果、オレはそいつを捕り逃がす。

 警備隊の基地から応援がやってくる。

 隊員たちが大丈夫かと聞いてくる。

 なんて答えたのか。よく覚えていない。

 オレはあの日、初めて犯人と戦った。

 己の武器で。己の技で。

 そして、倒した。

 命を賭けた戦いに勝った。その興奮。

 それのせいでオレはうまく思考できなかった。

 そして、なかなか冷めてくれなかった。

 強い熱を帯びたオレの頭と体は」

アルジ「そっか」

オンダク「あとで調べて分かった。

 オレが倒した窃盗犯…

 そいつは巨大犯罪組織の構成員だった。

 持ち物を調べたところ、それは見つかった。

 五角形の小さな板。そこに番号と名前。

 会員証だ」

アルジ「会員証…?」

オンダク「ヒシホシ会。聞いたことはないか」

アルジ&エミカ「………」

オンダク「ないか。まあ、いい。

 ヒシホシ会。それが犯罪組織の名前だ。

 やつらは国境を越えて悪事を働いていた。

 小さな町の警備隊では手に負えない。

 オレたちはすぐに情報を流した。

 防衛隊と大前隊に。

 ヒシホシ会が活動していると。

 そして、オレは…」

アルジ「…どうした?」

オンダク「派遣が決まった」

エミカ「派遣ですか」

オンダク「隣国の大都市。

 そこの警備隊へ派遣されることが決まった」

アルジ「なんでそうなった?」

オンダク「隊長が取り計らってくれた」

アルジ&エミカ「………」

オンダク「オレは腑抜けになっていた。

 窃盗犯を倒した、あの事件のあと。

 あの日のあの興奮が忘れられなかった。

 犯人をこの手で倒す、潰す。あの感覚。

 平和な町での平和な日々。

 刺激のない毎日。退屈な日常。

 オレは少しうんざりしていた。

 訓練にも熱が入らなくなっていた」

アルジ(この人も結局…戦い好きなのか)

オンダク「隊長は用意してくれた。

 そんなオレを見かねて。

 刺激的で新しい舞台を」

エミカ「それが派遣先の警備隊」

オンダク「そうだ。大きな町の警備隊。

 オレの地元の町よりもずっと大きい。

 治安が悪い。そんな都会の警備隊だ」

アルジ「そこでも犯罪者と戦ったのか」

オンダク「そうだ。最初家族は嫌がった。

 行くなと。会えなくなるのは嫌だと。

 だが、派遣中はいつもの倍近い収入だ。

 派遣が終わったら昇進が約束されている。

 そんな話をしたら妻は渋々認めてくれた。

 3人の子は最後まで嫌がった。

 だが、オレは旅立った。

 任期は2年。必ず帰ると約束して…」


オンダクはしばらく黙る。


オンダク「派遣先の警備隊。

 そこでオレは覚醒した。

 町にはびこる悪党をいくつも潰した。

 それが戦士として2度目の覚醒」

エミカ「1度目は…」

オンダク「さっき話した。

 地元の町で遭遇した犯人との戦いだ。

 そして、3度目の覚醒が…3度目が…

 そうだ…3度目の覚醒は…」

アルジ&エミカ「………」


オンダクは悲しげな顔。


オンダク「派遣が始まって2ヶ月が過ぎたとき。

 派遣先の警備隊が用意してくれたオレの部屋。

 そこに1通の手紙が届いた」

アルジ「手紙…」

オンダク「地元の警備隊からだった。

 すぐに帰ってこいと書いてあった。

 町で重大な事件が起きてしまったと。

 オレの家族に大変なことが起こったと」

エミカ「それが報復…ですか?」

オンダク「…そうだ」


オンダクの声は微かに震えていた。


オンダク「荷物を整えてすぐにオレは帰った。

 そして、家族の遺体と対面した。4人。

 厚い布に巻かれて静かに横たわっていた。

 襲撃があったとき、警備隊が駆けつけてくれた。

 3人の隊員が犠牲になり、犯人の1人を倒した。

 犯人は全部で4人。ほかの3人は逃げたという。

 倒した犯人の所持品には、五角形の小さな板」

アルジ「ヒシホシ会か」

オンダク「それから、オレは警備隊を脱隊した。

 派遣ももちろん中止だ。そして、誓った。

 ヒシホシ会をこの手で必ず壊滅させると」

アルジ「3度目の覚醒は…」

オンダク「大前隊に入ってからだ。

 オレは自分の戦い方を根本的に見直した。

 もしもあのとき…現場にオレがいたのなら…

 家族を襲った悪党と…オレが対決したら…

 どう戦うか。考えた結果、今の戦い方になった。

 そして…その戦い方を完全に習得したとき。

 オレは一隊に上がっていた」

アルジ「その戦い方って…」

オンダク「守るための戦い。大切な人たちを。

 もう2度と失わない。傷つけさせない。

 そのためにどうするか。何をすべきか。

 考え抜いて完成させた。守りの戦術を。

 かつての自分からは信じられない話だが、

 今では大君の護衛も任されるようになった。

 それだけの実力と信用を得ることができた。

 それが3度目の覚醒だ」

アルジ「そっか」

エミカ「ヒシホシ会は倒せたんですか?」

オンダク「倒せたかどうか。これが実はな…」

アルジ&エミカ「………」


ガシマがやってくる。

彼の手には2本の細長い器具。

その上部に小さな球状の火。

魔灯火だった。

魔力の火で周囲を照らす。

点火したのはガシマ。


ガシマ「よう、上がったぞ」

オンダク「疲れは取れたようだな」

ガシマ「明日の備えが1つできた」

エミカ「魔灯火、ありがとうございます」

ガシマ「下で見つけてきた。

 エミカ、その光玉、消せ。

 余計な魔力を使うな」

アルジ「明日は大事な戦いがあるしな」

エミカ「そうだな」


光玉を消すエミカ。

ガシマは宴会場の2本の魔灯火を立てた。

アルジたちは床に腰を下ろす。


ガシマ「なんの話をしていた?」

オンダク「昔話だ」

ガシマ「そうか」

アルジ&エミカ「………」

オンダク「ガシマ、お前も覚えているだろ」

ガシマ「なんだ?」

オンダク「ヒシホシ会の本部。

 オレたち大前隊が攻めたときの話だ」

ガシマ「忘れるわけがねえ。

 あれは最悪だったな」

オンダク「確かにそうだ。最悪だ」

アルジ「最悪…?」

エミカ「……?」


温かみのある2本の魔灯火の光。

部屋の中を照らし続ける。


アルジ「最悪って何があったんだ?」

ガシマ&オンダク「………」


ガシマとオンダクは明かした。

あの日、大前隊に起きたことを。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ アルジ ◇

◇ レベル 30

◇ HP   3603/3603

◇ 攻撃

 47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★

◇ 防御

 38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★

◇ 魔力  13★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  勇気の剣、雅繊維戦衣がせんいせんい

◇ 技   円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り

◇ 魔術  雷動


◇ エミカ ◇

◇ レベル 26

◇ HP   2234/2234

◇ 攻撃  10★★★★★★★★★★

◇ 防御

  30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★

◇ 魔力

  46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★

◇ 装備  天界石の杖、濃色魔術衣

◇ 魔術  火球、火砲、火樹、火海、王火

      氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷

      雷弾、雷砲、雷柱、王雷

      岩弾、岩砲、岩壁、王岩

      光玉、治療魔術、再生魔術


◇ ガシマ ◇

◇ レベル  33

◇ HP   2178/2178

◇ 攻撃

 36★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★

◇ 素早さ

 30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★

◇ 魔力  10★★★★★★★★★★

◇ 装備  練磨の大斧、金剛武道着

◇ 技   激旋回斬、大火炎車

◇ 魔術  火弾、火砲


◇ オンダク ◇

◇ レベル 35

◇ HP   2841/2841

◇ 攻撃

  28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 防御

  39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力  9★★★★★★★★★

◇ 装備  竜牙の長槍、超重装甲

◇ 技   竜牙貫通撃、岩撃槍

◇ 魔術  岩弾、岩壁


◇ 持ち物 ◇

◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 15

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