第207話 現場
静かな宴会場。
海を見張るアルジとオンダク。
魔獣の姿は見えない。
聞こえるのは波の音だけ。
空が暗くなっていく。
縁環島の輪郭は夜の闇に溶けていく。
アルジはオンダクに問いかけた。
アルジ「あんたも目指してたのか?頂点を」
オンダク「なんの話だ?」
アルジ「さっきガシマから聞いた。
1番強い戦士になりたくて
大前隊に入ったって」
オンダク「ははっ!」
オンダクは大きな声で笑った。
その声でエミカが目を覚ます。
アルジ「…?」
エミカ「…ん…」
オンダクは海を見たまま答えた。
オンダク「オレはそんなんじゃない」
アルジ「違うのか」
オンダク「ああ、オレはあいつらとは違う」
アルジ「あいつらって」
オンダク「ガシマとエオクシだ」
アルジ「ああ」
オンダク「一応オレも三頭の1人
…ってことにはなってるが、
あいつらとオレは根本的に違う」
アルジ「何が違うんだ?」
エミカが立ち上がる。
アルジたちの方へ歩いていく。
まだ眠りから覚め切らない。
そんな足取りで。
オンダク「戦いが好きで仕方ない。
あいつらはそんな感じだ。
誰が強いのかはっきりさせたい。
力比べが面白い。そういう感じだ。
だが、オレは違う。
オレにはそういう趣味はない。
あるにはあるが、あいつらに比べたら
ほとんどないと言ってもいいようなもの」
アルジ「それなら、なんで大前隊に?」
オンダク「なんでだろうな」
アルジ「………」
アルジは少し考える。
アルジ「目的があったからか?」
オンダク「………」
アルジ「強い相手と戦いたい。
それとは違う目的があったから。
…ってことか?」
オンダク「そんなところだ」
アルジ「………」
エミカがアルジの隣に来た。
アルジ「エミカ、もういいのか?」
エミカ「よく休めたから大丈夫」
アルジ「そっか」
エミカ「もう大分暗くなったな。
外は見えないだろ。
魔獣は私の魔力で感知するから」
アルジ「無理するなよ」
エミカ「大丈夫。それより…」
エミカはオンダクを見る。
オンダク「魔獣の感知は任せた。
外を見ているのはもうそろそろ限界だ。
カルスの操縦もご苦労だったな」
エミカ「いいんです。それより…」
オンダク「…?」
エミカ「オンダクさんには子どもがいたと…」
オンダク「………」
エミカ「でも、今はもういないって…」
オンダク「ガシマか…」
エミカ「そうだ。ガシマさんから聞いた」
オンダク「…ふぅー…」
アルジ「そういやあのときの…
守れなかったって…
どういう意味なんだ?」
オンダク「………」
エミカ「守れなかった?」
アルジ「ああ。昨日、風呂で言ってたんだ」
オンダク「………」
アルジ「大切な人たちがいた。
でも、守れなかったって」
エミカ「それって…」
アルジ「ああ」
オンダク「………」
アルジとエミカはオンダクの顔を見る。
アルジ「一体何があったんだ?」
オンダク「………」
エミカ「言いにくいことなら
言わなくていいですけど」
オンダク「………」
アルジ「人に話したくないこともあるもんな」
エミカ「ああ」
オンダク「………」
オンダクはため息をつき、静かに笑った。
オンダク「お前たちの察しのとおりだ」
アルジ&エミカ「………」
オンダク「オレは家族を守れなかった。
もう昔の話だ。みんな死んでいた。
家に帰ると、強盗団に殺されていた。
オレは怒りに震え、復讐を誓った。
それが、オレが大前隊に入ったきっかけだ」
アルジ&エミカ「………」
オンダク「大前隊に憧れていたわけじゃない。
強い戦士たちと出会いたいたわけでもない。
目的を果たすには大前隊に入るのがよかった。
それだけだ」
アルジ「目的って、その強盗団を倒すことか?」
オンダク「ああ」
アルジ「なんでわざわざ大前隊に?
大前隊が強いからか?」
オンダク「それもある。
だが、なんと言っても縄張りだ」
アルジ「縄張り?」
オンダク「縄張りというものがあるからな」
アルジ「なんだ?どういうことだ?」
オンダク「町や村の事件なら警備隊が対処する。
町や村の境界を越えて事件が起きれば
防衛隊が出てくる。
そして、国境を越えるような大事件。
大前隊の出番だ。
例外もある。
だが、基本的にはこんな縄張りがある。
事件の大きさで誰が対処するのかが決まる。
あの強盗団は国境を越えて暴れていた。
巨大な犯罪組織だった。
警備隊じゃ話にならない。
防衛隊でも厳しい。
大前隊が対処する組織だった。
だから、オレは大前隊への入隊を望んだ」
アルジ「なんで…
オンダクの家族が狙われたんだ?」
オンダク「報復だ」
アルジ「報復…」
オンダク「当時オレは地元の警備隊にいた。
小さな国の、小さな町だ。
平和なところだった。
凶悪事件なんて10年に1件。そんな町だ。
訓練は厳しかったが、暮らしは静かだった。
特に豊かではなかったが、
特に貧しいと感じたこともない。
幼なじみの妻。子が3人」
アルジ&エミカ「………」
オンダク「そのときは考えもしなかった。
オレが大前隊に入ることになるとは。
この町で静かに、そして、幸せに
家族と一緒に暮らしていくんだろう。
そんなふうに思っていた。
だが、今ではどうだ。一隊の三頭だ。
精鋭の中の精鋭とともに仕事をしている。
今でもふと不思議に思うことがある。
オレは一体ここで何をしているんだろう。
これは果たして現実なのか…なんてな。
境遇の変化にオレの頭が追いついていない。
そんな感じがしている。今も。あの日から。
オレの人生は少し変わり過ぎてしまった」
アルジ「そうなのか」
エミカ「報復って…何があったんですか?」
オンダク「………」
オンダクは窓の外の海原に目を向ける。
しばらく黙り込んでから口を開いた。
オンダク「最初はなんてことない事件だ。
今思えば。なんてことない事件だ。
警備隊にいたとき、やつらと初めて会った。
平和な地元の町。1人の窃盗犯と出会う。
そいつは民家に入って金品を漁っていた。
オレはたまたま近くを巡回していた。
そうしたら住民に呼び止められた。
血相を変えてオレに助けを求めてきた。
通報だった。すぐに現場へ駆けつけた。
到着すると犯人がちょうど外に出てきた。
武装していた。オレを見ても逃げない。
武器を構えて戦おうとする。
やらなければやられる。
そんな状況になった」
アルジ&エミカ「………」
部屋の中は、ほとんど真っ暗。
エミカは小さな光玉を天井近くに放った。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 3603/3603
◇ 攻撃
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 防御
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力 13★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 26
◇ HP 2234/2234
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ ガシマ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 2178/2178
◇ 攻撃
36★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力 10★★★★★★★★★★
◇ 装備 練磨の大斧、金剛武道着
◇ 技 激旋回斬、大火炎車
◇ 魔術 火弾、火砲
◇ オンダク ◇
◇ レベル 35
◇ HP 2841/2841
◇ 攻撃
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 9★★★★★★★★★
◇ 装備 竜牙の長槍、超重装甲
◇ 技 竜牙貫通撃、岩撃槍
◇ 魔術 岩弾、岩壁
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 15