第201話 展望
◆ 都 シノ姫の間 ◆
シノ姫は伝える。
モリワクの任務の内容を。
シノ姫「みやげを届けてほしいのです」
モリワク「みやげ?」
シノ姫は後ろに隠していたものを出す。
顔の前に持ち上げて、手を放す。
からんからんと音を立て、床の上を転がる。
出てきたのは、3本の杖。
シノ姫「私の大切な友人が…
この前、遠くへ出かけてね…」
モリワク「………」
シノ姫「大変貴重な杖を持ってきてくれました。
おみやげとして。
だけど…私はこういうの使わないから…。
もっと役立てられる人に上げようと思って…」
モリワク「………」
シノ姫「届けてほしいのです」
モリワク「どこに?」
シノ姫「魔術院です。
魔術院の院長ミナヨニさんに。
この3本の杖を渡してほしいのです。
それが…あなたに与える任務です」
モリワク「そんなくだらねえことか」
モリワクは付添人に後頭部を殴られる。
その力はかなり強かった、
彼は大きくよろけ、顔をゆがめた。
モリワク「…ってえな!!」
反撃する素振りを見せたとき。
左右の付添人ががっしりと彼の腕をつかむ。
頭を殴った付添人がモリワクに告げる。
付添人A「金をやる」
モリワク「はあ?」
付添人A「報酬は弾む」
付添人は金額を告げる。
モリワクの月給の倍近い金だった。
モリワク「おいおい!いいのかよ!?
たったそれだけの任務で!
そんなにもらっていいのかよ?」
シノ姫「それだけ大切な任務なのです」
モリワク「大切って…」
モリワクはシノ姫に顔を向ける。
付添人に両腕をつかまれたまま。
シノ姫「本来は私がやるべきことなのです。
大変貴重な杖なので私が渡すべきなのです。
魔術院の院長ミナヨニさんに直接会って…。
ですが、どうしても外せない用事があって。
その用事は…大君が主催している行事です。
大切な…大切な…行事の準備があって…
大変残念ですが、私は行けません…」
モリワク「………」
シノ姫「それに今…
大変な騒ぎになってるでしょ?
太古の魔獣が大陸のあちらこちらで暴れて…
西も東も南も北も…てんやわんやで大変です。
いつどこで…何が起こるか分かりません。
魔獣の群れが現れて…再び都を襲うかも。
そうなれば、とてもとても大変です。
政府は対処しなくては…。
速く正しく動かねば…。
あなたに託すこの任務…
容易く終わるものだけど…
職位の高い役人に…
やらせるわけにはいきません…。
有事の際に必要な…状況判断…意思決定…
できなくなってしまっては…
民に不幸が訪れます。
なので…あなたに決めました。
こうしてお呼びしたのです。
大前隊に所属する…下級戦士…モリワクを…
言葉は大変悪いけど…非常事態になったとき…
いてくれなくても構わない…
政府は大して困らない…
そんなあなたが適任です…」
モリワク「けっ!そうかい…!!」
付添人A「やるのか?」
モリワク「ああ。やる。やってやろう。
ちゃんと払えよ?報酬を!!」
再び付添人に殴られる。
モリワク「ぐあ…!」
付添人B「言葉を慎め」
モリワク「…はい」
シノ姫は目を細める。
シノ姫「汚い格好…」
モリワク「は?」
シノ姫「これを着せてあげて」
付添人B「はっ」
付添人はシノ姫が出した衣装を受け取る。
そして、モリワクに無理矢理着せた。
シノ姫「うん。ちょっとよくなった」
モリワク「………」
シノ姫「魔術院の院長は…
とても優秀で、お偉い方でしょ?
ちゃんとオメカシしていかないと…」
モリワク「………」
シノ姫「あと…最後に…どうしても…
守ってほしい約束があります…」
モリワク「…なんだ…?」
シノ姫「あなたがこの杖を渡すとき…
ミナヨニさん、さまざま…
言ってくると思います。
さまざま…尋ねてくると思います。
そのときは、余計なことは言わないで…。
たった一言でいい。たった一言だけ…」
モリワク「………」
シノ姫「死んだ。そう答えてくれる?」
モリワク「…死んだ?」
シノ姫「はい!よくできました」
モリワク「死んだ…」
シノ姫「余計なことは何も言わなくていい…。
ただそれだけ。
その一言だけを伝えて。簡単でしょ?」
モリワク「おい…死んだって…どういう…」
シノ姫「考えなくていいの!余計なことは!!」
モリワク「…!!?」
シノ姫「言われたとおりにやってよ!!!
あなたそんなこともできないの!!?
それくらいできるでしょ!!?」
モリワク「………」
シノ姫「死んだと言ってくれたら…
それだけでいいから。
これこそが…あなたに与える大切な任務です。
あなたの任務成功を…心の底から祈ってます」
モリワク「………」
付添人B「ほれ」
付添人から3本の杖を渡されるモリワク。
ぬぐいきれない疑念。
杖を握る手に力が入らない。
付添人A「行くぞ」
モリワク「………」
付添人に引っ張られ、モリワクは出ていく。
城の7階から1階まで歩いて下りていく。
◆ 魔術院 院長室 ◆
ミナヨニは思索に耽っていた。
広い院長室の中、たった1人で。
今後の魔術院の体制はどうあるべきか。
魔術は人々にとってどういうものであるべきか。
10年、100年先まで考えて大きな展望を抱く。
彼女の前にはとても優美な形の机。
頬杖をつき、目を閉じている。
彼女は大切にしていた。
こうして1人で過ごす時間を。
ミナヨニ「…ふふっ…」
小さな笑い声がこぼれる。
名案が閃いた。
ミナヨニ(すごいこと考えちゃった。
副院長の新体制。
今まで1人だけだった。
それを3人にしたらどう?
その3人はもちろんあの子たち。
まだ若いけど…若過ぎることはない。
マユノの意志の強さ、サヤノの魔力の高さ、
それから、カエノの人望の厚さ。
3人が…それぞれの長所を持ち寄って、
副院長としての職務を遂行する。これ!
すごい!すごいこと考えちゃった!!
3人体制なんて…前代未聞…!
だけど…彼女たちならできる!
この経験は彼女たちの糧になる!
そして…ゆくゆくは…私の後任に…!
ああ…誰にしようかな。迷っちゃう!!)
ミナヨニはニッコリ笑う。
ミナヨニ「…あは!」
輝かしく発展し続ける魔術院。
彼女の頭の中にくっきりと浮かび上がる。
そのときだった。
扉を叩く音が部屋に響く。
ミナヨニ「なぁに?」
秘書が入ってくる。
秘書「お客様がお見えです」
ミナヨニ「今大事なところ。帰っていただいて」
秘書「それが…自分はシノ姫の使いの者だと…」
ミナヨニ「…え?」
秘書「お届けしたいものがあると申しています。
モリワクと名乗る男です」
ミナヨニはしばらく考えて返答する。
ミナヨニ「…通してあげて」
言い知れない胸騒ぎを覚えながら。
◆ カルスの上 ◆
アルジたちは見下ろす。
ノイ地方の大地を。
アルジ「代わり映えしないな」
オンダク「この辺はノイ地方でも南の方。
生えてる草や木なんかもほとんど違わない」
エミカ「近くに海が見える。
もうすぐですか?」
ガシマ「ああ。かなりいいところまで来た」
エミカの操縦は正確だった。
目的地に向かってまっすぐ飛んでいた。
ガシマ(この速さ…まったくもって予想外。
これなら…昼を過ぎる頃には着くだろう)
アルジ「縁環島って…あれか?」
オンダク「そうだ。あれだ」
遠い海原にポツンと浮かぶ小さな島。
目的の町も次第にはっきり見えてくる。
ノイ地方、旧ナモナ国領土、ドノカ町。
海岸のすぐ近くにその町はある。
オンダク「高度を…」
カルスはすでに高度を下げ始めていた。
速度を緩やかに落としていく。
エミカ「平地を見つけて着陸します」
ガシマ「もはや言うことなしだ」
町を見下ろすアルジ。
闘志を燃やし始める。
ガシマ(急にいい面構えになってきた)
オンダク(この雰囲気…あのときと同じ…。
テノハで…こいつと対面したときと…)
建物の1軒1軒がよく見えてくる。
アルジ「見たことのない形の建物ばっかりだ。
遠いところに来た感じがしてきたな」
エミカ「魔獣がいる」
アルジ「あれとか…あれか…?」
エミカ「そうだ。
ここからじゃ見えないところにも」
町の中にいたのは、奇怪な姿の化け物。
全身が銀色の鱗に覆われている。
黒くて巨大な眼球がぐるりと頭部で動く。
ヒレのついた脚で町の中を歩き回る。
人の姿はどこにもない。
ガシマ「エミカ、大体でいい。
ここから…敵が何頭いるか分かるか?」
エミカ「46頭」
ガシマ「…そうか」
オンダク「4頭しか見えないが…」
エミカ「町の向こうの方にたくさんいる。
海の方から来ている様子はない」
アルジ「やるな、エミカ」
エミカ「分かりやすい魔波を発してるから」
カルスが着陸態勢に入る。
アルジ、ガシマ、オンダクは立ち上がる。
それぞれ自分の武器を手に。
ガシマ「北へ進みながら魔獣を倒していくぞ。
住民はもう避難して町にはいなそうだが…
見つけたときは救助する。いいな」
アルジ「おう」
オンダク「ガシマとオレ、そして、アルジ。
オレたち3人で前方の敵を倒していく。
エミカ、お前は後方で…」
エミカ「戦えます」
オンダク「…何?」
エミカ「戦うための魔力なら…まだあります」
ガシマ「本当だろうな?」
エミカは魔力を高めて見せる。
ガシマ「ほう…!」
オンダク「いいだろう。エミカ、お前も戦え!」
エミカ「はい」
アルジ「頑張ろうぜ」
エミカ「頑張ろう」
武器を握りしめるガシマとオンダク。
ガシマ(見せてやる…第一隊の戦いを…)
オンダク(付いてこれるか?オレたちに…)
そして、カルスは着陸する。
4人はノイ地方の地に降り立つ。
空はどんよりとした灰色の雲に覆われている。
今にも雨が降り出しそうだった。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 3603/3603
◇ 攻撃
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 防御
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力 13★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 26
◇ HP 2234/2234
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ ガシマ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 2178/2178
◇ 攻撃
36★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力 10★★★★★★★★★★
◇ 装備 練磨の大斧、金剛武道着
◇ 技 激旋回斬、大火炎車
◇ 魔術 火弾、火砲
◇ オンダク ◇
◇ レベル 35
◇ HP 2841/2841
◇ 攻撃
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 防御
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 9★★★★★★★★★
◇ 装備 竜牙の長槍、超重装甲
◇ 技 竜牙貫通撃、岩撃槍
◇ 魔術 岩弾、岩壁
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 15