第194話 虚空
◆◆ 9年前 ◆◆
サヤノは将来の自分について語る。
彼女の合格祝いの席で。
サヤノ「私は…出世はしなくていいかな…」
ミキ「えー!どうして?」
サヤノ「私は魔術で人を幸せにしたいだけ。
苦しんでいる人を助けて幸せにしたい。
今よりももっといい治療法を考えたい。
それで、多くの人たちを喜ばせたい。
それができたら…私は十分だから」
ネヨリ「もったいない。才能あるのに」
タクタ「ドカンと偉くなってくれよ!」
サヤノ「…うーん…」
ケントが口を開いた。
ケント「そういう意志のある人が…
偉くなるべきだと思う」
サヤノ「…ケント君…?」
ミキ&ネヨリ&ナイミ&タクタ「………」
ケントはサヤノの目を見つめて続けた。
ケント「そういう人が…サヤノみたいな人が…
人の上に立って、みんなのお手本になって、
活躍してほしいと思う。
そうすることで…増えるんだと思う。
サヤノと…同じ意志を持つ人が。
それで…もっと多くの人を幸せにできる。
だから…オレは思う。
サヤノみたいな人こそが…
魔術院で…偉くなってほしいと思う」
サヤノ&ミキ&ネヨリ&ナイミ&タクタ「……」
ケント「だから…応援してる。…ずっとだ。
会えなくなるけど…ずっと…応援してる」
サヤノ「…ありがとう」
サヤノの目に涙が浮かぶ。
ミキは声を震わせて言う。
ミキ「…いいこと言うじゃんか」
ケント「これでオレも合格してりゃ…
言うことなしなんだけどな!」
ミキ「ふふっ…」
ネヨリ「あは…そうだね」
タクタ「なあ、ケント!もう1年!
オレと一緒に頑張ろうぜ?」
ケントはゆっくり首を振って言う。
ケント「いいんだ。オレはもう…いいんだ」
サヤノ&ミキ&ネヨリ&ナイミ&タクタ「……」
そして、食事会は終わる。
6人で帰り道を歩く。
道の途中で1人、また1人、違う道へ進む。
同じ寮に住んでいたサヤノとケント。
最後は、2人きりで歩く。
歩いている2人の間に言葉はなかった。
寮の前に着く。
ケント「謝らなきゃな…」
サヤノ「………」
向き合う2人。
ケント「付き合おうとか…結婚しようとか…
ごめん。無責任なこと言って本当にごめん」
サヤノ「謝ることじゃないから…」
ケント「………」
サヤノ「私もケント君のこと、応援してる。
…遠くからだけど…いつも応援してるから…」
ケント「本当に…サヤノは優しいんだな…」
サヤノ「………」
ケント「ますます…好きになっちまうよ…!」
ケントは泣いた。
別れの悲しさに。
そして、合格できなかった不甲斐なさに。
サヤノも泣いた。
2人は体を寄せ合って泣き続けた。
ケント「…サヤノ…」
サヤノ「…何?」
ケント「最後に…お願いしてもいいか?」
サヤノ「どんな…お願い?」
ケントはしばらく黙り込む。
そして、震える声で彼女に言った。
ケント「今夜…今夜だけでいいから…」
サヤノ「…うん」
ケント「オレと一緒に…いてくれないか…?」
サヤノ「………」
◆◆ 現在 ◆◆
サヤノは目に涙を浮かべる。
サヤノ「それで…その夜、私たちは…」
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「…ああ、やだな!
こんなの…人に話すことじゃないですね。
今は…別にお付き合いしてる方がいるのに。
その方と…結婚の約束までしてるのに…。
こんなお話、ダメですよね…」
サヤノは前をじっと見て話す。
サヤノ「だけど…ケントは特別で大切な人です。
手紙のやり取りもしなくなってしまったけど。
結局、彼のお菓子を食べられていないんだけど。
忘れられない…特別で大好きな思い出の人です」
アヅミナ「…聞かせてくれてありがとう」
サヤノ「…いいえ」
エオクシ「………」
サヤノ「あの…ところで…」
アヅミナ「何?」
サヤノ「少し立ち入ったことを…
聞いてしまうかもしれません」
アヅミナ「…どんなこと?」
サヤノ「エオクシさんとアヅミナさんは…」
エオクシ「ああ」
そのときだった。
サヤノ「………」
サヤノの体から力が抜ける。
まるで壊れた人形のようにその場に寝転んだ。
エオクシ「…どうした?」
エオクシが近寄り、声をかける。
だが、まったく反応がない。
彼女の目は虚空の一点を見つめていた。
カルスが大きく右にグラリと揺れる。
エオクシ「おっ」
アヅミナ「サヤノさんの魔力が…完全に消えた」
エオクシ「何!?」
アヅミナはどうにかカルスを立て直す。
だが、魔力切れ寸前。
アヅミナ「少し激しい着陸になる」
エオクシ「任せろ!」
だらりとした姿勢で寝たままのサヤノ。
エオクシは背中からがっしりと抱きかかえる。
彼女が持っていた3本の杖と一緒に。
カルスは高度を下げていく。
速度を十分に落とせないまま。
そして、着陸。
カルスの底が草原の大地に強く当たる。
1度跳ねて、もう1度当たる。
それから、ガリガリと音を立てて地上を滑る。
林に突っ込む直前でようやく止まった。
アヅミナ「…ふぅ」
エオクシ「お疲れ。なかなかのもんだったな」
アヅミナ「サヤノさんのこと、ありがとう」
エオクシ「どうってことねえ」
2人はカルスから降りて歩き出す。
目指すは管理者の館。
エオクシがサヤノを背負う。
ソネヤ「…!!」
館の扉を叩くとソネヤがすぐに出てきた。
そして、エオクシたちを見て彼は察する。
任務が失敗に終わったことを。
エオクシ「今日中に都に帰る」
ソネヤ「…そうですか」
エオクシ「今日のことは…報告しなきゃならない。
できるだけ早く…」
ハイラ「少しだけでも…休んでいかないかい?」
館の奥から現れて心配そうに声をかけるハイラ。
エオクシは首を横に振る。
エオクシ「悪いが、それもできない…」
ソネヤ&ハイラ「………」
アヅミナ「薬を…」
ソネヤ「薬…?」
アヅミナ「魔力回復薬はありませんか?
少し…私に分けていただけませんか?」
ソネヤ&ハイラ「………」
薬を譲ってもらい、館をあとにした。
ソネヤがくれたのは10錠。
それは都までの飛行に十分な量。
館をあとにする。
アヅミナは歩きながらそれを全部飲む。
草原にポツンとそびえる大樹の下。
2人は立ち止まる。
アヅミナ「しばらく待ってて。
準備ができたら声をかけるから」
エオクシ「分かった」
エオクシはうつむき加減で返事をする。
背負っていたサヤノを地面に下ろす。
彼女の顔をじっと見て声をかける。
エオクシ「おい、サヤノ。聞こえてるか?」
サヤノ「………」
エオクシの顔を見るサヤノ。
だが、彼女の目には意志が感じられない。
その一対の眼球は、まるで工芸品の象嵌。
エオクシはアヅミナの方を見る。
彼女は大樹の根の上に腰を下ろしている。
穏やかな表情で目を閉じていた。
深呼吸を繰り返している。
エオクシ「アヅミナ」
アヅミナ「………」
目を開けて彼女は言う。
アヅミナ「シノ姫に見てもらおう。
…それしかできない」
エオクシ「………」
しばらくしてアヅミナの魔力が回復する。
彼女はカルスに魔力を込めて展開する。
エオクシがサヤノを乗せて横たわらせる。
そして、3人は都へ向かう。
空を覆っていた雲は晴れていた。
夕焼け空が広がっている。
カルスは浮上し、加速する。
エオクシはちらりと巨方庭の方を見る。
北側の突き出た岩山がやけに尊大に見えた。
エオクシ「…クソ…!!」
強く拳を握った。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3451/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ サヤノ(敗者の傷痕) ◇
◇ レベル 37
◇ HP 12/12
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 1★
◇ 素早さ 1★
◇ 魔力
◇ 装備 清化印の魔杖、光心の魔道衣
◇ 魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 活汁 95