第193話 首席
サヤノは話を続けた。
サヤノ「男たちは向かってきました。
落ちていた空き瓶などを手にして。
カエノはひるまず冷静に対処します。
その姿は勇敢で…華麗で…素敵だったんです」
エオクシ&アヅミナ「………」
◆◆ 9年前 ◆◆
屈強な男たちがいきり立つ。
カエノの方へ向かっていく。
今にも殴りかかろうという形相。
カエノは涼しい顔。
サヤノ「…!!」
花が咲く。
雷の花がバチバチと音を立てて。
男たちを包囲した。
慌てる男たち。
雷撃が当たる。
1人、また1人倒れていく。
そして、全員を気絶させた。
カエノ「…ふぅ。大変ですね」
サヤノ「………」
カエノ「死なないように加減するのは」
大きな拍手が起こった。
カエノはケントの傷の手当てを始める。
膝をつき、手をかざす。
彼の顔に再生魔術をかける。
サヤノも手伝う。
カエノは小さな声でサヤノに聞いた。
カエノ「サヤノさん…でしょ?オキナ研究室の」
サヤノ「え…はい!…どうして?あなたは…」
カエノ「…私も魔術院の術師だから。
去年、正魔術師になったばかりだけど」
サヤノ「…そうなんですか」
カエノ「あなた…結構有名だよ」
サヤノ「え…そうなんですか…?」
カエノ「光術使いですごい研修生がいるって…」
サヤノ「そんな…私は…まだまだで…」
カエノ「でも、光術はなかなかじゃない」
サヤノ「これだけが…私の取り柄ですから…」
カエノ「うん…立派。噂どおりだね。
正魔術師でもなかなかいない。
ここまでできる人は」
サヤノ「そう言っていただけると…嬉しいです」
照れるサヤノにカエノは言う。
カエノ「身につけて」
サヤノ「…?」
カエノ「身を守るための魔術を…」
サヤノ「は…はい」
カエノ「さっきのような暴力沙汰…
今後もうないなんて言い切れない」
サヤノ「…はい」
ケントの傷がほぼ治ったとき。
ミキたち4人が戻ってくる。
公園の看守を連れて。
ミキ「…あれ?」
カエノは立ち上がり、看守に言う。
カエノ「この人たち…食べ過ぎたのでしょう。
お医者様のところへ運んであげてください」
看守「え…?…はあ…」
ミキ「…!」
ミキはカエノの顔を知っていた。
看守は首を傾げて倒れた男たちを見る。
カエノの仲間たちがやってくる。
仲間たちは魔術院の魔術師たち。
全員が光術の研究会に所属していた。
マユノ「…終わりましたか?」
カエノ「はい」
マユノ「大勢の前であんな雷術を…」
カエノ「…分かってますって。
以後気をつけますから」
去っていくカエノたち。
ミキはサヤノに問いかけた。
ミキ「サヤノ、何があったの?」
サヤノ「さっきの人が現れて助けてくれた。
雷術で…すごい早業で…。
魔術院の正魔術師だって」
タクタ「あの人…見たことあるぞ」
ネヨリ「うん、知ってる。えっと…」
ミキ「首席だよ!」
サヤノ「え?」
ミキ「去年の正魔術師試験の首席合格者。
光術師カエノ…」
サヤノ「え…!」
ミキ「知らないで話してたの?」
サヤノ「…うん。
再生魔術も…私より強くて。
すごい人だなとは思ったけど…」
タクタ「はっはっは。
こりゃサヤノも大物になるなぁ」
ケントが目を開ける。
ケント「うう…」
サヤノ「あっ!気づいた!」
ケント「サヤ…ノ…?オレ…どうして…」
ミキ「ぶん殴られて気絶したんだよ」
ケント「…ああ、そっか。
カッコ悪いところ見せちゃったな」
サヤノ「よかった…!治ってよかった!」
ケント「泣くなよ。大げさだな」
立ち上がるケント。
自分の両手を見つめてため息をついた。
ケント「岩弾撃ち込んでやろうと思ったのに…」
タクタ「その前に殴られちまったら意味ないぜ」
ケント「…まったくだ。
ていうか、あいつら誰が倒したんだ?」
サヤノ「助けてくれたんだよ。
魔術院のカエノさんが」
ケント「カエノ…さん。
そっか、あとでお礼を言わなきゃなぁ…」
◆◆ 現在 ◆◆
カルスの上でサヤノは話す。
サヤノ「ケントのケガはすっかり治りました」
エオクシ「よかったじゃねえか」
サヤノ「はい。ですが…」
アヅミナ「…フタでしょ」
サヤノ「はい、そうです」
エオクシ「フタ…?」
サヤノ「…はい。
アヅミナさんがお察しのとおり…。
あのとき、ケントは決定的な傷を負いました。
魔術師として…取り返しのつかない傷を…」
エオクシ「…なんだ?一体どうした?」
サヤノ「魔力のフタが閉じてしまったんです。
調子のいいときはそうでもないんですが、
大事な場面で彼は魔術を使えなくなりました」
アヅミナ「1度の失敗でそうなることもある。
克服する人もいれば、治らない人も…」
エオクシ「へえ、そんなことあんのか」
サヤノ「はい。
魔術を使うには心の安定が大切です。
彼はその安定を失ってしまった。
あの失敗体験で。
それからは、自己否定の螺旋。
ケントは陥ってしまったんです。
それは、魔術師が最も恐れるものの1つ。
できない。自分を否定する。
もっとできなくなる。
またできない自分を否定する」
エオクシ「やればやるほどダメになるわけか」
サヤノ「はい」
アヅミナ「…試験は?」
サヤノ「はい…それが…」
◆◆ 9年前 ◆◆
晩夏のある日。
都の高級料理店にサヤノたちは集まった。
サヤノの正魔術師試験の合格。
それを祝う食事会のために。
同じ研究室の6人は久しぶりに集まった。
ミキ「サヤノ、合格おめでとう」
サヤノ「ありがとう」
タクタ「まさか首席で通っちまうなんてなぁ」
ネヨリ「鼻が高い!」
ナイミ「研究室の誇りだね!」
ケント「………」
ミキ「あーあ。
結局うちで合格したのはサヤノだけかー」
タクタ「実力勝負だ。悔しいけど仕方ないぜ」
ナイミ「オキナ先生もガックリしてたんじゃない」
タクタ「いや、首席を出したんだからご満悦さ」
ネヨリ「今日も鼻歌歌ってたよ」
サヤノ「いつもの曲かな?」
タクタ「そう!いつものあれ!」
サヤノ「ふふ…」
ミキ「あー、なんかやっぱり悔しいな!」
ネヨリ「ミキはこれからどうすんの?」
ミキ「私は治療院で働く予定。
明後日、採用の面接なんだ」
ナイミ「光術使える人はいいよね。
引く手数多で…」
ネヨリ「ナイミは?」
ナイミ「私は塾の講師やる。魔術を教える塾。
オオテイ通りを抜けたところの…」
ネヨリ「ああ、あるある!そこ行くんだ」
ナイミ「うん。ネヨリはどうすんの?」
ネヨリ「もう1年頑張ってみる」
ナイミ「惜しかったもんね」
ネヨリ「あと3点ってやっぱ悔しいよ。
諦めきれないな」
タクタ「オレももう1年!」
ミキ「頑張るねぇ」
サヤノ「私にできることがあれば協力するから」
タクタ「うおー!首席が手伝ってくれんのか!」
ネヨリ「ありがたいけど、
忙しかったら無理しないでね」
サヤノ「…うん」
ケント「………」
ふと5人の視線がケントに注がれる。
ケント「オ…オレか?」
ミキ「どうするの?」
ケント「明日、田舎に帰るよ。
寮の荷物もまとめたしな!
実家の菓子屋を継ぐ予定だ」
サヤノ&ミキ&ネヨリ&ナイミ&タクタ「……」
ケントはわざと明るい声を作って話した。
ケント「明後日からいきなり修行らしいぜ?
毎朝、日の出前には起きろだってさ!
まったく…参っちまうぜ…!」
だが、最後にはその声は震えていた。
サヤノ「ケント君が作ったお菓子…食べたいな」
ケント「おう、楽しみにしててくれよ!」
ミキ「サヤノだけじゃなくて、
ちゃんとみんなの分持ってきてよね」
ケント「お…おう、もちろんだ」
しばらくの間、しんみりとする。
高級料理店の小さな個室が静まり返る。
その居心地の悪い静寂を破ったのはミキ。
ミキ「…にしてもさ、すごいよね」
サヤノ「何が…?」
ミキ「3年連続だよ。光術使いが首席合格!」
ネヨリ「そうだ。確かにそうだね」
ミキ「一昨年がマユノさん。去年がカエノさん。
それで、今年がサヤノでしょ」
タクタ「首席合格者は火術使いが多いんだよな」
ネヨリ「そうだね。
火術使える人は魔力が伸びやすいから」
ミキ「逆に合格してから伸び悩む人も多いよ。
火術使いは。
研修生のとき天才って言われてても、
正魔術師としては平凡に終わったりね。
…サヤノ、よかったね。
同年代に光術使いの偉大な先輩たちがいて」
サヤノ「うーん…。あんまりピンと来ないかな。
マユノさんもカエノさんも…
どんな方かよく知らなくて…」
タクタ「怖いらしいぜ」
サヤノ「え!?」
ミキ「マユノって人は特にやばいらしいから。
…気をつけてね」
サヤノ「そ…そうなの?」
タクタ「ああ、いつもは優しい感じなのに、
キレるとやばいらしいんだ。これが…!」
ミキ「この前は副院長に魔術書投げて叫んだとか」
サヤノ「…嘘…!」
ネヨリ「あんまりサヤノを怖がらせないでよ」
タクタ「助言だ、助言」
ミキ「知らないで怒らせちゃうよりいいでしょ」
サヤノ「怖い…」
ナイミ「それにしても
副院長に怒鳴るなんてぶっとんだ人だよね」
ミキ「なんてったって未来の院長候補だから」
サヤノ&ネヨリ&ナイミ&タクタ「………」
ミキは得意げな顔。
ミキ「歴代の魔術院院長はみんな光術使い。
院長まで行かなくても光術使いは大体偉くなる。
サヤノ、あんたも偉くなって私を支援してよね」
サヤノ「うーん…」
タクタ「オレのことも頼む!合格させてくれ!」
ネヨリ「いっつも人任せだなぁ。タクタは!」
タクタ「別にいいだろうが!
持ちつ持たれつってやつだ」
ナイミ「あんた持たれてばっかじゃん」
タクタ「…ぐっ!」
サヤノ「ふふ…」
◆◆ 現在 ◆◆
サヤノは当時のことを思い出して少し笑った。
そして、沈んでいく日の光を浴びながら言う。
サヤノ「私はそれから光術研究会に入りました。
就任式のあと、カエノに声をかけられて。
その日にマユノとも知り合いました。
私たちは主に光術について研究しました。
そして、カエノからは…
個人的に雷術を教わっていたんです。
何かあったとき、自分の身を守れるように」
エオクシ&アヅミナ「………」
マユノ、カエノ、サヤノ。
同じ研究会に属した3人は強く惹かれ合う。
互いの持つ類まれな魔術の素質に。
よく行動をともにして同じ研究に取り組んだ。
そして、いつからか呼ばれるようになる。
光術三姉妹と。
3人は蘇生魔術の研究で大きな成果を上げる。
複数人による交替制蘇生魔術を確立させた。
それは術者の負担を大幅に軽減するもの。
これにより3人は受賞した。
魔術院で最も栄誉ある賞、魔術院大賞を。
それは歴史的快挙。
アヅミナ「サヤノさん」
サヤノ「はい…」
アヅミナ「ケント君とはどうなったの?」
エオクシ(それ聞くのかよ…)
サヤノ「え…はい…。えっと…」
カルスはもう少しで出るところだった。
巨方庭の上空から。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3451/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ サヤノ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 953/961
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 清化印の魔杖、光心の魔道衣
◇ 魔術 岩弾、岩砲、王岩
雷弾、雷槍
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 活汁 95