第192話 颯爽
涙声でサヤノは言う。
サヤノ「カエノがあんなこと言わなければ…」
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「洞穴でアヅミナさんが言ったとおり…
帰ることにすればよかったんだと思います。
カエノの仮説は都合のいい仮説でしたよね。
こうだったらいいな…なんて…
ただの願望みたいな仮説で…
皆さんを振り回して…
申し訳ありませんでした」
エオクシ「いや…続行を決めたのは…」
サヤノ「…カエノです」
エオクシ「………」
サヤノ「エオクシさんにも…
大変失礼なことを言ってしまって…
あんな感情を煽るようなことを言って…」
アヅミナ「…状況が状況だったから。
マユノさんが死んでしまって…
きっとカエノさんは…」
サヤノ「そのことを弁解させてほしいんです」
アヅミナ「………」
サヤノ「カエノは決して…
正気を失ったわけではありません」
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「責任感の強い人ですから。
マユノを救おうとして、
私のことも助けようとして、
結果、無理をしたんです。
わずかでも望みがあるのなら…って
考えてしまったんです」
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「私は見ていました。
カエノが最後に笑ったのを。
カエノが最後に雷術を使ったとき…
最後の王雷を化け物に撃つとき…
私に笑いかけてくれました。驚いたんです。
だって…あのときの顔は…
同じだったんですから。
私が初めてカエノと出会ったときと…」
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「だから…カエノは…
現実が受け入れられなくなったとか、
錯乱していたとか、
そういうわけじゃありません。
カエノはカエノでした。
彼女は正気を保っていました」
アヅミナ「雷術はカエノさんとの絆…」
サヤノ「…はい。そうです」
アヅミナ「それって…どういうこと?
カエノさんと出会ったとき、何があったの?」
サヤノ「はい…」
サヤノは過去に想いを巡らせる。
そして、はにかんで言う。
サヤノ「少しだけ昔話をさせてください」
◆◆ 9年前 ◆◆
当時、サヤノは魔術院の研修生。
地方から出てきた彼女は寮で暮らしていた。
初夏のある日。
彼女は仲間たちと出かける。
海が見える大きな公園に。
彼女たちはそこで野外食事会を催した。
仲間たちは同じ研究室で知り合った研修生。
6人で集まって、肉、野菜、飲み物を買う。
公園に持ち込んで鉄板で食材を焼く。
そして、わいわいと賑やかに食べて飲んだ。
公園にはほかにも多くの人がいた。
彼らも野外食事会を楽しんでいた。
それぞれがそれぞれのやり方で。
和気あいあいと談笑していたサヤノたち。
次第に場の雰囲気は変わっていく。
仲のいい者同士が親密に会話するようになる。
ケント「サヤノ」
サヤノ「ケント君」
ケント「いい公園だろ?」
サヤノ「うん、海が見えてとっても素敵」
ケント「よかった!気に入ってくれて」
サヤノ「ケント君がここに決めたんだ」
ケント「そうだよ。ミキとも相談したんだけど」
サヤノ「そうなんだ。
計画してくれてありがとう」
ニッコリ笑うサヤノ。
その笑顔がケントはたまらなく好きだった。
頬を赤くしてサヤノを見つめる。
ケント「………」
サヤノ「もうすぐ試験だね」
ケント「ああ、そうだな。自信は?」
サヤノ「分かんない。でも、精一杯やりたい」
ケント「サヤノならきっと合格できる」
サヤノ「ありがとう。ケント君も…」
ケント「ああ、頑張るよ」
サヤノ「頑張ろうね。一緒に正魔術師になろう」
ケント「ああ。なろう!」
サヤノは感じとる。
いつもと違うケントの態度を。
どこか緊張していて、ぎこちない彼の態度を。
サヤノ「ねえ、今日どうかしたの?」
ケント「ん…?」
サヤノ「なんかいつもと違う。
そわそわして…どうしたの?」
ケント「ああ…あのさ…」
サヤノ「何?」
ケント「オレは…サヤノが…好きで…」
サヤノ「…!」
ケント「いつも…明るく…笑ってくれて…
優しくて…いつも真剣で…一生懸命で…
まっすぐで…オレは…そんなサヤノが…
好きで…すごく…好きで…
本当に…すごく…すごく…大好きで…」
サヤノ「ケント君…」
サヤノの目は潤んでいた。
ケント「だから…えっと…
もし、オレたち一緒に合格できたら…」
サヤノ「できたら…?」
ケント「…付き合ってくれないか?オレと…」
サヤノは頬を赤らめてうつむいた。
サヤノ「………」
ケント「あはっ…ダメかな…。
あれ…サヤノって…彼氏…いたっけ?」
うつむいたまま首を横に振るサヤノ。
ケント「…そ、そっか」
サヤノ「………」
ケントは彼女の顔をのぞき込み、問いかけた。
ケント「…いい?」
サヤノは小さく、1回だけコクンとうなずいた。
その瞬間、ケントは天にも昇る気持ちになった。
ケント「や…やった…!」
サヤノ「だけど…!」
ケント「…?」
サヤノ「彼氏とか…お付き合いするとか…
私…今まで…そういうの…なかったから…」
ケント「………」
サヤノ「どうしたらいいのか…
なんか…少し…心配で…
私…臆病だし…寝坊するし…
嫌われないか…心配で…」
ケント「…大丈夫だよ。
オレも…初めてだから…。
彼女ができるの…初めてだから。
心配しないで…。
一緒に…いろんなところに行こう?
それで、楽しいこととか…好きな場所とか…
2人で見つけていこう?…な?」
サヤノ「…うん」
ケント「それで…それでさ…
もし…よかったらだけど…」
サヤノ「うん」
ケント「結婚…しよう?」
サヤノ「!!?」
ケント「オレたち…結婚しよう」
サヤノ「………」
ケント「もちろん…すぐにじゃなくて…!
オレと付き合ってて…いいなって…
サヤノが思ってくれたら…
オレと…結婚してほしいんだ」
サヤノ「…あ…えっと…なんか…急で…
ビックリして…ごめん…」
ケント「ああ…オレの方こそ…。
なんか…急でごめん…。ははは…」
サヤノ「………」
ケント「…サヤノ?」
サヤノ「…はい…」
ケント「…結婚しよう?」
ほんのりと赤くなった顔のサヤノ。
その顔をほころばせて言う。
サヤノ「はい、お願いします」
ケント「やった!!」
握り拳を作り、思わず喜びの声を上げるケント。
気がつけば、ほかの4人の仲間たちが見ていた。
ケント「あ、お前らー!見てたな!」
ミキ「おめでとう」
手を叩き、祝福する4人の仲間たち。
タクタ「こりゃあ研究室公認だな」
ネヨリ「お似合いだよね」
ナイミ「どっちも光術使いだしね」
照れて頬を赤らめるサヤノとケント。
和やかなで幸せに満ちた空気に包まれる。
そんな中、ミキは気づいた。
ミキ「あれ?」
タクタ「…どうした?」
ミキ「肉…なくなってない?」
タクタ「…本当だ」
たくさん買い込んだ肉。
まだ半分も焼いていなかった。
それがごっそりと卓上から消えていた。
ケント「………」
ふと隣を見る。
男たちがたくさんの肉を焼いていた。
屈強な体つきの8人の男たち。
鉄板の上で豪快に肉を焼きまくっている。
ネヨリ「ねえ、待って。あの札…」
タクタ「…ああ」
肉の札。
肉の産地、品質を消費者に示す小さな札。
札の形で産地が、札の色で品質が分かる。
店で買うとき、容器の外側についている。
そして、男たちが今焼いている肉。
その容器には同じ札がついていた。
サヤノたちが買った肉と同じ形と色の札が。
ナイミ「こんなこと…ある?」
ケント「………」
ネヨリ「同じ産地の、同じ品質の肉を…」
ミキ「ないよ。そんな偶然…」
タクタ「…どうする?」
ネヨリ「どうするじゃなくて…
ちょっと言ってきてよ」
タクタ「…え?オレが?」
ミキ「どう見てもおかしい。タクタ、お願い」
タクタ「えー!」
サヤノ「まだ…お野菜があるから…」
ナイミ「そういう問題じゃなくて…」
ミキ「盗んだんだ…。あいつら。私たちの肉を」
ケントが前に出る。
ケント「オレが言ってくる」
サヤノ「え…?」
ミキ「ありがと」
ケント「任せてくれよ」
タクタ「頼むぜ…」
ケントは1人歩いていく。
屈強な男たちの中へ。
そして、問いかけた。
ケント「ちょっと、いいですか?」
男「あん?」
ケント「その肉…オレたちのじゃないですか?」
次の瞬間、ケントは殴り飛ばされた。
サヤノ「きゃあ!!」
ミキ&ネヨリ&ナイミ「…!!」
タクタ「やばい…!これはやばいぞ…」
周りの人たちも食事の手をとめて注目する。
だが、助けようとする者は誰もいない。
一体何が起きたのか。
果たして悪いのは誰なのか。
見定めようとする人は何人かいた。
ケント「…いてて!」
仰向けに倒れたケントの方へ歩いていく男。
男「ひっでえやつだなぁ。
人をいきなり泥棒扱いかよ」
男は転がっていた飲み物の空き瓶を手にする。
ケントに馬乗りになり、顔面を滅多打ちにした。
サヤノ「やめてください!」
タクタ「助けを呼んでくる!!」
ミキ「私も!」
ネヨリ「私も行く!」
ナイミ「看守室はあっちだよ!」
走り去る4人。
サヤノ「誰か!!助けて!助けてください!!」
ケントは気を失っていた。
そんな無抵抗の彼を男はさらに瓶で殴る。
ケントの鼻は曲がり、歯は何本も折れた。
サヤノは涙を流して助けを求める。
だが、近くの人は誰も助けようとしない。
屈強な男の暴れぶりに恐れをなしている様子。
そんなとき。
雷弾が放たれる。
遠くで見ていた魔術師の指先から。
サヤノ「!!」
キラリと光り、バチンと大きな音がする。
男は仰向けに倒れて気絶した。
1人の魔術師が颯爽と現れる。
カエノだった。
サヤノに笑いかけて言った。
カエノ「もう大丈夫」
サヤノ「……!」
◆◆ 現在 ◆◆
サヤノは当時のことを鮮明に思い出す。
サヤノ「それが…カエノとの出会いでした。
彼女が助けてくれたんです。
雷術で…助けてくれたんです」
エオクシ&アヅミナ「………」
カルスは漂うようにゆっくりと飛び続ける。
静まり返った巨方庭の上を。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3451/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ サヤノ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 953/961
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 清化印の魔杖、光心の魔道衣
◇ 魔術 岩弾、岩砲、王岩
雷弾、雷槍
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 活汁 95