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アルジ往戦記  作者: roak
192/300

第192話 颯爽

涙声でサヤノは言う。


サヤノ「カエノがあんなこと言わなければ…」

エオクシ&アヅミナ「………」

サヤノ「洞穴でアヅミナさんが言ったとおり…

 帰ることにすればよかったんだと思います。

 カエノの仮説は都合のいい仮説でしたよね。

 こうだったらいいな…なんて…

 ただの願望みたいな仮説で…

 皆さんを振り回して…

 申し訳ありませんでした」

エオクシ「いや…続行を決めたのは…」

サヤノ「…カエノです」

エオクシ「………」

サヤノ「エオクシさんにも…

 大変失礼なことを言ってしまって…

 あんな感情を煽るようなことを言って…」

アヅミナ「…状況が状況だったから。

 マユノさんが死んでしまって…

 きっとカエノさんは…」

サヤノ「そのことを弁解させてほしいんです」

アヅミナ「………」

サヤノ「カエノは決して…

 正気を失ったわけではありません」

エオクシ&アヅミナ「………」

サヤノ「責任感の強い人ですから。

 マユノを救おうとして、

 私のことも助けようとして、

 結果、無理をしたんです。

 わずかでも望みがあるのなら…って

 考えてしまったんです」

エオクシ&アヅミナ「………」

サヤノ「私は見ていました。

 カエノが最後に笑ったのを。

 カエノが最後に雷術を使ったとき…

 最後の王雷を化け物に撃つとき…

 私に笑いかけてくれました。驚いたんです。

 だって…あのときの顔は…

 同じだったんですから。

 私が初めてカエノと出会ったときと…」

エオクシ&アヅミナ「………」

サヤノ「だから…カエノは…

 現実が受け入れられなくなったとか、

 錯乱していたとか、

 そういうわけじゃありません。

 カエノはカエノでした。

 彼女は正気を保っていました」

アヅミナ「雷術はカエノさんとの絆…」

サヤノ「…はい。そうです」

アヅミナ「それって…どういうこと?

 カエノさんと出会ったとき、何があったの?」

サヤノ「はい…」


サヤノは過去に想いを巡らせる。

そして、はにかんで言う。


サヤノ「少しだけ昔話をさせてください」



◆◆ 9年前 ◆◆

当時、サヤノは魔術院の研修生。

地方から出てきた彼女は寮で暮らしていた。

初夏のある日。

彼女は仲間たちと出かける。

海が見える大きな公園に。

彼女たちはそこで野外食事会を催した。

仲間たちは同じ研究室で知り合った研修生。

6人で集まって、肉、野菜、飲み物を買う。

公園に持ち込んで鉄板で食材を焼く。

そして、わいわいと賑やかに食べて飲んだ。

公園にはほかにも多くの人がいた。

彼らも野外食事会を楽しんでいた。

それぞれがそれぞれのやり方で。

和気あいあいと談笑していたサヤノたち。

次第に場の雰囲気は変わっていく。

仲のいい者同士が親密に会話するようになる。


ケント「サヤノ」

サヤノ「ケント君」

ケント「いい公園だろ?」

サヤノ「うん、海が見えてとっても素敵」

ケント「よかった!気に入ってくれて」

サヤノ「ケント君がここに決めたんだ」

ケント「そうだよ。ミキとも相談したんだけど」

サヤノ「そうなんだ。

 計画してくれてありがとう」


ニッコリ笑うサヤノ。

その笑顔がケントはたまらなく好きだった。

頬を赤くしてサヤノを見つめる。


ケント「………」

サヤノ「もうすぐ試験だね」

ケント「ああ、そうだな。自信は?」

サヤノ「分かんない。でも、精一杯やりたい」

ケント「サヤノならきっと合格できる」

サヤノ「ありがとう。ケント君も…」

ケント「ああ、頑張るよ」

サヤノ「頑張ろうね。一緒に正魔術師になろう」

ケント「ああ。なろう!」


サヤノは感じとる。

いつもと違うケントの態度を。

どこか緊張していて、ぎこちない彼の態度を。


サヤノ「ねえ、今日どうかしたの?」

ケント「ん…?」

サヤノ「なんかいつもと違う。

 そわそわして…どうしたの?」

ケント「ああ…あのさ…」

サヤノ「何?」

ケント「オレは…サヤノが…好きで…」

サヤノ「…!」

ケント「いつも…明るく…笑ってくれて…

 優しくて…いつも真剣で…一生懸命で…

 まっすぐで…オレは…そんなサヤノが…

 好きで…すごく…好きで…

 本当に…すごく…すごく…大好きで…」

サヤノ「ケント君…」


サヤノの目は潤んでいた。


ケント「だから…えっと…

 もし、オレたち一緒に合格できたら…」

サヤノ「できたら…?」

ケント「…付き合ってくれないか?オレと…」


サヤノは頬を赤らめてうつむいた。


サヤノ「………」

ケント「あはっ…ダメかな…。

 あれ…サヤノって…彼氏…いたっけ?」


うつむいたまま首を横に振るサヤノ。


ケント「…そ、そっか」

サヤノ「………」


ケントは彼女の顔をのぞき込み、問いかけた。


ケント「…いい?」


サヤノは小さく、1回だけコクンとうなずいた。

その瞬間、ケントは天にも昇る気持ちになった。


ケント「や…やった…!」

サヤノ「だけど…!」

ケント「…?」

サヤノ「彼氏とか…お付き合いするとか…

 私…今まで…そういうの…なかったから…」

ケント「………」

サヤノ「どうしたらいいのか…

 なんか…少し…心配で…

 私…臆病だし…寝坊するし…

 嫌われないか…心配で…」

ケント「…大丈夫だよ。

 オレも…初めてだから…。

 彼女ができるの…初めてだから。

 心配しないで…。

 一緒に…いろんなところに行こう?

 それで、楽しいこととか…好きな場所とか…

 2人で見つけていこう?…な?」

サヤノ「…うん」

ケント「それで…それでさ…

 もし…よかったらだけど…」

サヤノ「うん」

ケント「結婚…しよう?」

サヤノ「!!?」

ケント「オレたち…結婚しよう」

サヤノ「………」

ケント「もちろん…すぐにじゃなくて…!

 オレと付き合ってて…いいなって…

 サヤノが思ってくれたら…

 オレと…結婚してほしいんだ」

サヤノ「…あ…えっと…なんか…急で…

 ビックリして…ごめん…」

ケント「ああ…オレの方こそ…。

 なんか…急でごめん…。ははは…」

サヤノ「………」

ケント「…サヤノ?」

サヤノ「…はい…」

ケント「…結婚しよう?」


ほんのりと赤くなった顔のサヤノ。

その顔をほころばせて言う。


サヤノ「はい、お願いします」

ケント「やった!!」


握り拳を作り、思わず喜びの声を上げるケント。

気がつけば、ほかの4人の仲間たちが見ていた。


ケント「あ、お前らー!見てたな!」

ミキ「おめでとう」


手を叩き、祝福する4人の仲間たち。


タクタ「こりゃあ研究室公認だな」

ネヨリ「お似合いだよね」

ナイミ「どっちも光術使いだしね」


照れて頬を赤らめるサヤノとケント。

和やかなで幸せに満ちた空気に包まれる。

そんな中、ミキは気づいた。


ミキ「あれ?」

タクタ「…どうした?」

ミキ「肉…なくなってない?」

タクタ「…本当だ」


たくさん買い込んだ肉。

まだ半分も焼いていなかった。

それがごっそりと卓上から消えていた。


ケント「………」


ふと隣を見る。

男たちがたくさんの肉を焼いていた。

屈強な体つきの8人の男たち。

鉄板の上で豪快に肉を焼きまくっている。


ネヨリ「ねえ、待って。あの札…」

タクタ「…ああ」


肉の札。

肉の産地、品質を消費者に示す小さな札。

札の形で産地が、札の色で品質が分かる。

店で買うとき、容器の外側についている。

そして、男たちが今焼いている肉。

その容器には同じ札がついていた。

サヤノたちが買った肉と同じ形と色の札が。


ナイミ「こんなこと…ある?」

ケント「………」

ネヨリ「同じ産地の、同じ品質の肉を…」

ミキ「ないよ。そんな偶然…」

タクタ「…どうする?」

ネヨリ「どうするじゃなくて…

 ちょっと言ってきてよ」

タクタ「…え?オレが?」

ミキ「どう見てもおかしい。タクタ、お願い」

タクタ「えー!」

サヤノ「まだ…お野菜があるから…」

ナイミ「そういう問題じゃなくて…」

ミキ「盗んだんだ…。あいつら。私たちの肉を」


ケントが前に出る。


ケント「オレが言ってくる」

サヤノ「え…?」

ミキ「ありがと」

ケント「任せてくれよ」

タクタ「頼むぜ…」


ケントは1人歩いていく。

屈強な男たちの中へ。

そして、問いかけた。


ケント「ちょっと、いいですか?」

男「あん?」

ケント「その肉…オレたちのじゃないですか?」


次の瞬間、ケントは殴り飛ばされた。


サヤノ「きゃあ!!」

ミキ&ネヨリ&ナイミ「…!!」

タクタ「やばい…!これはやばいぞ…」


周りの人たちも食事の手をとめて注目する。

だが、助けようとする者は誰もいない。

一体何が起きたのか。

果たして悪いのは誰なのか。

見定めようとする人は何人かいた。


ケント「…いてて!」


仰向けに倒れたケントの方へ歩いていく男。


男「ひっでえやつだなぁ。

 人をいきなり泥棒扱いかよ」


男は転がっていた飲み物の空き瓶を手にする。

ケントに馬乗りになり、顔面を滅多打ちにした。


サヤノ「やめてください!」

タクタ「助けを呼んでくる!!」

ミキ「私も!」

ネヨリ「私も行く!」

ナイミ「看守室はあっちだよ!」


走り去る4人。


サヤノ「誰か!!助けて!助けてください!!」


ケントは気を失っていた。

そんな無抵抗の彼を男はさらに瓶で殴る。

ケントの鼻は曲がり、歯は何本も折れた。

サヤノは涙を流して助けを求める。

だが、近くの人は誰も助けようとしない。

屈強な男の暴れぶりに恐れをなしている様子。

そんなとき。

雷弾が放たれる。

遠くで見ていた魔術師の指先から。


サヤノ「!!」


キラリと光り、バチンと大きな音がする。

男は仰向けに倒れて気絶した。

1人の魔術師が颯爽と現れる。

カエノだった。

サヤノに笑いかけて言った。


カエノ「もう大丈夫」

サヤノ「……!」



◆◆ 現在 ◆◆

サヤノは当時のことを鮮明に思い出す。


サヤノ「それが…カエノとの出会いでした。

 彼女が助けてくれたんです。

 雷術で…助けてくれたんです」

エオクシ&アヅミナ「………」


カルスは漂うようにゆっくりと飛び続ける。

静まり返った巨方庭の上を。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ エオクシ ◇

◇ レベル 37

◇ HP   3451/3692

◇ 攻撃

 49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★

◇ 防御

 44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★

◇ 素早さ

  46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★

◇ 魔力

◇ 装備  壮刃剣、戦究防護衣

◇ 技   天裂剣、地破剣


◇ アヅミナ ◇

◇ レベル 35

◇ HP   404/404

◇ 攻撃   1★

◇ 防御   2★★

◇ 素早さ

 40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★

◇ 装備  大法力の魔杖、漆黒の術衣

◇ 魔術

  火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火

  氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷

  暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、

  酷死魔術


◇ サヤノ ◇

◇ レベル 37

◇ HP   953/961

◇ 攻撃   1★

◇ 防御  11★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★

◇ 装備  清化印の魔杖、光心の魔道衣

◇ 魔術  岩弾、岩砲、王岩

      雷弾、雷槍

      光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術


◇ 持ち物 ◇

◇ 活汁 95

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