第191話 脱出
カタムラは背中を斬られて倒れた。
そばには竜の守護兵が立っている。
赤い鱗に覆われて剣を手にしている。
エオクシ(あいつは…)
考えるより先にエオクシは動いた。
駆け出して剣を振り下ろす。
重い金属音。
竜の守護兵はエオクシの斬撃を剣で受けた。
すぐにアヅミナが駆け出す。
音を立てず、黒い影のように移動。
竜の守護兵に近づいて杖を振る。
頭部目がけて暗球を飛ばす。
竜の守護兵「…グオ…」
精神操作が決まる。
竜の守護兵の動きが止まる。
エオクシが斬っていく。
壮刃剣を振り回して。
胸を。
◇ 竜の守護兵に9233のダメージ。
腹を。
◇ 竜の守護兵に8191のダメージ。
頭を。
◇ 竜の守護兵に10405のダメージ。
◇ 竜の守護兵を倒した。
エオクシ&アヅミナ「………」
溶けていく竜の守護兵を見下ろす2人。
エオクシ「こいつは最初に倒したのと…」
アヅミナ「…復活した?」
エオクシ「どうだろうな…」
カタムラを見る。
背中を深々と斬られている。
もう助からないことは明白。
アヅミナ「…カタムラが死んだ」
エオクシ「………」
草むらの中サヤノは1人震えている。
まだ温かいカエノの手を握りながら。
おびえた顔でエオクシとアヅミナを見る。
アヅミナ(起動装置を壊せるのはカタムラ。
その彼が…死んだ。任務は失敗…)
アヅミナは疲れ果てた顔。
アヅミナ「もう帰ろう…。あたしたちは…」
エオクシ「いや…まだだ」
アヅミナ「………」
エオクシはサヤノのところへ歩いていく。
座り込む彼女を見下ろす。
エオクシ「どうする…?」
サヤノに問いかける。
エオクシ「…帰るか?」
サヤノ「………」
アヅミナもサヤノの元へ。
アヅミナ「起動装置の破壊…できなくなった。
カタムラがその役目を担っていた。秘術で…」
サヤノ「まだ…分からないんじゃないですか?」
アヅミナ「………」
エオクシ「ああ…」
サヤノは立ち上がる。
魔道衣についた土を払って。
サヤノ「起動装置がどんなものか。
まだ分かりませんよね?
まだ見てないんだから。
私の王岩で、エオクシさんの剣で、
もしかしたら壊せるんじゃないですか?」
アヅミナ「………」
エオクシ「アヅミナ、見てみねえか?
魔真体の起動装置が…一体どんなものか」
アヅミナ「………」
サヤノ「私は行きたいです。そうでないと…」
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「そうしないと…」
エオクシ「ああ…」
アヅミナ「…うん」
サヤノ「マユノとカエノが…浮かばれません…」
サヤノの目からポロポロと涙がこぼれる。
エオクシ「…行こう」
3人は歩き出す。
泉から伸びた黒い水の跡をたどって。
それは林の中をまっすぐ伸びる。
巨方庭の南側から北側に向かって。
3人は横に並んで歩く。
歩きながらサヤノは言う。
サヤノ「それに、私、信じてるんです」
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「カエノの2つ目の仮説を。
装置を破壊すれば…傷は癒えて…
すべての苦しみから解放される。
秘術の力で…。
魔術にできないことが秘術にはできる。
そうです。全部元に戻るんです。
傷が治って、命が戻って。
みんなで…なぁんだって笑うんです。
ここまで来て、帰るわけにはいきませんよ」
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「さっき、赤い魔生体も復活しました。
あれはカエノの仮説を補強する事象です。
ここには特別な力が満ちているんでしょう。
亡くなった人を蘇らせる特別な力が。
だから、マユノもカエノも生き返る。
私たちが装置の破壊さえすれば。
どうでしょうか?
私、おかしなことを言ってるでしょうか?」
エオクシ「いや…」
アヅミナ「起動装置を…見てから考えましょう」
サヤノ「ワクワクしてきました」
サヤノは右手を大きく振って歩く。
左腕には3本の杖が抱えられていた。
マユノとカエノとサヤノ。
3人の杖が。
アヅミナ「…!!」
最初に感知したのはアヅミナ。
急に立ち止まる。
サヤノ「どうしました?」
アヅミナ「………」
エオクシ「おい、どうした?」
アヅミナ「…いる」
アヅミナは前方を指差す。
エオクシは彼女の指差す方を見る。
エオクシ「………」
遠くには巨石が並んでいるのが見える。
巨方庭の中心。
カタムラが手帳に配置を記録した巨石。
遠くに小さく見えている。
エオクシは目を凝らして見つける。
それらの巨石の陰に竜の守護兵を。
エオクシ「…こいつはやべえな」
サヤノも感知する。
彼女の顔から一瞬で笑みが消えた。
深い失望の表情に変わる。
サヤノ「…嫌…嫌だ…こんなの…嘘だ…」
巨石の陰からぞろぞろと竜の守護兵が現れる。
赤が7体、青も7体、白が3体。
武器を構えてエオクシたちを見ている。
サヤノ「もう…嫌っ…!!!」
エオクシ「…どうなってやがる…!
どうなってやがる!!」
その理不尽な敵の数。
憤るエオクシ。
アヅミナ「あれがもしも…もしも…
あたしたちが使った魔術も…剣術も…
すべて学習済みだとしたら…?」
エオクシ「今度こそ…やられる…!」
11体の竜の守護兵が歩いて向かってくる。
武器を手に、目を青白く光らせながら。
たまらずサヤノは叫び出す。
サヤノ「いやぁぁぁあああああ!!!」
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「帰る!!もう…帰る…!!
嫌だ!こんなの嫌だ!!
絶対!!嫌だ!!帰りたい!!
早く帰りたい!!!」
エオクシ「ああ!帰るぜ!!」
うなずくアヅミナ。
荷物入れから素早くカルスを取り出す。
11体が走り出す。
エオクシ「走ってくるぜ!!」
アヅミナ「声をかける!その場で跳んで!」
サヤノ「…!!?」
アヅミナ「膝を抱えて!できるだけ高く!!!」
エオクシ「おう!」
アヅミナはカルスに魔力を込める。
それは、全身から絞り出す最後の力。
アヅミナ「跳んで!!」
3人は跳ぶ。
アヅミナはカルスを地面に落とす。
そして、一気に巨大化させた。
3人の体が宙に浮いているうちに。
巨大化したカルスは勢いよく上昇する。
甲板に足や膝をぶつけるエオクシたち。
頭上で伸びていた木々の枝葉に背中が当たる。
頭を抱えて、伏せて、耐える3人。
林の中からカルスは浮上する。
飛行高度はすぐに木々の高さを超える。
脱出は成功した。
アヅミナ(なんとかうまくいった…)
カルスによる緊急脱出法。
非常に精密な魔力の制御が要求される。
カエノの杖がサヤノの腕からこぼれ落ちる。
サヤノ「あっ!!」
アヅミナは機敏に追いかけて、それを拾う。
サヤノ「…ありがとう」
アヅミナ「………」
エオクシは林を見下ろす。
林の中、竜の守護兵たちが立っている。
カルスをじっと見上げている。
エオクシ「気味の悪いやつらだぜ…」
カルスは不安定な飛行を続ける。
右左に揺れる。
速度が出ない。
ゆらりゆらりと宙を漂うように進む。
それが今のアヅミナにとって精一杯の操縦。
サヤノ「アヅミナさん」
アヅミナ「魔力がもう…ほとんどない。
ソネヤさんのところで薬をもらおう。
きっとあるはず…」
サヤノ「私も手伝います」
エオクシ「………」
飛行がわずかに安定する。
アヅミナ「ありがとう。でも、無理しないで」
サヤノ「はい」
サヤノの目からポロポロと涙が落ちる。
もう助からない。
マユノもカエノも。
そのことを実感して彼女は泣いた。
顔を伏せて首を振る。
何度も鼻をぐすんと鳴らす。
エオクシ&アヅミナ「………」
サヤノ「…弁解をさせてください」
涙をふいてサヤノは言う。
アヅミナ「弁解って…何?」
サヤノ「はい…」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3451/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ サヤノ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 953/961
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 清化印の魔杖、光心の魔道衣
◇ 魔術 岩弾、岩砲、王岩
雷弾、雷槍
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 活汁 95