第190話 過剰
泉に向かって歩くエオクシたち5人。
生い茂った草が行く手を阻む。
先頭のエオクシが剣で刈る。
カタムラ「ありがとうございます」
エオクシ「邪魔するものは斬り払う。
言っただろ?」
アヅミナ(…エオクシ。声に元気がない。
かなり落ち込んでるみたい。
…そうだよね。誰も死なせない。
その目標が果たせなくなったもんね。
挽回したい。取り返したい。
何か別のことで。その気持ちは分かる。
分かるけど、執着するのは危険。
とても危険なこと。
それはあなたもよく分かってるでしょ?
あたしはあえて言わないよ。忠告しないよ。
あなただって分かってるはずだから)
サヤノ「…アヅミナさん」
アヅミナ「何?」
小さな声でサヤノは聞いた。
サヤノ「薬は…魔力回復薬はありますか?」
アヅミナ「持ってないの?」
サヤノ「はい。
持っていたら分けてほしいです」
アヅミナ「あなたはもうたくさん飲んだ。
過剰摂取だから…」
サヤノ「いざというときのためです」
アヅミナ「………」
荷物入れを探るが、薬はない。
アヅミナ「………」
カエノ「薬ですか?」
アヅミナ「ええ」
カエノ「さっきの洞穴で戦ったとき、
サヤノが全部出して…」
サヤノ「あ、そうだったかも…」
カエノ「私が持ってる」
サヤノ「カエノ、少し分けて」
カエノ「………」
サヤノ「カエノ?」
カエノ「上げない」
アヅミナ&サヤノ「………」
泉の水面が見えてくる。
エオクシは剣を振って草を刈る。
エオクシ「後ろ、離れてろよ」
前へ、前へ。
泉に近づきながら草を刈りまくる。
彼に続き、4人は進む。
カタムラ「…着きましたね」
エオクシ「ああ」
目の前に小さな泉が現れる。
水は透き通っていて底がよく見える。
5人は立ち止まってしばらく眺めた。
白い光の筋は、泉の中へ伸びている。
エオクシが泉に入っていく。
エオクシ「オレが行く。
石板もおそらくあの中だ」
カタムラ「お気をつけて」
1歩、また1歩、進んでいく。
膝まで水に浸かる。
さらに進む。
エオクシはちょうど泉の真ん中に立つ。
腰まで水に浸かっていた。
白い光の筋の行き先を見下ろして確かめる。
泉の中でその光は途絶えていた。
しかし、どこにも円形の石板は見えない。
アヅミナ「薬を…どうする気?」
カエノ「あなたは王氷だけに集中してください」
サヤノ「カエノ。何を考えてるの?」
カエノ「大丈夫。大丈夫だから」
エオクシは首を傾げてカタムラに言う。
エオクシ「何もねえ!!」
カタムラ「…そうですか」
エオクシが泉の外へ出ようとしたときだった。
ゴトンと音がした。
彼は踏みつけたのだった。
正方形の図形が刻まれた円形の石板を。
それは泉の底で泥に埋もれて隠れていた。
エオクシ「…これか!!」
急いで泉から出てカタムラの元へ行く。
素早く壮刃剣を構えた。
アヅミナとカエノも杖を構える。
アヅミナ「来る!!あの木の向こう…!」
泉の向こうの木陰からそれは姿を現した。
黒い鱗に包まれた竜の守護兵がやってくる。
分厚い鎧を身にまとい、手には1本の長い槍。
エオクシ「あいつが最後の1匹か…!」
瞬時に王氷を放つアヅミナ。
強力な冷気が竜の守護兵を凍えさせる。
◇ 竜の守護兵に5233のダメージ。
カエノ「お見事です!!
もう勝ったも同然ですよ!」
アヅミナ「あなたは何を…え!?」
カエノは杖を高く掲げた。
その両端を左右の手でつかんで。
王雷の構えだった。
1発。
目が眩むような閃光。
雷鳴が巨方庭に轟く。
◇ 竜の守護兵に21119のダメージ。
カエノは素早く飲み込んだ。
10錠の魔力回復薬を。
王雷をまともに受けた竜の守護兵は動けない。
全身を大きく震わせてふらついている。
カエノは杖を掲げる。
再び王雷の構えをとる。
サヤノ「カエノ!!」
アヅミナ「そんなことしたら…!!」
カエノ「見ていてください!強いですよ!
王雷は!最強の魔術なんですよ!!」
撃つ。
王雷を。
敵が体勢を立て直す前に。
再び閃光と轟音が周囲を支配する。
◇ 竜の守護兵に24457のダメージ。
エオクシ「すげえ!!すげえが…!
大丈夫…なのか!?
こんな力…!大丈夫なのか…!!?」
カタムラ「ここに来て…なんということだ!!
化け物を…圧倒している…!!」
カエノは魔力回復薬を10錠飲んだ。
そして、3発目の王雷を見舞う。
◇ 竜の守護兵に23779のダメージ。
アヅミナ「そんなの…ダメ!」
カエノ「ほかにあるの?もっといい方法が。
ないでしょ?だからやるの!私がやるの!」
カエノはさらに魔力回復薬を10錠飲んだ。
腕を高く伸ばす。
ふるふると顔を震わせながら。
4発目の王雷を放つ。
◇ 竜の守護兵に26424のダメージ。
カエノは大きくよろめいた。
地面にへたり込む。
震える手で薬をつかみ、口にする。
サヤノが制止しようと駆け寄る。
だが、杖で追い払われた。
カエノ「邪魔しないで!!!」
サヤノ「カエノ…!!」
アヅミナ「………」
そして、カエノは魔力回復薬を10錠飲む。
地面に寝転がり、全身を激しくくねらす。
彼女の魔道衣は泥だらけになった。
魔力の回復を感じて満面の笑みになる。
アヅミナ(もう…だめだ。とめられない…)
サヤノ「…カエノ!!!」
ふらつきながら立ち上がるカエノ。
サヤノの顔を見る。
そして、優しくほほえみかけた。
カエノ「そんな悲しい顔…しないでよ」
サヤノ「カエノ…」
それから、敵に対し鋭く厳しい目を向ける。
腕を伸ばし、魔力を高め、集中させる。
そして、一気に落とす。
薬によって体にためた魔力。
そのすべてを雷に変えて。
◇ 竜の守護兵に23221のダメージ。
竜の守護兵は倒れ込む。
エオクシ「………」
カタムラ「これは…」
残りの10錠を全部口に入れる。
かみ砕き、飲み込む。
そして、叫ぶ。
カエノ「死ねえ!!!!!!!」
肩を揺らし、腕を震わせ、それでも杖は放さない。
両端をしっかりつかみ、水平に高く掲げる。
6発目の王雷を浴びせる。
◇ 竜の守護兵に24587のダメージ。
竜の守護兵は完全に動かなくなった。
◇ 竜の守護兵を倒した。
カエノはその場で跳ねて喜ぶ。
カエノ「やりました!どうですか!?
すごいでしょう?」
エオクシ&アヅミナ&カタムラ&サヤノ「……」
竜の守護兵の体が溶けていく。
泉の水が黒くなる。
その黒い水が地面に沿って伸びていく。
北の方へ。
まるで生き物のように。
くねくねと。
カエノ「さあ、行きましょうよ!」
エオクシ&アヅミナ&カタムラ&サヤノ「……」
エオクシたちは歩き出す。
黒い水の流れをたどって。
カエノ「ねえ、サヤノ…」
少しふらつきながらカエノは問いかける。
カエノ「お腹…治った?」
サヤノ「………」
サヤノは腹の傷を確かめる。
消えずに光を放ち続けていた。
悲しげな顔で小さく首を横に振る。
カエノ「そうかぁ…残念…。
私の仮説…1つ目は…ハズレか…」
カタムラ「………」
カエノの頬はこけて目はくぼんでいた。
左右に大きく体を揺らして歩く。
カエノ「…治って…くれると…
思ったんだけどなぁ…」
サヤノ「カエノ…」
表情の明るさも声の張りも失われていく。
1歩、また1歩、進むたび。
カエノ「…2つ目の仮説は…正しいといいな…」
サヤノはカエノの腕をしっかりつかんで歩く。
彼女が倒れてしまわないように。
カエノ「ああ…残念…。残念だった…なぁ…」
サヤノ「もういいから…。私は…大丈夫だから」
カエノとサヤノが遅れる。
エオクシたち3人は立ち止まって振り返る。
アヅミナが引き返して歩いていく。
カエノとサヤノの元へ。
カエノはもう歩けない。
脚に力が入らなくなる。
膝がガクガクと震え始める。
カエノ「ああ…なんだかね…。
体が…すごく重たくて…」
サヤノ「カエノ…」
アヅミナ「………」
カエノ「…さっきから…すごく…眠くて…」
アヅミナ「…飲み過ぎたんだ」
カエノ「…休んでもいい…?
ちょっと…寝るだけ…
少し…ほんの少し…眠るだけ…だから……」
うわ言のように言う。
アヅミナとサヤノが彼女の体を支える。
そして、地面の上にそっと寝かせる。
仰向けになったカエノ。
ぼんやりと言葉を口にする。
カエノ「…あー…いい気持ち……」
アヅミナ&サヤノ「………」
ゆっくりと目を閉じる。
そのままカエノは息を引き取った。
一瞬、サヤノは蘇生を試みようとする。
アヅミナが釘を刺す。
アヅミナ「…無理。今のあなたの魔力じゃ…」
サヤノ「…カエノ…カエノ…」
サヤノはポロポロと涙をこぼして泣いた。
泣きながら彼女は手を伸ばす。
小刻みに震える手で2本の杖を取り上げた。
1本は、カエノの杖。
もう1本は、マユノの杖。
サヤノは2本の杖を強く抱きしめてうずくまる。
エオクシ「…行こうぜ。オレたちも」
カタムラ「そうですね…」
エオクシはカエノの元へ行く。
彼女の亡骸を抱き上げる。
深い茂みの中にそっと寝かせた。
そのとき。
カタムラ「おわぁあああああ〜〜〜〜〜!!!!」
◇ カタムラに7683のダメージ。(HP766→0)
◇ カタムラは死んだ。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3451/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ サヤノ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 953/961
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 清化印の魔杖、光心の魔道衣
◇ 魔術 岩弾、岩砲、王岩
雷弾、雷槍
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 活汁 95
◇◇ 敵ステータス ◇◇
◇ 竜の守護兵(黒) ◇
◇ レベル 40
◇ HP 124447
◇ 攻撃
60★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 秘力 11★★★★★★★★★★★
◇ 装備 黒竜の大槍、黒竜の鎧
◇ 魔術 火弾、火砲、火蛇、王火
◇ 秘術 黒装、黒衝