第186話 信頼
困った顔でマユノは問いかける。
マユノ「どうして…ですか?」
アヅミナは強い口調で答える。
アヅミナ「今、あたしたちが何を優先すべきか。
あなたも分かってるよね」
マユノ「………」
アヅミナ「みんなで任務を遂げること。
それが今最もやらなきゃならないこと。
あなたのその提案は…
任務より個人を優先するもの。
そんなのダメ。
そういうことするとみんなの命が危ない。
敵が弱ければいいと思う。
やってみてもいいと思った。
だけど、分かるでしょ?
ここに出てくる敵の強さは」
マユノ「………」
アヅミナ「あなたのその考え、
完全に否定するつもりはない。
エオクシは治った。
でも、サヤノさんは治らない。
確かにこのことは変だと思う。
何か原因があるとすれば、
あなたの考えはあり得ることだと思う」
マユノ「それなら…協力してほしいのです。
アヅミナさん、あなたの魔力があれば…
あなたの王火で。あなたの王氷で」
アヅミナ「ダメ。
さっきも言ったけど、命が危ない。
そういうことをすると、
みんなの命が危ないの。
竜の化け物は…みんなで…全力で倒す。
それだけ。考えるのは、倒すことだけ。
余計なことはしない。考えない。
そうしないと…命が危ない。
それぐらいあの化け物は強い。
分かるでしょ」
マユノ「サヤノの王岩、見ましたよね?」
アヅミナ「………」
マユノ「サヤノだって十分に戦えます。
破壊力で言えば、私の王氷よりも強い。
それにもちろん…
サヤノ1人で戦わせるつもりはありません。
最後の一撃。とどめを刺す。
それだけでいいのです。
それをサヤノにやってもらえれば…
化け物を倒せば…それで…
傷は消えるかもしれないのです」
サヤノ「マユノ…」
マユノ「心配しなくていいから。
私が王氷で弱らせるから。
敵が動けなくなったところを攻撃して。
あなたのとっておきの王岩で…!」
アヅミナ「あなたの王氷で弱らせるのは…
無理だと思う」
マユノ「どうして?」
アヅミナ「次の敵は…
東の洞穴で待ち受ける竜の化け物は…
あなたの王氷も見破ってくると思うから。
あたしの魔病感染が見破られたように…」
マユノ「それなら!それならなおさらです!」
アヅミナ「………」
マユノ「あなたの王火で!王氷で!
弱らせてください!」
アヅミナ「………」
マユノ「動けなくなったところをサヤノが…!
それだけです!それだけのことなんです!
お願いします!お願いしますから!
あなたの力を…どうか…!!」
アヅミナ「あたしが協力したところで…
サヤノさんが倒してくれるか分からない」
サヤノ「…!!」
マユノ「そんな…!」
アヅミナ「さっき、あたし見てた。
建物から出ていくとき。
竜の頭の敵を目の前にしたら…
彼女が萎縮するの…はっきり見えた。
とがめるつもりはない。
萎縮してしまったこと自体を。
あれだけの強い敵…。
経験が少なければ気圧されて当然だから。
だけど、あなたの言う作戦を実行して…
最後の最後…サヤノさんが戦うとき…
敵を目の前にしたとき…何かの拍子に…
フタが閉じてしまったら…」
マユノ「サヤノは…!!
そんな未熟な魔術師ではありません!」
大きな声でマユノは言い返した。
アヅミナ「………」
フタが閉じる。
不安や緊張のために魔力が使えなくなること。
魔術院正魔術師試験の実技試験でも見られる。
緊張のあまり急に魔力を出せなくなる者が。
エオクシが口を開く。
エオクシ「オレがやる」
マユノ&サヤノ「………」
エオクシ「オレがギリギリまで弱らせてやる。
動けなくなったところを確実に仕留めろ」
アヅミナ「できるの?」
エオクシ「…何?」
アヅミナ「そんなこと本当にできるの?」
エオクシ「やるしかねえだろ」
アヅミナ「さっきだって苦戦してたじゃない。
しかも、とどめを刺さないで…
ギリギリまで弱らせる?
本当にそんなことできるの?
やり遂げる自信はあるの?」
エオクシ「うるせえな。
やるっつったらやんだよ!」
アヅミナ「無理。死ぬ。そんなことしたら。
誰かが死ぬ。あなたじゃなくてもこの中の…」
そのときだった。
マユノ「調子に乗るな!!!」
アヅミナ「…え…?」
カエノ「…マユノ…!」
カエノの制止を振り切ってマユノは叫んだ。
マユノ「調子に乗るな!!さっきから!!」
アヅミナ「…!」
マユノ「自分が少し強いからって!!
自信があるからって!!
戦い慣れしてるからって!!
調子に乗るな!!」
アヅミナ「あたしは…!」
マユノ「あなたは私たちのことを信じてない!
私たちの魔術を信頼してない!!
信用してないんだ!!
最初から…あなたは思ってない!!
思ってなかったんだ!私たちのことを!!
仲間だなんて思ってないんだ!!」
アヅミナ「……!」
マユノ「私たちのこと少しも信用してないんだ!
私は分かってた!!ここに来るときから!!
気づいてた!!ずっと気づいてた!!!
あんたは私たちを馬鹿にしてる!!
見下してる!!声に出さなくても分かる!!
あんたの顔!!目!!見ていれば分かる!!
魔獣と戦ったことのない私たちを見て!!
あなたは馬鹿にしてた!!ずっと!!」
アヅミナ「あたしは別に…!そんな…!」
マユノの目に涙が浮かぶ。
マユノ「シノ姫に見てもらう?
治せるかもしれない?
バカなこと言わないで!!
全部あんたの想像じゃない!!
そんな無責任なこと言って、
治せなかったらどうするの?
責任取れるの!?
ソネヤさんの話、聞いてなかったの!?
光る傷を負った人は死んだ!
食べることをやめて死んだ!!
話すこともできずに!!
ただ生きて、眠って、死んだ!!
そんなの嫌!!
サヤノがそんなふうになるなんて…
絶対に嫌!!」
サヤノ「マユノ…」
アヅミナ「………」
涙を流しながらサヤノはマユノに言う。
サヤノ「もう…やめて…。アヅミナさんは…」
マユノ「サヤノ、あなたのためなんだよ。
あなたが…元気に任務を終えて…
無事に都に帰るためなんだよ」
サヤノ「うん、いいから。気持ちは嬉しいから。
だけど、いいの。本当に。もういいから…。
さっきアヅミナさんの言ったことは…本当。
青い竜の化け物を見たとき…
驚いて、体が動かなくなって…
だから、青い光線も避けられなかった」
マユノ「サヤノ、そんなこと言わないで。
そんなふうに言わないで。
あなたは…悪くないんだから」
サヤノ「…責めないで。
アヅミナさんをそんなに…。
アヅミナさんは…考えてくれてる。
私のことも…。みんなのことも…」
マユノ「…サヤノ。どうして…?
どうしてそんなこと…」
マユノはアヅミナをにらみつける。
マユノ「…何かした?」
アヅミナ「………」
エオクシ「…!」
マユノ「アヅミナさん、あなたはサヤノに…
何かしたんじゃないんですか?」
アヅミナ「…あたしは…何も…!」
今度はサヤノの方を見て問いかける。
マユノ「ねえ、サヤノ。何か…されなかった?」
サヤノ「………」
マユノ「あの人に…触れられたりしなかった?」
サヤノ「…!!」
マユノ「精神操作…。闇の魔術…。
知ってるでしょ?」
アヅミナは叫んだ。
アヅミナ「ひどいっ!!!!」
マユノ「………」
アヅミナの目から涙。
アヅミナ「あたしが…!!そんなこと…!
ひどい…!!」
彼女は両手で顔を覆い隠す。
エオクシの後ろに隠れた。
マユノ「………」
エオクシ「…よう」
マユノ「…エオクシ」
燃えるような目でマユノを見るエオクシ。
エオクシ「…ねえんじゃねえか?
最後のあれは…!」
マユノ「……!!」
重く、長い沈黙。
青い光の筋は巨大な岩に向かって伸びる。
エオクシ「………」
カタムラ「…困りましたね…」
マユノ&カエノ&サヤノ「………」
エオクシが口を開く。
エオクシ「なあ、カタムラさん」
カタムラ「はい」
エオクシ「あんたが…決めてくれねえか?」
カタムラ「私が…?」
エオクシ「マユノの言ってることも…
もっともな気がする。だが…
どれくらいやってみる価値があるのか。
オレには分からねえ。
傷が確実に治るならやるべきだと思う。
五分五分で治る見込みがあるなら…
それでもやってみるべきじゃねえか…
とオレは思う」
カタムラ「…はあ」
エオクシ「遺跡の専門家のあんたから見て…
どうだ…?竜の化け物をサヤノが倒せば…
傷は治りそうか?やるか、やらねえか。
あんたが決めてくれねえか?」
考え込むカタムラ。
カタムラ「…困りましたね…」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3451/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ マユノ ◇
◇ レベル 36
◇ HP 1176/1181
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 装備 蒼天想の魔杖、来陽の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷裂、氷波、王氷
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ カエノ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 1084/1103
◇ 攻撃 3★★★
◇ 防御
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 装備 超放気の魔杖、連星の魔道衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷破、雷花、王雷
氷弾、氷矢
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ サヤノ ◇
◇ レベル 36
◇ HP 953/961
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
43★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★
◇ 装備 清化印の魔杖、光心の魔道衣
◇ 魔術 岩弾、岩砲、王岩
雷弾、雷槍
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ カタムラ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 766/766
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 9★★★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力 3★★★
◇ 装備 魔鉱石の短剣、秘術道具(空球)、
探検用強化研究衣
◇ 魔術 光玉、治療魔術
◇ 秘術 青珠
◇ 持ち物 ◇
◇ 活汁 95、魔力回復薬 80