第18話 奥義
タラノスは語る。
アルジの目を見ながら。
胸の底から絞り出すような声で。
タラノス「すまなかったな…。アルジ…。
ひどいことを…たくさん言ってしまったな…」
アルジ「…いいって」
タラノス「人は誰しも…清らかな心と…
邪な心を持っている…。
さっきは先生の邪な心が…増幅されていた…。
邪悪な魔術によって…普段なら出てこない…
先生の…邪な心が…表に出てしまった…。
だから…あんなひどいことを言ってしまった。
さっきまでの言葉…そして、態度…
すべて…撤回させてくれ…許してほしい…。
すまなかった…本当にすまなかった…アルジ」
アルジ「…いいって」
タラノス「先生は…あの日…ゼゼ山で死んだ…。
ヤマグマに…倒されて…1度…死んだ。
だが…1人の魔術師に…救われた…。
近くにいた…魔術師が…魔術で…
死んだオレを…救ってくれたのだ…。
1人の…魔術師の…1度の…魔術で…
オレは…生き返り…救われたんだ…。
失った命を…取り戻すことが…できたんだ」
アルジ「………」
タラノス「…だが…それは…錯覚だった…!
生き返ることができた…よかった…
そうじゃない…!
やつの…悪しき魔術によって…作られた…
偽りの…命…だったのだ…!」
アルジ「偽りの命…」
タラノス「そうだ…!体を作り替えられ…
心を操られ…できあがったのは…
本当の自分とは…似て非なるもの…
非道な小悪党に…なってしまった…」
アルジ「………」
タラノス「だが…魔術のせいとはいえ…
犯した罪は犯した罪だ……。
もうじき…オレも…死ぬ…。
これでようやく…少しは償える気がする…
重い…とても…とても…重い罪を…」
アルジ「………」
タラノス「弟子たちにも…ひどいことをした…」
アルジ「いや、弟子を倒したのは…オレだ…!」
タラノス「それは別に…いいんだ…アルジ…。
自分と…仲間を守るため戦ったのだから…。
むしろ…よく…やった…。あの斬撃だ…。
あいつらも…苦しまずに済んだことだろう。
これからも…仲間は…大事に…しろ…。
トアと…マサは…本当に…残念だったが…」
アルジ「………」
タラノス「あの弟子たちも…
魔術によって…操られていたのだ…。
正気では…なかったのだ…。
オレが…洗脳を…解くことが…できれば…
こんなことに…ならずに…済んだのだが…。
本当に…あいつが…許せない…。
オレを…こんなふうにした…あの魔術師が!
あの…魔術師が!あの…魔術師が!!」
強い風が吹く。
辺りの木々がざわざわと揺れる。
タラノスはアルジに告げる。
その魔術師の名を。
タラノス「魔術師の名は…マスタス…!」
アルジ「…マスタス…!」
エミカ(やっぱり…)
タラノス「あいつだ…!村に現れた…魔術師…
3人の…あの中の…1人が…やつだ…!」
アルジ「!!」
タラノス「アルジ…やつを…倒してくれ…。
アルジ…お前なら…きっと…できる…。
オレのような者が…もう…出ないように…。
やつの魔術で…悲しむ者が…減るように…!
…マスタスの…魔術には…気をつけろ…!
やつの魔術は…異質だ…!やつの魔術は…
やつの魔術は…!やつの魔術は……!
やつの…魔術は…!!」
再び風が吹く。
さっきよりも冷たく、強い風が。
木々が騒々しくざわめき立つ。
タラノスもアルジも押し黙る。
得体の知れない怪物。
その予期せぬ到来をやり過ごすように。
息を潜めて口を閉じる。
しばらくすると、風はやむ。
木々の揺れも収まる。
辺りが静まり返る中、タラノスは告げる。
自分にかけられた悪しき魔術の名を。
生き返らせて、力を与えて、心を操る。
一連の事件の元凶となった魔術。
その名前を。
タラノスは、かっと目を見開く。
口を大きく開けて言う。
かすれ切った、か細い声で。
アルジは意識を集中させる。
そして、確かにその魔術の名前を聞いた。
タラノス「変態…魔術…だ…!」
アルジ「…!!?」
タラノス「やつの魔術…
その名前は…変態魔術…!!!
マスタスの…変態魔術…!
こいつには…気をつけろぉ…!」
アルジ「変態魔術…!」
タラノス「対象者の状態を一変させる…
恐ろしい魔術だ…。
思考も…行動も…能力も…変えてしまう…!
ほとんど…やつの…意の…ままに………!
あれには…気をつけろ…!」
アルジ「…分かった」
タラノスは力なく笑う。
タラノス「それにしても…アルジ…
強くなったなぁ…。本当に…強くなったな…。
もう…明らかに…オレを…超えている…。
だが…もっとだ…強くなる…もっと…。
そして…お前なら…やれる…きっと…な…。
なぜなら…カハッ!!カハッ!!カハッ!!」
アルジ「…大丈夫か!?」
タラノス「ああ…ああ…大丈夫…。
お前なら…やれる…なぜか…?
お前は…選ばれたからだ…。
勇気の剣に…選ばれたから…だ」
アルジ「………」
タラノス「お前が…弟子たちを斬る中で…
最後に見せた技…あれが…何よりの…
証明だ…!」
アルジ「あの技は…一体…」
タラノス「過去に…読んだことがある…。
勇気の剣には…奥義が…あるのだと…。
本当に…剣に…選ばれた者…だけが…
使える奥義が…あるのだと…!
勇気の剣が…真の使い手と…認めた者しか…
繰り出せない…強力な…技が…あるのだと…!
あの技は…まさに…それだったんだと思う…。
その…技の…名前は…!技の…名前は…!
技の………!!名前は………!!!!」
タラノスはアルジに告げる。
その奥義の名を。
弟子たちを倒したあの技の名を。
恐ろしくも美しい連続攻撃。
その名前を。
タラノス「剛刃波状斬撃…!」
アルジ「剛刃…波状…斬撃…!」
タラノス「そうだ…それが…その…技の…名前…
カハッ!!…カハッ!!カハッ!!カハッ!」
アルジ「せ…先生!」
タラノス「もう時間が…ない…みたいだ…。
間もなく…マスタスの…変態魔術の…
効力が…完全に…尽きるだろう…
その前に…こうして…話せて…よかった…」
アルジ「先生の雷神剣も…強かった」
タラノス「はは…そうか…ありがとな…。
だが…あれも…結局は…マスタスの力…だ。
実は…感電剣という技を…オレは考えていた。
斬られた相手は…ビリっと痺れて…
動きが止まる…。そんな…技だ…。
長年…練習して…ようやく…覚えたのが…
そんな…ちんけな魔術だ…」
アルジ「………」
タラノス「ヤマグマと戦うとき…使おうとした。
だが…その前に力で圧倒されて…しまった…。
お前たちにも…いつか見せたい…。
そう思っていたんだが…。
マスタスは…オレに魔力を与えた…。
感電剣を…雷神剣に…仕立て上げた…。
オレはその技を…正しいことに…使えたら…
よかったの…だが…グハ!!!グハッ!!
グハッ!!!グハッ!!!!」
アルジ「先生!」
タラノス「もう…お別れの時が来た…ようだ…。
じゃあな…お前なら…必ず…勝てる…!
そして…安定の玉を…取り…返せ…!!」
タラノスはがくりと力尽きた。
◇ タラノスは死んだ。
アルジ「先生―!!」
廃村ダブカにアルジの叫び声が響き渡る。
数羽の鳥が驚いて木の枝から飛び去った。
ゆらりとよろめき、アルジは立ち上がる。
◇ アルジは剛刃波状斬撃を習得した。
エミカ「…大丈夫か?」
アルジ「ああ…大丈夫」
エミカ「財宝があるかもしれない。
カクノオウの館に…。
カサナ家から奪った財宝が」
アルジ「そっか…そうだな。運び出そう」
エミカ「運び出してどうする?
返す相手はもういない…。
…旅の資金にでもするか?」
アルジ「資金…そうだな…」
エミカ「でも…やっぱり…
勝手に使うのはどうだろうな…」
アルジ「………」
エミカ「アルジ?」
アルジ「なあ、1つ考えがあるんだけど」
エミカ「考え?」
アルジ「ああ。言っても…いいか?」
エミカ「なんだ?」
アルジ「寄付したい」
エミカ「誰に?」
アルジ「ワノエ警備隊だ」
エミカ「財宝を…か?」
アルジ「ああ。…だめか?」
エミカ「いや…。でも…」
アルジ「警備隊に…財宝を全部…寄付するんだ。
そうすれば、よくなっていくんじゃないか?
その金を使って、いくらか警備が強くなれば…
もっと町の人たちも安心して暮らせるはず。
協力金なんて…ふざけたものもなくなるはず。
少しでも…助けになればいいと思うんだ」
エミカはきょとんとした顔で話を聞いた。
しばらく黙ってから、うなずき、答える。
エミカ「…分かった。その考え、賛成するよ」
アルジ「本当か!ありがとう。今度は…」
エミカ「?」
アルジ「何か…金になる仕事をしようぜ」
エミカ「それも賛成だ」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 8
◇ HP 98/347
◇ 攻撃 12★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 6★★★★★★
◇ 素早さ 8★★★★★★★★
◇ 魔力 2★★
◇ 装備 勇気の剣、革の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃
◇ エミカ ◇
◇ レベル 6
◇ HP 11/192
◇ 攻撃 3★★★
◇ 防御 3★★★
◇ 素早さ 7★★★★★★★
◇ 魔力 9★★★★★★★★★
◇ 装備 術師の杖、術師の服
◇ 魔術 火球、火砲
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 8