第178話 飛行
ガシマはカルスを放り投げた。
宙で孤を描き、エミカの手に渡る。
ガシマ「恐れるな。まずはやってみろ」
エミカ「実践…」
アルジ「大丈夫だ」
エミカ「………」
ガシマ「魔力を込めろ。それだけでいい。
あとは勝手に展開してくれる」
エミカ「勝手に…」
オンダク(魔力が足りねえと、
ピクリとも動かねえんだがな…)
エミカはカルスを手のひらに乗せて見つめる。
エミカ(…できるだろうか)
カルスに意識を集中させる。
強力な魔力がカルスに注がれる。
アルジ&ガシマ&オンダク「!」
カルスはたちまち巨大化。
4人が乗れる大きさになる。
エミカの手を離れ、ふわふわと浮いている。
エミカ「これでいいのか?」
ガシマ「上出来だ」
アルジ「やったな!」
エミカ「よかった…」
ガシマ「これで安心するな。
まだ展開できただけ。
…飛行型魔生体を動かしたことは?」
エミカ「小さいのを1度だけ」
エミカは思い出す。
北土の魔術研究所で動かした魔籠のことを。
ガシマ「基本的に同じだ」
エミカ「同じ…」
ガシマ「思いを込めて魔力を注げ。
カルスがそのとおり動くように。
特別な技術は必要ない。
魔生体カルスはそのようにできている」
エミカ「やってみる」
ガシマ(…って、
送迎係から聞いただけだけどな!)
アルジたち4人はカルスに乗る。
エミカはさらに魔力を込める。
機体が高く浮かび上がる。
エミカ「…!!」
右に大きく傾く。
アルジ「うおっ」
次に、左に大きく傾く。
ガシマ「…おわっ」
オンダク「ぐおお」
揺れながら上昇。
ピタリと空中で止まる。
エミカ「…ふう…」
アルジ「…大丈夫か?」
エミカ「なんとか。
少し感覚が分かってきたかも!!」
アルジはカルスの下を見る。
アルジとエミカが周りを歩いた大きな池。
今はもう、その全体の形が一目で分かる。
ガシマ「練習といこう」
エミカ「練習…ですか」
ガシマ「ここから北の方へ進め。
遠く向こうの方…。
とがった山が見えるだろう」
エミカは見つける。
遠くにぼんやりと見えるその山を。
エミカ「…ああ」
ガシマ「あれに向かってまっすぐ進め。
そこに宿がある」
アルジ「…宿?」
ガシマ「ああ。特別な宿だ」
アルジ「こ…特別なのか!!」
オンダク「でかい温泉がある。飯もうまい」
アルジ「温泉…うまい飯…楽しみだ!!」
エミカ(アルジ…お気楽過ぎる…!)
エミカは真剣な顔で前を見る。
魔力をさらにカルスに注ぐ。
より強く。
前へ進めと思いを込めて。
動き出す。
西日を受けながらカルスは飛ぶ。
力強く加速し続ける。
そして、最高速度に達する。
ガシマ(速い…!送迎係よりも明らかに!)
オンダク(…そうそう出せる速度じゃねえ。
アヅミナといい勝負じゃねえか)
アルジ「すげえ!すげえぜ!!」
エミカ「アルジ、ちょっとうるさい!
気が散るから」
アルジ「ははは、悪い、悪い!」
そして、エミカは理解する。
エミカ(すごい…。この魔生体すごい!
魔力が…少しの無駄もなく活用されて…
それに、思いどおりに動いてくれる…。
…違うんだ。ラアムとか…ナアムとか…
すごいと思ってたけど、
カルスに比べたら…全然完成度が違うんだ。
本当にこれ…すごくよくできてる!
これなら…1日あればノイ地方にだって…)
ガシマ「…驚いたか?
カルスは政府が生んだ傑作」
エミカ「傑作…」
ガシマ「上級魔術師が集まって、
何年もかけて開発した」
アルジ「大変だったんだな」
オンダク「大変なんてもんじゃねえ。
完成まで…多くの犠牲があった」
アルジ「…犠牲?」
ガシマ「試験飛行で…いろいろあって…な」
アルジ「…そ…そうなのか…」
ガシマ「特に悲惨だったのは…」
エミカ「そんな話、今するな!
余計に緊張するだろう!」
ガシマ「はっはっは!」
オンダクがボソリと言う。
オンダク「筋がいい」
エミカ「…え?」
オンダク「もう思いどおりに動かしてるだろ。
揺れがなくなった」
エミカ「だんだん分かってきた」
オンダク「そんなやつはなかなかいねえ。
上級魔術師でもな」
エミカ「そうなのか?」
オンダク「ああ。だから心配するな」
エミカ「…そうか」
ガシマ「この航行は安全だ!」
エミカ「そうか…はは…」
アルジ「この先も頼むぜ!」
エミカ「任せろ!」
カルスは進み続ける。
マキエの国の国境を越えて進んでいく。
日はさらに西へ傾いていく。
同時刻。
大陸の反対側。
別のカルスが都へ向かって飛んでいた。
◆ カルスの上 ◆
黙り込む2人。
エオクシとアヅミナ。
彼らは都へ向かっていた。
巨方庭での任務を終えて。
エオクシの横には1人の女が横たわっている。
光術三姉妹の1人、サヤノ。
彼女は目を開ける。
その目は空へぼんやりと向けられていた。
低いうめき声を上げる。
サヤノ「…ううう…」
エオクシ「………」
じっと前を見てカルスを動かすアヅミナ。
エオクシはうつむき、拳を握る。
エオクシ(オレたちは…どうすりゃよかった?
あれは一体なんだったんだ?…あいつらは…
あいつらは一体…なんなんだ…!?)
サヤノが再び隣でうめき声を上げる。
サヤノ「…うううう…ううう…」
エオクシ「クソ…!!」
激しく首を振るエオクシ。
アヅミナは前を見ながら言う。
アヅミナ「エオクシ」
エオクシ「………」
アヅミナ「着いたら報告しよう」
エオクシ「………」
アヅミナ「巨方庭で何があったのか。
あたしたちが何に出会って何をしたのか。
そして…何ができなかったのか。
…シノ姫に…全部を…報告しよう」
エオクシ「…ああ…」
エオクシは、消え入るような声で返事した。
巨方庭で何が起きたのか。
時間はその日の朝にさかのぼる。
◆◆ 早朝 ◆◆
◆ 巨方庭 管理者の館 ◆
館の重い扉が開かれる。
エオクシ、アヅミナ、カタムラが出てくる。
館の前に集う。
光術三姉妹もやってきた。
最後に現れたのはソネヤとハイラ。
空はどんよりと曇っていた。
だが、雨は降っていない。
エオクシ「世話になった。ありがとう。
ソネヤさん、ハイラさん」
ソネヤ「いやいや」
ハイラ「大したことないよ」
マユノ「とてもおいしいお食事でした」
カタムラ「大変よく眠れました」
ハイラ「嬉しいね。そう言ってもらえて」
ソネヤ「今日の任務、成功を願っています」
カエノ「任せてください!」
エオクシは剣を高く掲げる。
エオクシ(…体調は万全だ!!)
ソネヤとハイラのもてなしは行き届いていた。
充実した食事。
くつろげる風呂。
ふかふかの布団。
命がけの任務に挑む6人。
そんな彼らに精一杯取り計らった。
エオクシ「なあ、任務の前に少しいいか?」
マユノ「…なんでしょう?」
カタムラ「なんですか?」
アヅミナ(…あれをやるのかな?)
エオクシ「大前隊式円陣だ!!」
マユノ&カエノ&サヤノ「…?」
カタムラ「………」
アヅミナ(…やるんだ)
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3692/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ マユノ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 1176/1176
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 蒼天想の魔杖、来陽の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷裂、氷波、王氷
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ カエノ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 1084/1084
◇ 攻撃 3★★★
◇ 防御
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 装備 超放気の魔杖、連星の魔道衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷破、雷花、王雷
氷弾、氷矢
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ サヤノ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 953/953
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
37★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 清化印の魔杖、光心の魔道衣
◇ 魔術 岩弾、岩砲
雷弾、雷槍
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ カタムラ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 766/766
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 9★★★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力 3★★★
◇ 装備 魔鉱石の短剣、秘術道具(空球)、
探検用強化研究衣
◇ 魔術 光玉、治療魔術
◇ 秘術 青珠
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 100、魔力回復薬 100