第168話 半球
ヤマタンはアルジとエミカに見せる。
合離蝶と彼が受け取った1通の手紙を。
アルジ「あっ、それオレたちも持ってる」
ヤマタン「こいつは今朝オレに届いた」
アルジ「手紙か?」
ヤマタン「ああ。こいつは政府からの手紙。
ここにお前たちのことが書いてある」
アルジ「オレたちのこと…」
ヤマタン「オオトノラコアと倒したこと、
星の秘宝を求めていること、
2人の名前はアルジとエミカ。
ここにそう書いてある」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「異大陸は星の秘宝と関係がある。
だから、オレが現地で見聞きしたことは
お前たちの旅に役立つんじゃねえかと思う。
話は短く済ませる。
だから、ちょっと聞いてくれ」
アルジ「ああ」
エミカ(いい情報だといいけど…)
アルジやエミカがいる大陸。
そこから遥か遠い場所。
東方の水平線の向こう側。
4つの危険海域を越えたところにそれはある。
異大陸。
南北に長く連なる3大陸。
異大陸とはその総称。
かつて多くの人がその地を目指し旅立った。
楽園、財宝、資源を求めて。
異大陸探索時代。
航海術の発展とともにそれは始まった。
しかし、人々の熱は冷めていく。
探索が進めば進むほど。
大陸中の野心家が異大陸へと向かった時代。
その時代は終わりを迎える。
1人の男が発した短い言葉で。
「異大陸、価値あるものは何もなし。」
その言葉を発したのは先々代の大君。
ヤマタン「学校の教科書にも書いてあるだろ」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「異大陸にはなかった。楽園も財宝も。
アルジ、お前も知ってるだろ」
アルジ「…ああ。知ってるぜ。ちょっとなら」
ヤマタン(ほとんど知らねえ感じだな)
異大陸は全部で3大陸。
1つ目、氷の大陸。
氷に覆われた不毛の大陸。
2つ目、砂の大陸。
砂漠と荒野の不毛の大陸。
そして、3つ目。
灰の大陸。
灰に覆われた不毛の大陸。
ヤマタン「先々代の大君のお言葉。
あれは、民を思いやってのことだった」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「先々代は長い間心を痛めてこられた。
異大陸の旅に身を投じては命を落とす人々に。
実りの少ない冒険に人生を費やす人々に。
民はこの大陸で穏やかに暮らしてほしい。
そう願っておられた。だが、先代の大君は…」
ヤマタンはニヤリと笑う。
ヤマタン「冒険家だった」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「異大陸の3大陸のことは?」
エミカ「氷の大陸、砂の大陸、
あと…灰の大陸ですか」
ヤマタン「そうだ!」
がっしりと腕組みしてヤマタンは語った。
ヤマタン「オレが異大陸に足を踏み入れた。
政府調査団の一員として。
調査団の団長は先代の大君。
オレは護衛役を仰せつかった。
当時のオレは大前隊。
もちろん一隊。
しかも、ただの一隊員じゃない。
一隊の中でも1、2を争う剛腕」
アルジ「1、2を争う…」
ヤマタン「なんだ?疑ってんのか?」
アルジ「いや」
エミカ「大君と一緒に異大陸に…」
ヤマタン「おう。そうだ。
当時は大陸中の話題になったんだが。
最近の歴史書にも書いてあるぞ」
ヤマタンは目を細める。
ヤマタン「だがな、
あの頃はすっかり下火になっていた。
異大陸の探索は。
なんにもない場所と思われてたからな。
意気揚々と旅立とうとする者は
変人扱いされる始末。
港から出ていく探検隊は年に2、3組。
そんなときだ。
大君自ら調査に乗り出したわけだから、
世間は驚いた。困惑した。
だから、余計に話題になった」
エミカ「3つの大陸に行ったんですか」
ヤマタン「ああ。3大陸制覇だ」
アルジ「氷の大陸にも?」
ヤマタン「おう。行ったぜ」
アルジ「どんなだった?」
ヤマタン「あそこは寒かったな」
アルジ「………」
エミカ「砂の大陸は?」
ヤマタン「もちろん。行った」
エミカ「どんなところですか?」
ヤマタン「あっちは暑かった」
エミカ「………」
ヤマタン「暑いし空気がひどく乾いててな。
喉が渇く。あれは最悪だったな。
氷の大陸の方がマシだ」
アルジ&エミカ「………」
組んだ腕を解いてヤマタンは言う。
ヤマタン「灰の大陸についても聞けよ」
アルジ「灰の大陸は?」
灰の大陸。
白い灰のようなものに覆われた大陸。
気候は温暖で過ごしやすい。
だが、「灰」の存在が旅人の行く手を阻む。
風が吹くと、舞い上がり、視界を遮る。
雨が降ると、どろどろになり足にまとわりつく。
ヤマタン「そこだ!!」
アルジ&エミカ「?」
ヤマタン「灰の大陸。
その場所にこそ旅の目的があった」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタンは語った。
ヤマタン「出発から43日目。
灰の大陸に船を着けた。
砂の大陸と氷の大陸の調査を終えたあとだ。
船から降りて経路を確かめ歩き出した。
オレは大君のそばを歩いた。
何があろうとお守りするため。
進んでも進んでも見えてくるのは灰の山。
獣の1匹も見当たらない。
草の1本も生えてない。
まして人の姿なんてない。
村も町もあるはずがない。
地表を覆う灰の山。
それだけがオレたちの前に現れた。
価値あるものなど何もない。
本当だと思った。
氷の大陸や砂の大陸と比べたら過ごしやすい。
暑くもなく、寒くもない。
何かがあるような気がしてくるが、ない。
何もない。何かがありそうでない。
ことごとくない。
灰の山が現れるたび期待は裏切られる。
うんざりして、やがて慣れていく。
そのうちそれが当たり前のことになる。
オレたちは列をなして歩き続けた。
灰の山の間を縫って。
その日はよく晴れていた。
天候には恵まれていた。
雨も降らず風も吹かず空は青々としていた。
ちょうど今日みたいな空だ。
それがせめてもの救い」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「予定した経路のおよそ半分。
そこまで進んだときのことだった。
先代の大君が足を止める。
遠くの1点を見つめながら。
そこに何があるのか。
オレも立ち止まり、目をやった。
何度も瞬きして、じっと見つめる。
思わず目を疑った。
灰の山。その中腹に露出していた。
黒い半球形の構造が。
どう見ても偶然の産物とは思えねえ。
人の手で造られたもの。
そう考えるのが自然だった」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「先代の大君は言った。
そこへ行きたいと。
だが、先導係は難色を示した。
危険だったから。
灰の大陸には灰溝という構造がある。
灰で満たされた深い溝だ。
落ちれば抜け出すのは困難。
灰溝に落ちて命を失った冒険者は数多い。
その溝が大陸中を走っている。
縦に、横に、斜めに。ゆえに…
過去に冒険者たちが歩んだ道、
安全だと分かっている道、
そこから外れないこと。
それが灰の大陸調査の鉄則。
先導係はやんわりと忠告する。
だが、大君は聞かない。
頑としてはねつけた。
あのお方は、やはり冒険家だった」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「オレたちは慎重に進んだ。
灰溝がないか。
少し進んでは入念に確かめた。
実に半日を要した。
半球形の構造物にたどり着くまで。
着くなり大君は膝をついて手で触れる。
灰の山から露出した、その構造に。
耳を当てる。目を閉じる。
オレたちはその様子をただ見守った」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「多くの冒険家が言っていた。
昔と比べて灰の大陸の『灰』が減っていると。
なぜ減っているのか。
その原因はいろいろあるらしい。
風で飛んだ。空気に溶けた。海に流れた。
いろんな人がいろんなことを言っている。
どれが正しくて、間違っているのか。
全部が正しいのか。全部が違うのか。
そんなことはオレはよく分からねえ。
だが、減っていたことはおそらく事実。
灰が減ったことでその構造は露出した。
そして、先代の大君はそれを見つけた。
あのときのあの出来事。
そういうことだったんじゃねえかと思う」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「いや、違うな。
見つけたんじゃない。探し当てた。
今となっちゃあこう言った方が正しい」
アルジ「探し当てた…」
ヤマタンは腕組みした。
ヤマタン「そして、大君は命じた。
調査団に。強い口調で」
アルジ「何を命じたんだ?」
ヤマタン「破壊せよ」
アルジ&エミカ「……?」
ヤマタン「この黒い半球を破壊せよ…と」
アルジ&エミカ「…!」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 3603/3603
◇ 攻撃
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 防御
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 7★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 26
◇ HP 1883/2234
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 15