第166話 瓦礫
アルジとエミカは立ち上がる。
ヤマタン「お前たち、名乗れよ」
アルジ「オレはクユの国ナキ村のアルジ」
エミカ「クユの国ワノエ町のエミカ」
ヤマタンはマオイに笑いかける。
ヤマタン「なかなかいい目をした連中だ」
マオイ「………」
マオイが歩み出る。
ヤマタンの隣に立つ。
マオイ「私はマオイ。大陸猟進会の猟師」
エミカ(この人…力強い魔力…)
マオイ「そして、魔術院の魔術師」
エミカ「…!」
マオイ「納得した。そんな顔だね」
エミカ「ほかの猟師さんと魔力が違うから」
マオイ「一応上級魔術師だからね。
魔術師が本業でこっちは副業みたいなもん」
ヤマタン「そりゃないぜ。本業は猟師だろ。
魔術院なんてほとんど行かないくせによ」
マオイ「…あんたが連れ回すからだ。
エミカ、あなたも大したものだ。
あの化け物をあんなに焼いちまうなんて」
エミカ「ありがとう…」
マオイ「魔力の使い過ぎで気絶するのも納得だ」
エミカ「………」
マオイ(相当の火力が必要…
あの化け物をあんなふうにするには…!
魔術院にも何人いるだろうか…?
あれだけの火術の使い手は…)
ヤマタン「すまなかったな」
アルジ「え…?」
ヤマタン「さっきゲンダたちから話は聞いた」
アルジ「ああ…」
ヤマタン「魔獣狩りをやらせて、
さらに古代獣の討伐までやらせちまった。
昨日、入会したばっかりの新人に」
アルジ「別にオレは気にしてないぜ」
エミカ「私も」
ヤマタン「…ならいいんだが」
天を仰ぐヤマタン。
日はすっかり昇っていた。
ほとんど雲のない、青々とした空。
ヤマタンは小さく笑う。
ヤマタン「ゲンダたちは…
あのときできる最良の判断をした。
だから、あまり悪く思わないでくれ」
アルジ「気にしてないって言ってるだろ」
ヤマタン「………」
アルジ「それに…氷雷陣はすごかったぜ。
驚いた。本当に。魔獣を倒したい。
その気持ちが強く伝わってきた。
すげえなって思った。
今回は少し相手が悪かっただけだ」
ヤマタン「そうかいそうかい」
ヤマタンは笑って答えた。
アルジ(この人は…
少しギンタロウに似てる気がする。
いや、待て。逆か。
ギンタロウがこの人に似てるのか)
アルジとエミカは改めて礼を言う。
アルジ「ヤマタンさん、マオイさん」
ヤマタン&マオイ「………」
アルジ&エミカ「ありがとうございました」
ヤマタン「いいんだ。別に。
礼を言われるようなことじゃない。
お前たちが倒したようなもんだ」
マオイ「そうだね」
ヤマタンとマオイは改めて魔獣の死骸を見る。
ヤマタン(こいつら…この実力だ。
前座なんかやってなけりゃ倒せていただろう。
たった2人でコノマノヤタラズマを…)
マオイ(…魔雷矢も魔氷矢も通用しない化け物。
私たちじゃおそらく倒せなかった…。
この2人、恐ろしい実力の持ち主…。
オオトノラコアも倒せるわけだ…)
ヤマタンはアルジとエミカに尋ねる。
ヤマタン「お前たち、少し時間あるか?」
アルジ「ああ。あるけど…なんだ?」
ヤマタン「見に行かないか?」
アルジ&エミカ「?」
ヤマタンはマオイの顔を見る。
2人はうなずき合う。
マオイ「一緒に行こう」
アルジ「どこに…?」
ヤマタン「ミノマノ村だ」
アルジ&エミカ「…!!」
マオイは魔生体ハクトを出す。
それは手のひらほどの大きさ。
白い布切れのようなもの。
彼女はそれに魔力を注ぎ込む。
あっという間に膨らんで大きくなる。
1枚の板になり、ふわりふわりと宙に浮く。
アルジたちはそれに跳び乗った。
カルスよりも一回り小さいその魔生体。
定員は4、5人。
ヤマタン「あいつが暴れたミノマノ村…
そこが今どうなっているか。
この目で確かめようじゃねえか」
アルジ&エミカ「………」
マオイ「飛ぶよ」
一気に高度を上げる。
林の上を飛び続けると村が見えてくる。
まず目に止まるのは大きな門と高い壁。
村全体がまるで1つの要塞。
そして、立派な造りの村役場。
エミカ「同じ村でもナキ村とは大違いだな」
アルジ「ああ。あんな立派な建物はないぜ」
ヤマタン「いびつな建物さ」
アルジ&エミカ「………」
村の上空を飛び回る。
ヤマタンは目を細めて見下ろす。
村のいたるところに瓦礫の山のようなもの。
その正体は、死体の山。
エミカがそのことに気づく。
彼女は思わずアルジの腕をつかむ。
エミカ「アルジ…!」
アルジ「…え?」
強く腕をつかまれてアルジは驚く。
だが、エミカが何に驚いているのか分からない。
アルジ「…どうした?」
エミカ「あれ…」
アルジ「え?あれ?なんだ?」
マオイ「………」
ヤマタン「不思議なもんだ。
1人1人の死は悲劇のはずなのに。
ここからこうして見ていると、
ただのゴミの山に見える」
アルジ「あ…!!」
いくつも積み上がっている。
すっかり傷んだ胴体が。
アルジ「そんな…!」
マオイ「こりゃ壊滅だね」
ヤマタン「誰も生きちゃいない。
村が丸ごと死んだ。
…そんな感じがするな」
エミカ「全部…コノマノヤタラズマが…?」
ヤマタン「これを見てどう思う?」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「守れなかったオレたちが悪い。
そう思うか?」
アルジ&エミカ「………」
アルジは首を横に振る。
アルジ「…悪いのはロニだ。
あんたたちが悪いかどうか。
それは…オレには分からない」
ヤマタン「なぜそう思う?」
アルジ「昨日、ゲンダさんから聞いた。
この村の人たちは…踊りの力で…
コノマノヤタラズマを鎮めようとしてるって。
この村の人たちは魔術を信じないって…」
エミカ「村の人たちは最後まで踊りを信じた。
その結果、こうなった。だとしたら…」
ヤマタン「実はな…
踊りの力ってのをオレも少し信じてた」
アルジ「…そうなのか?」
ヤマタン「ああ。
昨夜、村人たちを説得するため来たときだ。
見せられた。目の前で。
魔獣を手懐けているところを。
いくつか芸も披露した。目を疑った。
だが、今思えば…あれもロニの仕業だった」
アルジ「やっぱりロニが…!」
ヤマタン「悪いのはロニ。それは間違いねえ。
だがな…オレは、オレたちにも
責任の一端があると思っている」
アルジ「なぜだ?」
ヤマタン「村人たちを説得できなかったからだ」
遠くの空を見つめるヤマタン。
ヤマタン「ミノマノ真王。そいつが村の有力者。
村長を差し置いて村の決定権を握っていた。
今回の件もそいつを説得する必要があった。
だが、阻まれた。とことんはねつけられた。
オレたちは学術院や魔術院とも話し合った。
無理を言って資料を出してもらったりもした。
ミノマノ真王を説得するためにな。
だが、助役の手で破り捨てられた。
真王に見せることすらかなわなかった」
アルジ「真王…」
エミカ「そこまでやったなら…
あなた方は…悪くないと思います」
ヤマタン「どうかな…」
エミカ「………」
ハクトは役場の上空をゆっくりと旋回。
マオイ「降りるよ」
村の門の近くにハクトは着陸する。
そこには大陸猟進会の猟師たちの姿。
魔獣の攻撃で命を落とし、無惨な状態。
ハクトから降りて辺りを見回すアルジたち。
ヤマタンは目を閉じて仲間たちの死を悼む。
アルジ「エミカ…?」
エミカの目から涙。
エミカ「こうなることを招いたのなら…」
アルジ「…?」
エミカ「創造の杖が…
こうなることを招いたのなら…」
アルジ「ああ…」
エミカ「私たちにも…」
アルジ「…!!」
その場でうつむくアルジとエミカ。
そんな2人にヤマタンは声をかける。
ヤマタン「…倒そうぜ」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「魔獣も、古代獣も、ロニとやらも。
戦おう。そして、倒そう。
オレたちはともに戦う仲間だ」
アルジ「ああ…」
エミカ「…うん」
ハクトに乗るヤマタンとマオイ。
ヤマタン「乗れ。
大陸猟進会の基地に連れていってやる。
そこで…お前たちに聞かせたい話がある」
アルジ「なんの話だ?」
ヤマタン「オレの武勇伝だ」
アルジ「…やめておくぜ」
ヤマタン「おいおい!
決してつまらねえ話じゃねえよ。
お前たちにはぜひ聞かせときたい。
さっきそう思った」
アルジとエミカは顔を見合う。
アルジ「どうする?」
エミカ「どうするか…」
ヤマタン「異大陸の話だ」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「オレが聞かせたいのは異大陸の話。
ただの自慢話じゃねえ。
きっとお前たちのためになる。
20年ほど前にオレは異大陸を旅した。
そんときの話だ」
アルジ&エミカ「………」
ヤマタン「お前たちが求めている
星の秘宝とも関係がある…かもしれねえ!」
アルジ&エミカ「…!」
ヤマタン「どうだ?少しは興味湧いてきたか」
アルジとエミカは再びハクトに乗った。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 3603/3603
◇ 攻撃
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 防御
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 7★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 26
◇ HP 1883/2234
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 15