第161話 焦土
ロニは夜空を飛び続ける。
小高い山々を越えると、目的地が見えてきた。
◆ ミノマノ村 ◆
ロニは空から村の広場を見下ろす。
中央には殻に覆われたコノマノヤタラズマ。
その周りで踊りを踊る村人たち。
彼らは村長に命じられていた。
朝まで休まず踊り続けるようにと。
交替で仮眠をとり、誰かが必ず踊っている。
そういう体制を敷いていた。
ロニは獣魔術の1つ、操獣を使った。
コノマノヤタラズマの堅い殻が裂けていく。
ビシビシと音を立てて。
裂け目から半透明の汁が流れ出る。
村人たち「おおっ!!」
驚きの声。
村人たちは思わず踊るのをやめる。
立ち止まり、殻をじっと見つめた。
ヌキチ「踊れ!!踊れ!!踊れ!!」
村人たちは慌てて再び踊り出す。
村の人気者、ヌキチ。
彼は考える。
魔術で獣を殺めるのは間違っていると。
魔術こそが魔獣を増やす原因なのだと。
そして、彼は強く信じている。
踊ることでどんな獣も手懐けられると。
先日、彼はそのことを実証してみせた。
多くの村人たちの前で。
結果、彼の考えは正しいものと認められた。
村長にも、ミノマノ真王にも。
ヌキチが編み出した獣を鎮めるための踊り。
彼はそれに「鎮獣の舞い」と名づけた。
そして、村人たちに広めた。
どんなときも踊りをやめないこと。
ヌキチによれば、それが必須条件。
「鎮獣の舞い」を成功させるための。
裂けていく殻。
その周りで村人たちは一生懸命に踊り続ける。
コノマノヤタラズマ「ファウアー!!!」
殻の中から大きな鳴き声。
踊っていた村人たちの表情がにわかに曇る。
殻を破り、コノマノヤタラズマが姿を現す。
太い6本の脚が地面をがっしりととらえる。
全身を覆う外骨格には、いくつもの突起。
おぞましく、いかめしい姿があらわになった。
村人たちは、その姿を見ては息を飲む。
そして、事件は起きた。
村人A「いてっ!」
村人の1人が肩をかみつかれる。
コノマノヤタラズマは彼を丸ごと口に入れた。
ゴリゴリと広場に咀嚼音が響き渡る。
驚き、叫び、踊りをやめる村人たち。
ヌキチ「踊るんだ!!まだやめるな!踊ろう!!
大丈夫だ!!そのうち鎮まってくれる!!
信じよう!!踊りの力を信じるんだ!!」
村人の何人かが再び踊り出す。
だが。
村人B「うおー!」
またもかみつかれる。
ゴリゴリと咀嚼され、飲み込まれる。
非常事態発生。
村人たちは理解する。
ヌキチの言うことは、もはや誰も聞かない。
ヌキチ「そんな…そんな…!」
広場の片隅で彼は途方に暮れる。
そんなヌキチの隣には1頭の魔獣。
その魔獣はカヤタマノネコ。
彼が手懐けていたジロスケだった。
それが突然ヌキチに襲いかかる。
ヌキチ「うおー!ジロスケ…!
そんな…なんで…!
…ぐあ…うあ…ぐあ…うあっ!」
ヌキチはジロスケに食べられた。
村人たち「行くぞ!!」
数人の村人たちが勢いよく走り出す。
彼らは役場へ向かっていく。
村長に危機を知らせるため。
ほかの村人たちは広場から逃げ出す。
しかし、村の外へは逃げられない。
門が閉ざされているため。
夜間、門を開けるには許可が必要だった。
助役、村長、ミノマノ真王。
この3人のいずれかの許可が必要。
今は3人とも広場にいない。
やむを得ず住宅街へ逃げ込む村人たち。
コノマノヤタラズマは追いかける。
◆ ミノマノ村役場 ◆
血相を変えて訴える村人たち。
村人C「大変だ!!魔獣が暴れてる!!」
村人D「踊りが効かなかった!!人が食われた!!」
村人E「あいつは人を襲う化け物だ!!
早く殺さないと!」
窓口係の役人は眠たそうな顔で返事した。
役人A「大変ですね」
役場には多くの役人が待機していた。
コノマノヤタラズマの暴走に備えて。
上役が奥の方からやってくる。
険しい顔で村人たちを責めた。
役人B「お前らの踊りが
よくなかったんじゃないのか?」
村人C「そんなことはない!!」
村人D「ヌキチから教わったとおりにやった!」
役人B「教わったとおりに…ねえ。
さぁて、どうだか!」
村人E「早く警備隊を出動させろ!!
門を開けろ!!ケガ人もたくさん出てる!
医者も必要だ!!」
役人B「うるせえんだよ!!
ごちゃごちゃごちゃごちゃ!!
こっちの手間も考えろ!!
協議するから待ってろ」
村人F「協議だと!?いつ結果が出るんだ!!
その間どこに避難すればいい!!」
役人B「そんなの知らねえよ!!
ま、強いて言うなら…
ミノマノ真王様のご機嫌次第だなー」
村人G「なんだと!!?」
役人A「さあ、
用が済んだら出ていってください」
役場内で待機していた警備隊員が集まる。
彼らは村人たちを役場から追い出した。
役人B「…ったく、面倒なことになったぜぇ!!
こっちの手間も考えろってもんだ!!」
町役場の幹部たちが会議室に集まった。
あとから助役もやってくる。
魔獣対策緊急会議が始まった。
コノマノヤタラズマにどう対処するか。
最終的な決定権は、村長にない。
ミノマノ真王にある。
今回は、人命に関わる緊急性の高い案件。
村長を飛ばして真王に状況説明をすべき。
会議冒頭で意見が一致する。
しかし、問題があった。
ミノマノ真王は眠っていた。
役場の最上階、豪華絢爛な真王特別室で。
彼を起こすべきか、起こさないべきか。
議論はそこから始まった。
役人C「サイニ地震基準がある」
サイニ地震基準。
かつて大きな地震が村を襲った。
建物がいくつも倒れ、3人の命が失われた。
人々が寝静まる深夜の出来事だった。
そのとき、役人の1人が真王を起こした。
地震に気づかず、ぐっすり眠っていた真王を。
震災にどう対応すべきか判断を仰ぐために。
すると、真王は激昂した。
安眠を妨げられたために。
事態がいかに深刻か。
一生懸命伝えようとする役人たち。
しかし、真王は聞く耳を持たない。
「3人死んだくらいでワシを起こすな。」
そう言って、再び眠りに就く。
3人。
その人数がサイニ地震基準。
真王を起こした役人は村から追放された。
その後、刺客を放って暗殺したとの噂もある。
役人D「今回は、明らかに3人は超えただろう。
今も住宅街でどんちゃん騒ぎしてるようだ」
役人E「真王にどうやって証拠を出す?
真王様は何よりも証拠を求めるお方だ」
役人F「村の惨状を見てもらう…というのは?」
役人G「危険だ。無理があるだろう」
役人H「なら、外から遺体を運んでくるか…」
役人G「バカ言うな!」
助役が口を開く。
小さな声で提案する。
助役「逃げるのは…どうだ?」
役人たち「…え?」
助役「この村はもうおしまいだ。
相手は伝説の古代獣コノマノヤタラズマだ。
どうやっても討伐なんて無理だ。
まして踊りで手懐けようなんてことも…
無理だ!!
村人が襲われているうちに
オレたちだけでも逃げるんだ。
そして、また1からやり直せばいい!!」
役人D「真王は?どうしますか?」
助役「こっそり運ぶんだ。起こさないように」
役人F「あとでどう説明しますか?」
助役「古代獣に村を滅ぼざれた。
逃げるしかなかった。
そう説明するんだ。
あとで壊滅した村を見せてやれば、
真王様も納得してくださることだろう」
役人C「コノマノヤタラズマは…」
助役「知るか!!
大陸首位猟師にでも任せておけ!!
とにかくオレたちだけでも逃げるんだ!!」
役人F「ちょっと…待ってくれ。
家族は?オレの…家族は?」
役人E「そうだ!!
オレの妻は?子は?どうなる?」
助役「諦めろ…!!」
役人E「…え?」
役人F「なんだって…?」
助役「…諦めろ!!」
役人D「ふざけんな!!!」
役人E「そうだ!!そうだっ!!」
役人F「ふざけんな!!」
助役「ならどうすりゃいい!!?
言ってみろ!!てめえら!!」
議論は紛糾する。
その間もコノマノヤタラズマは村人を襲う。
逃げ惑う人々を捕まえて食べていく。
空腹が満たされると、殺して捨てていく。
閉ざされた村の中、死体の山が生まれる。
その様子をロニは大笑いして見ていた。
小さな民家の屋根の上で。
◆ ホトラ町 ◆
ラグアは大きくよろけて言った。
ラグア「さすがは一隊…といったところだな…」
座り込み、負傷した腹を手で押さえる。
あまりの痛みに顔をしかめる。
再生魔術は、もう使えない。
ラグア「この僕に…
王雷を使わせたんだから…な…」
近くには3人の死体。
彼に戦いを挑んだ一隊の隊員たちだった。
◇ ユイを倒した。
◇ オノクを倒した。
◇ シンモクを倒した。
◇ ラグアは戦いに勝利した。
◇ ラグアはレベルが上がった。(レベル31→32)
◇ ラグアは王雷を習得した。
辺りは焦土と化していた。
目を閉じ、静かに笑い、つぶやく。
ラグア「少し…休息が必要だな」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ ラグア ◇
◇ レベル 32
◇ HP 755/4456
◇ 攻撃
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 防御
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 秘力
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 古代王の剣、破壊の矛、
安定の玉、古代王の鎧
◇ 技 二連剣撃、三連剣撃、王攻剣、放光剣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、王火
雷弾、雷球、雷砲、王雷
岩弾、岩球、岩砲、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 秘術 白剣