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アルジ往戦記  作者: roak
156/300

第156話 理想

ラグアは天に向かって人差し指を突き立てる。


ラグア「大切なのは、費用対効果なんだ」


言い終えると、ラグアは口を閉じた。

ロニは瞬きして考える。

彼が次に何を言い出すのか。


ロニ「………」

ラグア「平和維持、福祉、土木工事、教育…。

 こうした国家の活動は、税で成り立っている。

 税は、民が一生懸命働いて納めたものだ。

 税というものは政府による奉仕の対価だ。

 民は買っている。穏やかな暮らしを。

 税で。政府から。

 店で衣類や食料を買うように。だから…」

ロニ「………」

ラグア「民が納める税は、

 少なければ少ないほどいい。

 国家が行う民への奉仕は、

 大きければ大きいほどいい。

 費用対効果が大切だ。

 少ない税でたくさんの仕事をする。

 そんな国家を僕は築きたい。

 多くの民の幸せのために。

 そのために何が必要か。

 僕らが求めるべきものは何か。

 簡単だ。

 賢く強く少しの金でたくさん働く人たちだ。

 贅沢をせず、毎日、毎日、こつこつと。

 決められた目標を目指して、

 きちんと成果を上げる。

 僕は、そういう人たちに働いてもらいたい。

 僕がこれからつくっていく新しい国家で」

ロニ「少しの金しかもらえない仕事なら、

 やりたがる人なんていないだろう」


顔を震わせてラグアは言った。


ラグア「だから清らかな心が必要なんだよ」

ロニ「ふっ…くくくくくく…」


吹き出しそうになるのを堪えるロニ。

ラグアは顔をしかめて彼女から視線をそらす。

彼の目に映るのは、警備隊と検査官たち。

まだ店を出ていく様子はない。

彼らは冷たい茶を飲み、宴の余韻に浸っていた。

ラグアは声に力を込めて、ロニに語る。


ラグア「民のために働く。国家のために働く。

 王様である僕のために働ける。

 そのことに喜びを得るんだ。

 清らかな心で。もらう金じゃない。

 自分の地位を誇るんだ。

 国家のために働ける。

 民のため、王様のため働ける。

 そのことを幸せに感じれば金なんかいらない。

 そうだ、金なんていらない。

 大きな家もいらない。

 豪華な食事をしなくてもいい。

 贅沢な旅行もしなくていい。

 国のため、僕のため、そして、民のため働く。

 そのことに人生の意味を見出し、誇りに思い、

 胸を張って生きてもらいたい。

 そのためには、必要なんだ。

 そうなるためには、必要なんだ。

 汚れのない清らかな心が。

 金が欲しい。遊びたい。

 嗜好品が、贅沢品が欲しい。

 全部捨てるんだ。そんな濁った薄汚い欲求は。

 そして、少ない金で働くんだ。

 一生懸命働くんだ。せっせと。

 僕のために。国家のために。

 民のために。働くんだよ。

 幸せを感じながら。賢い頭と強い体で。

 少ない金をもらって。

 それこそが僕が考える理想の人材なんだ。

 費用対効果は高い。

 非常に高くなるだろう。

 そして、これは素晴らしいことだ。

 民にとっても、国家にとっても

 素晴らしいことなんだ」

ロニ「なかなかそうは行かないだろう。現実は」

ラグア「うまく行くさ」

ロニ「どうやって?」

ラグア「1人1人の意識が変わればいい」

ロニ「………」


ラグアは豆を全部食べた。

空になった皿を手にする。

その縁で卓の天板を叩く。

強く何度も叩く。

こん、こん、と大きな音が鳴る。

店内に響く。

数人の警備隊員がラグアをにらみ、警戒する。

そんな彼らの視線をラグアは意に介さない。

手をとめて、軽やかな口調でロニに話す。


ラグア「審理院。特にあいつらは最悪だ。

 あったことをなかったことにしたり、

 なかったことをあったことにしたり、

 平気でそういうことをやるんだ。

 それで無罪の人が有罪になってしまったり

 反対に有罪の人が無罪になってしまうんだ。

 そして、有罪になるのはいつも弱者なんだ。

 力を持った者は無罪になるか、

 大きく減刑されるんだ。

 権力者に強く言われると逆らえないんだよ。

 金や高価な品物を渡されると拒めないんだ。

 複数人の尊い命が失われた深刻な事件も…

 犯行に政府の幹部が関わっていたという理由で

 いくつもいくつも真相を隠してきたんだ。

 僕は知っている。

 記事を読んで、すべて記録してきたんだ。

 個人的な帳面にね。見たければ見せてもいい」

ロニ「ふーん」

ラグア「魔真体を手に入れたら、

 まずは彼らを片付けたい」

ロニ「それでどうする?」

ラグア「もっと賢く清らかな心の人にやらせる」

ロニ「そうか」

ラグア「どんな圧力にも屈しない。

 どんな報復も恐れない。

 自らの良心に従い、独立して考えて、

 審判を下せる人だ。

 私利私欲にとらわれず、

 正義のために悪を許さない人だ。

 明晰な頭だけじゃなく、

 清らかな心も持ち合わせている。

 そんな人。

 審理員で働く人は、そうであってもらいたい」

ロニ「なかなかそうは行かないだろう。現実は」

ラグア「いや、うまく行く」

ロニ「一応聞くが…どうやって?」

ラグア「1人1人の意識が変わればいいんだ」

ロニ「………」


ロニは大きなため息をついた。


ロニ「さっきからなんなんだ?」

ラグア「なんだ?」

ロニ「お前は愚かな学生か?」

ラグア「………」

ロニ「1人1人の意識が変われば、

 問題は解決するだろう。

 愚かな学生が社会問題を論じれば、

 結論はこうなるものだ」

ラグア「………」

ロニ「本当の問題は…」

ラグア「分かっているさ」

ロニ「………」

ラグア「どうやって意識を変えていくか」

ロニ「………」

ラグア「答えはもう出ている」


ラグアは小さな荷物入れから取り出す。

分厚い紙の束を。

それには、文字がぎっしりと書かれている。


ラグア「なんだか分かるか?」

ロニ「論文か」

ラグア「そうだ。論文だ」

ロニ「その字は…マスタスさんの」

ラグア「そうだ。

 前にマスタスさんから受けとった。

 そして、2日前その論文が遂に完成したんだ」

ロニ「マスタスさんに会ったのか?」

ラグア「そうじゃない。実験が成功したんだ。

 論文の内容が正しいことが証明されたんだ。

 だから、この論文は本当の意味で完成した。

 真に価値のある論文としてだ」


その言葉でロニはすべてを理解した。

創造の杖をつかみ、ラグアに見せる。


ロニ「実験とは、これのことか」

ラグア「そうだ」


ラグアは手にした紙の束をめくっていく。

ぺらりぺらりと1枚ずつ。


ラグア「僕はもう全部読んだ。驚いた。本当に。

 彼の論文は、緻密で正確なだけじゃない。

 非常に分かりやすく懇切丁寧に書かれている。

 マスタスさんは一流の教育者にもなれた。

 これは、そう感じさせる論文なんだ」

ロニ「………」


興奮気味にラグアは話す。


ラグア「闇魔術は僕には習得できない。

 光術使いだから。それでも。それでもだ。

 僕にも習得できるような気がしてくるんだ。

 それだけ具体的で明快で分からせる文章だ」

ロニ「微細暗球型精神操作」

ラグア「そうだ。

 その習得方法、使用方法がここにある」

ロニ「意識を変える。微細暗球型精神操作で。

 そういうことか」

ラグア「そうだ。確実な方法だ。

 人の意識を変えるため、確実な方法だ」

ロニ「具体的にどう使う?」

ラグア「人が生まれた瞬間に打ち込むんだ。

 この論文に書かれているとおりのやり方で。

 脳の奥深くに。

 精神操作が一生続くような方法で」

ロニ「18年は続くことが分かっているが」

ラグア「実際にやってみないと分からない。

 術者の手腕にもよるだろうし。

 効果が切れたら、また打ち込めばいいだろう」

ロニ「術者はどうする?」

ラグア「探すさ」

ロニ「どうやって?」

ラグア「そうだな。まだぼんやり考えてるだけだけど」

ロニ「言ってみてくれ」

ラグア「義務教育化だ」

ロニ「………」

ラグア「魔術を義務教育に取り入れて、

 素質のある者を探す」

ロニ「…できるのか?魔術は素質がものを言う。

 優れた指導者が40人程度を教えたとしても…

 魔力に目覚めるのは、おそらく10人もいない。

 実際に魔術が使えるようになるのは、

 その半分もいない。さらに闇魔術となると…」

ラグア「1人いるかいないか。

 そんなところだろう」

ロニ「それだけじゃない。秘術だ。

 秘術も使えなければ…

 微細暗球型精神操作は完成しない」

ラグア「そうなると1000人に1人…

 いや、2000人に1人いるかどうか」

ロニ「………」


ロニは呆れ顔で首を大きく横に振る。


ラグア「10000人に3人」

ロニ「なんだ?その数字は」

ラグア「仕事として出産に関わる人の割合だ」

ロニ「………」

ラグア「まずはこれを目指す。

 これを超えれば、見えてくる。

 すべての新生児に

 微細暗球型精神操作を打ち込める未来が」

ロニ「それで、1人1人の意識が変わる」

ラグア「そういうことだ」

ロニ「王国は栄える」

ラグア「そうだ。

 僕が考える理想の王国に近づくんだ」


警備隊と検査官たちが立ち上がる。

茶を飲み終えて店を出るところだった。

ラグアはちらりと彼らを見た。


ラグア「それで1人1人の民が幸せになる。

 王国は正しく多くの仕事をこなすんだ。

 民は仲良く暮らし、

 審理院は正義のために仕事する。

 僕の理想の王国が実現する」


ラグアは立ち上がり、卓に拳を振り下ろす。

どすん、と大きな音を立てる。

店員が慌てて駆けつける。

何も心配ない。

ラグアは笑いかけ、手でそう合図する。

彼をにらみつけてくる警備隊と検査官たち。

まっすぐ彼らを見据え、ラグアは声を張る。


ラグア「だが現状はどうだ!!大陸は今!

 どうなってる!!

 腐った警備隊員どもが腐ったことをしている!

 政府の役人もそうだ!!

 民が納めた貴重な税を!!

 なんの感謝もなく!!

 湯水のように使っている!!

 自分たちが楽しむために!!遊ぶために!!

 無駄にしている!!

 多くの民が悲しんでいる!!

 苦しんでいる!!

 民は不幸な目に遭っている!!」


ヤシヤロは眉間にシワを寄せる。


ヤシヤロ「おいおい…なんだぁ?あいつ…」

ザンタク「また随分と…

 イカれたやつがいるんだなぁ。

 この町には」


ザンタクはヤシヤロの肩をポンと叩く。

ラグアの勢いはとまらない。


ラグア「現状はひどいものだ!!

 本当にひどいものだ!!

 多くの人々が未来に希望を持てないでいる!!

 階層と階層が!!世代と世代が!!

 いがみ合っている!!

 これは危機的なことだ!!

 国家の末期的症状なんだ!!」


ロニは座ったまま。

薄笑いを浮かべながらラグアの隣で話を聴く。


ラグア「誰のせいだ!!

 こうなったのは一体誰のせいだ!!

 おい!!!誰のせいだ!!!」

ヤシヤロ「あの…やろぉ…!」


にらみ合う両者。

ラグアはさらに続ける。


ラグア「大君だ!!大君のせいだ!!

 これは無能な為政者が招いた悲劇だ!!

 真剣に社会情勢について考えていれば!!

 こうなることは見えていたはずなんだ!!

 こういう問題が起きることは

 分かったはずなんだ!!

 だが!!何もしてこなかった!!

 大君は無策だった!!

 重大な失政だ!!!無能だ!!!

 大君は無能なんだ!!

 無能な人間が権力を握っている!!

 これは災難だ!!

 即刻その職位から退くべきだ!!」


大君は無能。

その言葉がヤシヤロたちの怒りに火を点けた。

肩を怒らせ、向かっていくのは、ヤシヤロ。

その後ろに警備隊員たちがついていく。


ヤシヤロ「おいおい、おめえよぉ…」

ラグア「…なんだ?」

ヤシヤロ「おめえが言いてえことは分かった。

 大体…分かったからよぉ…」

ラグア「なんだ?だからどうした。

 さっさと用件を言うんだ」

ヤシヤロ「表に出ろっ!!!!!!!」


ロニは座ったまま。

警備隊に背を向け、卓に肘をついている。

手の甲にあごを乗せ、ほほえんでつぶやく。


ロニ「怒らせたようだ…」



◇◇ ステータス ◇◇

◇ ラグア ◇

◇ レベル  24

◇ HP   2113/2113

◇ 攻撃

 26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★

◇ 防御

 28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★

◇ 素早さ

 30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★

◇ 秘力  14★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  古代王の剣、破壊の矛、安定の玉、古代王の鎧

◇ 技   二連剣撃

◇ 魔術  火弾、火球、火砲

      雷弾、雷球、雷砲

      岩弾、岩球、岩砲

      光玉、治療魔術、再生魔術

◇ 秘術  白剣


◇ ロニ ◇

◇ レベル 37

◇ HP   3825

◇ 攻撃  12★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 35★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★

◇ 装備  創造の杖、超獣長重杖ちょうじゅうちょうじゅうじょう

  八多等守護衣やたらしゅごい

◇ 魔術  操獣、創獣、人体獣化術、王獣

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