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アルジ往戦記  作者: roak
155/300

第155話 王国

ラグアとロニは横目に見た。

警備隊長が外へ運び出されるところを。

勢いよく戸が閉まる。


ラグア&ロニ「………」


ラグアは茶を飲み干した。

それから、遠い目をして語る。

巨方庭について。


ラグア「北の頂、南の泉、東の祠、西の砦。

 巨方庭を攻略し、古王の祭壇へ行くためには、

 この4地点を制覇しなければならない。

 政府の探検隊がどれほど優秀かは知らない。

 だが、巨方庭の攻略はまず無理だ。

 よくて数人が命からがら逃げ帰る。

 そんなところだろう」

ロニ「数人が命からがら…か。

 6年前のあのときのようだ」

ラグア「ああ。あの日、僕らは挑んだ。

 巨方庭に。そして、敗北を知った」

ロニ「結局、生き残ったのは私たちだけ」

ラグア「あの頃の僕らは無知で無力だった。

 コダイオオカミ、ロクヨウチョウ、

 竜の守護兵。巨方庭で待ち受ける強敵。

 そして、敗者の傷痕…。

 あの頃の僕らは、はねつけられた。

 今のお前たちでは不十分。立ち去れ。

 古代の王にそう言われた気がしたんだ」

ロニ「敗者の傷痕。あれが最も厄介だったな」

ラグア「君の子分もあれで命を落としたね。

 助かったと思ったのに」

ロニ「一体どういう罠だったのか。

 分かったのはすべてが終わったあとのこと。

 傷を負い、巨方庭から逃げ出せば心を失う。

 抜け殻のようになり、肉体はただ朽ちていく。

 その様子を見ているしかないのは無念だった」

ラグア「…ああ」


ロニは湯飲みを握りしめる。


ロニ「今の私たちなら、やれる」

ラグア「ああ、やれるさ。僕らは強くなった。

 僕らは敗北から学び、必要な力を身につけた。

 巨方庭を攻略するための力を」

ロニ「そうだな」

ラグア「それに僕らは宝子だ。

 僕らには使命がある。

 大陸を変えて新たな国家をつくる使命が。

 今こそ僕らは巨方庭に行くんだ。

 古王の祭壇に行くんだ。

 集めた星の秘宝を捧げるんだ。

 そして、魔真体を…」

ロニ「目覚めさせる」


ロニはニヤリと笑う。


ロニ「やろうじゃないか」

ラグア「やろう」

ロニ「いつにする?私はいつでもいい」

ラグア「少し待ってくれ」

ロニ「どうした?」


ラグアは首を傾げて右の肩を小さく回す。


ラグア「今はなんだか体がひどく重たい」

ロニ「それはさっきも聞いた」

ラグア「少し待ってくれないか。

 感覚を取り戻すまで。

 今の僕は100点満点中50点くらい。

 いや、60点くらい。万全じゃないんだ」

ロニ「………」

ラグア「焦る必要はない。

 僕らが急ぐ必要なんてない。

 政府の企みはどうせ失敗するんだから」

ロニ「それはそうだが…」


男たちの歌声が聞こえてくる。

正査院の検査官たちが声をそろえて歌っていた。

歌に合わせて手拍子するのは警備隊員たち。


ラグア&ロニ「………」


検査官たちが歌うのは「正査院激賞歌」。

大陸全土の警備隊を称えるための歌。

勇ましい旋律。

飾り立てた歌詞。

その合唱は警備隊に暗に伝える。

接待は大成功したと。

正査院激賞歌が歌われたとき。

翌日以降の検査はすべて省略。

規則で定められた検査項目は残っている。

それらはやったこととして処理する。

検査結果は「すべて問題なし」。


ラグア「やかましいな」

ロニ「…耳障りな歌だ」


ロニはラグアに問いかける。


ロニ「どういう国をつくるつもりだ?」

ラグア「………」

ロニ「魔真体で政府を倒す。そのあとの話だ。

 ラグア、あなたはどういう国をつくりたい?」

ラグア「大遊説のときも話したじゃないか」

ロニ「改めて聞きたい」

ラグア「なぜだ?」

ロニ「変化が起きているかもしれない。

 あなたの考えに。黙科節を終えて」

ラグア「それはどうかな」

ロニ「聞かせてみろ。今ここで」


わずかな沈黙を置いてラグアは口を開く。


ラグア「分かった。語ろう。今の僕の考えを。

 僕が考える理想の国家について」


ラグアは目を輝かせて語った。


ラグア「僕が目指すのは民が幸せになれる国。

 一般的な民が幸せを感じて生きていける。

 僕がつくりたいのは、そういう国だ。

 僕は、一般の民のための王国をつくりたい。

 富も力もない一般人。彼らのための王国だ。

 彼らが幸せを感じられる国を築きたい。

 彼らが国家の大部分を占めているのだから。

 彼らの幸せが国家の大部分の幸せだから。

 彼らこそが国家の血であり、肉なのだから。

 彼らが幸せを感じ、生き生きとしていれば、

 国家が廃れてしまうことはない。

 栄え続けるんだ。そうだ。

 富も力も持たない大多数の一般の人々。

 僕は、彼らのために精一杯働きたい。

 彼らのための、彼らが頼れる王様でありたい。

 そして、彼ら1人1人が幸せになれる。

 そんな国家をつくりたい」

ロニ「富も力もない人々が幸せに…」

ラグア「なれるさ」

ロニ「どうやって?」

ラグア「なれるんだ。金も権力もいらない。

 希少な宝石も特別な才能もいらない。

 そんなものがなくても人は幸せになれる。

 人を幸せにしてくれるものがある」

ロニ「それはなんだ?」

ラグア「………」


ラグアは真剣な顔で言う。


ラグア「愛と恋だ」

ロニ「あはっ!あはははははははは!!」


警備隊と検査官たちがロニをにらむ。

厨房にいた料理人も彼女の方をちらりと見た。

ラグアは続ける。


ラグア「愛と恋で人は繋がる。幸せだと感じる。

 明日も生きよう。明後日も生きよう。

 さらに、その次の日も。来年も、再来年も。

 10年後も20年後も生きよう。そう思える。

 大切な人との幸せが待っているんだから。

 そして、次の世代を生み、育てよう。

 きっともっと大きな幸せが待ってるから。

 そう思えるようになるんだ。愛と恋で」

ロニ「…くくく…」

ラグア「たとえ毎日の仕事が辛くても頑張れる。

 大切な恋人がいれば、大切な家族がいれば、

 大切な子孫がいれば、頑張っていけるんだ。

 自分の幸せのため、大切な人の幸せのため。

 たとえどんなに辛くても、人は頑張れるんだ」

ロニ「…くく…」

ラグア「頑張れるんだよ。愛と恋があれば。

 どんなに虐げられようと、

 どんなに嘲られようと、

 どんなに蔑まれようと、

 どんなに罵られようと、

 人は頑張れるんだ。

 大切な人がいれば、頑張れるんだ。

 幸せのために。一生懸命に。汗をかいて。

 時に涙を流して」

ロニ「…ふふふふ…」

ラグア「人々が愛し合い、幸せを感じ、

 支え合い、助け合って暮らす。

 僕がつくりたいのは、そういう国だ」

ロニ「富も力もない民が愛と恋で繋がる…か。

 どこの誰が富も力も持たない者を愛する?

 少しでも能力の優れた人と、

 少しでも財力のある人と結ばれたい。

 なるべく多くの富と力を手に入れたい。

 多くの人はそう望む。

 何ができるのか。いくら持ってるか。

 調べるはずだ。関わっているときに。

 結ばれようとする前に。富も力もない。

 そんな者と誰が一緒になりたがる?」

ラグア「それが大きな間違いなんだよ」


ラグアは深いため息をついた。


ラグア「自分と同じような人と出会い、

 愛し合えばいいんだ。

 平民が王子様やお姫様と結ばれる。

 幸せになるためにそんなことする必要はない。

 自分と同じような容姿、同じような能力の人。

 身の丈に合った相手を選べばいい。

 王子様じゃなくても、お姫様じゃなくても、

 愛し合うことはできる。それで幸せになれる。

 民の大多数が分相応の相手を選んで愛し合う。

 幸せを感じ、次の世代に命を繋げていく。

 それでいい。

 こうすることで国家は栄えていける」

ロニ「現実はそうは行かないだろう」

ラグア「うまく行くさ」

ロニ「どうやって?」

ラグア「1人1人の意識が変わればいい」

ロニ「………」

ラグア「命あるものはなぜ生きるのか。

 増えて栄えていくためだ。

 虫も獣もつがいになり、子孫を残す。

 これが生きることの目的で、最高の幸せ。

 一般の民も同じ。同じように考えたらいい。

 愛と恋。これらこそ何より価値がある。

 生きていく上で最高の宝。

 愛と恋で結び、結ばれる。

 最高の幸せを感じる。

 そして、次の世代に命を繋ぐ。

 これこそが国家が栄えるために必要だ。

 一般の人々がそう思って生きればいい。

 そうすることで国家は栄えていけるんだ」


ロニは薄ら笑いを浮かべる。

小馬鹿にした態度で。

それにラグアはムッとする。


ラグア「もっと具体的な話をしよう。

 具体的で説得力のある話だ。

 これは僕の実体験なんだ。

 僕は、山奥の町で働いていたことがある。

 もう何年も前の話だ。僕はまだ学生だった。

 社会勉強のため、ある作業場へ行った。

 そこで1月ばかり働いた」

ロニ「………」

ラグア「つまらない仕事だった。

 くだらない仕事だった。

 達成感とか、充実感とか、

 そんなものは少しもない。

 給料も少ない。

 信じられないぐらい少なかった。

 1日働いてもらえる金は、

 僕の普段の食事1回分ほどだった。

 吐き気がするような毎日だった。

 僕は心底うんざりした。

 期間を終える前にやめようかとも思った。

 だが…」

ロニ「だが?」

ラグア「僕はあることを思いつく。

 こうしたらどうかと。

 それは、不快な日々を乗り切るための方法」

ロニ「どんな方法だ?」

ラグア「架空の家族をつくるんだ」

ロニ「…架空の家族?」

ラグア「架空の家族を思い浮かべるんだ。

 自分にはこういう家族がいると。

 一生懸命想像するんだ。

 あの頃、僕は小さな宿の1室に住んでいた。

 そんな僕に、もしも妻と子がいたら…って

 考えて、想像してみるんだ。

 そして、頭の中にはっきり思い浮かべる。

 実在する人であるかのように。

 その姿を。鮮明に。

 仕事をしている最中に」

ロニ「…何を言っている?大丈夫か」

ラグア「僕には妻も子もいる。

 2人は僕の大切な家族」

ロニ「………」

ラグア「僕は仕事をしている。

 2人は家で待っている。

 僕が帰るのを。

 僕の妻は訳があって今は働けない。

 だから、生活は僕の稼ぎにかかっている。

 そういう状況を想像するんだ」

ロニ「………」

ラグア「すると、どうだろう。

 力が湧いてくるんだ。

 大切な家族のために頑張ろう。

 そんな気持ちになってくる。

 だから、最後まで頑張れた。

 くだらなくて、つまらない仕事も。

 このとき、『これだ』と思った」

ロニ「………」

ラグア「仕事はあまり面白くないものだ。

 自分だけが持っている特別な力を発揮して、

 事を成し、感謝され、称賛され、尊敬され、

 充実感や達成感、満足感や幸福感を得る。

 そういうことができるのは、限られた一部。

 面白くないけど、つまらないけど、

 やらなければならない。生きていくために。

 大体の仕事は、そういうものだ。僕は思う。

 社会学習を通じて僕が学んだことはこれだ」

ロニ「…ふん」

ラグア「………」

ロニ「新たな国家で…

 あなたの手足となって働く者たちにも

 頑張ってもらわないとな」


ラグアはちらりと見る。

警備隊と検査官たちを。

彼らは食後の茶を飲み交わし、談笑している。


ラグア「改革が必要だ」

ロニ「改革…」

ラグア「警備隊も。政府の役人も。全員」

ロニ「どんな改革だ?」

ラグア「僕の手足となって働くからには、

 それにふさわしい人であってほしい。

 この人たちが警備隊でよかった。

 この人たちが政府の役人でよかった。

 多くの民が心からそう思ってくれる人。

 そういう人を僕は選び、使っていきたい」

ロニ「選ばれるための条件は?」

ラグア「強くて賢いことだ。

 そして、もう1つ。

 最も大事な条件がある。外せない条件だ」

ロニ「なんだ?」

ラグア「清らかな心を持っていることだ」

ロニ「清らかな心…。清らかな…心…?

 あははっ!!」


ラグアは語る。

彼が考える理想の人材について。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ ラグア ◇

◇ レベル  24

◇ HP   2113/2113

◇ 攻撃

 26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★

◇ 防御

 28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 素早さ

 30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★

◇ 秘力  14★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  古代王の剣、破壊の矛、安定の玉、古代王の鎧

◇ 技   二連剣撃

◇ 魔術  火弾、火球、火砲

      雷弾、雷球、雷砲

      岩弾、岩球、岩砲

      光玉、治療魔術、再生魔術

◇ 秘術  白剣


◇ ロニ ◇

◇ レベル 37

◇ HP   3825

◇ 攻撃  12★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 35★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★

◇ 装備  創造の杖、超獣長重杖ちょうじゅうちょうじゅうじょう

  八多等守護衣やたらしゅごい

◇ 魔術  操獣、創獣、人体獣化術、王獣


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