第155話 王国
ラグアとロニは横目に見た。
警備隊長が外へ運び出されるところを。
勢いよく戸が閉まる。
ラグア&ロニ「………」
ラグアは茶を飲み干した。
それから、遠い目をして語る。
巨方庭について。
ラグア「北の頂、南の泉、東の祠、西の砦。
巨方庭を攻略し、古王の祭壇へ行くためには、
この4地点を制覇しなければならない。
政府の探検隊がどれほど優秀かは知らない。
だが、巨方庭の攻略はまず無理だ。
よくて数人が命からがら逃げ帰る。
そんなところだろう」
ロニ「数人が命からがら…か。
6年前のあのときのようだ」
ラグア「ああ。あの日、僕らは挑んだ。
巨方庭に。そして、敗北を知った」
ロニ「結局、生き残ったのは私たちだけ」
ラグア「あの頃の僕らは無知で無力だった。
コダイオオカミ、ロクヨウチョウ、
竜の守護兵。巨方庭で待ち受ける強敵。
そして、敗者の傷痕…。
あの頃の僕らは、はねつけられた。
今のお前たちでは不十分。立ち去れ。
古代の王にそう言われた気がしたんだ」
ロニ「敗者の傷痕。あれが最も厄介だったな」
ラグア「君の子分もあれで命を落としたね。
助かったと思ったのに」
ロニ「一体どういう罠だったのか。
分かったのはすべてが終わったあとのこと。
傷を負い、巨方庭から逃げ出せば心を失う。
抜け殻のようになり、肉体はただ朽ちていく。
その様子を見ているしかないのは無念だった」
ラグア「…ああ」
ロニは湯飲みを握りしめる。
ロニ「今の私たちなら、やれる」
ラグア「ああ、やれるさ。僕らは強くなった。
僕らは敗北から学び、必要な力を身につけた。
巨方庭を攻略するための力を」
ロニ「そうだな」
ラグア「それに僕らは宝子だ。
僕らには使命がある。
大陸を変えて新たな国家をつくる使命が。
今こそ僕らは巨方庭に行くんだ。
古王の祭壇に行くんだ。
集めた星の秘宝を捧げるんだ。
そして、魔真体を…」
ロニ「目覚めさせる」
ロニはニヤリと笑う。
ロニ「やろうじゃないか」
ラグア「やろう」
ロニ「いつにする?私はいつでもいい」
ラグア「少し待ってくれ」
ロニ「どうした?」
ラグアは首を傾げて右の肩を小さく回す。
ラグア「今はなんだか体がひどく重たい」
ロニ「それはさっきも聞いた」
ラグア「少し待ってくれないか。
感覚を取り戻すまで。
今の僕は100点満点中50点くらい。
いや、60点くらい。万全じゃないんだ」
ロニ「………」
ラグア「焦る必要はない。
僕らが急ぐ必要なんてない。
政府の企みはどうせ失敗するんだから」
ロニ「それはそうだが…」
男たちの歌声が聞こえてくる。
正査院の検査官たちが声をそろえて歌っていた。
歌に合わせて手拍子するのは警備隊員たち。
ラグア&ロニ「………」
検査官たちが歌うのは「正査院激賞歌」。
大陸全土の警備隊を称えるための歌。
勇ましい旋律。
飾り立てた歌詞。
その合唱は警備隊に暗に伝える。
接待は大成功したと。
正査院激賞歌が歌われたとき。
翌日以降の検査はすべて省略。
規則で定められた検査項目は残っている。
それらはやったこととして処理する。
検査結果は「すべて問題なし」。
ラグア「やかましいな」
ロニ「…耳障りな歌だ」
ロニはラグアに問いかける。
ロニ「どういう国をつくるつもりだ?」
ラグア「………」
ロニ「魔真体で政府を倒す。そのあとの話だ。
ラグア、あなたはどういう国をつくりたい?」
ラグア「大遊説のときも話したじゃないか」
ロニ「改めて聞きたい」
ラグア「なぜだ?」
ロニ「変化が起きているかもしれない。
あなたの考えに。黙科節を終えて」
ラグア「それはどうかな」
ロニ「聞かせてみろ。今ここで」
わずかな沈黙を置いてラグアは口を開く。
ラグア「分かった。語ろう。今の僕の考えを。
僕が考える理想の国家について」
ラグアは目を輝かせて語った。
ラグア「僕が目指すのは民が幸せになれる国。
一般的な民が幸せを感じて生きていける。
僕がつくりたいのは、そういう国だ。
僕は、一般の民のための王国をつくりたい。
富も力もない一般人。彼らのための王国だ。
彼らが幸せを感じられる国を築きたい。
彼らが国家の大部分を占めているのだから。
彼らの幸せが国家の大部分の幸せだから。
彼らこそが国家の血であり、肉なのだから。
彼らが幸せを感じ、生き生きとしていれば、
国家が廃れてしまうことはない。
栄え続けるんだ。そうだ。
富も力も持たない大多数の一般の人々。
僕は、彼らのために精一杯働きたい。
彼らのための、彼らが頼れる王様でありたい。
そして、彼ら1人1人が幸せになれる。
そんな国家をつくりたい」
ロニ「富も力もない人々が幸せに…」
ラグア「なれるさ」
ロニ「どうやって?」
ラグア「なれるんだ。金も権力もいらない。
希少な宝石も特別な才能もいらない。
そんなものがなくても人は幸せになれる。
人を幸せにしてくれるものがある」
ロニ「それはなんだ?」
ラグア「………」
ラグアは真剣な顔で言う。
ラグア「愛と恋だ」
ロニ「あはっ!あはははははははは!!」
警備隊と検査官たちがロニをにらむ。
厨房にいた料理人も彼女の方をちらりと見た。
ラグアは続ける。
ラグア「愛と恋で人は繋がる。幸せだと感じる。
明日も生きよう。明後日も生きよう。
さらに、その次の日も。来年も、再来年も。
10年後も20年後も生きよう。そう思える。
大切な人との幸せが待っているんだから。
そして、次の世代を生み、育てよう。
きっともっと大きな幸せが待ってるから。
そう思えるようになるんだ。愛と恋で」
ロニ「…くくく…」
ラグア「たとえ毎日の仕事が辛くても頑張れる。
大切な恋人がいれば、大切な家族がいれば、
大切な子孫がいれば、頑張っていけるんだ。
自分の幸せのため、大切な人の幸せのため。
たとえどんなに辛くても、人は頑張れるんだ」
ロニ「…くく…」
ラグア「頑張れるんだよ。愛と恋があれば。
どんなに虐げられようと、
どんなに嘲られようと、
どんなに蔑まれようと、
どんなに罵られようと、
人は頑張れるんだ。
大切な人がいれば、頑張れるんだ。
幸せのために。一生懸命に。汗をかいて。
時に涙を流して」
ロニ「…ふふふふ…」
ラグア「人々が愛し合い、幸せを感じ、
支え合い、助け合って暮らす。
僕がつくりたいのは、そういう国だ」
ロニ「富も力もない民が愛と恋で繋がる…か。
どこの誰が富も力も持たない者を愛する?
少しでも能力の優れた人と、
少しでも財力のある人と結ばれたい。
なるべく多くの富と力を手に入れたい。
多くの人はそう望む。
何ができるのか。いくら持ってるか。
調べるはずだ。関わっているときに。
結ばれようとする前に。富も力もない。
そんな者と誰が一緒になりたがる?」
ラグア「それが大きな間違いなんだよ」
ラグアは深いため息をついた。
ラグア「自分と同じような人と出会い、
愛し合えばいいんだ。
平民が王子様やお姫様と結ばれる。
幸せになるためにそんなことする必要はない。
自分と同じような容姿、同じような能力の人。
身の丈に合った相手を選べばいい。
王子様じゃなくても、お姫様じゃなくても、
愛し合うことはできる。それで幸せになれる。
民の大多数が分相応の相手を選んで愛し合う。
幸せを感じ、次の世代に命を繋げていく。
それでいい。
こうすることで国家は栄えていける」
ロニ「現実はそうは行かないだろう」
ラグア「うまく行くさ」
ロニ「どうやって?」
ラグア「1人1人の意識が変わればいい」
ロニ「………」
ラグア「命あるものはなぜ生きるのか。
増えて栄えていくためだ。
虫も獣もつがいになり、子孫を残す。
これが生きることの目的で、最高の幸せ。
一般の民も同じ。同じように考えたらいい。
愛と恋。これらこそ何より価値がある。
生きていく上で最高の宝。
愛と恋で結び、結ばれる。
最高の幸せを感じる。
そして、次の世代に命を繋ぐ。
これこそが国家が栄えるために必要だ。
一般の人々がそう思って生きればいい。
そうすることで国家は栄えていけるんだ」
ロニは薄ら笑いを浮かべる。
小馬鹿にした態度で。
それにラグアはムッとする。
ラグア「もっと具体的な話をしよう。
具体的で説得力のある話だ。
これは僕の実体験なんだ。
僕は、山奥の町で働いていたことがある。
もう何年も前の話だ。僕はまだ学生だった。
社会勉強のため、ある作業場へ行った。
そこで1月ばかり働いた」
ロニ「………」
ラグア「つまらない仕事だった。
くだらない仕事だった。
達成感とか、充実感とか、
そんなものは少しもない。
給料も少ない。
信じられないぐらい少なかった。
1日働いてもらえる金は、
僕の普段の食事1回分ほどだった。
吐き気がするような毎日だった。
僕は心底うんざりした。
期間を終える前にやめようかとも思った。
だが…」
ロニ「だが?」
ラグア「僕はあることを思いつく。
こうしたらどうかと。
それは、不快な日々を乗り切るための方法」
ロニ「どんな方法だ?」
ラグア「架空の家族をつくるんだ」
ロニ「…架空の家族?」
ラグア「架空の家族を思い浮かべるんだ。
自分にはこういう家族がいると。
一生懸命想像するんだ。
あの頃、僕は小さな宿の1室に住んでいた。
そんな僕に、もしも妻と子がいたら…って
考えて、想像してみるんだ。
そして、頭の中にはっきり思い浮かべる。
実在する人であるかのように。
その姿を。鮮明に。
仕事をしている最中に」
ロニ「…何を言っている?大丈夫か」
ラグア「僕には妻も子もいる。
2人は僕の大切な家族」
ロニ「………」
ラグア「僕は仕事をしている。
2人は家で待っている。
僕が帰るのを。
僕の妻は訳があって今は働けない。
だから、生活は僕の稼ぎにかかっている。
そういう状況を想像するんだ」
ロニ「………」
ラグア「すると、どうだろう。
力が湧いてくるんだ。
大切な家族のために頑張ろう。
そんな気持ちになってくる。
だから、最後まで頑張れた。
くだらなくて、つまらない仕事も。
このとき、『これだ』と思った」
ロニ「………」
ラグア「仕事はあまり面白くないものだ。
自分だけが持っている特別な力を発揮して、
事を成し、感謝され、称賛され、尊敬され、
充実感や達成感、満足感や幸福感を得る。
そういうことができるのは、限られた一部。
面白くないけど、つまらないけど、
やらなければならない。生きていくために。
大体の仕事は、そういうものだ。僕は思う。
社会学習を通じて僕が学んだことはこれだ」
ロニ「…ふん」
ラグア「………」
ロニ「新たな国家で…
あなたの手足となって働く者たちにも
頑張ってもらわないとな」
ラグアはちらりと見る。
警備隊と検査官たちを。
彼らは食後の茶を飲み交わし、談笑している。
ラグア「改革が必要だ」
ロニ「改革…」
ラグア「警備隊も。政府の役人も。全員」
ロニ「どんな改革だ?」
ラグア「僕の手足となって働くからには、
それにふさわしい人であってほしい。
この人たちが警備隊でよかった。
この人たちが政府の役人でよかった。
多くの民が心からそう思ってくれる人。
そういう人を僕は選び、使っていきたい」
ロニ「選ばれるための条件は?」
ラグア「強くて賢いことだ。
そして、もう1つ。
最も大事な条件がある。外せない条件だ」
ロニ「なんだ?」
ラグア「清らかな心を持っていることだ」
ロニ「清らかな心…。清らかな…心…?
あははっ!!」
ラグアは語る。
彼が考える理想の人材について。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ ラグア ◇
◇ レベル 24
◇ HP 2113/2113
◇ 攻撃
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 防御
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 秘力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 古代王の剣、破壊の矛、安定の玉、古代王の鎧
◇ 技 二連剣撃
◇ 魔術 火弾、火球、火砲
雷弾、雷球、雷砲
岩弾、岩球、岩砲
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 秘術 白剣
◇ ロニ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3825
◇ 攻撃 12★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
35★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 創造の杖、超獣長重杖、
八多等守護衣
◇ 魔術 操獣、創獣、人体獣化術、王獣