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アルジ往戦記  作者: roak
154/300

第154話 暴走

2つの計画についてラグアは語った。


ラグア「まず、1つ目の計画について。

 マスタスさんが生きていた場合。

 この計画はゆっくり進める計画」

ロニ「初めからそうする予定だっただろう」

ラグア「ああ、そうだ。そうなんだ。

 だけど聞いてほしい。

 僕らは久しぶりに会ったんだから。

 これはおさらいなんだ」

ロニ「おさらいか。いいだろう。聞かせろ」

ラグア「聞いてくれ。今ここで。改めて。

 1つ目の計画で大事だったもの。

 それは僕らの演説とマスタスさんの闇魔術。

 まず、大陸中の多くの人々の心を動かす。

 次に、彼らに僕らを支援してもらう。

 そして、政府の力を徐々に弱めていく。

 1つ目の計画はそういうものだった」

ロニ「そうだったな」

ラグア「この計画はある意味で理想的。

 死んでしまう人が少なくて済むから。

 ノイ民総会にも評判がよかった」


ノイ民総会。

それは、年に4回、ノイ地方で開かれる。

ノイ民が繁栄していくため、何をすべきか。

各地区の代表者が集まり、話し合う会合。


ロニ「だが、その計画はもう使えない。

 そうだろう」

ラグア「そうだ。マスタスさんが死んだから。

 彼の代わりになる人なんてなかなかいない。

 5年、いや、10年。もっとか…。

 何年待っても代わりなんて出てこない。

 彼の闇魔術には僕も舌を巻いていたんだ。

 そんな彼が残念なことに死んでしまった。

 だから、僕らは2つ目の計画を実行する」

ロニ「魔真体か」

ラグア「そうだ。2つ目の計画。

 その要は魔真体だ。

 魔真体を手に入れることは

 1つ目の計画にもあった。

 だけど、使わない。

 1つ目の計画では魔真体は使わない。

 切り札としてただ所有するだけ。

 使わないんだ。

 折を見て人々に見せるだけでいい。

 そうすることで人々は僕らを恐れ敬う。

 そして、大人しく僕らに従う。

 それが1つ目の計画での魔真体の利用法。

 ところが、2つ目の計画は違うんだ」

ロニ「魔真体を使う」

ラグア「そうだ。最大限活用するんだ。

 その力を。徹底的に破壊するんだ。

 今の政府を。魔真体の力で。

 魔真体が手に入れば、いらないんだよ。

 大陸各地で僕らを支援する組織なんて」

ロニ「死人が出るな」

ラグア「もちろん。多くの死人が出る。

 だけど、それは必要な犠牲だと僕は思う。

 何かを得るためには、何かを捨てなければ。

 理想の国家を、大陸をつくる。これが目標。

 大きな目標には大きな代償はつきものだ。

 2つ目の計画は魔真体を最大限に活用して、

 素早く進めていく。そんな計画なんだ。

 ノイ民総会は僕が説得しよう」

ロニ「嘘だろう」

ラグア「嘘…?何が?」

ロニ「『どっちでもよかった』という言葉だ」

ラグア「………」

ロニ「2つ目の計画。

 ラグア、あなたは最初から…

 こちらを実行すべきだと思っていたのでは?」


ラグアは静かに笑う。


ラグア「そうだ」

ロニ「私もだ」

ラグア「時間がかかるのは好きじゃない。

 じりじりじりじりと。もどかしかった。

 1つ目の計画では建国まで何年かかるのか。

 先が見えなかった。

 僕が王様になるのはいつなのか。

 全然見えてこなかった。君もそうだろう。

 だから、マスタスさんが死んだことは、

 ある意味で都合がよかった」

ロニ「あの男はいつか私たちの足を引っ張る。

 あなたの予想は正しかった」

ラグア「そうだろ」


食堂に響き渡る大きな歓声。

余興で盛り上がる警備隊と検査官たち。

ラグアとロニは話を続ける。


ロニ「巨方庭に行くんだろう?」

ラグア「そうだな」

ロニ「早く目覚めさせないとな。魔真体を」

ラグア「ああ。だが…」

ロニ「…どうした?」

ラグア「すっかり鈍ってしまった。

 黙科節のせいで。体がすごく重たい」

ロニ「私が守ってやろう。この獣魔術の力で。

 創造の杖は私の予想を遥かに超えていた。

 持ってるだけで魔力が覚醒するのを感じる。

 もう誰にも負ける気がしない。

 だから、守ってやろう」

ラグア「そういうのはいい。

 失った感覚は自分で取り戻すさ」

ロニ「強敵がいる」

ラグア「………」

ロニ「男と女」

ラグア「今朝、君にケガを負わせたやつらか?」

ロニ「ああ。恐ろしく強くなっている」

ラグア「誰なんだ?」

ロニ「ナキ村のアルジ。

 あと、そいつと一緒にいる魔術師」

ラグア「ナキ村って、安定の玉の…」

ロニ「そうだ。覚えていないか?

 3年前、私たちは会った。大遊説の途中で。

 村にいた生意気なガキだ」

ラグア「さあ…。どんな人だったかな」

ロニ「そいつが強くなっている。

 一緒にいる魔術師も…考えられない速さで。

 そいつらが…私の生んだ魔獣を倒した。

 マスタスさんも…おそらくあいつらが…。

 だから…心してかからなければならない。

 わずかな油断も許されないだろう」

ラグア「…君がそんなに警戒するとはな。

 ま、確かにあんな傷を負わせたんだから、

 相当な使い手なんだろうな。2人とも。

 …あの2人のほかにも強敵がいるのか」

ロニ「あの2人…?」

ラグア「2年前、マスタスさんを追い込んだ。

 政府の回し者の2人だよ。

 よく大遊説に来てたじゃないか。

 僕らの話を熱心に聞いてる振りしてた…」

ロニ「彼らとは違う種類の強さだ」

ラグア「違う種類…?」

ロニ「おそらく…秘術だ。

 アルジとあの魔術師…。

 2人を強くしているのは…おそらく秘術。

 そんな気がする。

 そうでなければ、あんなに急に…

 説明がつかない」

ラグア「はっはっはっ!!!」


大声で笑うラグア。

警備隊員たちの視線を集める。


ラグア「秘術はそんなものじゃないんだよ。

 君は大きな誤解をしているな」

ロニ「それなら、

 短期間であれだけ強くなったのは…」

ラグア「実戦感覚だろう」

ロニ「実戦感覚…」

ラグア「そうだ。おそらく実戦感覚だと思うんだ。

 その2人はもともと高い能力を持っていた。

 だけど、実戦で活かすことがなかった。

 ここのところの実戦で感覚が鋭くなった。

 持っていた能力が実戦で磨かれた。

 そのおかげで隠れていた能力が現れたんだ。

 目に見えるようになった。

 それだけのことだと思うんだ。

 たまにあるだろう。

 運動選手が何かのきっかけで

 急に成績を上げることが。

 しかも、短期間のうちに。

 これは身体能力が急激に高まったんじゃない。

 感覚が磨かれたんだ。

 感覚が磨かれたことで持っていた力を

 発揮できるようになったということなんだ。

 そして、これは運動競技だけの話じゃない。

 武器や魔術を使う戦いにだって、

 同じことが言えるんだ。

 同じ腕力を持った人たちの中でも、

 より的確に急所を狙える人は攻撃力が高い。

 同じ反射神経を持った人たちの中でも、

 より的確に攻撃を見切れる人は守備力が高い。

 急所を狙ったり、攻撃を見切ったり。

 これらは、実戦で感覚を磨いていくものだ。

 その2人はもともと力を持っていたんだ。

 それが最近になって発揮できるようになった。

 それだけだ。秘術なんて関係ない。

 大体秘術は…」

ロニ「危機感がないぞ。楽観的過ぎる」

ラグア「危機感がなくて結構だ。

 楽観的で結構だ。

 どうせすべてが終わることなんだから」

ロニ「…魔真体か」

ラグア「そうだ。

 それさえ動かしてしまえば終わりなんだ。

 どんなに強い相手だろうと対抗できないんだ。

 君が敵を恐れる気持ちは分かる。

 だけど、心配ないんだ」

ロニ「知っているか?

 政府の連中が巨方庭に向かった」

ラグア「…ほう」

ロニ「ホジタが捕まって全部話したらしい」

ラグア「そうか」

ロニ「いつかこうなると思っていたが」

ラグア「なぜ知っているんだ?」


ロニは懐から小さな物体を出す。

それは、合離蝶と1通の手紙。


ロニ「あなたを迎えに行く途中、

 創造の杖が反応した。

 一瞬、微かに引かれたのが分かった」

ラグア「秘術の…引き合う力か」

ロニ「そうだ。引かれた方へ飛んでいくと、

 これが宙を舞っていた」

ラグア「秘力か。確かに感じる。僕にも分かる」

ロニ「政府中枢に秘術の使い手がいる」

ラグア「………」

ロニ「マスタスさんの言葉は

 どうやら本当のようだ」

ラグア「連絡手段に秘術を…」

ロニ「そのようだ。

 空に放つことで特定の人へ飛んでいく。

 そういう仕組みのようだ。

 情報伝達の異常な速さ。

 その秘密はこれにあったようだ」

ラグア「…見事な秘術だ。こんな秘術を…」


合離蝶を手に乗せてつぶやくラグア。

それから、ゆっくりと握り潰す。

パキパキと音を立て、バラバラになった。


ラグア「そして…なんとも憎い秘術だ」

ロニ「………」


体を震わせ、顔をしかめ、ラグアは言う。


ラグア「秘術はノイ民のものだ。

 それを政府のために使うとは許せない。

 これは重罪だ。重罪なんだ。

 とんでもない重罪なんだ。

 僕は絶対に許さない。

 こんなことをする人は潰す。

 必ず潰すんだ。重大な裏切り行為なんだ」

ロニ「…早く巨方庭に行かないとな」

ラグア「政府の連中は?」

ロニ「…?」

ラグア「巨方庭に行ったんだろ。

 さっきそう言っただろ。

 そいつらはどうなったんだ?」

ロニ「さあ。知らないな。

 私は手紙を拾って読んだだけだ。

 だが…攻略はまず無理だろう」

ラグア「…そうだろうな」


ラグアとロニは巨方庭に思いを巡らす。

その一方。

警備隊の余興は盛り上がっていた。

練習に練習を重ねた警備隊員たちの芸。

その1つ1つが検査官たちを楽しませる。

だが、何かが足りない。

その場にいた誰もが感じていた。

楽しいが、何か物足りない。

接待は「大成功した」とはいえない。

これでは明日の警備隊検査に不安が残る。

流れを変えるため、ヤシヤロは仕掛ける。

最高潮に場を盛り上げるための曲芸。

それをみんなに見せようと。


ヤシヤロ「こいつ、一気飲みが得意なんですよ」

ザンタク「へぇー!見せてもらおうか」


ヤシヤロは警備隊長の背中を強く叩いた。


ヤシヤロ「やれ!!!」

警備隊長「え…?」

ヤシヤロ「おいおい!いつもやってるだろ!!

 あれをやればいいんだよ!!」

警備隊長「は…はは…なんのことでしょうか?

 一体…はは…なんのことでしょうか?

 ヤシヤロさん…」


ヤシヤロは鍋を指差す。

その中には、煮えたぎる激辛の汁。


ヤシヤロ「あれを一気に飲むんだよ。

 いつもやってるだろうが」

警備隊長「ひ…!!ひひ…!!」

ザンタク「へぇー!そんなことができんのか!

 やって見せてくれよ」


不服そうな顔の警備隊員たち。

だが、ヤシヤロの暴走を止める者はない。

検査官たちは、緊張した面持ちで見守る。

そんな芸当が果たしてできるのか。

期待と不安を抱いて見守る。


ヤシヤロ「早くやれ!!」


震える手で鍋をつかむ警備隊長。

恐る恐る鍋に口をつけた。

その瞬間、唇に激痛。


警備隊町「!!!」


だが、こらえる。

それから、ゴクリゴクリと飲み始める。


ザンタク「おお!すげえ!!」

ヤシヤロ「ははははははははは!!!」


しばらくして警備隊長の動きが止まる。


警備隊長「かっ…!!はぁっ…!!!!」


汁を吐き出し、鍋をぶちまけて倒れ込む。

そして、そのまま気絶した。

そのあまりの醜態ぶりに検査官たちは大笑い。


検査官たち「かはははははっ!」

ヤシヤロ「大成功…と!」


ヤシヤロは拳を握る。

ここのところ彼は警備隊長とよくもめていた。

警備隊の運営方針を巡って。

倒れた警備隊長に駆け寄る隊員たち。


警備隊員A「ああ!だめだ!!」

警備隊員B「これは…!死ぬかもしれない!」

ヤシヤロ「医者に診てもらえ。まだ大丈夫だろ」


ヤシヤロは店員を呼びつける。


店員「はい」

ヤシヤロ「こいつを医者のところに運べや」

店員「!…どうして…!!」

ヤシヤロ「お前んとこの鍋食ったから

 こうなったんだろうが!!

 責任とれや!!」

店員「そんな…!言いがかりだ…!

 それに医者なんて…

 もう…こんな夜遅くに…!!」

ヤシヤロ「叩き起こせばいいだろうが!!」

店員「そんな…!めちゃくちゃだ…!!」

ヤシヤロ「ああん!!?」


店員の胸ぐらをつかみ、すごみをきかせる。


ヤシヤロ「もう使わねえぞ?この店」

店員「…ひ…!ひ…!」

ヤシヤロ「仕入れ先にも言ってやる!

 このオレ様が!あの店はやめとけってな…!

 そしたら、この店…どうなるだろうなぁ?」

店員「ひ…ひ…!!すみません…!

 すみません…でした…!」


店員は警備隊長を背負う。

とぼとぼと店の外へ出ていった。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ ラグア ◇

◇ レベル  24

◇ HP   2113/2113

◇ 攻撃

 26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★

◇ 防御

 28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 素早さ

 30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★

◇ 秘力  14★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  古代王の剣、破壊の矛、安定の玉、古代王の鎧

◇ 技   二連剣撃

◇ 魔術  火弾、火球、火砲

      雷弾、雷球、雷砲

      岩弾、岩球、岩砲

      光玉、治療魔術、再生魔術

◇ 秘術  白剣


◇ ロニ ◇

◇ レベル 37

◇ HP   3825

◇ 攻撃  12★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 35★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★

◇ 装備  創造の杖、超獣長重杖ちょうじゅうちょうじゅうじょう

  八多等守護衣やたらしゅごい

◇ 魔術  操獣、創獣、人体獣化術、王獣

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