第153話 余興
◆ リムの国 ホトラ町 ◆
そこは小さな港町。
深まる夜、並んだ民家は静まり返る。
町の外れの大衆食堂。
そこで大騒ぎする男たち。
彼らはホトラ町警備隊と正査院の検査官たち。
1日の仕事を終え、集まって飲食している。
正査院は中央政府の機関。
役人に不正がないか検査する者たち。
彼らがホトラ町に到着したのは昨夜のこと。
今朝からこの町で検査を実施していた。
その検査とは、警備隊検査。
警備隊が不正を働いていないか検査するもの。
検査は細かく行われる。
まず、業務記録、仕事場を調べる。
不自然な点があれば警備隊に問う。
警備隊の回答に検査官が違和感を覚えたとき。
検査は厳しく激しくなる。
不正が見つかれば警備隊は大声で叱られる。
悪質な場合は莫大な制裁金が課せられる。
犯罪が疑われるとき。
警備隊長がその場で逮捕されることもある。
検査で分かった不正はすべて公表。
たった1度の検査。
その結果で民の信頼をすっかり失うこともある。
警備隊検査をどうやって乗り切るか。
町や村の警備隊にとって重要な問題だった。
店員「お待ちどうさま」
豪快に盛りつけられた料理の数々。
正査院の検査官たちは上機嫌。
飲食代を出すのは警備隊。
正査院は金を一切出さない。
接待だった。
一生懸命接待することで大目に見てもらう。
大陸各地の警備隊で広く行われている。
飲食代の出どころは警備隊の活動費。
警備隊の活動費は民が納めた税。
接待が知られれば激しい批判を招く。
そのため、表向きは私的な飲食とされる。
検査官の1人が警備隊長の肩を叩く。
正査院の南西地方担当部長ザンタク。
彼が今回の検査団のまとめ役。
ザンタク「いい店じゃないか!」
警備隊長「気に入っていただけて幸いです。
明日の検査も、どうぞお手柔らかに」
ザンタク「こちらこそ!ははは!!」
恐縮する警備隊長。
警備隊長「この店を選んだのは
私たちの顧問でして…」
ザンタク「顧問!ああ!ヤシヤロ君ね!!」
少し離れた席から1人の男がやってくる。
鋭い目つき、長髪、厚い髭、鍛えられた体。
その男がホトラ町警備隊の顧問ヤシヤロ。
彼は、大前隊の第二隊隊員でもある。
ホトラ町警備隊に助言などを行う。
個別の事件の相談に乗ることもある。
彼には多額の報酬が警備隊から支払われる。
ヤシヤロ「私の名前が聞こえましたが…」
ザンタク「よう!ヤシヤロ!!」
ヤシヤロ「ザンタクさん。お久しぶりです」
ザンタク「いやぁ、あのヤシヤロが!
立派になったもんだ!
おい!一隊に上がるのはいつなんだ?」
ヤシヤロ「ははは…いつでしょうね。
これがなかなか…
まぁ、じきに上がってみせますよ!」
警備隊員たち「…おお!!」
ザンタク「お前も言うようになったな!はは!」
2人は同じ学校の先輩、後輩の間柄。
接待は盛り上がる。
ヤシヤロ「かははは!!そりゃないでしょ!!」
ザンタク「あったんだよ!!実際に!!」
警備隊員たち&検査官たち「ははははは!!!」
昔話に花が咲く。
彼らはよく話し、笑い、食べて、飲んだ。
そんな中。
店の隅。
ひっそりと飲食する男女の姿。
暗くて顔も姿もよく見えない。
2人は小声で話し合う。
男「この町に来たことは?」
女「これで5回目」
男「そんなに。こんなに遠くて、小さな町に」
女「生まれたときから大陸中を連れ回されたから」
男「さすがは旅芸人の娘さん」
女「少しやつれたか?」
男「そんなことはない」
女「大丈夫か?」
男「心配ない」
女「どうだった?あの場所での暮らしは」
男「まったくひどいものだ」
ため息をつく男。
彼は小皿に盛られた豆をつまんで口にする。
2、3度、ガリガリとかみ砕く。
それから、濃くて苦い茶を飲んだ。
女は首を傾げて髪をかきあげる。
彼女はロニ。
今朝、彼女が負った傷はすっかり消えていた。
アルジに斬られた傷も。
エミカに焼かれた傷も。
治したのは、彼女の隣にいる男。
彼はラグア。
彼の光術が彼女の体を再生させた。
2人は小さな声で会話を続ける。
警備隊と検査官たちの馬鹿騒ぎをよそに。
ラグア「いろいろと読んだんだ」
ロニ「何を読んだ?」
ラグア「黙科節の間…
僕は特にやることがなかった。
だから、いろいろと読んだんだ」
黙科節。
ノイ民の掟を破った者が懲罰を受ける期間。
対象者は歴史的施設に閉じ込められる。
ラグアが閉じ込められたのは、安退荘。
広い庭を有する古い屋敷。
建てられてから数千年が経つ。
古代王国の王族が暮らしていたといわれる。
ノイ民でない者は立入禁止。
ノイ民固有の歴史的財産を守るという名目。
このことから人々に噂される。
犯罪者をかくまっているのではないかと。
ラグアは2年近くもの黙科節を終えてきた。
ラグア「安退荘で毎日、僕はまずい食事をとり、
施設の中を散歩して、狭い部屋で眠り、
偉ぶった老人たちに説教されていた。
それ以外には特にやることがなかった。
だから…」
ロニ「だから?」
ラグア「ノイ日報を読んだ。
隅から隅まで。毎日毎日。
時間はあったから。
本当に隅から隅まで読んだんだ。
僕はいろんな記事を読んだ」
ロニ「………」
ノイ日報。
大陸各地で起きたことを毎日伝える情報媒体。
大判の紙に印刷された文章で情報を伝える。
過去に政府から発行禁止処分を受けた。
強い偏向報道を理由に。
今もノイ地方を除いて発行が禁止されている。
ラグア「まったくひどいものだ」
ロニ「何が?」
ラグア「政府の権力者は無罪になるらしい。
人を騙しても人を殺しても。
審理院と手を組んで。
審理院はありもしないことをでっち上げたり
あったことをなかったことにしてるらしい。
それで、権力者は何しても無罪になるんだ。
審理院にとって大事なことは何か。
分かるか?何が正しいかじゃない。
何が間違っているかでもない。
誰かと誰か、どっちが強いか。
どっちにつくのが穏便か。
それが審理院にとって最も大事らしいんだ」
ロニ「…ふーん」
ラグア「あと、権力者は税を好きなように使える。
民から集めた貴重な税を。
民が一生懸命働いて納めた税を。
湯水のごとく使っているらしい。
感謝の気持ちもなしに」
ロニ「そうなのか?」
ラグア「そうだ。
そして、その税がどうなるか知ってるか?
巡り巡って極悪人の手に渡っているらしい。
平気で人を騙したり殺したりする極悪人に。
ノイ日報によればそうらしい」
ロニ「そうなのか」
ラグア「そうだ」
ロニ「マスタスさんが死んだ」
ラグア「………」
茶を少し飲んでラグアは言う。
ラグア「残念だ」
ロニ「残念そうに見えないが」
ラグア「残念だ。
マスタスさんが死んだのは残念だ。
それは間違いない」
ロニ「そうか」
ラグア「残念だけど落ち込んでる場合じゃない」
ロニ「そうだな」
ラグア「計画を変える」
ロニ「どういうふうに変える?」
ラグア「用意していた。あらかじめ。
マスタスさんが生きてたら次はこうしよう。
マスタスさんが死んだら次はこうしよう。
2つの計画をあらかじめ用意しておいた。
どっちに転んでも次の行動に移れる。
1つ目の計画がダメになった。
だから、2つ目の計画を実行する。
今、僕たちがすべきなのはそれだ。
落ち込むことでも悲しむことでもない」
ロニは小さくうなずく。
ロニ「組織が解散してる」
ラグア「………」
ロニ「大遊説で…私たちは多くの支持者を得た。
支持者たちは組織を立ち上げた。大陸各地で。
私たちの活動を支援する組織を。
その組織が…次々と解散してる。
知っていたか?」
ラグア「それも残念だ」
ロニ「微細暗球型精神操作と変態魔術。
マスタスさんの魔術が私たちの計画の要。
彼が死に、彼の魔術の効果が消えた今、
私たちを支援する組織が次々と失われている」
ラグア「………」
ロニ「私たちの大遊説の成果は…
もうほとんど残されていない」
ラグア「残念だ」
ロニ「さっきから残念だ、残念だって、
本当にそう思ってるのか?」
ラグア「………」
茶を飲んで、ラグアは言う。
ラグア「どっちでもよかったんだ」
ロニ「………」
ラグアは真剣な顔で語り始める。
2つの計画について。
その一方。
ヤシヤロ「ホラァッ!!」
ヤシヤロは硬い果実を素手で握りつぶした。
腕力を誇示する。
警備隊員たち「ワハハハ!!」
検査官たち「…!!」
ザンタク「ほう…こいつは驚いたねぇ!!」
警備隊の余興が始まる。
正査院の検査官たちをいかに楽しませるか。
接待を成功させるため、非常に重要。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ ラグア ◇
◇ レベル 24
◇ HP 2113/2113
◇ 攻撃
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 防御
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 秘力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 古代王の剣、破壊の矛、安定の玉、古代王の鎧
◇ 技 二連剣撃
◇ 魔術 火弾、火球、火砲
雷弾、雷球、雷砲
岩弾、岩球、岩砲
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 秘術 白剣
◇ ロニ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3825
◇ 攻撃 12★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
35★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 創造の杖、超獣長重杖、
八多等守護衣
◇ 魔術 操獣、創獣、人体獣化術、王獣