第150話 共存
◆ 猟師の基地 ◆
コイナミがエミカに問いかける。
コイナミ「あなたは?」
エミカ「え?」
コイナミ「どうやって魔力を高めたの?」
ゲンダ「いい訓練の方法があったら
コイナミに教えてやってくれ」
エミカ「普通のことしか…やってない…」
コイナミ「私は…」
エミカ「…?」
コイナミ「本当は魔術院に入りたかった」
エミカ「魔術院…」
コイナミ「研修生をやったあと受けた。
魔術院の魔術師試験。
正規の魔術師になるためには
合格しなきゃならないんだけど」
エミカ「そうなんだ」
コイナミ「………」
エミカ「…結果は?」
コイナミ「散々だった。1回目も、2回目も。
結局、私には足りなかったみたい。
素質ってものが」
ゲンダ「それで…
途方に暮れているところをオレが捕まえた」
コイナミは苦笑いする。
コイナミ「それが私が猟師になった経緯」
アルジ&エミカ「………」
ゲンダ「コイナミには光るものを感じていた。
魔術じゃなく弓の扱いに」
エミカ「弓の扱い…。
魔術院の研修生だったのに
弓を使うことなんてあるんですか?」
コイナミ「あった。普通はないけど。
私は魔雷矢の改良に取り組んでたんだ。
大陸猟進会の人たちと一緒になって。
魔術師として意見を言うこともあった。
そのとき弓矢の使い方も知っておこうって。
小さな道場で手ほどきを受けた。それだけ」
ゲンダ「実演させてみたら、
オレよりも筋がいいときた。
猟師に向いている。そう思った」
エミカ「そうなんですか」
コイナミ「普通のことしかやってない。
さっき、そう言ったね」
エミカ「ああ」
コイナミ「あなたみたいな魔力の持ち主に
そんなこと言われちゃうと敵わない。
やっぱり魔術は素質が大事ってことか」
肩をすくめて力なく笑うコイナミ。
エミカは天界石の杖を握った。
エミカ「素質だけじゃない」
コイナミ「……?」
エミカ「私は先生と親友から受け継いだ」
杖をコイナミに見せる。
エミカ「雷術も、岩術も、氷術も、光術も」
コイナミ「………」
カナミ「それは天界石?」
エミカ「うん」
ルノ「こんなに近くで見るの初めて」
キャモ「いい杖だ」
エミカ「ありがとう」
エミカはコイナミの目を見て言う。
エミカ「だから、私は負けられない」
コイナミ「………」
エミカ「この先、どんな敵が現れても。
この魔力でアルジと一緒に戦って…」
アルジ「エミカ」
エミカ「それで…」
うつらうつらとするエミカ。
アルジ「エミカ?」
エミカ「あなたたちの力にも…なりたい…」
目を閉じてそのままエミカは寝てしまう。
天井の近くを漂っていた光玉が消える。
ゲンダ「おい!消えたぞ!!」
キャモがすぐに光玉を出して天井に飛ばす。
基地内は再び照らされる。
だが、さっきより少し暗い。
キャモ「消えたぞ、じゃないだろ」
ゲンダ「ああ…すまん」
カナミ「怖がりだな」
ゲンダ「そんなんじゃねえ」
ゴタンジ「ははっ」
ルノ「にしても、無茶する子だ」
カナミ「あんだけ魔力を使えば、
まあ、こうなるわな」
コイナミ「………」
ゲンダが立ち上がって言う。
ゲンダ「そろそろ寝よう。
あっちに食料がある。
タキマイたちが置いてったものだ。
食べたけりゃ自由に食べるといい」
アルジ(そういや腹が減った…)
キャモ「悪いけど、
光玉はあと10分で消させてもらうよ」
アルジ「…!」
キャモ「これ結構疲れるし早く寝たいから」
アルジ「………」
キャモ「あとは自分でなんとかしな」
アルジ(飯を食いたい。
まだもう少し起きてたい…。
オレの雷術で…やってみるか…)
ゴタンジ「おう、その顔…。
アルジも自信があるようだ」
ゲンダ「キャモの後任は頼んだぜ」
アルジ「バチバチしてもいいならな」
ゲンダ「なんだ?お前も雷術使いなのか」
アルジ「ああ」
ゴタンジ「雷は苦手だ。オレの近くで使うなよ」
アルジ「………」
アルジたちは食事をとり、寝具を広げた。
それから、基地の周りに縄を張る。
施したのは簡単な仕掛け。
何かが縄に触れたとき、音が鳴る。
寝ている間も魔獣の接近に気づけるように。
キャモとカナミがエミカを寝具に寝かせる。
アルジは食料を取り分けた。
エミカの枕元にそっと置く。
すやすや眠るエミカの顔をアルジは見る。
アルジ(オレも負けないから…)
真っ暗な基地の中。
寝具に入ったアルジは問いかける。
少し離れたところで寝ているゲンダに。
アルジ「ゲンダさん」
ゲンダ「なんだ!!
せっかく眠くなってきたところなのに」
キャモ&ルノ&カナミ(うるさ…)
アルジ「本隊は大丈夫なのか?
今も現地にいるんだろ?ミノマノ村だっけ。
コノマノヤタラズマは大丈夫なのか?」
ゲンダ「それは心配ない」
アルジ「なぜだ?」
ゲンダ「本隊には大陸首位猟師がいるからな」
アルジ「大陸首位猟師…大陸首位猟師って…」
ゲンダ「大陸猟進会に所属する現役最強の猟師」
アルジ「現役…最強…」
ゲンダ「ああ。その現役最強が交渉している。
コノマノヤタラズマの討伐について。
村の有力者と。だから、心配いらない」
アルジ「そっか。大丈夫なのか」
ゲンダ「ああ。詳しいことは明日また話す。
だから今日はもう寝ろ!!」
ゴタンジ(うるせえ…)
アルジ「ああ、分かった」
暗い天井をぼんやりと眺めるアルジ。
アルジ(昨日ギンタロウが言ってたな。
大陸首位猟師になるとかって…。
あの称号…本当にあったのか…)
◆ ミノマノ村 ◆
その村には、大きな門があった。
夜の闇の中、その門の前で向かい合う男たち。
村の助役は不快感をあらわにする。
助役「…で?だから?
それがなんだって言うんですか?」
彼は背が低く、痩せていた。
細い目、高い鼻、とがったあご。
黒々とした長髪は、後ろで束ねられている。
彼のすぐ後ろには、4人の屈強な男たち。
助役「いいですか。あなた方。
我々が求めているのは論理的な根拠です。
あなた方は感情的にわめいているだけ。
魔獣は危険だと。退治させろと。
なぜもっと冷静になれないのですか?」
彼は手にしていた紙の束を引き裂く。
助役「こんなものは、こうだ」
引き裂いた紙を地面に落とし、踏みつける。
助役「こんな実験結果でっち上げだ。
政府が都合のいいように作ったものだ。
信用できない。根拠にならない。
話にならない。我々は我々の考えで動く。
余計な口出しはしないほしい」
助役は3回強く手を叩く。
助役「先ほどから何度も繰り返していますが、
我々は魔獣を殺しませんし、殺させません。
それが結論です。我々は鎮められる。
どんな獣の、どんな怒りも。
どんな獣とも共存していける。
悪しき魔術に頼らずに。
今日は特別にお見せしましょう。
決定的証拠というものを。
わざわざ大陸首位猟師が来たんですから」
両開きの重い門扉が開かれる。
開いたところから村の広場が見えた。
広場の真ん中には球状の巨大な殻。
その中にはコノマノヤタラズマが眠る。
殻の周りには踊りを踊る村人たち。
老若男女が一生懸命に舞っていた。
助役「いいですか。
これから決定的な証拠をお見せします。
あなた方がもう2度と
愚かなことを言わないように…」
助役は声を張る。
門の向こうに呼びかける。
助役「ヌキチ!!来い!!!」
ヌキチ「はい!!」
広場の方から半裸の男がやってくる。
門を潜り抜け、助役の隣に立つ。
ヌキチ「ヌキチ、ただいま参上しました!」
助役「うむ」
ヌキチは21歳の若者。
鍛え上げられた体と端正な顔立ちの男。
まっすぐで飾らない性格の持ち主でもある。
村人の間で彼の人気は非常に高い。
村の女の大半は彼を好んでいた。
そんな彼の目は自信に満ちて輝いている。
ヌキチを次期村長に。
村の中ではそんな声もよく聞かれる。
助役「彼らに見せてやりなさい」
ヌキチ「はい!」
ヌキチは指笛を吹く。
すると、門の向こうから1頭の魔獣。
その魔獣はカヤタマノネコ。
ヌキチに近寄ってきて伏せる。
とても穏やかな様子で。
ヌキチ「よし!」
それから、いくつか芸を披露した。
ヌキチが声と身振り手振りで合図を出す。
カヤタマノネコはそれに従う。
襲いかかる様子はまるでない。
3回その場で回ってニャンと鳴いたとき。
ヌキチは芸の披露をやめて言う。
ヌキチ「ジロスケは最初こんなじゃなかった。
村の人たちに襲いかかろうとしていた。
だけど、オレの踊りでこいつは変わった」
助役「そうだな」
ヌキチ「はい。踊ることで魔獣は変えられる。
踊りには力がある。獣の怒りを鎮める力が。
人々を救うのは、獣を救うのは、
魔術じゃない。踊りの力だ。
正しく踊れば獣も大人しくなってくれる。
はっきり分かった。殺すのは間違いだと」
殺すのは間違い。
その最後の一言には強い怒りが込められていた。
ヌキチ「踊り方はオレが村のみんなに教えた。
あの殻の魔獣もきっと怒りを鎮めてくれる。
オレは確信している」
助役は満足げにほほえむ。
助役「動かぬ証拠とはこういうものを言うのです。
目の前で見せられてどうですか?
それでも何か言い返すことはありますか?
魔獣は殺すべきだと言えるのですか?
大陸首位猟師さん」
助役はヌキチの顔をちらりと見て言う。
助役「戻っていい」
ヌキチ「はい!!」
魔獣とともに村へ帰っていくヌキチ。
門扉が閉ざされる。
助役は怒りをあらわにして言う。
助役「さあ、これでもまだ帰らないか!
言いたいことがあるなら言え!」
言葉を発したのは大陸首位猟師。
大陸首位猟師「参ったな」
大陸首位猟師。
クマのような巨体の男。
どっしりと助役の前に立っている。
大陸首位猟師「オレたちが出せるのは…
さっき渡した実験結果。あれがすべてだ。
魔術は魔獣を生み出しちゃいない。
魔術で魔獣を討伐しようが何も問題はない。
その証拠が、さっき渡した紙に書かれてる。
政府が行った正当な実験の結果だ。
オレたちが今出せるのは、あれだけだ」
助役「あんなの信用できるわけないでしょ!
都合がいいように政府がでっち上げたものだ!
何度も言わせるな!証拠として不十分だ!」
大陸首位猟師「なら、どうすればいいんだ?」
しばらく沈黙したのちに助役は話す。
助役「せめて第三者だ。
政府でも猟師でも魔術師でもない。
そういう第三者が行った実験じゃないと。
客観的で公正に行われた実験結果でないと…」
大陸首位猟師「村長は納得しない…か?」
助役「村長じゃない。真王だ」
大陸首位猟師「真王…」
助役「そうだ。ミノマノ真王が…納得しない。
我々を説得したいならそういう資料を出せ」
ミノマノ真王。
ミノマノ村の2代前の村長。
村長だった頃は強権を振るい村を治めていた。
退任後、自らを「真王」と称するようになる。
現在は重い病を患っている、
ほとんど寝たきりの状態。
しかし、村の政治の実権は彼が握っている。
村長が政治的決定をするとき。
真王の許可が必要とされる。
反対に、真王の下した決定に村長は逆らえない。
ミノマノ村では村長とは名ばかりの存在。
助役「もしもそういう資料が出せるなら、
私の方から真王に説明してやってもいい」
大陸首位猟師「そんなものはない」
助役「なら、帰れ」
大陸首位猟師「ああ、そうさせてもらうよ」
大陸猟進会の猟師たちは村から去っていく。
大陸首位猟師を先頭に。
彼の後ろには、3人の猟師たち。
3人は大陸首位猟師に問いかける。
猟師A「これでよかったんですか?」
大陸首位猟師「あれ以上話しても時間の無駄だ。
あいつら否定ありきで話をしている。
オレたちが何を言おうが、何を出そうが、
難癖つけて否定してくるだけだ。
だから時間の無駄だな」
猟師A「………」
猟師B「さっきの魔獣の芸
どうやって仕込んだんでしょう?」
大陸首位猟師「さあな。
踊りの力で獣の怒りを鎮める…。
嘘くさい話だが…
見せられちまったもんはしょうがない。
一体どういう仕掛けか分からないが、
確かに魔獣を手懐けているようだった」
猟師C「これからどうしますか?」
大陸首位猟師「さっき合離蝶の知らせがあった。
コズマ国の国首がオレを呼んでるそうだ。
おそらく…
古代獣ヤノエノゴザサラシのことだろう。
向こうで相当暴れているらしいからな。
早く討伐しろ。用件はそんなとこだろ。
オレはそっちへ行くことにするよ」
猟師C「そうですか」
大陸首位猟師「それともう1つ。
いい知らせがあった。
オオトノラコアが討伐されたそうだ」
猟師C「ゲンダ部隊がやったんですね」
大陸首位猟師「いや、そうじゃないようだ」
猟師C「違うんですか…?」
大陸首位猟師「強い猟師がいて倒したとか…。
ゲンダたちは日が昇る頃こっちに来るだろう。
オレはコズマ国へ行く。
お前たちはここに残ってあいつらと合流しろ。
そして、もしものときは…
あいつらと組んでコノマノヤタラズマを倒せ」
猟師A「村の人たちはあのままでいいんですか?」
大陸首位猟師「いいさ。放っておけよ。それに…」
猟師A「…なんですか?」
大陸首位猟師「信じてみようじゃないか。
さっきの助役が言ってたことを。
あれだけ自信たっぷりに言われたんじゃ
オレも信じてみたくなる。
踊りの力ってもんを…な」
猟師A「ちょっと、ヤマタンさん!
大陸首位猟師がそんなのでいいんですか?」
ヤマタン「いいんだよ。
オレはもともと獣殺しは好きじゃない。
それになんと言ってもだ。
魔獣と共存する社会ってのも…
それはそれで面白そうじゃないか!
ハハハハハハ!!」
猟師A&B&C「………」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ ヤマタン(大陸首位猟師) ◇
◇ レベル 38
◇ HP 3465/3465
◇ 攻撃
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力 2★★
◇ 装備 制獣剣、覇獣槍、猟進弓、特防装衣
◇ 技 断河斬、貫岳撃、破命射
◇◇ 敵ステータス ◇◇
◇ コノマノヤタラズマ(殻化状態) ◇
◇ レベル 44
◇ HP 67454
◇ 攻撃
◇ 防御
76★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
◇ 魔力
35★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔術 氷皮
雷膜