第15話 善行
カクノオウは剣を1度大きく振る。
刃が空気を裂く。
ビュッと音が鳴る。
それから、大きく前へ踏み出した。
アルジとエミカは後退。
間合いを保つ。
ノゴウだけは1歩も退かない。
ノゴウ「よくも…!オオデンさんを…!」
カクノオウ「ノゴウ!!!」
ノゴウ「!!!」
カクノオウ「お前は騙していたわけだ…」
ノゴウ「………」
カクノオウ「ワレを慕っている振りをして、
弟子入りしてワレの情報を盗んだわけだ…」
ノゴウ「………」
カクノオウ「これは罪深い!罪深いぞ!!
この卑怯者め!裏切り者め!!」
ノゴウ「…さい…」
カクノオウ「あ…?」
ノゴウ「うるさい!!!」
ノゴウは剣を構える。
恐れと怒りで震える刃。
それをカクノオウに向ける。
ノゴウ「お前のような悪人を裏切ったところで
オレの心は少しも傷まない…!!」
カクノオウ「おい、なんだ?その構えは…?
おい、まさか!戦うのか?挑むのか?
まさか…このワレに…戦いを挑む気か…?
お前が…ワレに…戦いを挑むというのか?
ワレに…お前ごときが…くくく…!」
ノゴウ「そうだ!!覚悟しろ!」
カクノオウ「お前ごときが…かはははは!!」
弟子たちも笑う。
ノゴウは軽んじられていた。
強盗団に潜入調査していたとき。
ほかの弟子たちから。
体格に恵まれず、戦闘力が劣っていたために。
カクノオウも剣を構える。
カクノオウ「よかろう!その覚悟見事なものよ!
最大級の力と技で応えてやろう!!」
ノゴウ「ワノエ警備隊!!ノゴウ!!
僕はお前を許さない!!覚悟しろ!!」
アルジ「…おい!!!ノゴウ!!待て!!!」
アルジは思わず声を上げる。
ノゴウの肩をつかもうとする。
だが、間に合わない。
オオデンと同じように駆けていく。
戦いの結末は誰の目にも明らか。
カクノオウ「オラァ!!雷!神!剣!!」
雷が落とされる。
ノゴウを撃ち抜く。
彼は全身を激しく震わせる。
ノゴウ「グアアアアアアアア!!!」
カクノオウはすぐさま長剣を振り抜く。
彼にとってノゴウはかつての弟子。
だが、その斬撃に手心などない。
ノゴウ「ぶひい…!!!」
ノゴウの体は斜めに2つに分断された。
◇ ノゴウに1012のダメージ(HP3→0)
◇ ノゴウは死んだ。
異様な静けさが辺りを包む。
面白がって見ていた弟子たちも黙る。
それだけ圧倒されていた。
カクノオウの強さに。
雷神剣の圧倒的な威力に。
カクノオウ「なんだ…?」
アルジ&エミカ「………」
カクノオウ「何見てやがる!!」
アルジ&エミカ「………」
カクノオウ「…今日は害虫を2匹も潰した。
久しぶりに清々しい気持ちだ」
アルジ「…クズが…!」
カクノオウ「は…?なんだと…?」
アルジ「………」
カクノオウ「おい!もう1度言ってみろ!!」
アルジ「クズが…!!」
カクノオウ「クズ!…クズねえ…!」
アルジ「お前は…クズだ…!!」
カクノオウ「…くくく…おいおい…おい…
おいおいおいおいおいおいおい!!!!
かつての恩師に随分ひどい言い草だな!
ァアアルジイィイィイィイィ!!!!」
カクノオウは剣を構える。
アルジも構える。
カクノオウ「アルジ…相変わらずだ…。
お前は相変わらずだなぁ…」
アルジ「何が言いたい?」
カクノオウ「お前は知らないんだ。
知らないだけなんだ。
本当のクズが…どっちなのかをな!」
アルジ「なんだと?」
カクノオウ「教えてやる。よく聞けよ。
教えてやる。本当のクズはあの2人だ。
どうせ知らないんだろ?
聞いてないんだろう?
聞かされてないんだろ?
やつらがここに来た本当の目的を!!」
アルジ「本当の…目的だと…?」
カクノオウは剣を構えたまま話を続ける。
アルジも構えを解かない。
カクノオウ「まずオオデン。
こいつは裏切り者だ。
副隊長の地位にありながら、
部下を見殺しにした。
それは、それは、醜い裏切り行為さ。
3年前のカサナ家の事件。首謀者はワレだ。
予告状を送り、弟子を引き連れ、襲撃した。
あくどい商いを繰り返し、
醜く肥えたバカどもを一掃してやった。
盗みは弟子に任せてワレは殺しに徹した。
警備隊員を、カサナ家の住人を、使用人を、
1人、2人、3人!4人!!
手にかけていった!爽快だった!!
一家は全滅。警備隊もあと数人。そんなとき。
警備の指揮をとっていたオオデンと対面した。
そのときのやつの第一声はなんだと思う!?」
アルジ「………」
カクノオウ「これが聞いてあきれるぜ!!!
誇り高きワノエ警備隊様の言葉なのかって!
ワレは耳を疑いたくなった!!
おい!!なんて言ったと思うよ!!?
ァアアルジイィイィイィイィ!!!!!!」
アルジ「…知るか」
カクノオウ「許してくれ!だってよ!!
笑えるぜ!!」
アルジ「!?そんな…!」
カクノオウ「これで終わりにしてくれ!だとよ!
金をやるから!頼むから!今回だけは!!
許してくれ!!だってよ!!あきれたぜ!
笑い転げそうになったが、そこは我慢したぜ!
まだまだ盗みの仕事が終わっちゃいないのに
弟子たちに示しがつかないからなあ!」
アルジ「嘘だ…そんな…!」
カクノオウ「お前は知らないんだ!!経緯を!!
過去のことを!そうだ!つまり、歴史だ!!!
歴史を学べと教えただろう!歴史書を読めと!
何度も教えただろう!!先生はがっかりした!
がっかりしたぞ!!かはははははははは!!!」
アルジ「…オオデンは…そんなやつには…」
カクノオウ「金をやるから許してくれ。
やつの提案を拒み、左腕を斬りつけてやった。
あいつは背を向けて一目散に逃げていった。
逃げ足だけは速かったな。戦士のくせに!!
あのときの失態が忘れられず、
自責の念にかられていたんだろう!
あいつは今日、ここまでやってきたんだろう!
まあ!罪滅ぼしってところだろうな!!
今回のあいつのワレに対する無謀な挑戦は!
やられると分かって突っ込んできたわけだ!
勝てないと分かっていながら!!攻めてきた!
あえてワレに殺されるため!!
突っ込んできたわけだ!!
命で償ったつもりかもしれないが!
とんだ無駄死にだ!!ただの無駄死にだ!!
滑稽だ!いや!実に滑稽だ!滑稽な男だ!!
かははははははははははははははは!!」
アルジ「…てめえ…!」
カクノオウ「…それだけ悔いていたのだろうよ。
あの日、ワレから逃げ出したことを。
慕っていた部下に潜入調査までさせてな」
アルジ「…そんな…ことが…!」
カクノオウ「それとノゴウ。
こいつも立派な裏切り者だ」
アルジ「…潜入調査のことか?」
カクノオウ「それだけじゃねえよ!」
アルジ「!!…なんだと…?」
カクノオウ「カサナ家の襲撃はうまくいった。
あの日はさくさく殺してぱっぱと盗んだ。
なんでこんなにうまくいったか分かるか?」
アルジ「…知らねえ…」
カクノオウ「漏らしたんだ!漏らしたんだよ!!
ノゴウが全部漏らしたんだ!警備の体制を!!
カサナ家の宝のありかも!全部!!全部だ!!」
アルジ「何を…言ってるんだ…」
カクノオウ「過去の事実だ」
アルジ「………」
カクノオウ「カサナ家を襲撃する前夜だ。
弟子を連れてワレはノゴウの家を襲った。
やつの家族を人質にとって脅した。
そしたら、全部教えてくれたのさ!
カサナ家の屋敷の見取り図まで差し出して!
これで許してください!だってよ!!
警備も!!宝も!!全部それで分かった!!
一生懸命作ってたんだろうなあ!!
警備をうまくやるために!!せっせと!!
それが結局!!ワレの役に立った!!
便利で愚かな男よ!!」
アルジ「…そんな…」
カクノオウ「あいつもここにはるばる来たのは、
けじめをつけにきたってところなんだろうな。
責任感じて死にたがっている者を死なせた。
そういう意味でワレは今日よいことをした。
善行か悪行か?善行だ!これは善行なのだ!
あいつらのためにワレは一肌脱いだのさ!!
かははははははは!!」
アルジの構えに力が抜けていく。
アルジ「………」
エミカ「アルジ、真に受けるな!
あいつの話が本当かなんて分からない!」
アルジ「………」
エミカ「アルジ!!」
アルジ「ああ、心配ない。少し…考えてただけ」
エミカ「………」
アルジ「オレは…過去なんて知らないし、
歴史のことなんてもっと知らない。
だけど、1つはっきり言えることがある」
エミカ「………」
アルジ「カクノオウ!!お前を!オレが!!
ここで倒さなきゃならないってことだ!!」
カクノオウ「ふん…いいだろう。
相手してやる。最後の授業をしてやろう。
お前の命が授業料だ。
そして、終礼を告げる鐘の音は…」
アルジ「うるせえ!!!!!!」
勇気の剣が光を強めていく。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 6
◇ HP 98/223
◇ 攻撃 17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 5★★★★★
◇ 素早さ 6★★★★★★
◇ 魔力 1★
◇ 装備 勇気の剣、革の鎧
◇ 技 円月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 6
◇ HP 127/192
◇ 攻撃 3★★★
◇ 防御 3★★★
◇ 素早さ 7★★★★★★★
◇ 魔力 9★★★★★★★★★
◇ 装備 術師の杖、術師の服
◇ 魔術 火球、火砲
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 8
◇◇ 敵ステータス ◇◇
◇ カクノオウ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 402/402
◇ 攻撃 17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 11★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 7★★★★★★★
◇ 装備 天竜の長剣、風魔の武闘衣
◇ 技 雷神剣
◇ 魔術 雷弾