第149話 保護
◆ 巨方庭 管理者の館 ◆
ソネヤは木箱の中の物を取り出す。
枯れた葉、小さな木の実、獣の毛、牙。
机の上に置いて並べていく。
最後に、小さく折り畳まれた1枚の紙。
ソネヤ「これらが彼女のみやげです」
それらの品々が何を示すのか。
巨方庭について何を教えてくれているのか。
エオクシたちには分からない。
ソネヤ「あの場所には、何かがある。
昔からそう言われていたようです。
暗黒時代後に書かれた文書で
現存する最古のもの、故件録。
それにも巨方庭についての記述があります。
『巨方庭』という言葉が初めて出てきます。
ですが…」
カタムラ「誰がなんの目的で造ったのか…
分からない」
ソネヤ「ええ。故件録にそう書かれています」
ソネヤは机の上の牙をつまみ上げる。
両手で包み、手の中で転がす。
ソネヤ「庭と呼ぶにはあまりに大きい。
王族の墓か。あるいは城だったのか。
説はいろいろあっても分かってません。
真相を知るには古代文書の解読が必要。
暗黒時代より前に書かれた古代文書。
これを読み解かなければならない。
ですが、それをできる者がいません。
古代文書は数多くあります。
ですが、分かっていません。
巨方庭についての記述がどこにあるのか。
どの古代文書のどの部分に書いてあるのか。
そもそもそういう記述があるのかさえも。
ですから、今回のことはとても驚きました。
政府から手紙をいただいて、
まさか巨方庭にそんな装置があったのかと。
魔真体の起動装置が隠されていたのかと。
そもそも魔真体のことも
私たちは知らなかったのです」
カタムラ「魔真体は目覚めさせてはいけません。
私たちの任務はその起動装置を探し出すこと。
そして、その装置を機能停止させることです。
起動装置は巨方庭の一体どこにあるのか。
何か手がかりになる情報をお持ちではないか。
そんな期待を持ってここへ参りました」
ソネヤ「少しでも役立つ情報をお出しできれば、
幸いに思います」
ソネヤは手にしていた牙を卓の上に置く。
ソネヤ「カタムラさん。
これからお話することは、
学者のあなたはもうご存知かと思います。
ですが、あえて話をいたしますね。
魔術師や戦士の方もいますので、
巨方庭について基本的なことから話します」
カタムラ「どうぞ」
ソネヤ「巨方庭。
名前の由来は形と大きさにあります。
まず、形。
もう10年近く前の話になりますが、
政府の調査団が高い精度で測量を行いました。
そうしたところ、
ほぼ正方形であることが分かっています。
極めて正確な正方形です。
現代でも再現できるか分からないくらいの」
サヤノ「…すごい」
カエノ「大昔にどうやったんでしょうね」
サヤノ「うん、どうやったんだろう」
ソネヤ「それは残念ながら分かりません。
4つの頂点は東西南北の方角にあります。
これもまた驚いたことに、
真東、真西、真北、真南…と正確に
その頂点が配置されているそうなのです」
マユノ「不思議ですね。
何かがあると思ってもおかしくないですね」
ソネヤ「ええ。財宝が眠っているなんて
噂が絶えないのも分かる気がします」
そして、ソネヤは卓上に手を伸ばす。
次につかみ上げたのは折り畳まれた紙。
それを広げながら彼は語る。
ソネヤ「次に、大きさ。
さっきも言いましたが、
庭と呼ぶにはあまりに広い場所です。
皆さん普段から都にお住まいですから、
想像しやすいと思うのですが、
アマシロ円形大競技場が9個、
すっぽりと入ってしまう大きさです。
縦に、横に、3つずつ。
並べてすっぽり入るのです」
サヤノ「それは広いですね」
アマシロ円形大競技場。
都にある屋根付きの運動競技場。
大規模な運動競技の大会が行われる。
著名な音楽家の演奏会が開かれることもある。
観客は5万人程度の収容が可能。
アマシロ円形大競技場が何個分か。
場所の広さを表すとき、言われることがある。
分かりやすいという声がある一方、批判もある。
競技場を訪れたことのない者には想像できない。
数十個分などという表現はむしろ分かりづらい。
これらのような批判。
略称は「アマ円」。
ソネヤ「広くて、正方形の庭。
だから、巨方庭。
名前の由来はこんなところです」
カタムラはうなずく。
もう知っていると言いたげな態度。
ソネヤ「では、あの場所に何があるのか。
今度はその話に移りましょう」
ソネヤは手にしていた紙を広げ終える。
それは、正方形の1枚の紙。
一辺の長さはソネヤの肩幅の2倍ほど。
卓の真ん中に広げる。
ソネヤ「どうぞ。こちらへ。見てください」
カタムラたちは立ち上がる。
卓を囲んで6人は見下ろす。
その紙に何が描かれているのか。
ソネヤ「これは彼女が持ってきた地図。
おそらく現地を探索し、記したのでしょう」
端には方位記号。
紙の中央部には正方形。
巨方庭の中と外との境界を示している。
その内側にはいくつも絵が描かれている。
道、木々、山、城のような建物、洞穴、泉。
黙って見続ける6人にソネヤは語る。
ソネヤ「描かれているものは
故件録の記述と一致しています。
北に小高い山、南に小さな泉、
西に建造物、東に洞穴。
1つ1つの絵は小さいですが、
詳しく描き込まれています。
彼女は実際に足を踏み入れ、
目にしてきたのだと思います」
エオクシ「山なのか、泉なのか、
よく分からねえが、
これらのどこかにありそうだな。
起動装置ってやつは」
アヅミナ「1つずつ当たっていくしかないね」
カタムラ「私が直接見て確かめましょう」
エオクシ「頼むぜ」
カタムラ「任せてください」
アヅミナ(知識は誰もカタムラに及ばない。
この人を信じて進むしかない…)
マユノが気づく。
マユノ「これは…血ですね?」
地図の端。
わずかについた塗料のようなもの。
ソネヤは悲しげな顔で答える。
ソネヤ「そうです。血です」
マユノ「『彼女』のものですか?」
ソネヤ「はい。
彼女が戻ってきたとき、腕に大きな傷を…。
抱えていた地図についてしまったようです」
エオクシ「巨方庭で負傷したってことか」
ソネヤ「はい。おそらくは」
ソネヤがうつむくと、ハイラが口を開いた。
ハイラ「『彼女』を見つけたのは私なんだ」
マユノ「そうなんですね」
ハイラ「夜、扉を叩く音がしてね。
ソネヤはそのとき、風呂に入ってて。
私は玄関に1人で向かったんだ。
ドンドンと激しく扉を叩いてきてね。
獣ではない。でも、何者だろうと思った。
出ないでおこうかとも思った。
だけど、声が聞こえてきて…」
当時のことを思い出すハイラ。
ハイラ「その声は言葉になっていなかった。
だけど、分かった。
それは、助けを求める叫びだって。
強い恐怖を感じ、救いを求めている。
私にはあのときちゃんと聞こえたのさ」
声が震える。
ソネヤが話す。
ソネヤ「その夜、私たちは彼女を保護しました。
このことは政府に報告していません。
しばらくの間、ここで3人で暮らしました」
マユノ「今、彼女はどこに?」
ソネヤ「亡くなりました」
マユノ「………」
カタムラがソネヤに問いかける。
カタムラ「彼女の身に…一体何が?」
ソネヤ「私たちが保護したとき、
彼女はひどく弱っていました。
体にはいくつも傷を負っていて、
血色は大変悪かった。
ですが、傷を手当てし、
十分な食事を与えることで、
彼女は順調に回復していきました」
カタムラ「それでは、なぜ死んだのですか?」
ソネヤ「彼女の肉体は回復しました。
問題は精神です」
カタムラ「精神…」
ソネヤ「はい。結局、亡くなるそのときまで
彼女が何かを話すことはありませんでした。
話そうと思えば話せるけど、
話さないようにしている。
そういう様子ではありません。
もっと…こう…
知識としての言葉を忘れてしまったような。
技術としての話し方を失ったような。
そんな印象でした。笑うことは一切なく、
泣いたり、うなったり、叫んだりすることで
彼女は感情表現してました」
カタムラ「そんなことが…。
なぜそれを報告しなかったのですか?
まずは政府に伝えるべきではないですか?」
ソネヤ「今思えば、そうすべきでした。
ですが、そうすることは彼女にとって…
とても不幸なことのように思えたのです」
カタムラ「それは勝手が過ぎますよ!」
ソネヤを責めるカタムラ。
エオクシがそんな彼の肩をつかむ。
強い痛みに襲われてカタムラは目をむいた。
エオクシ「ちょっと待て」
カタムラ「ひ…ひ…!」
エオクシ「今はこの人を責めるときじゃねえ。
巨方庭に一体何があって、何が起きたのか。
それを知ってオレたちの任務にどう活かすか。
聞き出して、考えるために来てんだろ」
カタムラ「え…ええ」
エオクシ「だから、
最後まで話してもらおうじゃねえか。
なあ、ソネヤさん」
ソネヤ「はい」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3487/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ マユノ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 1176/1176
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 蒼天想の魔杖、来陽の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷裂、氷波、王氷
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ カエノ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 1084/1084
◇ 攻撃 3★★★
◇ 防御
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 装備 超放気の魔杖、連星の魔道衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷破、雷花、王雷
氷弾、氷矢
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ サヤノ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 953/953
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
37★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 清化印の魔杖、光心の魔道衣
◇ 魔術 岩弾、岩砲
雷弾、雷槍
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ カタムラ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 766/766
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 9★★★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力 3★★★
◇ 装備 魔鉱石の短剣、秘術道具(空球)、
探検用強化研究衣
◇ 魔術 光玉、治療魔術
◇ 秘術 青珠
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 100、魔力回復薬 100