第147話 木箱
◆ 巨方庭 管理者の館 ◆
ソネヤは卓上の木箱にそっと手を乗せた。
マユノ「侵入者…ですか」
ソネヤ「はい。巨方庭は有名な古代遺跡。
財宝が眠ってるなんて噂を聞きつけて、
やってくる者はあとを絶ちません」
サヤノ「危険な場所なのに…」
ソネヤ「知らない人も多いのでしょう。
普通の歴史書には書かれていませんから。
巨方庭がどれほど危険か」
カエノ「財宝目当ての人たちなら、
武闘派も多いのではないですか?
忠告なんてして危ないのでは?」
ソネヤ「はい、武闘派も多いです。
だから、忠告なんです。
力ずくで追い払うなんてことはしてません」
カエノ「効果はありますか?」
ソネヤ「もちろん。あります。
私たちの忠告で大体の人は立ち去ります。
巨方庭を前にすると分かるんでしょうね。
ここは危険な場所だと。本能的に分かる。
勇んでやってきたはいいが、
心のどこかに恐怖がある。
そういう人には忠告がよく効きます。
最後の最後、行くか行かないか、
考えて立ち止まっている。
誰かに見つかるのを待ってるかのように。
そういう人たちだ。
そういう人たちには特によく効きます。
現地を目の前にして踏みとどまる。
私たちが忠告することで退散する。
そういう人たちは本当に何人もいます」
サヤノ「言うことを聞かない人は?」
ソネヤ「いますよ。たまにですが」
マユノ「そういう人はどうしますか?」
ソネヤ「何もしません」
マユノ「そうすると、侵入してしまうのでは?」
ソネヤ「ええ。侵入してしまいます。
ですが、誰かが侵入してしまったところで、
私たちに何か罰が下ることはありません。
私たちがすべきことは立ち入らないこと。
そして、いかに危険か教えること。
それだけです。あとは、侵入者に任せる。
忠告に従い、入るのをやめるのもいいです。
忠告を無視して入るのも本人の気持ち次第。
それが忠告の仕事です。注意する。説明する。
それでだめだったら、どうぞ侵入しなさいと。
以前はもっとずっと厳しかったようですが」
カエノ「以前は…?」
ソネヤ「ええ。以前は排除してました」
マユノ「排除ですか」
ソネヤ「不審者がいたら入らないよう警告して
それでも入るなら、力ずくで排除してました」
マユノ「あなた方もそのようなことを…?」
ソネヤ「私たちが管理者になる前のことです。
当時の管理者の仕事は、今より厳しかった」
ふと天井を眺めるソネヤ。
ソネヤ「ところで、どうですか?この屋敷。
私たちはここに2人で暮らしています」
マユノ「とても大きなお屋敷で」
ソネヤ「そうでしょう。持て余しています」
マユノ「狭いよりはいいと思いますが」
ソネヤ「ええ、まあ」
ハイラ「もともとここには10人いた」
マユノ「管理者が…ですか?」
ハイラ「そうさ。
私たちがここで働き始める前のこと。
10人の管理者がここで暮らしていた。
巨方庭の監視を交代制で1日中やる」
カエノ「1日中って夜もですか?」
ハイラ「そうだよ」
サヤノ「大変そう」
ソネヤ「大変だったようです。
それに監視だけじゃない。
もっと大変だったのは排除の仕事だ。
彼らは必要なら武器を手に侵入者と戦った」
カエノ「戦った…」
ソネヤ「はい。不審者を見かけたら声をかける。
侵入するな、立ち去れと命令する。
それでも立ち去らない者は排除した。
なんとしても侵入させない。その一心で。
命を懸けて当時の管理者たちは戦ったのです」
カエノ「本当に厳しかったんですね」
ソネヤ「はい」
マユノ「でも、今では排除はやめて
忠告するのにとどめていると」
ソネヤ「そうです」
カエノ「忠告になったきっかけは?
何かあるんですか?
監視から観察になったのも…」
ソネヤ「過去にある事件が起きました」
マユノ「事件…どのような?」
ソネヤ「侵入者と管理者がもめたのです」
カエノ「どんなふうに?」
ソネヤ「私たちも直接見てません。
当時の日誌で確認しただけです。
ある朝、当時の管理者が見つけたのです。
血気盛んな冒険者の集団を。
彼らが巨方庭に入ろうとするのを。
そこで、まず、その管理者は警告した。
危険だから立ち入ってはならないと。
だが、冒険者たちは聞く耳を持たない。
ほかの管理者もやってくる。
1人、2人と駆けつける。
さらに3人、4人と増えた。
最後は10人全員集まった。
すると、冒険者たちは激怒し、威嚇する。
いつ戦いが始まってもおかしくない。
そんな雰囲気になったらしいのです」
マユノ「どうなったんですか?」
ソネヤ「半日ほどにらみ合いが続きました」
カエノ「長いですね」
ソネヤ「さらに罵り合いも始まったらしい」
サヤノ「怖いですね」
ソネヤ「一向に立ち去らない冒険者たち。
ついに10人の管理者は動き出しました。
彼らを排除しようと。
だが、冒険者たちも強かった。
いや、彼らの方が強かった。
まず、数の面で負けていました。
相手は18人もいたそうなのです」
サヤノ「どうなったんですか?」
ソネヤ「管理者が負けました。
10人のうち9人が死にました。
残りの1人はなんとか逃げました。
それで、近くの山野に隠れた。
彼が記録を残して私たちに伝えたのです。
事件の顛末を」
マユノ「その冒険者たちは…そうすると…」
ソネヤ「はい。侵入しました。巨方庭に。」
カエノ「その事件がきっかけなんですね」
ソネヤ「はい。
事件後に管理者の仕事は変わりました」
カエノ「排除から忠告に、監視から観察に。
そういうことですね?」
ソネヤ「はい。そういうことです。
仕事の内容だけではありません。
管理者は10人から6人になりました。
その2年後に1人減らされました。
その3年後には3人減らされました。
そして、今、私たちが2人でやってます」
マユノ「急に仕事が変わったのはなぜですか?」
ソネヤ「よく分かりません。
政府の考えで変更になったと聞いてますが。
私たち末端は基本的に従うだけです。
ですが、これはこういうことじゃないか?
…と思うことはあります」
サヤノ「どのように思うんですか?」
ソネヤ「巨方庭には監視するほどの価値はない。
命懸けで侵入者を排除する価値もない。
1日2回の観察、そして、侵入者への忠告。
それで十分。それ以上何かする必要はない。
結局、政府の考えはこうなった…
ということだと思います」
サヤノ「費用対効果というものでしょうか」
ソネヤ「そういうことですね」
カタムラが切り込む。
カタムラ「1つよろしいですか?」
ソネヤ「はい」
和やかだったソネヤとハイラ。
顔が少し険しくなる。
カタムラ「その事件というのは…
いつのことですか?
何年前の話ですか?」
ソネヤ「6年前です」
カタムラ「え?」
ソネヤ&ハイラ「………」
カタムラ「おやおや…」
ソネヤ&ハイラ「………」
カタムラ「変ですね。それは…」
客間に響くカタムラの声。
ソネヤ「何がおかしいんですか?」
カタムラ「私の知る限り最後の侵入は6年前」
ソネヤ「はい」
カタムラ「あなたはさっき言いました。
侵入者に忠告して相手が従わなかったら、
あとは侵入しても構わないと。
本人の意思に任せるのだと」
ソネヤ「はい」
カタムラ「6年前の事件以後、
侵入した人はいるんですか?」
その問いに答えたのはハイラ。
ハイラ「いっぱいいる」
カタムラ「おお!」
ソネヤ&ハイラ「………」
カタムラ「おやおや…」
ソネヤ「いっぱいといっても34人ほどだ。
私たちが管理者になってから今までで」
カタムラ「なんと…」
ハイラ「この前のも入れて
37人じゃなかったかい?」
ソネヤ「ああ、
あの3人も入れると…そうだったな」
ハイラ「まったく、あいつらは大バカだった。
こっちは何度も忠告したのに。
怖気づいて1度は立ち去ったけど、
そのあと私たちの目を盗んで侵入した。
大バカどもだよ」
マユノ&カエノ&サヤノ「………」
ソネヤ「そうだな。忘れていた。
全部で37人です。
あと…私たちが巨方庭を見てないときも
こっそり侵入した人がいるでしょうから、
もしかすると50人くらいいるかも」
マユノ&カエノ&サヤノ(いっぱいだ…)
カタムラ(この2人…
密かに侵入者たちを通してきた。
巨方庭の中に…。
何も公的な記録を残さずに…。
これは…なんとも罪深い。
でも、だからこそ…
ここで話を聞く価値がある)
エオクシが立ち上がる。
エオクシ「どんなやつらだ?」
発せられた大きな声。
エオクシ「この前侵入した3人ってのは、
どんな連中だったんだ?
そいつらが巨方庭に入ったのは最近か?」
ソネヤ「ああ…はい。つい3日前のことです。
どんな人かと言われると…なんというか…」
ハイラ「パッとしなかったね」
エオクシ「…魔術師か?」
ソネヤ「いやいや、全然そんな感じじゃない。
そうだな…宝探しの荒くれ者というより
遺跡を見るのが好きな青年…というか」
ハイラ「とにかく印象薄いね。
ちょっと気弱そうな感じで」
ソネヤ「ああいうのは忠告すれば帰るんだが」
エオクシ「…そうか」
椅子に座るエオクシ。
アヅミナが木箱を指差して言う。
アヅミナ「その箱は?」
ソネヤ「…はい?」
アヅミナ「手を乗せている
その箱は一体なんですか?
ほんのわずかに魔力を感じますが」
マユノ&カエノ&サヤノ「…!」
ソネヤは静かに笑う。
ソネヤ「これはこれは…
とても鋭い感覚をお持ちのようで。
恐れ入りました。
さすがは魔術院の上級術師ですね」
アヅミナ「箱の中に一体何が?」
ソネヤ「この中身こそが…
私たちが一番お伝えしたいことなのです。
一番お聞かせしたいお話に関わる品物です」
箱を持ち上げ、膝の上に乗せるソネヤ。
ソネヤ「私たちは1度も見たことがありません」
アヅミナ「何を?」
ソネヤ「巨方庭から人が出てくるところです。
もう6年もこの仕事をしていますが」
アヅミナ「………」
ソネヤ「入っていく人は何人も見てきたのに
出てくる人を1人も見たことがないのです」
アヅミナ「………」
ソネヤ「ですが、たった1人。
そう、たった1人です」
木箱を開けて中をのぞくソネヤ。
ソネヤ「戻ってきた人を1人だけ知っています。
今から1年とちょっと前のことです。
忠告に従わず侵入した冒険者たちの中に
命からがら逃げ帰ってきた人がいたのです」
アヅミナ「その箱は…そうすると…」
ソネヤ「ええ。お察しのとおり。
これはその人が持っていたみやげです。
これのおかげで知ることができました。
巨方庭に立ち入ることなく。
巨方庭の中のことを」
ソネヤは箱の中身にじっと視線を落とす。
それから、6人の来訪者を見て言った。
ソネヤ「巨方庭がどのような場所か。
もっと詳しくお話いたしましょう」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 37
◇ HP 3487/3692
◇ 攻撃
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 防御
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 素早さ
46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
◇ マユノ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 1176/1176
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 蒼天想の魔杖、来陽の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷裂、氷波、王氷
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ カエノ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 1084/1084
◇ 攻撃 3★★★
◇ 防御
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 装備 超放気の魔杖、連星の魔道衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷破、雷花、王雷
氷弾、氷矢
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ サヤノ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 953/953
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 11★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
37★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 清化印の魔杖、光心の魔道衣
◇ 魔術 岩弾、岩砲
雷弾、雷槍
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ カタムラ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 766/766
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 9★★★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力 3★★★
◇ 装備 魔鉱石の短剣、秘術道具(空球)、
探検用強化研究衣
◇ 魔術 光玉、治療魔術
◇ 秘術 青珠
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 100、魔力回復薬 100