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アルジ往戦記  作者: roak
143/300

第143話 必勝

◆ 猟師の基地 ◆

基地の中を風が通り抜ける。

エミカの魔術衣が揺れる。


ゲンダ「こっちに来い。話そう」


アルジもエミカも立ったまま。


アルジ「コノマノヤタラズマは?」

ゲンダ「…あ?」

アルジ「次の標的はコノマノヤタラズマだろ。

 倒しにいかなくていいのか?」

ゲンダ「それはいいんだ」

アルジ「なぜだ?」

ゴタンジ「別の部隊が現地に行っている。

 今、オレたちがどうこうする獲物じゃない」

アルジ「それでいいのか?」

ゲンダ「いいって言ってるだろ。

 まず、こっちに来い」

アルジ&エミカ「………」

キャモ「来なよ」


手招きするキャモ。

アルジとエミカは歩いていく。

大陸猟進会の輪の中に。

腰を下ろして顔を見合う。


キャモ「ほかの仲間は?

 ガヒノの森で会ったとき一緒にいただろ。

 魔術師が2人。今は別行動か?」

アルジ&エミカ「………」


アルジとエミカの顔が曇る。

キャモは察した。


キャモ「もしかして…」

アルジ「戦って…死んだよ」

キャモ「余計なこと聞いちゃったね」

アルジ「別にいいんだ。

 オレたちも少しずつ…受け入れてきた」

ゴタンジ「気の毒だったな」

エミカ「………」


エミカは目に涙を浮かべる。


ゲンダ「あの人たちも強そうだった」

エミカ「………」

ゲンダ「だが…

 さすがに相手が悪かったようだな…。

 覇獣級となると…」

アルジ「そうじゃないんだ。

 オオトノラコアと戦ったときじゃない」

ゲンダ「………」

アルジ「死んだのは一昨日。

 オレたちは…ある魔術師と戦った。

 強い…本当に強い魔術師だった。

 1人はそいつの攻撃を受けて…。

 もう1人は…命と引き換えに

 そいつを倒した…」


猟師たちは返す言葉を探した。


キャモ「たった1発で決まるからな」

アルジ「…1発…」

カナミ「1発。たった1発だ。

 強い魔術師が戦えば勝負は一瞬。

 たった1発の攻撃で決まる」

キャモ「どちらが生きてどちらが死ぬか。

 1発の攻撃が当たるか、当たらないか。

 それですべてが決まる」

ルノ「人の体はもろいから」

ゲンダ「魔術が強過ぎるんだ」

ゴタンジ「だが、強くなきゃ役に立たん」

ゲンダ「ああ、だからこそ…」

キャモ「作戦が物を言う」


キャモは窓から外を眺める。

日は沈みかけ、基地内は暗くなる。

板張りの床はひんやりと冷たい。


アルジ「あんたたちも…

 覇獣級を倒したんだよな」

ゴタンジ「ああ。なぜそのことを?」

コイナミ「私が教えたんです。昨夜ここで」

ゴタンジ「そうか」

アルジ「どうやって倒したんだ?」

ゲンダ「知りたいか?」

アルジ「ああ。

 オオトノラコアは恐ろしい強さだった。

 あんな化け物を倒すのは無理だって…

 一瞬だけど…思ってしまった…。

 覇獣級の恐ろしさがよく分かった。

 だから、知りたい。

 あんたたちがどうやったのか」

ゲンダ「そうか」

ゴタンジ「………」


笑みを浮かべるゲンダとゴタンジ。

カナミがアルジに言う。


カナミ「はっきり言いなよ」

アルジ「はっきり?」

ルノ「当ててやる」

アルジ「何を?」

ルノ「あんたは…本当はこう問いたい。

 私たち、そんなに強くなさそうなのに

 どうやって倒したのか…ってね」

アルジ「………」

ルノ「聞きたいのはそういうことだろ?」

アルジ「………」

ルノ「なあ」

アルジ「………」

ルノ「おい」

アルジ「…ああ。正直に言うとそうだ」

ゲンダ「!!…お前なっ」

ゴタンジ「ははは…こいつは笑えねぇ」

キャモ「笑ってんじゃないか」

ゴタンジ「………」


基地にいる大陸猟進会の猟師たち。

その誰もが備えていた。

鋭い武器、堅い防具、熱い闘志を。

素人ではない。

それは一目瞭然。

だが、同時にアルジは思う。


アルジ(もっと強そうに見えた。

 タキマイさんやゼナクさんの方が。

 この人たちがオオトノラコアと戦っても

 正直全然勝てる気がしない…。

 でも、覇獣級を倒した。

 何か秘策があるのか?それとも…

 覇獣級にも強さがいろいろあって、

 中には弱いのもいるのか?)


ゴタンジは不満そうに言った。


ゴタンジ「そんなに不思議か」

アルジ「何か秘策があるのか?」

ゴタンジ「………」

ゲンダ「ゴタンジ、教えてやれ」


ゴタンジはため息をつく。


ゴタンジ「オレたちの狩りは絶対失敗しない」

アルジ「絶対失敗しない…?」

ゴタンジ「おう、そうだ」

キャモ「緻密な作戦が物を言う」

カナミ「力任せに武器を振り回すのとは違う」

ルノ「ええ、全然違う」

アルジ「………」

エミカ「魔術を使った狩り…ですか?」

カナミ「そうさ」


キャモは得意げに語る。


キャモ「タキマイは狩りに魔術を取り入れた。

 魔術を使った新しい狩猟法を発明した。

 私たちはさらにその方法を洗練させた」

エミカ「洗練って、どんなふうに?」

カナミ「徹底した分業制」

アルジ「分業制」

キャモ「そうだ。

 分業制で獣に何もさせない。

 何もさせず、仕留める。

 それがうちらのやり方だ」

エミカ「何もさせないなんて…」

ゴタンジ「できる」

ルノ「できるんだ」

アルジ&エミカ「………」

ゲンダ「言ってみれば、ハメ技だな」

アルジ「ハメ技?」

ゴタンジ「1度オレたちの戦術にハマれば、

 もう獲物は動けない。だから、必勝の作戦。

 絶対失敗しない狩りとは、そういうことだ」

ゲンダ「残りの古代獣もすべてオレたちが倒す。

 絶対失敗しない狩りで…」

アルジ「そんなことが本当にできるのか?」

ゴタンジ「見るのが早いだろう」

アルジ&エミカ「………」

ゲンダ「コイナミ、見せてやれよ」

コイナミ「はい」


立ち上がるコイナミ。

矢を1本、取り出す。

彼女は、その矢に魔力を込める。

矢がビキビキと音を立て閃光を放つ。


アルジ&エミカ「!!!」


自信に満ちた顔のコイナミ。

薄暗い基地内でもその表情はよく分かる。

矢から放たれる雷光のおかげで。


コイナミ「この矢を撃つ。

 1度こいつが刺されば…

 どんな魔獣もしばらく痺れて動けない」

エミカ(この人…魔力はそんなに強くない…。

 だけど…なんて技の威力だろう…。

 これは、魔力を1点に集めているから。

 あの矢の先端に…!あれが刺されば…!

 普通に雷弾を当てるよりも数段効果は大きい!

 すごい…!すごくよくできた技だ…!)


驚くアルジとエミカ。


ゴタンジ「やっといい顔になったな。

 2人とも」

アルジ「…すごいな」

エミカ「ここまで高められるなんて…」


コイナミは魔力を消して矢をしまう。

それから、床に座り込む。

今度はキャモが矢を取り出す。

コイナミと同じように魔力を込める。

強い冷気がその矢を包む。


アルジ&エミカ「!!」

キャモ「雷術が効かない獲物にはこれだ。

 これが刺されば、凍りついて動けない」


ゲンダは、アルジとエミカに笑いかける。


ゲンダ「魔雷矢まらいや魔氷矢まひょうやだ」

アルジ「魔術を使った技か」

ゲンダ「そのとおり。魔術院で開発された。

 対魔獣用の特別な技だ。どちらかは必ず効く。

 雷と氷の両方に耐性のある魔獣なんて

 存在しないからな」

エミカ(…そうなのか。

 オオトノラコアは両方効いた。

 火術はだめだったけど、

 雷術と氷術は効いた…)

アルジ「その矢で獣の動きを止めるわけか」

ゲンダ「そうだ。止めてから、斬る」

ゴタンジ「斬るのはオレとゲンダの仕事だ」

ゲンダ「撃ち手と斬り手に分かれて戦う。

 完全分業制。これがオレたちのやり方だ。

 華がないか?つまらないか?…なんの。

 倒しちまえばこっちのもんだ」

ゴタンジ「通用しなかったことは1度もねえ」

ゲンダ「お前たちも大陸猟進会に加入すれば、

 今回の懸賞金争奪戦、確実に勝てる」

アルジ「確実に…」

ゲンダ「そうだ。確実に。さあ、どうする?

 お前たちも懸賞金を狙っている。

 オレたちと組めば、確実に勝てる。

 なら…断る理由はないだろう」

アルジ「そうだな」

エミカ「アルジ」

アルジ「ああ」


天井を見上げるキャモ。


キャモ「暗くなってきたな」

ゴタンジ「今日はどうする?」

キャモ「ここで休もう。

 寝具も食料も十分にある」

ルノ「狩りは休んでから…だな」

カナミ「そうしよう」


ゲンダが勢いよく立ち上がる。


ゲンダ「おい、まだ終わりじゃねえ」


基地にいた全員がゲンダを見上げる。

ゲンダが見ているのはアルジとエミカ。


ゲンダ「お前たち。結論を出しな。

 入会するのか、しないのか。

 今、ここで…」

アルジ&エミカ「………」

ゲンダ「入らないなら、ここを去れ。

 ここはオレたちの基地。

 タキマイ派のもんじゃねえ。

 みんなのもんでもねえ。

 オレたちのもんだ。なぜか?

 それが政府の決定だからだ」


ゲンダは自分の剣を床に突き立てる。

大きな音が基地内に響き渡った。

その剣は規格外に太く、重い。

魔術で動けなくなった獣を一撃で仕留める。

その目的に特化していた。

完全分業制。

彼の剣の形状は、その戦術の象徴。


ゲンダ「…話の続きをするには、

 明かりがいるな」


エミカが静かに立ち上がる。

天界石の杖を掲げた。

すると、天井に強い魔波が放たれる。


ゲンダ「…!!」


放たれた魔波は光玉となる。

勢いよく上がり、天井付近で浮遊する。

それはリネの光玉より数段強い。


キャモ(なんて魔力だ…!)

コイナミ(こんなに力強い光玉…見たことない)

アルジ(エミカの魔力に力強さが戻ってる…。

 もう回復したのか?)


照らされる基地内。

互いの顔もよく見える。

エミカはゲンダに問いかける。


エミカ「明かりはこれで十分か?」

ゲンダ「十分だ…」

ゴタンジ「無理すんなよ」

エミカ「これくらいなら夜通し出せるよ」

ゴタンジ「…何?」

ルノ(今…夜通しって言った?)

カナミ(冗談だろ…?)


アルジも立ち上がる。


アルジ「ゲンダさん…」


手にしていた勇気の剣が弱く光る。


ゲンダ「…!!」

アルジ「話の続きをしよう」

ゲンダ「おう…。アルジ」



◆ カルスの上 ◆

空は晴れていて、飛行は順調だった。

日が沈む頃、2つ目の国境を越えた。


エオクシ「結局よく分からんってことか」

カタムラ「そう言われましてもね…」

マユノ「巨方庭は危険な場所。

 今回の任務は心してかからなければならない。

 そのことはよく分かりましたよ」

カタムラ「そう言っていただけると幸いです」


カタムラは教えた。

巨方庭で起きた数々の侵入事件について。

6年前の事件が最近のもの。

古いものは300年ほど前の事件。

どんな者が、どうやって遺跡に侵入したのか。

エオクシ、アヅミナ、光術三姉妹に教えた。

しかし、いずれの事件もその結末は同じ。

巨方庭の中で何かが起きた。

そして、冒険者たちは帰ってこなかった。

そういう話で終わっていた。


アヅミナ(当たり前と言えば、当たり前か。

 カタムラも現地で調べたわけじゃない。

 どんな場所か…

 やっぱり直接確かめるしかない。

 でも、その前に…

 『彼ら』から少しでも話を聞けるなら…)


日が沈んでいく。

夕闇の中をカルスは飛び続ける。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ エオクシ ◇

◇ レベル 37

◇ HP   3487/3692

◇ 攻撃

 49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★

◇ 防御

 44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★

◇ 素早さ

  46★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★

◇ 魔力

◇ 装備  壮刃剣、戦究防護衣

◇ 技   天裂剣、地破剣


◇ アヅミナ ◇

◇ レベル 35

◇ HP   404/404

◇ 攻撃   1★

◇ 防御   2★★

◇ 素早さ

 40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★

◇ 装備  大法力の魔杖、漆黒の術衣

◇ 魔術

  火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火

  氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷

  暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、

  酷死魔術


◇ マユノ ◇

◇ レベル 35

◇ HP   1176/1176

◇ 攻撃   4★★★★

◇ 防御

18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  蒼天想の魔杖、来陽の魔道衣

◇ 魔術  氷弾、氷柱、氷裂、氷波、王氷

      光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術


◇ カエノ ◇

◇ レベル 34

◇ HP   1084/1084

◇ 攻撃   3★★★

◇ 防御

20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 魔力

 42★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★

◇ 装備  超放気の魔杖、連星の魔道衣

◇ 魔術  雷弾、雷砲、雷破、雷花、王雷

      氷弾、氷矢

      光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術


◇ サヤノ ◇

◇ レベル 34

◇ HP   953/953

◇ 攻撃   1★

◇ 防御  11★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 37★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  清化印の魔杖、光心の魔道衣

◇ 魔術  岩弾、岩砲

      雷弾、雷槍

      光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術


◇ カタムラ ◇

◇ レベル 16

◇ HP   766/766

◇ 攻撃   7★★★★★★★

◇ 防御   9★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 17★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力  14★★★★★★★★★★★★★★

◇ 秘力   3★★★

◇ 装備  魔鉱石の短剣、秘術道具(空球)、

     探検用強化研究衣

◇ 魔術  光玉、治療魔術

◇ 秘術  青珠


◇ 持ち物 ◇

◇ 治療薬 100、魔力回復薬 100

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