第139話 合流
ゼナクは伝えた。
もう1つの連絡事項を。
喉から絞り出すような声で。
ゼナク「大陸猟進会と合流せよ…!」
アルジ&エミカ「………」
ゼナクは懐から1通の手紙を取り出す。
広げて大きな声で読み上げた。
ゼナク「戦況については了解した!
大陸猟進会の精鋭を現地へ向かわせる!
必要な施設、物資はそちらで手配せよ!」
アルジ「精鋭を…向かわせる…?」
ゼナク「これは政府からの手紙…。
ついさっき…合離蝶が届けてくれた。
内容は今読み上げたとおり。
それにオレはこう返答した。
大陸猟進会への協力要請、感謝する!
タキマイ狩猟会が用意した基地、食料、寝具は
すべて自由に使ってよい!と」
アルジ&エミカ「………」
ゼナクは手紙をしまう。
ゼナク「間もなく彼らはやってくる。
数々の魔獣を仕留めてきた一流の中の一流。
そんな猟師たちがあの基地にやってくる。
お前たちはそこで合流せよ。
寝具も食料も自由に使ってよい。
そして、大陸猟進会とともに次の古代獣、
コノマノヤタラズマを倒せ!」
アルジ「ちょっと待ってくれ」
ゼナク「………」
アルジ「どういうことだ?
大陸猟進会を向かわせる?なんで政府が?
大陸猟進会って、なんなんだ?」
ゼナク「大陸猟進会は政府が育てた組織」
アルジ「政府が?」
ゼナク「政府から特別な支援を受けている」
エミカ「どうして特別な支援を?」
ゼナク「有事に動いてもらうためだ。
大前隊がその力を十分に発揮できないとき、
あいつらは政府から要請を受けて動く。
そういう協定を結んでいる」
エミカ「タキマイ派が最大勢力なんだろ。
政府はタキマイ派と手を結ばないのか?」
ゼナク「タキマイ派は最大勢力だからこそ
手を結んでこなかったのだ」
アルジ&エミカ「……?」
ゼナクは首を小さく横に振る。
ゼナク「タキマイ狩猟会は調子に乗り過ぎた。
そのため…政府から目をつけられていた」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「狩場の占拠、他派閥の排除、
犯罪まがいの取引、激しい政府批判。
タキマイ狩猟会は…やり過ぎたのだ。
狩猟を魔術で発展させた功績は認めながらも、
政府はあいつらのさらなる勢力拡大を懸念し、
対抗しうる狩りの専門家集団を育ててきた」
アルジ「それが大陸猟進会…」
ゼナク「そうだ」
ゼナクは頭上の雲をしばらく眺めた。
ふわりふわりと流れていく小さな雲を。
それから、アルジとエミカの顔を見る。
ゼナク「オレは…やれることはやった…。
朝も…夜も…政府に必死に働きかけた…。
大前隊を出動させてくれと…。強く求めた。
だが、政府は聞き入れてくれなかった…」
アルジ&エミカ「………」
ゼナクは目を閉じる。
そして、しみじみ思い返す。
当時の言葉の応酬を。
彼の目がわずかに開かれる。
一体どこを見ているのか。
アルジにもエミカにも分からない。
ゼナクはつぶやき始める。
ゼナク「オオトノラコア…恐ろしや…。
オオトノラコア…恐ろしや…」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「オオトノラコア…恐ろしや…。
大前隊の…出動を…強く求める…心から…。
一隊来なけりゃ…おそらく負ける…」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「被害はあるか…死んだの誰だ…
何人死んだ…」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「被害なし…誰も1人も死んでない…」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「それならば…大前隊は動かない…
…大前隊の…出番はない」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「憎し恐ろし…オオトノラコア」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「…オオトノラコア…恐ろし憎し」
アルジ&エミカ「………」
ゼナクは目を開けた。
少しさっぱりした様子で。
ゼナク「タキマイの問題はタキマイが対処せよ。
それが政府の最終的な回答だった」
森の中から1羽の大きな赤い鳥が飛び立つ。
ゼナク「サナヨには…いろいろ世話になった。
だから、簡単には引き下がれなかった。
だから、オレはいろいろと手を尽くした。
だが、結果は…この有様だ…」
ゼナクはその場に崩れ落ちる。
背中を丸め、うなだれ、涙を流す。
アルジとエミカは彼を横目に歩き出す。
基地へ向かって。
荒野を歩き、斜面を上り、下った。
振り返ることはない。
黙々と基地を目指した。
辺りに転がる魔獣の死骸。
斬られ、焼かれ、倒されたヤサハカイヌ。
そのままだった。
ロニの王獣によって斬り刻まれた猟師たちも。
気がつけば、空はすっきりと晴れていた。
日は西へ傾き始めている。
基地はもうすぐそこだった。
◆ 猟師の基地 ◆
アルジたちは基地に入る。
そこには6人の猟師たち。
床の上で輪になって座り込んでいた。
男「よう」
アルジに声をかける1人の男。
ガヒノで会った猟師ゲンダだった。
ほかの5人にも会ったことがある。
キャモ、カナミ、ルノ、ゴタンジ。
この4人ともガヒノで会った。
ベキザルの森で迷子を救ったあとに。
さらに、コイナミ。
昨夜、基地でアルジと話をした猟師の女。
アルジ&エミカ「………」
ゲンダが立ち上がり、歩いてやってくる。
ゲンダ「また会ったな。覚えてるか?」
アルジ「あんたは…オレと同じナキ村出身の…」
ゲンダ「ああ、そうだ」
アルジ「………」
ゲンダ「オレの予言は当たったわけだ。
オレたちは、またどこかで会うと」
アルジ「………」
キャモが座ったまま問いかける。
キャモ「あんたら何しに来た?
まさか懸賞金狙い?」
アルジ「そうだ」
キャモ「やめときな!今度は本気で危ない。
あんときのベキザルとは訳が違うんだ」
アルジ&エミカ「………」
カナミ「今回の案件は素人が首突っ込んで
いいもんじゃないよ。死にたくないなら、
さっさと家に帰ることだ」
アルジ&エミカ「………」
ルノ「外にバラバラの死体がある。見てきな。
あれはただの魔獣の仕業じゃない」
キャモ「そうさ…全然違う。今までの獲物とは。
やっぱりオオトノラコアは…」
アルジ「倒した」
キャモ「………」
アルジ「オオトノラコアは倒したんだ」
カナミ「…倒した?」
ルノ「それって、どういうことだ?」
アルジ「オレたちがオオトノラコアを倒した。
そういうことだ」
キャモ&カナミ&ルノ「………」
勢いよく立ち上がるゴタンジ。
ゴタンジ「おい、お前…冗談はよせ。
一体、何を言って…オレたちは実際に…
政府の要請を受けて…ここに来た」
アルジ「さっき倒したばかりだからな」
エミカ「連絡の行き違いだと思う」
ゲンダ&キャモ&カナミ&ルノ&ゴタンジ
「………」
基地の中は静まり返る。
ゲンダ(現地に集まったタキマイ派…それと、
懸賞金を求めて集まった他派閥の猟師たち…
全滅したと聞いていた。おそらく間違いない…。
なら、どういうことだ?なら一体これは…
これは一体…どういうことなんだ?
2人で…たった2人で…倒したっていうのか?
覇獣級の…オオトノラコアをたった2人で?
本当に倒しちまったってことなのか?
だとしたら…これがもしも事実だとしたら…!)
アルジ&エミカ「………」
ゲンダ「ははははははは…!」
ゲンダは呆れた顔で笑う。
ゲンダ(…なんとしても取り込まなければ。
新戦力として…こいつらを!大陸猟進会に!)
◆ 都 魔術院 ◆
そこは、特別来賓室。
国首など特別な地位にある者だけが通される。
向かい合うのは2人。
1人はシノ姫。
もう1人は魔術院の院長ミナヨニ。
ミナヨニはシノ姫に問いかける。
ミナヨニ「あなたでしょう?彼を殺したのは」
シノ姫「………」
シノ姫は静かに笑う。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ シノミワ(シノ姫) ◇
◇ レベル 41
◇ HP 822/822
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備
秘術道具(幻印、例札、思針、心糸)、高護貴帯
◇ 魔術 火弾、火砲、火刃
◇ 秘術 赤画、赤封、赤除、赤洪、赤滅
青画、青封、青跡、青結、青葬
白紋、白掃、白限、白威、白廃
黒紋、黒弦、黒貫、黒壊、黒破
◇ ミナヨニ ◇
◇ レベル 42
◇ HP 1179/1179
◇ 攻撃 3★★★
◇ 防御
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 装備 九輪三節魔業杖、無二天衣
◇ 魔術
氷弾、氷息、氷甲、氷身、氷宴、氷堕、王氷
岩弾、岩砲、岩柱、岩壁、岩流、岩棺、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術