第138話 無実
王雷を浴びたオオトノラコア。
ピタリと動かなくなる。
オオトノラコア「…マ…」
土の上に倒れる。
大きな音が森に響いた。
◇ オオトノラコアを倒した。
◇ アルジたちは戦いに勝利した。
◇ アルジはレベルが上がった。(レベル25→26)
◇ エミカはレベルが上がった。(レベル21→22)
降り続いていた雨はやんでいた。
森の中に柔らかな日の光が差し込む。
激闘の勝利を祝うかのように。
アルジは痛む体を起こして立ち上がる。
アルジ「…エミカ」
エミカの姿を見る。
彼女は天界石の杖を見つめている。
不思議そうな顔で。
エミカ「………」
彼女の頬を涙が伝う。
その場にへたりこむ。
顔を両手で覆って泣いた。
エミカ「うう…」
アルジ「…どうした?」
アルジはエミカの方へ歩いていく。
負傷した腹に手を添えながら。
少しずつ進む。
アルジ「エミカ、どうした?」
エミカ「ううっ…」
アルジ「………」
アルジはただ静かに待つ。
エミカのそばで。
しばらくして彼女は話し始めた。
魔術を使ったとき、何が起きたのか。
エミカ「聞こえたんだ」
アルジ「聞こえた?」
エミカ「ミリの声が聞こえた」
アルジ「ミリの…」
エミカ「聞こえた。王氷を使ったとき。
負けるなって、ミリの声が…聞こえた…」
アルジ「そっか」
エミカ「王雷のときはリネ先生の声が…。
頑張れって…聞こえてきて…」
アルジ「そっか」
アルジはオオトノラコアを見る。
もう動くことはないその姿を。
アルジ「一緒に戦ってくれたってわけか。
ミリもリネも。エミカと一緒に」
エミカ「…うう…」
エミカは泣き続ける。
アルジは腰を下ろす。
アルジ「………」
目を閉じて思う。
アルジ(ギンタロウ…オレたちが倒したぜ。
一撃じゃ仕留められなかったけど…。
腹も殴られたけど…。
オオトノラコアを倒したぜ。
みやげ話を聞かせられないのは残念だけど…
オレたちはこれからも戦い続けるよ。
倒さなきゃならない敵が…まだいるから…!)
エミカは袋から薬を取り出す。
エミカ(5粒。リネさんは言っていた。
5粒で王火、王氷、再生魔術、1回分だと…)
魔力回復薬を飲み込む。
しばらく深呼吸をして静かに過ごす。
それから、アルジに杖を向ける。
まばゆい光がアルジの腹部を包んだ。
アルジ「ありがとう」
エミカ「すぐに治す」
◇ アルジはHPが全回復した。(HP107→3005)
エミカ「さっきの剛刃波状斬撃…すごかったな」
アルジ「あいつがあれに耐えたときは…
さすがに終わったと思ったけどな」
エミカ「剣が元気をなくしてた」
アルジ「ああ…。さっきは悪いことしちまったな」
アルジは勇気の剣にそっと触れる。
エミカ「信じて戦えば、また応えてくれる」
アルジ「そうだな」
エミカ「頼りにしてる」
アルジ「…ああ。オレもだ。エミカ」
アルジは森の中を見回した。
ほかに獣はいない。
人もいない。
辺りは静か。
エミカを見つめて言った。
アルジ「王氷も王雷もよかったぜ」
エミカ「なんとか…出せた。
でも、使うときは不安だった。
先生やミリみたいにできるだろうかって。
もっともっと練習するよ」
アルジ「オレもさらに技を磨く」
エミカはほほえむ。
エミカ「魔術もな」
アルジ「そうだな。魔術も頑張る。
今回生き延びたのは雷術のおかげだ」
エミカ「練習するとき手伝うよ」
アルジ「頼むぜ」
アルジとエミカは立ち上がる。
2人でオオトノラコアを見る。
アルジ「手に入れようぜ。懸賞金」
エミカ「どうする?」
アルジ「こういうときは証拠が大事だ」
エミカ「まさか…」
アルジ「ああ、あいつの体を運ぼうぜ」
エミカ「一部じゃダメか?爪とか…」
アルジ「変な難癖つけられたら嫌だろ。
だから、こいつを丸ごと持っていこう」
エミカ「丸ごと…!」
アルジ「ああ、やろうぜ」
エミカ「………」
アルジはオオトノラコアの腕をつかんだ。
そのまま引きずって動かそうとする。
アルジ(!!?…重い!!)
エミカ「アルジ…」
アルジ「そっち、ちょっと持ってくれないか?」
2人で引っ張って森の中を運んでいく。
エミカ「疲れた…!」
アルジ「あともう少しだ。頑張ろうぜ」
エミカ「…ああ」
アルジ「エミカって結構力があるな」
エミカ「そうか…?」
アルジ「ああ、すごいぜ」
エミカ「ありがとう…」
何度かオオトノラコアが引っかかる。
木の根や岩に。
そのたび2人は協力して乗り越える。
そして、ついに森から出た。
ゼナクが立って待っている。
気の抜けた顔で眺めている。
運び出されたオオトノラコアの死体を。
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「…倒した…のか…」
アルジ「ああ、こいつをどうすればいい?
懸賞金はどうやったらもらえるんだ?」
ゼナクはため息をついてから告げる。
ゼナク「オオトノラコアはオレがここで預かる。
政府の使いが来たら引き渡そう。
金を受け取る方法は…あとで伝える」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「信用ならない…か?」
アルジ「…どうやって伝える?」
ゼナク「こいつで手紙を送る」
ゼナクは懐から小さな物体を取り出す。
それは蝶のような形。
アルジに投げて渡す。
受け取ったアルジはその物体をじっと見る。
アルジ「…?」
ゼナク「そいつをなくさず持っていろ」
アルジ「…なんだ?」
ゼナク「連絡のための秘密道具。
合離蝶と呼ばれるものだ。
その道具は2つで1つ。対になっている。
魔術師がもう一方に魔力を込めて飛ばせば、
お前たちの元へ手紙を運ぶことができる。
大陸の…どこにいたとしても…。
そいつはその片割れだ。
あまり大きな物は運べないが…手紙なら…
ここから都までの距離でも
半日ほどで届く優れものだ」
アルジ「そうか」
ゼナク「………」
エミカ「…サナヨさんは?」
思い違いであればいい。
淡い期待を込めてエミカは聞いた。
だが、返ってきた答えは彼女の予想したとおり。
ゼナク「さっき…息を引き取った」
アルジ「!!」
エミカ「………」
ゼナク「傷は…思いのほか深かった」
ゼナクは涙をこらえる。
ゼナク「最期の言葉は…オレが確かに聞いた」
アルジ&エミカ「………」
アルジとエミカは歩き出す。
オオトノラコアの死体をその場に残して。
ゼナクの横を通り過ぎる。
そのとき。
ゼナク「お前たち」
アルジ&エミカ「………」
アルジとエミカはゼナクの方を向く。
ゼナク「何者だ…?」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「古代獣オオトノラコア…。
オレの見立てでは…
一隊が戦っても勝てるかどうか…
そんな強さの敵だった…。
それを…お前たちは倒した…。
何者だ?…お前たちは一体…何者なんだ…?」
アルジ&エミカ「………」
ゼナク「…報告しなければならない。
お前たちのことは…
政府に報告しなければならないのだ。
オオトノラコアを倒した者として…正式に!
だから…ここで…名乗れ…!」
アルジは少し間を置いて答えた。
アルジ「ナキ村のアルジ」
ゼナク「…!?」
アルジ「オレのことだ」
ゼナク「!!」
エミカ「私はエミカ。魔術師リネの弟子」
ゼナク「…!!」
アルジ「どうする?」
ゼナク「…なんだ?」
アルジ「逮捕するのか?オレのことを。
創造の杖を差し出した罪人として…」
ゼナク「その心配はいらない」
アルジ「…どういうことだ?」
ゼナク「状況が変わった。お前の嫌疑は晴れた」
アルジ「晴れた…?」
ゼナク「証言者が現れたのだ。
魔術院の魔術師だ。
そいつが審理院で証言した。
魔術師リネは…
闇の魔術に侵されていたのだと。
強い精神操作にやられていたのだと。
創造の杖を渡したのは、
その悪しき魔術のせいだと」
エミカ(魔術院の…魔術師…)
ゼナク「そして、解剖が行われた。
詳細な調査の結果…
確かにその痕跡があることが…
昨夜遅くに確認された」
アルジ(詳細な調査…痕跡…)
ゼナク「だから…お前たちは無実だ」
アルジ「…そうか」
歩き出そうとするアルジとエミカ。
再びゼナクは呼び止めた。
ゼナク「連絡事項が…もう1つある…!!」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 26
◇ HP 2277/3005
◇ 攻撃
38★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 素早さ
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 6★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 21
◇ HP 1452/1783
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
22★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 魔力
43★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 15