第133話 清々
谷を下りていくアルジとエミカ。
前方から音がする。
ガツガツと何かをかじる音。
アルジ&エミカ「………」
やがて見えてくる。
張り出した岩の向こう。
魔獣の姿。
尻尾、胴体、頭部。
全身が見えてくる。
ヤサハカイヌだった。
近くに1頭。
後方に3頭。
全部で4頭。
ガツガツとかじっていた。
猟師たちの体を。
食われていたのは8班の猟師たち。
何人食われて死んだのか。
散らかった死体からは分からない。
4頭のヤサハカイヌが気づく。
かじりつくのをやめて威嚇する。
唸り、目を見開き、牙をむき出しにする。
全身の黒い毛が逆立って震える。
地面には使用済みの噴霧器。
いくつも転がっている。
アルジ「毒の霧も効かなかったのか…」
アルジは走っていく。
近くの1頭に剣を振る。
朔月斬りを頭部に見舞った。
◇ ヤサハカイヌAに5188のダメージ。
◇ ヤサハカイヌAを倒した。
続いてエミカが王火を撃ち込む。
後方にいた3頭は燃え上がる。
◇ ヤサハカイヌBに4729のダメージ。
◇ ヤサハカイヌCに4633のダメージ。
◇ ヤサハカイヌDに5021のダメージ。
◇ ヤサハカイヌB〜Dを倒した。
◇ アルジたちは戦いに勝利した。
◇ アルジはレベルが上がった。(レベル24→25)
◇ エミカはレベルが上がった。(レベル20→21)
アルジ「行こう」
エミカ「ああ」
さらに進む。
視界が開けてくる。
向こうに森が見えている。
地図の赤い領域は近い。
だが、誰の姿も見えない。
アルジ「…なんだ?やけに静かだ」
エミカ「魔波もほとんど感じない。
もう今回の狩りは終わったのかも」
アルジ「そういうことか」
下り坂は終わる。
荒野を歩く。
大きな石がいくつも転がっている。
歩きにくい。
しかし、着実に進むアルジとエミカ。
空は分厚い雲に覆われ始める。
ポツリ、ポツリと雨が降り出す。
アルジ「寒くないか?」
エミカ「大丈夫だ」
さらに歩く。
鬱蒼とした森が目の前に広がる。
エミカ「魔波だ。魔波が近づいてくる」
アルジ「…!」
エミカのひどく不安な顔。
アルジは戸惑う。
アルジ「どうした?魔獣か?」
エミカ「いや、違う。すごく弱々しい魔波だ。
でも、この人の魔波を私は知っている…。
昨日はもっともっと激しくて強かった」
アルジ「どういうことだ?誰なんだ?
誰が近づいてきてる?」
エミカ「あっちだ!
こっちに向かってきてる…!」
アルジは森の方をじっと見る。
人の姿を見つける。
歩いている。
男の姿。
重い足取りで、1歩、また1歩。
アルジ「あれは…!」
ゼナクだった。
彼は人を背負っていた。
背負われていたのは3代目タキマイ。
サナヨ。
アルジ「どういうことだ…?」
エミカ「分からない…。
でも、タキマイさんは…もう…」
何が起きたのか。
森の奥で何があったのか。
状況がつかめず、立ち尽くす。
雨は強くなる。
ゼナクが近くまでやってくる。
顔の表情も分かるくらいに。
彼はアルジとエミカに向かって言った。
大声で。
その声は雨の中でも力強く響く。
ゼナク「撤退だ!!!」
アルジ&エミカ「…?」
彼はさらに近づき、声を上げる。
ゼナク「今回の討伐は中止とする!!
猟師は全員撤退することとした!!
お前たちも速やかに退避せよ!!!」
アルジ&エミカ「………」
アルジはじっと見つめる。
ゼナクと彼に背負われたサナヨの姿を。
そして、小さな声でつぶやいた。
アルジ「…中止?中止って…なんだ?
どういうことだ?
撤退…?全員…?猟師は全員撤退…?」
エミカ「………」
ゼナクは負傷していた。
脚に、腕に、大きな傷を負っていた。
背負われたサナヨはぐったりとしている。
静かに眠っているようにも見えた。
ゼナク「撤退しろ!!大前隊の命令だ!!!
命令だぞ!!人の言葉が理解できんのか!!
貴様ら!」
アルジもエミカも退かない。
アルジ「分からねえ!
あんたが何を言ってるのか…。
オレには分からねえ!!」
エミカ「アルジ…!」
ゼナク「………」
ゼナクは顔をしかめる。
アルジ「全員ってどういうことだ!!
お前たちしかいないじゃないか!!
ほかの猟師たちはどうしたんだ!?
オオトノラコアは!?
倒したんじゃないのか!!」
ゼナクは目を閉じ、開ける。
そして、力ない声で言った。
ゼナク「死んだ…全員…」
アルジ「え…?」
冷たい風が通り抜ける。
アルジとエミカの前を。
ゼナクは大きく息を吸い込んだ。
ゼナク「全員死んだ!!死んだんだ!!!」
アルジ&エミカ「!!!?」
ゼナクは語る。
ゼナク「オオトノラコア!!
予想以上に強かった!!強過ぎた!!
我々も手を尽くした!だが、及ばなかった!!
最後には!!オレとサナヨ以外全員死んだ!!
やつに殺されたんだ!!」
アルジ「な…何を言って…!!」
エミカ「………」
ゼナク「だめだ!!だめだ!!
全然戦力が足りなかった!!
タキマイ派の猟師も!!奥猟会も!!
全部役立たず!!クソだった!!
しょうもないクソどもだった!!」
アルジ「何を…言ってんだ…!お前…!!」
エミカが口を開く。
力のない声で問いかける。
エミカ「あの人たちは…?どうした?」
ゼナク「あの人たち…?」
アルジ「そうだ…!」
雨と風の音。
アルジ「南国首位猟師は…?
どうしたんだ?どこにいる?」
ゼナク「あいつらも死んだ…!!!」
アルジ&エミカ「!!!?」
背負われたサナヨが動き出す。
ゆっくりとアルジとエミカに顔を向ける。
その顔は強い殴打でひどく変形していた。
左目は開けられない状態だった。
弱々しい声で途切れ途切れに彼女は言う。
サナヨ「あいつは…私を…かばってくれた…」
アルジ「かばった…?」
サナヨ「オオトノラコアの…あの1撃…。
あの1撃を受けていたら…
私は…死んでいた…。
あいつが…代わりに受けてくれた…。
あいつは…最後に…私のことを…
助けてくれ…た…」
アルジ「そんな…!」
ゼナク「………」
エミカ「南国首位猟師の…仲間たちは…?
どうした…?」
サナヨ「………」
ゼナク「あいつの仲間たちは…
あとを追うように…次々と…
立ち向かっていった。
だが、誰1人として…その攻撃は…
オオトノラコアに…届かなかった…。
届く前に…焼かれて…殴られて…死んだ…」
アルジ&エミカ「…!!!」
アルジは激しく首を横に振る。
アルジ「クソ!!クソォオ!!!」
天に向かって叫ぶ。
ゼナク&サナヨ「………」
アルジ「フー…!!フー…!!」
ゼナクは穏やかな表情で諭す。
ゼナク「帰れ。お前らも。危険だ。
やつは危険過ぎる」
アルジ「………」
ゼナク(そうだ…。もう勝てないのだ…。
ただの猟師では…!ただの戦士では…!
これはもう…大前隊の出番だ…!
二隊などではない…一隊でなければ無理だ…!
そういう強さの敵だ…!一隊の…三頭…!!
エオクシだ!!
まさに…あの方の力が必要な敵だ!!
それぐらいの怪物だ!
それにオオトノラコアは…!
魔術も使う…!!そうだ…!魔術院には…
悪魔のような強さの魔術師がいると聞く!!
アヅミナ…!!
確か…アヅミナという闇魔術師…!!
あいつら2人の力が必要だ!!
どうしても必要だ!!
報告しよう!そのように報告しよう!!
今日の惨状を事細かにお伝えすれば…
シノ姫様も!!大君トキノナガ様も…!
きっと分かってくださる!)
雨は一向にやまない。
荒野に立つ4人は、ひどく濡れていた。
エミカがゼナクたちの方へ歩いていく。
彼女の手には強い光が宿る。
アルジ「エミカ…」
それはリネから受け継いだ光術。
エミカ「傷の手当てをする」
ゼナク「…よせ!」
エミカ「お前じゃない」
ゼナク「………」
エミカ「このままじゃ基地まで持たない!
タキマイさん」
サナヨはゆっくり首を振った。
エミカ「…?」
サナヨ「やめろ…」
エミカ「どうしてだ…?」
サナヨは力なく笑う。
息を切らせながら。
そして、ひどくかすれた声で言った。
サナヨ「これで…これでいいんだ…。
基地までなら…大丈夫…。
そこで…医者を…呼んでもらう」
エミカ「今治療しないと動けなくなるぞ!!」
サナヨ「いいんだよ!!!!」
エミカ「…!!!」
サナヨ「ふう…ふう…ふう…!!!」
その剣幕に思わず後ずさるエミカ。
アルジはエミカのそばに駆け寄る。
サナヨ「もう…終わり…だ!…終わったんだ…!
清々する…!本当に…清々する…!」
アルジ&エミカ「………」
サナヨ「この体…もう動かなくたって…いい…!
狩りが永遠に…できなくったっていい…!
その方が…その方が…むしろ…いい…!
いいこと…なんだ…!
だから…余計なことは…するなよ…!
タキマイなんて名前も…クソだ!…いらない!
こっちから…捨ててやる…!!」
ゼナク「サナヨ…」
それから、サナヨは涙ながらに打ち明けた。
サナヨ「苦しかった…!!
今まで…本当に…苦しかった…!」
アルジ&エミカ「………」
サナヨ「知っていた…!前から…知っていた…!
強くなっている…!明らかに…狩るのは無理!
タキマイ狩猟会の…力だけでは…
どうやっても…!太刀打ちできない…!
分かってた…!分かってたんだ!!」
アルジ&エミカ「………」
サナヨ「来る日も…!来る日も…!観察して…
その強さを…思い知らされて…!戦えず…!
狩場をあとにする日々…!苦しかった…!
本当に…苦しかった!」
アルジ&エミカ「………」
サナヨ「狩場には…十分な餌がない…。
だから…勝手に衰弱するんじゃないか…。
そんな楽観的な意見もあった…!
でも…!そんなことはなかった!
あいつは…オオトノラコアは…
強くなる一方だった…!」
アルジ&エミカ「………」
サナヨ「早く政府に知らせて…
猟師たちも…!大前隊も…!
ありったけ動員して…!
この化け物を駆除すべき…!!
人々に災いをもたらす前に…
早く討伐すべき…!!
思って…いた…!ずっと…!ずっとだ…!
私は…ずっとそう思っていたんだ!」
アルジ&エミカ「………」
サナヨ「だから…私は…相談した…!!
何度も…!何度も…!相談したんだ…!
先代の…タキマイにも…!
先々代のタキマイにも…!
事態がどれだけ深刻か…!詳しく伝えて…!
相談したんだ…!!何度も…!何度も…!」
ゼナク「サナヨ…!」
サナヨ「だけど…!先代も…!!先々代も…!!
取り合っては…くれなかった…!
まるで…他人事のように!
私の…話を…聞いて…!
ときに…私を非難し…!叱責し…!
追い払った…!
それでも…私は…何度も通った…!
彼らの…家に!それでも…彼らは…!
それでも彼らは…!!
正面から…私の話を…!
聞いては…くれなかった…!
私の悩みを…!苦しみを…!
分かってくれは…しなかった!
分かろうともしなかった…!
そんなことをしたら…!
タキマイ狩猟会の…名折れだ…!
不名誉だ…!と…!!
私を散々…責め立てて…!
爪弾きするだけだった…!!
…苦しかった…!!悔しかった…!!
辛かった…!!!」
アルジ&エミカ「………」
サナヨ「それで私は…我慢できずに相談した…」
ゼナク「………」
サナヨ「仕事で…付き合いのあった…
大前隊の隊員に」
アルジ&エミカ「………」
サナヨ「ゼナク…。私のわがままを…
最後まで…聞いてくれて…ありがとう。
あいくら感謝しても…しきれない…」
ゼナク「よせ!!…いいんだ!…サナヨ…」
アルジ&エミカ「………」
サナヨはアルジとエミカをじっと見る。
半開きの右目で。
サナヨ「私が…彼に…相談したことを…
どこかから…聞きつけたのだろう…。
…手紙が届いた…。
差出人は…書かれていない。
だが、先代か…先々代…そのどちらかだ…。
あんな手紙を送ってくるのは…
やつらしかいない…」
アルジ「手紙には…一体何が…?」
サナヨ「殺すと…書かれていた…」
アルジ&エミカ「………」
サナヨ「私じゃない…。故郷にいる…
私の夫と…子どもたちを…だ」
エミカ「そんな…!そんなことが…!」
サナヨ「身の毛がよだつ思いだった…。
タキマイ狩猟会の…大本領…。
その地に…外の者を入れたなら…夫と子を…
殺すと…はっきりとそう…書かれていた…」
アルジ「ろくな人間じゃないぜ!!」
ゼナク「………」
サナヨ「だから…今回も…苦肉の策だった…。
なるべく強い者を集めたい…呼びたい…。
ただし、やり過ぎると…制裁が待っている…。
批判は承知していた…。
愚かなことをしてると…。だけど…!
だけど…私にはそうするしかなかったんだ…!」
アルジ「………」
雨は次第に弱くなっていく。
だが、止むことはない。
しとしとと降り続けていた。
サナヨの右目は、アルジとエミカを見つめたまま。
エミカが口を開く。
エミカ「この先…あなたはどうする…?」
サナヨ「静かに…暮らす…。故郷で…いや…
故郷から離れて…夫と子どもと…隠れて…
静かに暮らす…。夫も…子どもも…
特別秀でた人だなんて言えない…が…
私は…愛している…。
愛おしい…大切な家族だ…。
このところ…年に3日も会えてなかった…。
だが…これからは…ずっと一緒にいたい…。
それで…毎日を…静かに…穏やかに…
暮らしたい…。
それが…今の…私の願いだ…。
もう…十分なんだ…。
もう…私は…十分に…働いたと思っている…。
狩りは…できなくていい…。
2度と…できなくていい…。
このケガは…教訓にする…。教訓にして…
残りの人生を…生きていく…。…そして…
…そして…静かに…家族と…暮らす…」
ゼナク「………」
サナヨは静かに目を閉じた。
ゼナクは気づく。
目の前で放たれている、ただならぬ闘気に。
ゼナク「お前…」
アルジに向かって言う。
アルジはじっと森をにらみつけていた。
ゼナク「おい、何を考えている。貴様…!」
アルジ「…行ってくる」
エミカ「………」
ゼナク「一体何を…するつもりだ…!?
もしや…!!」
アルジはゼナクの方を向く。
アルジ「オオトノラコアを…!!
倒しにいくんだよ…!!!!」
ゼナク「!!!!?」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 25
◇ HP 2277/2732
◇ 攻撃
36★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 素早さ
30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 21
◇ HP 1452/1611
◇ 攻撃 10★★★★★★★★★★
◇ 防御
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
41★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20
◇◇ 敵ステータス ◇◇
◇ ヤサハカイヌ ◇
◇ レベル 21
◇ HP 2991
◇ 攻撃
24★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 防御 15★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 魔力 4★★★★
◇ 技 猛烈牙撃
◇ 魔術 氷弾