第125話 重鎮
第125話 重鎮
老年の猟師は問う。
タキマイ狩猟会の責任を。
老年の猟師「獣をなぜ放置したのか?
もっと早く手を打っていれば、
こうはならなかったのではないか?」
タキマイ「………」
右手を高く上げる老年の猟師。
その手には、広げられた地図。
老年の猟師「この地図を見よ。
この赤い領域。この部分が問題だ。
貴様らタキマイ派は何をしている」
タキマイ「………」
老年の猟師「これはなんだ?
一体どういうつもりだ?
こんなことをしてどうする気だ?
派閥に属さない者を中へ入れず、
自分たちだけで利を貪ろうとする。
浅ましい。実に浅ましいことよ。
今回はしかも…それだけではない」
エミカは小さな声でリンスケに聞く。
エミカ「誰なんだ…?あのおじいさんは…」
リンスケ「あの方は…旧勢力の重鎮だ」
エミカ「旧勢力…?重鎮…なのか?」
リンスケ「そうだ…。重鎮だ。
猟師で知らない人間はまずいない。
奥猟会の総代表。カイさんだ」
エミカ「奥猟会…」
リンスケ「もう80歳になる。だが、現役だ。
奥猟会は猟師の最大派閥だった。
最近はタキマイ狩猟会に押されているが、
輝かしい実績を上げ続けている。
カイさんも狩猟の腕は一級品。実力者だ。
あの人に憧れて猟師の道に進む者は多い。
オレもそんな猟師たちの1人。
あの人の狩猟の手引書は何冊も読んだ」
アルジ(狩猟の腕も一級品か…。
確かに隙がない感じがする)
リンスケ「今回は…獲物を獲りにきた…
というよりも…物申しに来たって感じだな…」
アルジ&エミカ「………」
カイの発言は続く。
カイ「獣の力が強くなった。大変だ。
懸賞金をかけた。頑張ってくれ。
さあ、みんな戦え。…なんだ?それは。
詫びの言葉の1つも言えないのか?」
タキマイ「………」
カイ「散々見過ごして、放置して、
手に負えなくなった。
この責任は大と見る。
私は許されるものではないと見る。
踏み込めず、戦えず、その結果、
獣をいたずらに増長させた。
タキマイ狩猟会の横暴で臆病な姿勢が、
獣の凶暴化を招いたのだ。
このことをどう考えているのか。
タキマイよ。答えよ」
タキマイ「………」
タキマイの責任を問う。
ほかの猟師たちにはできなかった。
だが、カイがそれをやった。
みんなが言えなかったことを彼は言った。
彼に同調する者が増えていく。
基地内の雰囲気が次第に変わっていく。
カイ「どうした?何も言えないのか?」
タキマイ「………」
カイ「…私ならこうする。
最初のうちに立格陣を敷き、
千射壁により動きを制していれば…」
アルジ「?」
カイ「獣が反撃をしてこようと階残陣で
十分に対処できる。
さらに隣式進で三方損を試みれば…
獲物は楽に倒せただろう」
アルジ(なんだ?今なんて言った?
専門用語か?さっぱり分からないな…)
リンスケ(!!なるほど…!そうか…!
確かに…!カイさんの言うやり方なら…!
もしかすると…魔獣がどんなに強くても…
討伐できていたかもしれない…!
人手はそれなりに必要だけど…
確実な方法だ!)
徐々に形成されていく。
新しい秩序が。
基地内で。
カイは正しい。
タキマイは間違っている。
カイなら成功した。
タキマイは失敗した。
カイの方が優れている。
タキマイは劣っている。
そして、タキマイは責任をとるべき。
猟師たちの認識が変わっていく。
そこで口を開いたのは、ゼナク。
タキマイではなく、ゼナク。
ゼナク「…は?」
カイ「………」
ゼナク「なんて言った?お前。さっき」
カイ「なんだ?聞こえなかったのか?」
ゼナク「ああ、聞こえねえな。
そんなところでボソボソ喋られてもなぁ。
言いてえことがあるなら聞いてやる。
だから、上がってこい。
こっちに上がってこい!」
カイ「………」
カイは一瞬ためらう。
行くか、行かないか。
ほんの一瞬、ためらう。
だが、すぐに決める。
行くことを決める。
歩き出す。
彼の後ろにいた配下の猟師たち。
ついていこうとする。
だが、カイはとめた。
手で制し、ついてくるのを拒んだ。
カイは歩き出す。
彼の近くの猟師たちが避けていく。
道が開ける。
カイは進む。
まっすぐで力強い確かな足取りで。
そして、壇上へ1人で上がる。
壇上に立つ者は3人になる。
ゼナク、タキマイ、そして、カイの3人。
タキマイは奥の方でじっとしている。
ゼナクとカイは壇上の中央に立ち、向き合う。
じっと互いの顔を見る。
ゼナクは悲しげな顔で言う。
ゼナク「恥ずかしくないのか?お前」
カイ「何?」
ゼナク「タキマイ狩猟会の責任を問うだと?
タキマイ狩猟会は浅ましいだと?
私ならこうするだと?バカか!てめえは!」
カイ「貴様っ…!」
カイの顔が赤くなる。
ゼナク「外から好きなことを言うだけ言って、
自分の方が優れている気になって…
ははっ…!最高に滑稽だぜ、あんた!!」
カイ「…なんだと!?」
ゼナク「滑稽だ。そして哀れだ。
みっともねえやつだ。
猟師の面汚しだ。あんたは」
カイ「…キ…!サマァ…!」
カイの肩は怒りに震える。
そんなカイにゼナクは説いて聞かせた。
ゼナク「もっといい方法があるのなら、
なぜそれを実践しない」
カイ「………」
ゼナク「狩場の立ち入りが禁じられている。
気に入らないので、文句を言う。
自分ならもっとうまくやれると言う。
でも、実際にはやらない。
タキマイ狩猟会が禁じているから。
赤い領域には入るなと言われているから。
だから、入らない。だけど、文句は言う。
気に食わないので文句は言う。
自分ならもっとうまくやれると言う」
カイ「………」
ゼナク「バーカ!!!」
カイ「…!!」
ゼナク「ハハハハハ!情けねえや!
それが一大派閥の総代表がやることかよ!
実力があるんならやってみろよ!!」
カイ「キサマ…!」
ゼナク「無理矢理にでも立ち入って、
獲物を仕留めてみろよ!!
そんな態度で猟師やってるから
衰退したんだろうが!!
てめえらはよ!!あ!!?
ことあるごとに否定しやがって!!
タキマイ狩猟会のやり方を!!
実績じゃ大差で負けてんだから呆れるぜ!
このやり方はだめだ!!
魔術を使うなんて間違いだ!!
そんなことをグダグダ言って!
古臭い方法にこだわって!
ろくな成果を上げられない!!!
バカか!!てめえら!!滅べ!!
そんなやつらはさっさと滅べ!!」
カイ「…ギイザァアアアアアア…!!!」
ゼナク「遠吠えだ!!負け犬の遠吠え!!
お前らがやってることは
全部負け犬の遠吠えなんだよ!!
入るなと言われたから入らない。
負けてんだよ!!その時点でお前らは!!
はなっから負けてんだよ!!!
グダグダ文句を垂れに
わざわざここへ来たのか!!
ああ!!ご苦労!!ご苦労なこったねぇ!!
恥さらしが!!!猟師の恥さらしが!!!」
次の瞬間、振り下ろされる。
カイの剣が。
カイ「…!!!」
ゼナクは軽やかにかわす。
鼻歌でも歌っているかのような涼しい顔で。
そして、一転して静かな口調で彼は言う。
ゼナク「教えてやろうか」
カイ「…何…?」
ゼナク「なぜお前が…
いや、お前たちは実践しないのか。
もっといい方法を考えているのに
それを人には教えるのに
なぜ自分たちで実際にそれをやらないのか」
カイ「………」
ゼナク「自分ならこうするだとか、
偉そうに語っておいて、
なぜ実際にそれをやらないのか。
なぜ口で言うだけで終わるのか。
教えてやろうか」
カイ「貴様…!」
声を大きくして、ゼナクは言う。
基地全体によく聞こえるように。
ゼナク「怖いからだ」
カイ「…!!」
ゼナク「魔獣が怖い。
本当にうまくいくか分からない。
もしかしたら、やられるかもしれない。
だから、やらない。タキマイも怖い。
狩場に勝手に入ったら叱られるかもしれない。
攻撃されるかもしれない。
ケガするかもしれない。
だから、怖い。怖いから入らない。外にいる」
カイ「そんなわけが…!」
ゼナク「そして、もう1つある…」
カイ「貴様!話を聞け!!」
ゼナク「怖いからだ。今度は、別な恐怖。
挑戦して、失敗したらどうなるか。
それが怖いんだ。
自分の無能さを思い知るかもしれない恐怖。
そして…その無能さが人に知られる恐怖。
…実際にやらなければ、思い知ることはない。
…実際にやらなければ、人に知られない。
だから、結局お前らはやらない。
老いて死んでしまうまで。
実行しない。口だけで終わる。
そして、みじめに死んでいく。
…簡単なことだ」
カイ「それが年長者に対する口の利き方かっ!」
再び振り上げられるカイの剣。
振り下ろされる、その瞬間。
叩き込まれる。
カイの顔面に。
勢いよく放たれた拳が。
アルジ(…速い!!)
空気を裂くような鋭さで、その拳は放たれた。
吹き飛ぶカイの体。
大きな音を立てて壇上に背中を打ちつける。
そして、彼の体は大の字になって固まった。
それは壊れた大きな人形のよう。
ゼナク「…まだ終わらねえからな!
2度もオレを斬ろうとしたこと…
たっぷり後悔させてやる…!!」
ゼナクは倒れたカイに馬乗りになる。
そして、彼の顔面に振り下ろす。
拳を、何度も、何度も。
カイは手を上げて、防ごうとする。
降り注ぐ拳を。
だが、それはむなしい抵抗。
すり抜けて、当たる。
また、当たる。
ついにカイは無抵抗になる。
呆気にとられ、その光景を眺める猟師たち。
ゼナクの激しい攻撃。
その勢いに圧倒された。
到底近づくことなどできない。
ましてカイを助けることなどできやしない。
それが、その場にいた猟師たちが抱いた印象。
カイの配下の猟師たちでさえもそうだった。
ごしっ、ごしっと音が響く。
基地内に、鈍く、大きな音が響き渡る。
その音にカイのうめき声が混じる。
殴るのをやめて、ゼナクは言った。
馬乗りになったまま。
気絶しかけているカイに向かって。
ゼナク「おい!お前!!分かってないくせに!!
分かってないくせに!!
好き勝手ほざくんじゃねえ!!
タキマイが!!あの狩場で!!
どれだけ苦しんでいるか!!
どれだけ大変な思いをしながら!!
オオトノラコアと!!向き合ってきたか!!
戦おうとしてきたか!!!狩場の中で!!
どれだけ彼女が頑張ってきたか!!
実際に見てもいないのに!!
立ち会ってもいないのに!!
知りもしないくせに大口を叩くんじゃねえ!!
外から好き勝手ほざいてんじゃねえ!!
そんなやつは!!このオレが許さねえ!!
潰してやる!!オレは大前隊だ!!」
カイ「…ひっ…!」
タキマイ「………」
ゼナク「まったく!!
お前みてえなバカには呆れるぜ!!!
やろうと思えばやれる!!そう思って!!
思い続けて!!外から文句ばかり言って!!
自分では何もやらない!!!できない!!!」
カイ「…ひっ!…ひっ…!!」
高く拳を振り上げて、強く落とす。
ごしっと一際大きな音がする。
殴った衝撃で大きく揺れるカイの体。
さらにゼナクは言う。
ゼナク「最大派閥だ!
タキマイ狩猟会は最大派閥だ!!
その頂点に立つタキマイ!!
つまり猟師の頂点!!
そんな優秀な彼女が苦しんでいる!!!
よほどのことだ!こんなことはかつてない!!
お前ごときがどうこうできることじゃない!!」
ゼナクは肩で息をしている。
満足げに笑う。
傷を負い、動かなくなったカイを見て。
ゼナク「…はは…ははは…!」
顔をしかめるアルジ。
アルジ「こんなのおかしいだろ…」
エミカ「………」
アルジ「こんなの…!おかしいだろ…!」
リンスケ「…!!?」
アルジは剣を強く握る。
エミカ(アルジ…!勇気の剣が…光り出した。
もうこうなったら…アルジは…
とめられない…!)
アルジ「…オレたちは…これから…!
同じ魔獣を相手に…戦うんじゃないのか…!
こんなところで…!こんなふうに争うなんて!
いくらなんでも…おかしいだろ…!!」
エミカ(…戦おう。ここでアルジが戦うのなら…
…私も一緒に戦おう…!)
リンスケ(なんだ!?
…ふつふつと…伝わってくる!!
アルジという男の…武の才が…!!
近くで立っているだけで…分かる!!
こいつは…!こいつは一体何者なんだ!?)
アルジが1歩、前へ踏み出したそのとき。
アルジ&エミカ「……!」
手が挙がる。
固唾を飲んで惨劇を見守る猟師たちの中。
たった1人、手を挙げる者がいた。
高く、まっすぐ天に向かって手を挙げている。
タキマイ「ゼナク」
彼女のその呼びかけにゼナクは我に返る。
ゼナク「…なんだ」
タキマイは顎をくいと動かす。
向こうを見るように促す。
猟師たちの方へ目を向けるゼナク。
彼の視界に飛び込んだのは、南国首位猟師。
高く腕を伸ばし、挙手するギンタロウの姿。
ゼナク「………」
ギンタロウ「よう、ゼナクさんよ!!」
ゼナク「………」
ギンタロウ「質問の時間は
まだ終わっちゃいないよな?」
立ち上がるゼナク。
ゼナク「…ああ」
ギンタロウ「そうかい。ああ、よかった」
ゼナク「…質問はなんだ?言ってみろ」
ギンタロウ「…くくく…」
ギンタロウは不敵に笑う。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ リンスケ ◇
◇ レベル 14
◇ HP 441/441
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 木の長槍、軽量弓、革の猟師服
◇ 技 草木払い、離れ撃ち
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20