第124話 取引
ゼナクは打ち明けた。
大前隊が魔獣退治に来ない理由を。
ゼナク「端的に言えば、こういうことだ。
政府は情報を得て、敵は力を得た。
だから、大前隊は来ない」
ハジキ「…はい?」
ゼナク「今、大前隊は魔獣ごときに
構っている場合じゃないのだ。
急がなければならない。
すぐに見つけて倒さなければならない
別な敵がいる。そのことが分かった。
だから、大前隊は来ない」
ハジキ「倒さなければならない…別な敵…?」
ゼナク「………」
黙るゼナク。
ハジキの顔は曇ったまま。
ハジキ「政府が得た情報とは?敵が得た力とは?
なんなのですか?具体的にお願いします」
ゼナク「急かすんじゃねえ」
ハジキ「………」
ゼナクは後ろを向く。
タキマイと目を合わせる。
2人はうなずき合う。
猟師たちの方を向き、ゼナクは明かした。
ゼナク「昨日、大前隊は…
北土の魔術研究所の所長を逮捕した」
アルジ&エミカ「!!」
猟師たち「………」
ゼナク「北土の魔術研究所所長、ホジタ。
…前から怪しいとされていた人物だ。
複数の魔獣発生事件の裏で糸を引いている…
そのように疑われていた人物だ。
昨日、ついに大前隊は動いた。
研究所へ乗り込み、ホジタを逮捕したのだ。
そして、審理院へ連れていき、尋問した。
その結果、一連の魔獣発生事件…
その真相が明らかになったのだ」
猟師たちは黙って聞き続ける。
ゼナク「真相はこうだ。
魔術で魔獣を生み出している者がいる。
信じがたいことだが、
そういう魔術を使う者がいる。
その魔術師はかつて北土の魔術研究所にいた」
ギンタロウ「フゥ…」
ギンタロウは大きなため息をつく。
ギンタロウ(魔術で魔獣を生む…か。やはりな)
ゼナク「犯人の名前は、ロニ。女。24歳。
ノイ地方。ニラギ町の生まれ。ノイ民だ。
各地に現れた古代獣。これらはすべて…
その魔術師の仕業だとホジタは述べた。
大前隊は今そいつを追っている。
全力で探し出し、処分する予定だ。
ロニの魔力は特殊で、かつ、強力。
大前隊といえども簡単に捕まえられない。
だから、魔獣退治に割く戦力などないのだ。
それにいくら魔獣を倒したところで
それを新たに生み出す者が生きていたら、
結局のところ戦いは終わらないだろう」
ハジキ「………」
ハジキはこくんとうなずく。
ゼナク「戦いを終わらせるため大前隊は動いてる。
だから、魔獣退治には来ない。来れないんだ。
君たち猟師はしばらくの間、
厳しい戦いを強いられる。
だが、それ相応の見返りはある。
必ずある。約束する。
大前隊は、決して休んでいるのではない。
指をくわえて惨状を眺めているわけではない。
大前隊もまた戦っているのだ。異なる敵と。
だから、理解してほしい。
そして、安心してほしい。
大前隊が本気になればおしまいだ!
いかに強い魔術師だろうとかないはしない。
政府が情報を得たというのは、そういうことだ。
…これで分かっただろう。大前隊は来ない」
大前隊も戦っている。
そのことを知ってハジキは納得した様子。
だが、彼女の疑問がすべて晴れたわけではない。
ハジキ「政府は情報を得た。
それについては分かりました。
敵は力を得た。
これはどういうことでしょうか?」
ゼナク「そのとおりの意味だ。
敵は力を得たんだ。
大きな力を敵は手に入れてしまったのだ」
ハジキ「大きな力とは一体…」
ゼナクに集まる猟師たちの視線。
その視線が求めている。
敵が得た力とはなんなのか。
彼に明かすことを求めている。
ゼナク「お前たち…そうか…。
よかろう。教えてやる」
そして、一気に彼は説明した。
ゼナク「ホジタが言っていた。
この大陸には星の秘宝というものがあると。
それは強い魔力が込められた
古より伝わる秘宝なのだと。
破壊の矛、安定の玉、そして、創造の杖。
全部で3つ。手に入れた者は大きな力を得る。
敵はその中の1つを新たに手に入れた…
のではないか。ホジタはそう言っていた。
その秘宝とは創造の杖。
クユの国、ワノエ町。
そこに住むリネという魔術師…」
アルジ&エミカ「!!」
ゼナク「彼女の家に代々伝わる宝だそうだ。
どうやらそれがロニの手に渡ったらしい。
そうであれば、魔獣たちの著しい凶暴化も…
容易に説明がつくのだとホジタは言っていた」
アルジとエミカの顔が強ばる。
アルジ(そんなことまで白状したのか!
だけど…なぜだ?なぜ創造の杖のことを…?)
エミカ(ホジタはあのとき知っていた…?
リネさんが創造の杖を持っていたことを…。
杖から出ていた魔波を感知していた…?
あるいは…マスタスが教えていた…?
ホジタに教えていた…?
リネさんが来ることを…。
杖を持って現れることも…!
だから、ホジタは…!)
ハジキはさらに問いかける。
ハジキ「なぜですか?そんな悪い魔術師に…
なぜ渡してしまったのですか?
その…創造の杖を。
悪用されると分かっていて渡したのですか?
そのリネという魔術師は…。大事な秘宝を…!」
ゼナク「説がある」
ハジキ「…説?」
ゼナク「調査はまだ完全に終わってはいない。
政府としても…
はっきりした結論を出してはいない。
だが…」
ハジキ「だが…なんでしょうか?」
ゼナク「有力な説がある」
アルジ&エミカ「………」
ハジキ「どんな説でしょうか?」
ゼナク「取引をした…という説だ」
アルジ&エミカ「……?」
ハジキ「どのような取引ですか?」
ゼナク「交換した。秘宝と秘宝を…」
ハジキ「交換…ですか?」
ゼナク「ロニは安定の玉を持っていた。
リネは創造の杖を持っていた。
その2つを交換したのではないか。
そのような取引が行われたのではないか。
そういう説が有力なのだ」
ハジキ「どうして…まさか…そんなことが…」
ゼナク「ホジタを逮捕する前日、
リネという魔術師は、ホジタを訪ねている。
そのとき、いろいろ話をしたらしい。
彼女がなぜ研究所に来たのか。
どうして旅をしているのか。
そして、なぜホジタに会いにきたのか。
そんな話をしたそうだ」
ハジキ「そのときに…
交換する話が出たのですか?」
ゼナク「そうだ。秘宝と秘宝…
創造の杖と…安定の玉…それら2つを
交換したとしても不思議ではない。
そう思われるような話が出たそうなのだ」
ハジキ「どんな話だったのでしょう?」
アルジ(なんだ…?話が急に変な方向に…!)
ゼナクは一呼吸置いてから話す。
ゼナク「リネという魔術師には…
旅に同行していた弟子がいたという」
アルジ「………」
ゼナク「そいつは、自分はリネの弟子だと
名乗っていたそうだが、
明らかに魔術師ではなく、
いかにも剣士という格好だったそうだ」
アルジ「………」
ゼナク「そして、そいつは言ったらしい。
ホジタに向かって。激しい口調で。
安定の玉を…必ず手に入れると…。
なんでもその玉は、
そいつの村の宝だったらしい」
ハジキ「自分の村の宝のために…その人は…!」
ゼナク「そうだ。その剣士は…
創造の杖をリネに差し出させた。
そして、その見返りに
安定の玉をロニからもらった…」
ハジキ「ひどい…!!」
アルジ(おい!!!ちょっと待ってくれ!
なんか変なことになってるぜ!!
マスタスの話が出てこないのも変だ!)
エミカ(アルジが動揺してる…!
落ち着くんだ!ここは落ち着くんだ!
アルジ!!黙っていれば…!
静かにしていれば…!誰も分からない…!)
にわかにざわめく基地内。
魔獣発生事件の犯人、ロニ。
彼女に力を与えてしまった者がいる。
取引をして魔獣を凶暴化させた者がいる。
基地内に怒りの感情が渦巻き始める。
ハジキはゼナクに問う。
怒りに震えた声で。
ハジキ「一体…誰なんですか?
その…弟子というのは…?」
ゼナク「ああ…」
アルジ「………」
数秒の沈黙のあと、ゼナクは言った。
ゼナク「そいつは、こう名乗っていたそうだ。
クユの国、ナキ村の剣士、アルジと…!」
アルジ「…なっ!!!!!!」
エミカ(アルジ!バカ!!)
リンスケ「……!!!?」
周りにいた猟師たちが一斉にアルジを見た。
アルジ「………」
ゼナク「……?」
猟師たち「………」
ゼナクもじっとアルジを見る。
ゼナク「………」
アルジ「つ…続けてくれ!
ちょっと…肩に虫がとまっただけだ!!」
エミカ(苦しいだろ!その言い訳は!)
ギンタロウ「………」
ハジキは声を震わせて言う。
ハジキ「最悪なのは、ロニ。
だけど…アルジという人も…!
その人が…取引さえしていなければ…」
ゼナク「ああ、状況は今よりもずっとよかった。
現れたいずれの魔獣も
覇獣級になることはなかった。
もしもこの説のとおりならアルジという男…
死罪に値する!!」
アルジ「……!!!」
ゼナク「創造の杖に…
どれほどの魔力が込められているのか。
それは不明だ。だが、間違いなく言える。
我々は、急いで対処する必要がある。
放っておけば魔獣はますます強くなり…
もしかすると…
大前隊でも倒せなくなるかもしれない!!」
ハジキ「!!」
ゼナク「そうなれば…いよいよ終わりだ!!
だからこそ…
大前隊は一刻も早くロニを見つけ出し、
倒すことに専念している!!」
ハジキ「………」
ハジキの目から涙がこぼれる。
ハジキ「教えてくださりありがとうございました。
…もはや迷いも悩みもございません。
いかに厳しい戦場でも
この身を投じる覚悟でございます。
そして、大前隊の皆様の武運を…
切にお祈り申し上げます」
ゼナク「うむ…。よかろう!」
それから、ゼナクは3人目の質問者に声をかける。
ゼナク「お前、なんだ。言え!」
前の2人の質問者よりぞんざいな扱い。
ゼナクはひどく不機嫌そうな顔。
ゼナク(この野郎…!!
ノコノコと…現れやがって…!)
質問者は老年の猟師の男。
屈強な体。
鋭く研がれた刃の剣。
彼が実力者であること。
その外見から伝わってくる。
猟師「私が問いたいのはたった1つ。
タキマイ派の責任だ」
タキマイ「………」
ゼナク「おう、なんだ!!言ってみろ!!!」
アルジ(なんだ…?
急に嫌な空気になってきたぜ)
老年の猟師は話し始めた。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ リンスケ ◇
◇ レベル 14
◇ HP 441/441
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 木の長槍、軽量弓、革の猟師服
◇ 技 草木払い、離れ撃ち
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20