第123話 疑念
大前隊員を自称する男。
彼は壇上で名乗った。
壇上の男「オレは大前隊のゼナクという者だ!」
壇上に現れた男、ゼナク。
多くの猟師たちは彼のことを知っていた。
彼とタキマイの関係についても。
ギンタロウ「ほーう
こりゃまた随分とあからさまだ…」
猟師たちはにわかにざわめく。
アルジはリンスケに聞く。
アルジ「あの男は誰か知ってるか?」
リンスケ「ああ」
エミカ「有名なのか?」
リンスケ「ああ。大概の猟師なら知ってる。
あいつにはいろいろ噂があるからな」
アルジ「どんな噂だ?」
リンスケ「ゼナクという男…
あいつはタキマイの2人目の夫だ」
アルジ「…2人目?」
リンスケ「ゼナクはタキマイの2人目の夫だ」
アルジ「どういうことだ?
タキマイは…2人と結婚してるのか?」
エミカ「………」
リンスケ「そうじゃない。例え話だ。
…おっと、話が始まる」
アルジもエミカもゼナクに目を向ける。
ゼナク「お前たち!!何をおびえている!!
何を恐れている!!しけたツラをするな!!
もっと勇ましくあれ!!たくましくあれ!
状況を悲観するな!ここだけではない!!
大変なのはここだけではないのだ!!
非常事態は大陸中で起きているのだ!!」
静まり返る基地内。
ゼナクは一呼吸置き、話す。
ゼナク「覇獣級の魔獣が各地に現れている!
本来、生息していないはずの魔獣たちだ!
続々と現れている!
だから、政府は動いている!
覇獣級魔獣の退治に乗り出している!
このたび…!我々は調査を終えた!!
すべての覇獣級の特定を終えた!!
覇獣級は全部で6体!!!
つまり、ここ以外に5体いる!!
これらの覇獣級はいずれも古代獣である!」
アルジ(…大昔の獣ってことか?)
ゼナク「古代獣はかつて大陸を荒らした獣たち!
討伐され!絶滅し!過去の存在となった!
今回現れた6体の覇獣級も大昔に絶滅した!!
絶滅したはずの古代獣なのだ!」
アルジ(絶滅したはずの古代獣…。
トウオウ道で倒したヤマエノモグラモン…
あれと同じか)
ゼナク「6体の古代獣。
それらすべてが覇獣級の強さを持つ!
そのうちの1体!
カイセン道に現れたコノマノヤタラズマ!!
こいつはカロの町を滅ぼした!!
そして、こちらに向かってきている!」
ギンタロウ(やっぱりな…!)
ゼナク「悠長に構えている暇などないのだ!
明日だ!!決戦は明日だ!!明日の早朝!!
我々は、まずオオトノラコアを撃破する!!
その後、コノマノヤタラズマも撃破する!!
オオトノラコア撃破後、すぐに戦うのだ!!
すぐに対処する必要がある!!いいか!!!
分かったな!!」
ゼナクは口を閉じた。
突然知らされたあまりにも厳しい現状。
猟師たちが受け入れるのを待っている様子。
基地内はどよめきが収まらない。
リンスケは話の続きをアルジに聞かせる。
リンスケ「タキマイは生まれ故郷に家族がいる。
夫と2人の子がいるんだ」
アルジ「ああ」
リンスケ「タキマイが若い頃、
派閥の代表じゃなかった頃、
ただの1人の猟師として活動していたとき、
生まれ故郷で知り合った夫だ。
夫も猟師をしてるんだが、さえない男らしい。
静かで温厚で真面目なやつだと聞いてるが…」
アルジ「そうなのか。ゼナクは?」
リンスケ「彼女が派閥で権力を握ってから
よく一緒に仕事をするようになった。
仕事仲間だ」
アルジ「なんだ、仕事仲間なのか」
リンスケ「とはいっても……
それ以上の深い仲だという噂だ」
エミカ「だから、2人目の夫か」
リンスケ「そういうことだ」
アルジ「………」
リンスケ「あと、ゼナクはゼナクで都に妻がいる。
確か3人の子もいると聞いている」
アルジ「そんなことが…!いいのか?」
リンスケ「あるんだ」
エミカ「………」
リンスケ「現実にこういうことが」
アルジ「おかしいだろ…」
リンスケ「しかしだ。
タキマイとゼナク…2人の繋がりが…
ここまで大っぴらになったのは
初めてのことじゃないか。
2人そろって人前で話をするなんて…」
エミカ「…隠す余裕もない」
リンスケ「………」
エミカ「そういうことなんじゃないか?」
リンスケ「そういうこと…かもな」
アルジ「………」
ゼナクは大きな咳払いをする。
ざわついていた猟師たちが静かになる。
彼らの視線がゼナクに集まる。
ゼナク「さて、懸賞金について話そう」
ゼナクは猟師たちに知らせる。
ゼナク「懸賞金はさっきタキマイが話したとおり。
オレからは大事な知らせを1つ…
追加させてもらう」
猟師たち「………」
ゼナク「古代獣を討伐した者には…
懸賞金のほかに褒美が与えられることになった。
貴重な…本当に貴重な品だと聞いている。
そして、その賞品は…都にて!大君から!!
直々に授与されることになる!!」
再びざわめく基地内。
ギンタロウ(大君が…直々にだと…?
こいつはエライことになったもんだ!)
タキマイは顔色一つ変えず立っていた。
後ろで静かにゼナクの話を聞いている。
あらかじめ知っていたと言わんばかりに。
ゼナク「オレからはこんなところだ。
何か…質問がある者は?」
3人が手を挙げる。
ゼナク「右から順番に行こう。お前!」
猟師の男は名乗る。
猟師「ナラタの国の猟師、タキチという者だ」
ゼナク「タキチ!なんだ、言ってみろ」
タキチは問う。
タキチ「あんた!大前隊を名乗っているが、
第一隊の隊員ではないだろう!」
ゼナク「………」
タキチ「大前隊は本来、
第一隊の隊員を指す言葉だろう!
一隊にゼナクなんて男がいるなんて
聞いたことがない!
政府関係者ともあろう者がいいのか?
それでいいのか?偽ってもいいのか!?
詐称する者の言葉など信用できん!」
ざわめく基地内。
アルジ(ゼナクって人は一隊じゃないのか。
オンダクやガシマとは…違う隊ってことか。
あいつは二隊とか三隊の戦士ってことか?)
ゼナク「…クソが…!」
タキチ「…!?」
ゼナク「二隊も大前隊だ。間違いではない。
世間じゃ一隊こそが大前隊などという
誤った考えがあるようだが
二隊も三隊も正式な大前隊。
くだらん質問をするな!
腹に穴を開けるぞ!貴様!!」
タキチ「…!」
ゼナク「それに言っておくが…
オレはただの二隊員ではない。
オレは…一隊に最も近い男だ!」
アルジ(一隊に…最も近い男…?)
ゼナク「二隊員なら誰にも負けん!
1対1の通常の戦いなら、
一隊の隊員と互角に渡り合える!」
猟師たち「おおお…!!」
後方からタキマイが言う。
タキマイ「彼の言葉に偽りはない!
前回の一隊昇格試験、私はこの目で見た!!
あと1つ!たった1つ!!星を得ていれば、
彼の一隊入りが決まっていた!
本当に僅差だった!
その力は一隊と同等とみなしてよいものだ!」
アルジ(一隊に最も近い男…。
ここにもまた…強者が…!
…それにしても、大前隊の昇格試験って
見ることができるのか)
続いてゼナクは2人目の質問者に声をかける。
ゼナク「次、お前!!」
猟師の女は名乗る。
猟師「私はマタカテの国から来ました。
猟師であり、魔獣研究家でもあります。
ハジキと申します」
ゼナク「おう、なんだ!ハジキ!」
ハジキ「ゼナクさん、あなたはさっき
政府は魔獣退治に乗り出していると
言っていました」
ゼナク「ああ、それがなんだ?」
ハジキ「本当にそうなんですか?」
ゼナクの顔色が変わる。
眉毛がピクリと大きく動く。
ゼナク「それはどういう意味だ?」
引きつった顔で問いかける。
不快感をあらわにしている。
ハジキは少し間を置いてから答えた。
ハジキ「私が最も疑問に思うのは…
なぜ大前隊が動かないのか?ということです」
ゼナク「………」
ハジキ「オオトノラコアを倒すために…
なぜ大前隊のみなさんが来てくれないのですか?
覇獣級…それが本当なら、私たち猟師だけに
任せている場合ではないと思います」
ゼナク「大前隊が動かない…?
来てるだろうが!このオレが!ここに!
それに大前提にも役割ってもんがある!
オオトノラコアはまだ人に気概を加えてない!
どんなに強かろうが、狩場の中にいる獣!
山野に住んでいる野生の獣!
そのことに変わりはない!!
大前隊がわざわざ出向いて、
戦う相手ではないのだ!
大前隊の出番ではないのだ!」
ハジキ「そうですか…。
そういうお考えですか。
では、コノマノヤタラズマを退治する話は?
ゼナク「………」
ハジキ「カロ町を滅ぼしたという
コノマノヤタラズマ。
それも私たちが倒すのは、なぜですか?」
ゼナク「………」
ハジキ「さっき、あなたは言っていました。
コノマノヤタラズマも撃破すると。
オオトノラコア撃破後、すぐに戦うと。
戦うのは、私たち猟師ってことですよね。
カイセン道に現れた魔獣、コノマノヤタラズマ。
この魔獣は、すでに町を滅ぼした。
つまり、人に害を与えた。
だけど、退治するのは私たち。
これはどういうことですか?
大前隊も来てくれるのですか?
討伐のために一緒に戦ってくれるのですか?」
ゼナク「…ふぅー…」
ハジキ「………」
ゼナク「…お前たち猟師が
コノマノヤタラズマを退治。
…そんなこと言ったかな?」
ハジキ「言いました!!」
ゼナクは沈黙し、首を大きく横に振る。
そして、小さく笑って言った。
ゼナク「ああ、言ったな。確かに言った」
白々しくゼナクは言った。
それに対し、ハジキは声を大きくして言った。
ハジキ「大前隊は来てくれるのかどうか!
早く答えてください!!」
ゼナク「そう急かすなよ」
ハジキ「………」
ゼナク「お前、誰に物を言ってるか分かるか?
オレに命令するな。無礼な言動は慎め。いざとなれば…
大前隊には、理由書というものがあるんだ。
便利な紙だ。知ってるだろ?
大前隊の特権だ…。人を何人殺しても…
それを書いて、出して、通れば、許される」
ハジキ「……!」
基地内を満たす重い空気。
ハジキは動揺を隠せない。
それでも彼女は1歩も退こうとしない。
ハジキ「…答えてください!
私たちの…命がかかっているのだから!
私の故郷は…滅ぼされました。
たった1体の魔獣に…。
そのときは、町の警備隊が駆けつけてくれて、
魔獣を討伐して、村人の全滅は免れました。
だけど…!だけど、私の家族も…!友達も…!
間に合わなかった…!助からなかった…!
…そのときの記憶が…私にはある!
覇獣級がどれほど危険か!私はよく知っている!」
ゼナク「………」
ハジキは涙ながらに打ち明けた。
多くの猟師たちが彼女に同調し始める。
1つ、また1つ、疑念の視線が向けられる。
ゼナクに対して。
少し肩をすくめて、ゼナクは言う。
ゼナク「ふぅー…。
いいだろう。答えてやる。大前隊は…」
猟師たち「………」
ゼナク「来ない」
猟師たち「!!!?」
ゼナク「大前隊はオレ以外に1人も来ない。
コノマノヤタラズマもお前たちだけで倒すんだ」
猟師たち「………」
ハジキ「なぜ…来ないのですか?」
ゼナク(…どうする?言うか?言わないか?)
ゼナクはしばらく考える。
ゼナク(言わないどくか…?)
ハジキ「どうして来てくれないのですか!?」
ゼナク「………」
ハジキ「どうしてですか!!?」
ゼナク(いや…やっぱ言うか…)
ハジキ「なぜ来ないのですか!!?」
ゼナク「うるせえな!!!」
ハジキ「…!」
ゼナク「…大前隊は来ない。オレ以外。
なぜこうなったか。教えてやる。特別にな」
それから、ゼナクは語る。
昨日、都で起きたことについて。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ リンスケ ◇
◇ レベル 14
◇ HP 441/441
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 木の長槍、軽量弓、革の猟師服
◇ 技 草木払い、離れ撃ち
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20