第121話 腕輪
第121話 腕輪
リンスケは語る。
タキマイ一派の勢力拡大について。
リンスケ「タキマイ一派。彼らは…」
アルジ&エミカ「………」
リンスケ「狩りの方法を劇的に変えた」
エミカ「どう変えたんだ?」
リンスケ「魔術だ」
エミカ「魔術…」
リンスケ「初代タキマイ。
彼は狩りに魔術を取り入れた」
エミカ「それまでは?」
リンスケ「狩りは弓矢、槍などで行われていた」
アルジ「そこに魔術を取り入れたと」
リンスケ「そうだ」
エミカ「うまくいったのか?」
リンスケ「最初はそうでもない」
アルジ「そうなのか?」
リンスケ「ああ。当時は批判されたらしい。
伝統的な方法でやってきた猟師たちから。
それはもう散々な言われ方だったらしい。
魔術なんて役に立たない、伝統を重んじろ、
魔術で獣を仕留めることなど生命の冒涜、
大自然に対する侮辱、猟師を辞めろ、死ね。
そんな批判だ」
エミカ「死ねって…」
リンスケ「…だが、タキマイは押しのけた。
そんな批判を実力で跳ね返したんだ。
強い魔獣を仕留めては世間に示した。
自分のやり方は間違っていないと。
さらに、猟師を志す者たちに教えた。
自分のやり方を積極的に教えて広めた。
何ももったいぶることなく、妥協なく。
その狩猟法のすべてを伝えようとした。
そして、ことあるごとに主張した。
公の場で発言する機会を得るたびに。
彼は声高に主張したんだ。
狩りに魔術は欠かせないものになると。
魔術を積極的に取り入れるべきだと。
時代は変わったと。取り残されるなと」
アルジ「そっか」
リンスケ「今じゃ魔術を使うのは当たり前だ」
エミカ「南国首位猟師たちも魔術を使うようだな」
リンスケ「ああ。腕のいい猟師は大抵そうだ。
多少苦手にしていても基本的な魔術は使える。
狩りの常識が変わった。タキマイが変えた。
一流猟師を目指すなら魔術はできて当たり前。
弓矢の代わりに火弾、岩弾。
視界が悪いときは光術。
凶暴な獣は闇の魔術で静める。そんな具合だ。
さらに、新たな手法が次々と開発されている。
魔術を取り入れた狩猟法は今も進化している。
狩猟界にタキマイが現れる前と現れたあとで
狩りの基本的な考え方が変わったんだ」
エミカ「タキマイが時代を変えたってことか」
リンスケ「そういうことだ」
アルジ「さっき初代タキマイって言ったよな」
リンスケ「…ああ」
アルジ「2代目がいるのか?」
リンスケ「いる。今は3代目。
冷酷な女の猟師だ。
タキマイ一派の頂点に立つ者は
タキマイの名を継ぐ。
そういうしきたりになっている」
アルジ「その3代目が南国首位猟師より強いのか」
リンスケ「ああ。強い。本当に強い。
強いとかいう言葉で表せるものじゃない。
もはやそういう次元の人ではない。
…恐ろしい。そうだ、恐ろしいんだ。
この言葉が…やはりしっくりくる」
アルジ(3代目タキマイ…
一体どれだけ強いんだ?)
リンスケ「狩りの腕が優れているだけじゃない。
3代目は組織を束ねることにも長けている。
派閥内の信頼も厚い。
そして、なんと言っても…」
アルジ&エミカ「………」
リンスケ「政府との繋がりだ」
リンスケは声を潜める。
リンスケ「中央政府の高官やら大前隊とも
深く繋がっていると言われている」
アルジ「大前隊…」
リンスケ「3代目は多くの信奉者を抱えている。
彼女の言葉で動く人の数は非常に多い。
強い発言力、影響力を持っているんだ。
猟師だけじゃない。広く社会一般に対して。
彼女の活動実績は、単に『優れた猟師』という
言葉の枠には収まらないんだ」
エミカ「3代目タキマイがすごい人なのは分かった。
でも、それならどうして魔獣の親玉を倒さない?
苦戦しているのか?」
リンスケ「それだ!」
アルジ&エミカ「………」
列が動く。
前へ、前へ。
気がつけば、前に並んでいるのは数人。
声を潜めてリンスケは言う。
リンスケ「…憶測がある。猟師たちの間に」
アルジ「なんだ?」
リンスケ「あえて狩らないんじゃないかってことだ」
アルジ「…あえて狩らない?」
エミカ「魔獣を倒そうと思えば倒せる。
だけど、あえて倒さないってことか?」
リンスケ「そうだ。そういうことだ。
タキマイ一派は…魔獣の親玉に…
あえて手を出さないようにしている」
エミカ「なぜだ?」
リンスケ「おそらく…危険だからだ」
アルジ&エミカ「………」
リンスケ「倒せたとしてもケガをするかもしれない。
勝てたとしても重い傷を負うかもしれない。
その危険性が高い。だから、勝負しない。
親玉とは勝負しない。
だから、ほかの魔獣を狙う」
アルジ&エミカ「………」
リンスケ「その一方で、とられたくない。
派閥外の猟師に獲物をとられたくはない。
タキマイ派ではない者に
手柄を挙げてほしくない。
だから、こうやって範囲を決めて、
派閥外の猟師が入らないようにしている。
どこの誰かも分からない無名の猟師が、
魔獣の親玉を倒してしまわないように。
地図の中の赤い領域の中央部。
そこへ行けるのは数人。
タキマイと、彼女と親しい猟師。
行けるのは、その数人に限られると聞く。
タキマイたちも実力者だが、勝負できない。
それぐらい強いのだろう。その魔獣は。
だから…じっと様子を見ている」
エミカ「そんなことをしててどうするんだ?
魔獣は日に日に強くなってるんじゃないのか?
そのうち止められなくなるんじゃないのか?」
リンスケ「ああ、そうだ。
そうなれば、今度は大前隊の出番だ。
魔獣が人々に災いをもたせば彼らの出番だ。
だが、政府としてはその前にケリをつけたい。
今回の懸賞金は…背中を押すため。
踏み込めずにいるタキマイ一派…
彼女たちの背中を押すために懸けられた…
とも言われている。
だから…獲物を狩るのはタキマイ一派。
これはもう…初めから決まっていることだ」
アルジ「南国首位猟師の言ったとおりってわけか」
エミカ「いろいろ面倒なことがあるんだな…」
リンスケ「ああ。だから…」
受付の順番が来た。
リンスケは受付台に向かう。
その直前、小さな声で言った。
リンスケ「どうあがいても獲物にはありつけない」
アルジは拳を強く握る。
アルジ「おかしいだろ…。そんなのは…!」
受付係の猟師「何がおかしい!!!」
アルジはハッとして、受付台の向こうを見る。
赤い腕輪を付けた大柄の猟師が立っている。
受付係を任されたタキマイ派の猟師だった。
受付係の猟師「さあ!狩猟帳を見せろ!」
アルジ「狩猟帳…?」
受付係の猟師「貴様!!狩猟帳も知らんのか!」
アルジ「ああ、知らないな」
受付係の猟師「貴様!猟師ではないな!!」
狩猟帳。
仕留めた獣を記録する手帳。
現役の猟師であれば、ほぼ全員が持っている。
猟師の実力を証明するのに使われる。
獣を仕留め、その証拠を審査窓口に差し出す。
審査が通ると、狩猟帳に証明の印が刻まれる。
審査窓口は大陸各地にいくつもある。
すべてタキマイ狩猟会によって運営されている。
リンスケ「狩猟帳は猟師が使う手帳だ」
アルジ「手帳…」
リンスケがどういうものか簡単に説明した。
アルジ「そうか、そういうのがあるのか。
ありがとう」
リンスケ「ああ」
アルジは受付係に問いかける。
アルジ「買えばいいのか?」
受付係の猟師「ここにはない!!」
狩猟帳を製造、販売しているのは1社のみ。
それは、タキマイ狩猟会が認定した会社。
それ以外の者が作った狩猟帳。
それらは不正品とみなされる。
不正品の記録は正式な証明にならない。
狩猟帳の製造販売会社はオキノキ商店。
同社の代表者は3代目タキマイの親友。
アルジ「持ってないと狩りに参加できないのか?
その狩猟帳っていうのを」
受付係の猟師「いや。それは実力次第だ。
実力があれば、参加は可能だ」
アルジ「実力。試すのか?何をすればいい?」
受付係の猟師「今まで倒した獣は?」
アルジ「ヤマエノモグラモンを倒したぜ」
受付係の猟師「は?ヤマエノモグラモン?
嘘臭え!!こいつは嘘臭えや!!」
アルジ「本当だ!」
受付係の猟師「証拠はあるのか?」
アルジ「証拠…。証拠か…。
そんなのは…ないな」
受付係の猟師「だめだな。認められん」
アルジ「…くっ!」
受付係の猟師「タキマイ狩猟会に属してないだろ」
アルジ「ああ、そうだ」
受付係の猟師「今、入るか?」
アルジ「入れるのか?」
受付係の猟師「今、ここで、入会費を払うならな」
アルジ「いくらだ?」
受付係の猟師が金額を告げる。
それは途方もない額だった。
手持ちの金では到底足りない。
アルジ「払えるか!!」
受付係の猟師「そうか、ならば10班行きだ」
青の腕輪を渡される。
それには10の数字が大きく刻まれていた。
アルジ「10班…」
エミカ「アルジ」
エミカも青の腕輪を手にしていた。
別な受付係と話をして手続を済ませていた。
アルジ「エミカも払わなかったのか。入会費」
エミカ「あんな金額、払えるわけないだろ!
持ってたとしても払わないけど…」
アルジ「何班だ?」
エミカ「9班だ」
アルジ「9班!」
リンスケ「やあ、2人とも手続を終えたか」
リンスケを見るアルジとエミカ。
彼の腕にも青の腕輪。
7の数字が刻まれていた。
アルジ「7班…!」
リンスケ「ああ」
エミカ「どういうことだ?この班分けは…」
リンスケ「数字が小さいほど先に出発できる。
3班より2班、2班より1班が先に出発する」
アルジ「10班は…」
リンスケ「最後だ」
アルジ「く…!あの野郎…!」
エミカ「先に出た班は、
より有利に狩りができるわけか」
リンスケ「ああ、そういうことだ。
…とは言っても、1班から3班までタキマイ派。
入会していない猟師はどんなに実力があっても
振り分けられる先は4班だ。…おっ!」
アルジ&エミカ「……!」
見覚えのある人物が視界に入る。
受付台で手続をとっている。
受付係の猟師「…4班へ行け」
4の数字が刻まれた青の腕輪を受け取る。
受け取ったのは6人。
一斉に腕輪が渡された。
その6人とは、南国首位猟師たち。
リンスケ「厄介者だが…厄介払いはできない。
そんな感じだな。ふふ…」
アルジ&エミカ「………」
突然、鐘が鳴らされる。
ゴウン、ゴウンと基地内に響き渡る。
リンスケ「…始まる」
アルジ「なんだ?」
リンスケ「タキマイ様のご講話だ」
アルジ「タキマイ…!」
基地の奥に設けられた広く、低い演檀。
そこへ登壇する1人の女。
タキマイ狩猟会の代表、タキマイだった。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
◇ リンスケ ◇
◇ レベル 14
◇ HP 441/441
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 木の長槍、軽量弓、革の猟師服
◇ 技 草木払い、離れ撃ち
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20